862 来るか来ないか
「とりあえず土下座はやめてくんない?」
無駄とは分かっていながらも言ってみた。
もちろん、やめてくれるはずもない。
フィズとジニアはガタガタ震えているし。
3人娘もカチカチに固まってしまっている。
斥候女子ウィスだけが自然体だ。
もしかすると1人だけビビっていないかもしれない。
だったら土下座する必要もないのではないかと思うのだが。
人見知りする性格を考えると目立ちたくないのだろう。
なんにせよウィスを除いて俺の言葉が届いているかどうかも怪しい状況だった。
「おーい、聞こえるかー?」
試しにちょっと大きめの声で呼びかけてみる。
フィズとジニアの震えが一瞬だけ増した。
聞こえているようだが、この反応ではしばらくは話もできそうにない。
3人娘は失神しているのかと思ったくらい無反応。
聞こえているかは不明だ。
これでは会話が成立しない。
ウィスは身じろぎこそしなかったが耳がピクリと動いた。
『野生動物かっ』
内心で思わずツッコミを入れてしまった。
草むらなどに隠れて獲物を狙うネコ科の肉食獣を連想したせいだ。
人見知りするところなどから猫的な雰囲気を感じるし。
周囲に紛れたがるのもネコ科のイメージにピッタリである。
獰猛な感じはしないけどな。
なんにせよ、この中でもっとも平常心に近いのはウィスだろう。
だからといってウィスに話し掛けても状況が好転するとは思えないのだが。
俺に慣れてくれたようには見えないからな。
先程までの饒舌な姿が見られただけでもラッキーなんじゃなかろうか。
そう思うと溜め息が出そうになってくる。
我慢したけどね。
溜め息ひとつでウィス以外の5人が更にビビりそうに感じたからだ。
言葉どころか態度も選ばなければならないとは……
『俺、なんか間違ったことしたっけ?』
してないとは思うんだが。
まあ、罪悪感を感じて落ち込むよりはマシかもしれない。
今までなら、もっとパニックが継続していたはずだし。
慣れとは恐ろしいものである。
問題はそれが分かったところで土下座状態が解決する訳ではないということだ。
話し掛けたら余計にビビられたり貝のようにシャットアウトされたり。
『俺にどうしろと?』
打開策を思いつけずに途方に暮れてしまう。
あれこれ考えるが、どれも試す前から効果なしだと確信できた。
下手をすると逆効果なので迂闊に試せないというのもある。
悶々とした時間が過ぎていく。
沈黙が十分は続いただろうか。
俺にとっては1時間に感じられる長い時間であったが。
とにかく向こうサイドに変化があった。
ウィスが上半身を起き上がらせたのだ。
「どうした?」
あまりに唐突だったために思わず普通に声を掛けてしまった。
言葉を発してからマズいと思ったが、キャンセルなどできるはずもない。
ウィスが畏縮しないことを願うばかりである。
「飽きた……」
ボソリと呟くような返事。
『飽きたんかいっ!』
喉まで出かかったツッコミをどうにか止めた。
ウィスは気にした様子もなくフィズの方を見る。
「フィズ、このままでいても仕方がない」
そう声を掛けられてフィズがピクリと動いた。
ジニアや他の面子もだ。
ただし身じろぎした程度で顔すら上がってこないのだが。
それでも俺の声よりは反応がマシなので助かる。
とりあえずウィスに任せることにした。
え? 他力本願だって?
状況が変わるなら何でもいいんだよ。
仲間の言葉で悪化するとは思えないしな。
「賢者様が困っている」
「いやいやいや、賢者様じゃなくて国王陛下だから」
ウィスの発言に思わずといった感じでツッコミを入れるフィズ。
もちろん伏せたままではない。
腰から上が起き上がった状態でウィスの方を見ていた。
「普段は賢者で通しているから間違いじゃないぞ」
ギギギと油ぎれを起こした機械のようにフィズがこちらへ首を巡らせる。
「あわわわわ……」
余裕がなさ過ぎる。
そのお陰で再び土下座をすることさえ忘れているようだが。
完全に落ち着いているウィスとは大違いだ。
どっちがパーティのリーダーかと言いたくなるくらいである。
まあ、でもこれが普通の反応なのかもしれない。
ずっと田舎にいて偉い人と会ったことがほとんどないのだろうし。
そう考えるとウィスの余裕は何なのか。
人見知りが芝居じゃないのかとさえ思えてくる。
そちらを見ると──
「っ!」
ピースサイン……はしていなかった。
そんな風に見えるくらいドヤ感を出してはいたが。
無表情でそれができるって、どういうことなのか。
『ノエル2号だ』
いや、そうじゃなくて!
