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829 助っ人参上

 助っ人が輸送機から降りてきた。

 まずは最古参の妖精組。


「よう、キース。

 よく来てくれた」


「お呼びとあらば、即参上いたします」


 キースくんが先頭である。


『人化しても厳つい顔をしているよなぁ』


 一瞬、オルソ侯爵の顔が強張ったくらいだ。

 呼ばれて嬉しいはずなのに怒っているように見えてしまうのは不幸かもしれない。


 子供が見れば泣き出すかもな。

 これで怒ったらどうなることやら。


 まあ、温厚な男なので滅多に怒るようなことはないのだけど。


「俺たちも忘れないでくださいよ」


「そうですよ」


「子供組にゃあ負けてられませんからね」


『相変わらず子供組にライバル意識があるね』


 ニャスケ、ニャンゾウ、ニャタロウの黒猫3兄弟もいる。

 呼んだのだから当然だ。


 他にも妖精組からは数人ばかり来てもらった。

 全員とはいかないのは国元に残す戦力とか学校の都合とかの関係だ。


 そんな訳で他の面子も呼んでいる。

 まだ学生だが実力的には呼んでも問題のない面子を選んだつもり。

 問題があるとすれば西方の常識に疎いことだろうか。


『それは俺もか』


 つい先程、思い知らされたばかりである。

 思い出すと精神的なダメージがぶり返すのでスルーだ、スルー。


「調子はどうだ、ナギノエ」


「万全です」


 ナギノエの返事に呼応するように人魚組が一斉に頷いた。

 面子は他にヤエナミ、マリナミ、クノミカ、ユリノエ、アスカミである。

 まあ、人魚組のトップだな。


 他の人魚組はまだ少し不安があるので、呼んでいない。

 そんな訳で残りは他の面子を呼んだ。


 レベル的には人魚組より上だ。

 戦力的には何の心配もない。

 人魚組以上に西方の常識に疎いのが気になるところではあるが。

 俺は人のことを言えないのだけど……


「そっちは聞くまでもないようだな」


「こんなに早くお役に立てる時が来るとは思っていませんでしたから」


 不敵な笑みを浮かべるネージュ。

 ほかの人竜組も妙に気合いが入っている。

 彼女らの雰囲気はオルソ侯爵を怯ませるほどのものがあった。

 殺気立っている訳ではないのだが、気迫に満ちている。

 仕事に入る直前に円陣でも組んで叫びそうだ。

 なんというか体育会系の雰囲気を感じる。


「ほらほら、肩の力ぬけよ。

 戦う訳じゃないんだからさ」


 メールでちゃんと用件を伝えたはずなんだが。

 運転手をしてもらうから来てほしいと。


『何か勘違いしてないだろうな』


「いえ、恩義に報いるためにも此度の仕事、戦う覚悟でやらせていただきます」


 グッと拳を握って宣言するネージュさんだ。

 ちょっと暑苦しい。


「大袈裟だな、おい」


 ドン引きとまではいかないが呆れてしまう。


「そんなことはありませんっ」


 ふんすと鼻息が出てくるネージュさんである。

 とことん気合いが入っていらっしゃるようで。


「その通りです」


 副官的なリュンヌまで、この調子だ。

 君が止めないと誰がこの集団にブレーキをかけるのかと言いたい。

 言うに言えないんだけどね。


 水を差すとどんな影響があるか読めないから。

 性格とか掴みきれてないんだよね。

 出会って間もない頃は精神的に不安定だったはずだし。


『もうちょっと話とかしておいた方が良かったよなぁ』


 ただ、ハイになるとハードな運動部とかのノリになるのは間違いないようだ。


「負けられませんっ」


 ほら、シエルまで熱血モードだし。

 ということは残りの面子も同じようなものだろう。


「やりますよっ」


 クレールも小さくも力強いガッツポーズをしている。


「たとえ火の中水の中っ」


「やってやれないことは無いっ」


 オロルとシフレなんか互いの腕や拳を打ち合わせちゃってるし。

 普通は美人さんがワイルドなことをすると物足りない感じになりやすいんだけど。

 むしろ軍人のはずのオルソ侯爵をたじろがせる迫力があった。

 彼女らは発散している空気からして違うからね。

 マジで戦争しに行く気じゃなかろうかと心配になってくる。


「今こそ我らの本気を見せる時っ」


 程々にお願いするよ、ルシュさんや。


「出力全開で行きます!」


 コリーヌもね。

 出力全開というのがホバークラフト列車でないことを願う。

 アレを最高速で走らせれば、十分とかからず次の目的地に到着だ。

 加速も並みではないからな。

 もちろんGなんてかからない仕様である。


 馬の全速力の何倍もの速さなど西方人には常軌を逸しているどころの話ではない。

 きっと土下座されてしまうだろう。

 それだけは阻止せねば。

 もしも出力全開が列車ではなく本人のことを言っているなら説得も楽なんだが。


「……………」


 いや、そうでもないかもしれない。

 それだけ気合いが入っているとなれば、何をしでかすか分からない怖さがある。

 列車の全開走行よりヤバいかも?

