828 予期しなかった反応と誤解
すみません。
少し遅くなりました。
「何故だ!?」
現在の俺の偽らざる心境である。
『やめてくれー』
という要求も混ざってはいるが、間違いなく疑問が俺の中で渦巻いていた。
「何故だって言われてもねー」
軽い溜め息と共に肩をすくめるカーター。
「むしろ、こうなるのが当然だと私は思うよ、ハルト殿」
「そうですよー」
カーターとフェーダ姫が苦笑いと呆れ顔を合わせた様な表情で俺の方を見てきた。
『違う、そうじゃない』
俺の求める返事ではないことに内心で落胆する。
いや、それを求めること自体が無茶振りなんだが。
知っている訳がないんだし。
それでも欲しい反応がある。
『ここにトモさんが居たらなぁ』
絶対にこう言ってくれるはずなのだ。
「坊やだからさ」
もちろん三毛田庄一さんの物真似込みで。
そうすれば少しは気が楽になるかと思ったのだ。
「……………」
いや、単なる現実逃避でしかないな。
どう考えても目の前の土下座している面々から逃れられる訳はないのだ。
現場組に地元住民。
オルソ侯爵は顔を引きつらせるだけで済んだけど。
「どうしてこうなった!?」
見当はつく。
行きは何ともなかった。
空を飛んで小島に渡っても驚かれるだけだったし。
ダンジョンに入った後のことまでは確認してなかったけどね。
それにしたって大きな変化がある訳じゃない。
俺がどんなことをしてきたかなんて外にいる皆には知りようがないんだし。
つまり、外に出てきた後のことしか考えられない訳だ。
やったことは唯一、橋を架けたことのみ。
それ以外に大がかりなイベントはない。
『ああ、またしても俺はやってしまったのか……』
加減したはずだ。
振動は完全に封じた。
音も激しいものは伝わらない様にした。
にもかかわらず現状は見渡す限りの土下座の海である。
「どうしてって、あんな凄いことしたからだと思うけどね」
カーターの言葉が追い打ちをかけてくる。
「叔父様の仰る通りだと思います」
「ぐぬぬ」
ぐうの音しか出ない。
と言いたいところだが、このまま放置する訳にもいかない。
「そこまで凄いことしたとは思わないんだが……」
力なく反論すると、カーターは苦笑した。
「確かに開拓は本当に凄かったけどね」
アレは確かにやり過ぎた。
「でも、こっちだって人間業じゃないよ?」
『人間業じゃ……ない』
その言葉は衝撃的だった。
これがアニメだったら「ガーン!」とか効果音が入って派手な演出がされているはず。
「迫力は劣るけど開拓のときの片鱗を見たって感じだよね」
『振動させなくても思い出させてるじゃんか!』
土下座するはずである。
バフの効果はもう切れている。
その場限りのものだったしな。
『こんなことなら長めにかけておくんだった』
ここでもう1回かけても効果は薄いのだ。
バフは同じ要因に対しては効きが悪くなるからな。
慣れというか免疫っぽいというか。
似て非なるが、それに近い感覚だ。
せめて開拓が昨日の出来事だったなら、効果も少しは望めたのだが。
『いっそのこと明日まで眠らせておくんだった』
いずれにしても今更の話である。
とにかくバフはもう使っても意味がない状態だ。
それで土下座だらけの状況をどうにかしないといけない。
罪悪感までは感じないのだけが救いである。
自分のとこの国民でないだけ気が楽だ。
が、過去の土下座を想起させられてストレスが津波状態で押し寄せてくる。
『シャレになってねー』
どうにか誤魔化したいところだ。
「大魔導師って説明済みかな?」
オルソ侯爵の方を見た。
「はっ、ヒガ陛下がダンジョンに向かわれている間に」
それでこの状態は勘弁してほしい。
不意にカーターの一言が思い出された。
「どんな大魔導師にだってこんな規模の陣地構築を一瞬で終わらせるなんてできないよ」
ホバークラフト列車を作る直前に聞いた言葉だ。
壁で遮って製作中の様子が見られないようにした時のことである。
アレよりは橋の方がずっと小規模なんだが。
やっていることは似たようなものだ。
そう考えると土下座している面々も極端なことをしているようには見えなくなってくる。
とはいえストレスが軽減する訳でもない。
「大魔導師ならこれくらいは不可能じゃないと言ったら、信じるか?」
「それは何とも言えません」
絶望的な返事である。
土下座はしばらく継続されることになりそうだ。
他に誤魔化す方法が思いつかないからな。
「カーターたちはどう思う?」
そう思いながら恐る恐る聞いてみた。
この2人からダメ出しされたら終わりである。
「どうだろうね?」
「どうでしょうか?」
叔父姪コンビは苦笑しながら首を捻っている。
ダメ出しではないが、ほとんど他人事だ。
俺だって向こうの立場なら、そうするので抗議するつもりはない。
ただ、2人のお気楽なノリは勘弁してほしいところだ。
下降気味の俺のテンションを更に下げるからね。
これから全員を土下座から解放する大仕事が控えているのだ。
ハイになる必要はないが、下がりきったテンションで成し遂げるには厳しいものがある。
結局、夕食時まで説得が続くのであった。
自業自得だって?