あの台詞は完全に狙っていたということになる。
フィズの考えることを読み、どう動くかを予測した訳だ。
自信に満ちた空気をまとっているのは見事に的中したからに他ならない。
人見知りじゃなかったら絶対にリーダー向きだと思う。
なんにせよウィスのアシストのお陰でフィズが土下座状態から復帰した。
これを無駄にするのはアホのすることである。
「とりあえず座ろうか」
「はひ」
今度はフィズも言うことを聞いてくれた。
返事の声がちょっとおかしい感じになっていたくらいは些細なことだ。
フィズが動いたことで他の面子も続いてくれたからな。
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どうにか落ち着きを取り戻した風と踊るのメンバーたち。
ソワソワした感じが抜けないのは仕方あるまい。
「先に言っておく」
全員がビシッと背筋を正してきた。
そんな風に畏まられると、やりづらいのだが仕方ないのだろう。
向こうは精神的に余裕のある面子がほとんどいないからな。
「これは強制ではない」
大事なことだが繰り返さない。
真剣な面持ちで聞いている面々には何度も言わなくても大丈夫だろう。
あまり強調しすぎて畏縮されても困る。
「それを理解した上で考えて決めてくれ。
うちの国に来るか来ないかは自由だ。
相談するのも時間をかけるのも好きにするといい。
今日中に決められないというなら返事が後日になっても構わない」
俺がそう言うと、困惑した空気が拡がった。
即答を求められるものだと思い込んでいたのかもな。
ならば本当にいいのかと聞かれたりするかと思ったが、それもない。
まだまだ遠慮しているようだ。
「その代わり、うちの国に来てから無かったことにしたいというのは勘弁してくれ」
この言葉で再び引き締まった表情に戻ったが。
ちょっとした脅しに聞こえたかもしれない。
失敗したとは思うが後の祭りである。
「質問があるなら言ってくれ。
事前に開示できないこともあるが、可能な限り答えよう」
一同がソワソワした空気を復活させた。
「相談するなら席を外すが?」
言いながら俺は立ち上がりかけた。
が、一斉に彼女らは両手を突き出してブンブンと頭を振ってきた。
「ここに居た方がいいのか?」
全力かつ高速で首を縦に振ってくる。
「そうなんだ」
場所が場所だからな。
取り残されるのは不安になるのかもしれない。
俺が腰を落とすとズザザッと素早く円陣が組まれた。
早く話を終わらせるから何処にも行かないでと言われているかのようだ。
「ただ、うちの国に来てくれると嬉しいとも言っておこう」
『これくらいは言っておかないとね』
先程結果的に脅してしまった失点をどれくらい回復させられるか微妙なところだが。
フィズたちは俺の言葉にビクリと反応した。
そしてゴニョゴニョヒソヒソと秘密会議を始める。
普通にしていると聞こえてしまうので風魔法で一時的に遮断。
もちろん【遠聴】スキルも使わない。
ボーッとして待つが視界に相談している姿が入ってくる。
『おっと、いかんいかん』
幻影魔法でモザイクをかけた。
そうしないと勝手に【読唇術】スキルが働いてしまうからな。
音を遮断しても会話内容の一部が分かってしまっては意味がない。
そうして待つこと数分。
フィズたちの話し合いは終わったようだ。
自分たちが座っていた席に戻っていく。
「で、どんな質問をするんだ?」
「「「「「えっ?」」」」」
俺の問いかけに対し、返されたのは困惑だった。
何も変なことを言った覚えがないのに、この反応。
「質問は、特に……ないです」
おずおずとフィズが答えた。
「あ、そうなんだ」
色々聞かれるかと思って身構えていただけに拍子抜けである。
「じゃあ、明日以降に返事をするってことだな」
相談する時間も短かったしな。
一晩かけてじっくり質問の内容を考えて色々とシミュレーションするのだろう。
その上で結論を出す。
『なかなか手堅いじゃないか』
慎重なのは悪いことじゃない。
そう思ったのだが……
「いえ、そうではありません」
サクッと否定された。
「風と踊るの全員、ミズホ国の国民になります」
「ふぁっ!?」
つい間抜けな声が漏れてしまった。
だってさぁ、いきなりだもんよ。
たった数分の話し合いで結論出すとか思わないだろ?
前言撤回。
手堅いんじゃなくて大胆だ。
『女は度胸ってな』
実際、決断した後の思い切りの良さは男より上だったりするんだよな。
俺の経験上の話だから異論は認める。
読んでくれてありがとう。