 考えただけで恐ろしい。


『どうやってクールダウンさせたもんかな』


 人竜組のやる気に反比例して俺のテンションが下がっていく。

 ただでさえ低調なのに下限へ向けて急降下だ。


「良いかっ」


 ネージュの気合いの入った声が聞こえてきた。

 大声でないのがせめてもの救いである。


「今こそ我らの本気を陛下に御覧いただく時だっ」


「「「「「はいっ」」」」」


 人竜組たちの返事も負けず劣らずやる気に満ちている。

 全員の意気込みを確認したネージュが大きく頷きを見せた。


 かと思うと、やや前屈みになって手を斜め下に突き出す。

 次々と人竜組の皆が手を重ねていった。

 自然と輪になる人竜組の一同。


『マジで円陣組んでますよ』


「ファイトーッ!」


「「「「「オーッ!」」」」」


 完全に体育会系のノリだ。

 妖精組も人魚組も苦笑いしている。

 学校でもあんな感じらしい。


「……………」


 まあ、学内なら許容できるか。

 TPOを弁えた行動をしてほしい。


 他は……

 周囲を見回してみたが、ドン引きだ。

 カーターやフェーダ姫でさえ呆気にとられているもんな。


 現場組なんて司令官も含めてスススッと距離を取ったし。

 本能的に近寄っちゃいけない人たちと感じ取ったのだろう。

 遠巻きにして見ている。

 視線が合いそうになったら全力で目をそらすことだろう。


『関わりたくないよなぁ』


 俺だって遠巻きで見るだけの立場でいたい。

 人竜組を呼んだ責任者として、それは許されないがね。


 彼女らに仕事を任せるのは時期尚早だったかもしれん。

 何か他の仕事を任せてガス抜きさせておけば良かったと今になって考えてしまう。

 少なくとも、こんなことにはならなかったはず。

 後悔先に立たずだ。


 とにかく、テンションが最高潮に達している人竜組をどうにかしないといけない。

 できれば逃げ出したいが俺が責任者だ。

 放置する訳にはいかない。

 彼女らの前に出る。


「あ、陛下」


 何故かそこだけ素のテンションに戻るネージュ。

 ギャップがありすぎてズッコケそうになったさ。


「お前たちの気持ちは嬉しいがな」


「「「「「お褒めいただき光栄です!」」」」」


 ガバッと頭を下げてくる人竜組。

 こういうノリが珍しいのか俺たちに視線が集まっている。

 普通に注目を浴びるのは慣れているつもりだ。

 これでも国王だからな。


 でも、これは違う。

 この状態で大勢に見られるのは凄く恥ずかしい。

 まるで皆に土下座されている時のようなプレッシャーだ。


『勘弁してくれよぉ……』


 泣きたくなったが、そんなことをしても事態は解決しない。


「とりあえず頭は上げようか。

 でないと話ができないからな」


「「「「「はいっ」」」」」


 こういうとき体育会系は素直で助かる。

 オルソ侯爵だと、こうはいかない可能性があるからな。

 とにかく説得タイムだ。


「もう少し周りを見ようぜ」


 直球勝負である。


「「「「「え?」」」」」


 人竜組の面々が周囲に目を向けた。


「「「「「………………………………………」」」」」


 長い沈黙の間が続く。

 そりゃそうだろう。

 周囲の視線は可哀相な人を見る目が大半である。

 プチ黒歴史になりそうな恥ずかしさに襲われているはずだ。

 俺にも同情的な視線が向けられているのが恥ずかしい。


 人竜組が次々と顔を赤らめていく。

 自分たちの行動がどういうものであったかを理解した証拠だ。

 やがて頭から湯気でも出るんじゃないかというくらい真っ赤になった。


 気絶こそしないものの完全に固まっている。

 しばらく、そっとしておいた方が無難だ。

 触れればきっと壊れてポンコツ状態になるだろう。


 こういう時は周囲から崩していく。

 ゆっくりと人竜組から離れた。

 【気力制御】で気配を周囲に紛らせつつ刺激しないように、そっとだ。


 充分に距離を取ったらオルソ侯爵に話し掛ける。


「ここに残していく者は決めてあるな」


 もちろん冒険者を呼び寄せる前のダンジョン管理代行者としてだ。


「はい」


「なら、移動する者たちを列車に乗車させろ」


 俺の指示を受けたオルソ侯爵は戸惑いの表情を浮かべた。


「よろしいのですか?」


 人竜組の方を見るオルソ侯爵。

 使い物になるのかと言いたいのだろう。


「視線を浴びなくなれば復帰するから心配するな」


 ハッタリもいいところだ。

 どうなるかなんて俺にも分からない。


 運が良ければ言葉通りになるだろう。

 ダメなら、運転席に放り込んで眠らせるまで。

 運転していると思わせて自動操縦に切り替えるつもりだ。


『さて、どうなる?』


読んでくれてありがとう。

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