まったくもってその通り。
トホホな気分のまま食事を終えることになったさ。
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どうにか説得して食事も済ませた。
食べたものは充分にこなれているはずだ。
既にあたりは暗闇が支配している。
細い月明かりと星のきらめきが完全な闇になることを拒んでいた。
が、光源としては弱い。
野営地では、多くのかがり火をたいていた。
『そろそろだな』
指定の時間まであと数分といったところだ。
「じゃあ、次の地域に移動しようか」
「夜に移動するのですか?」
オルソ侯爵が怪訝な表情をした。
「兵の負担が大きくなりそうですが、訓練か何かでしょうか?」
「は?」
今度は俺が怪訝な顔をする番である。
言ってる意味が分からない。
「え?」
オルソ侯爵も分かっていないようだ。
『もしかして勘違いしているとかか?』
それもお互いに。
オルソ侯爵は兵がどうこうと言った。
俺は無理をさせるつもりなど毛頭ないのだが。
それでも向こうは誤解している様子だ。
「ホバークラフト列車を使うのに負担が大きくなるとはどういうことだ?」
「ええっ!?」
俺の質問に返されたのは返答ではなく驚きの声だった。
だが、それで充分だった。
答えたに等しい反応である。
「ああ、そういうことか」
思わず溜め息が漏れた。
オルソ侯爵が何を考え何を言いたいのか、ようやく分かった。
『誤解するのもしょうがないか』
必要な情報は与えていないからな。
カーターやフェーダ姫なら俺がどうにかするだろうと思っているはずだ。
故に俺もオルソ侯爵には説明しなかったのだが。
端折りすぎると誤解を生んでしまう訳だ。
如何なる誤解か。
ホバークラフト列車を運転する者がいないということだ。
少なくともオルソ侯爵はそう思い込んでいるはず。
もし、そうなったとしたら馬車や徒歩での移動は避けられない。
夜間ともなれば負担が増すと考えるのも自然なことだ。
そして訓練するつもりなのかと深読みするのも無理はない。
「ホバークラフト列車の運転手なんて呼べばいいんだよ」
「は?」
先程からまともな単語をあまり喋っていないオルソ侯爵である。
「そう仰いますが、他の方々は……」
オルソ侯爵は他の地域に飛んでいるミズホ組しか運転できないと思っているようだ。
だが、それも誤解である。
「メイドも運転できるぞ」
自動人形に対応させるのは楽だ。
データを用意すればいいだけだからな。
操縦マニュアルのデータは最初から用意してある。
あと、走行データは既にそれなりの距離を走らせて入力済みだ。
「は?」
目を丸くするオルソ侯爵。
さすがにメイドが運転できるとは思っていなかったのだろう。
「い、いえ、そうだとしても、人手が足りるとは思えません」
すぐに復帰できる程度の驚きだったようだが。
「それと助っ人くらいは用意できないとな」
「どういうことでしょうか?」
「人材は他にもいるってことだ」
「なんと……」
言葉が続かないようだ。
「ほら、来た」
「っ!?」
闇に紛れるように降下してきた漆黒の輸送機。
俺たちが乗ってきたのとは別の機体である。
爺さん公爵を送り届ける名目で用意したものだ。
操縦はメイド型自動人形だけど他にも搭乗している面子がいる。
着陸したら真っ先に確認しにいくオルソ侯爵。
さすが疑うだけはある。
読んでくれてありがとう。




