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811 呪いの出所

改訂版2話をバージョン2に差し替えました。

「分からないかもしれないことって何だい?」


 カーターがワクワクした顔で聞いてくる。


「ブーエ・ブーエとかいう戦闘狂が宝物庫から持ち出したものについてだ」


「呪いの指輪だよね。

 詳細が知りたいってことかな?」


「それとは直接関係のない話だ」


「え?」


 怪訝な表情になるカーター。

 オルソ侯爵も困惑顔である。


「ヒガ陛下、あの者の手口に気付かなかった我々に持ち出した物品が何であるかは……」


「別に分からなくても咎めたりはしない。

 分かればラッキーぐらいのつもりだから」


「はあ」


 オルソ侯爵は不安げな様子で返事をする。


「大丈夫だって。

 王城のことに詳しい人間でも分かるかどうかの話なんだからさ」


 念押しして言っても安心できるものではないだろう。

 とりあえず聞いてみないことには始まらない訳だし。


「まず、宝物庫に収蔵されていた物品についてどれだけ把握しているかだが」


「目録だけなら目は通しております。

 実際にモノを見たことはほとんどありませんが」


「見たかどうかはどうでもいい」


「え?」


 場にいた一同が困惑する。


「重要なのは何が入っていたのかだ。

 あと、それがどういう代物かを知っているとありがたい」


「この場でお答えできるかは分かりかねます。

 目録には記載されておりますので確認は可能です」


「それは助かるね。

 カーター、後で見せてもらうといい」


「どういうことかな、ハルト殿?」


「呪いの指輪の特性が似てると思ったんだよ」


「え?」


 怪訝な表情をしかけたカーターだったが……


「あっ!」


 すぐに思い当たったようだ。


「アンデッドの……」


「そういうことだな」


 トロフィー型の魔道具は凶悪だった。

 骸骨野郎が収拾していた魔道具もな。

 どれもこれも生け贄を求めるような代物であった。


「あの……

 どういうことでしょうか?」


 話が見えないであろうオルソ侯爵が恐る恐る聞いてきた。


「カーターを暗殺しようとしていた奴がいてな」


「そんなことが……」


 話を聞くオルソ侯爵の表情が引き締まる。

 俺が何を言おうとしているのかは薄々感付いているようだ。


「そいつが物騒な魔道具を幾つも集めていたんだよ」


「それらの出所が王城の宝物庫であったという訳ですな」


「断定はできないな。

 話も聞いていないし目録を見たわけでもないから」


「いえ、おそらくは奴が持ち出して売りさばいたのでしょう」


 推定的な台詞でありながらオルソ侯爵の目は確信している者のそれだった。


「やけに自信ありげだな」


 何かしら根拠があるのだろう。


「此度の戦争準備にあの馬鹿者は多額の寄付をしておりました。

 それこそ戦費の大半は奴の寄付によるものです」


 戦闘狂は伊達じゃないってことだな。

 そうまでして戦争がしたかったのかと問いたい。

 もう存在しないから無理な相談だけどさ。


「金の出所は何処かと噂で持ちきりでした」


 オルソ侯爵の言葉に旧スケーレトロ組がしきりに頷いている。

 納得と怒りがない交ぜになった表情だ。

 まあ、自分が被害にあった窃盗犯を発見したような心境なんだと思う。


「あれが無ければ今回の出兵は計画だけで終わっていたことでしょう。

 ですが、そこまでの負担など誰もできるような状況ではなかったはずなのです」


 言葉を紡ぐごとにオルソ侯爵の鼻息が荒くなっている。

 相当に憤慨しているようだ。


 気持ちは分からなくもない。

 国の荒廃ぶりに心を痛めればこそ怒りも湧き起こるのだろう。


 けれども怒りは正常な判断を狂わせる元だ。

 少し落ち着く必要がある。


「ところが、できちゃった訳だ」


 わざと口調だけを崩して言ってみた。

 それに釣り合わぬ表情をしていればヒートアップしていることに気付くだろうか。

 気付けばストレートに指摘されるより頭を冷やしやすいだろうと思ったのだが。


「そのような不正で資金を得ていたなどっ」


 そう簡単にクールダウンできるものでもない。

 それでも何かを我慢するように歯を食いしばっている。

 悔しさと後悔があるのだろう。

 それでも今以上に激することだけは自制したようだ。


「断定は証拠を掴んでからにしようぜ。

 まあ、今のところ疑わしい人間の最右翼ではあるがな」


「あの愚か者しかおりませぬ」


「おいおい」


 自制できていなかったかと思ったが。


「ここ数年で宝物庫に出入りした者は奴だけです。

 しかも呪いの指輪を許可なく持ち出しております」


 根拠はあるようだ。

 自信たっぷりなのも頷ける。


「明確な証拠などなくとも、奴しか考えられません」


「あー、そういうことね」


 確か持ち出しの記録を取っているはずだから裏付けも取ることができるだろう。


「そのあたりは後で確認するとしよう」


「はいっ」


 鼻息も荒くオルソ侯爵が返事をした。

 少し目先を変えさせた方がいいだろう。


「じゃあ宝物庫の中身についても聞いておくとするかな」


 目録に目を通しているなら覚えている物品もあるだろう。


「オルソ侯爵、呪われた魔道具は指輪以外にもあったのか?」


「……はい」


 俺の質問に一転して緊張の面持ちになるオルソ侯爵。


「責めている訳じゃないからな」


「そうそう」


 カーターが合いの手を入れて同意する。

 自分たちの新しい上司が賛同しているならば安心するだろう。


「分かりました」


 オルソ侯爵が少しだけホッとしたような表情になった。

 硬い表情がすぐにほぐれる訳もない。


「呪われた魔道具は数えるほどしかありません」


「そうであってほしいな」


「もともと魔道具は収蔵数が少ないですから」


「それもそうか。

 で、どんなものがあるんだ?」


 少ないなら覚えているだろうと思って聞いてみた。


「死者の聖杯、不死の邪眼、嘆きの壺、暗黒竜の像、支配の額縁が呪われた魔道具です」


「「あー」」


 思わずカーターとハモってしまった。

 そして顔を見合わせる。

 後者3点には心当たりがあるからだ。

 骸骨野郎の所有する魔道具を調べて鑑定したからな。


「少なくとも3個はドンピシャだな」


「鑑定の魔法のお陰だね」


「それと死者の聖杯にも心当たりがある」


 本当は不死の邪眼もなんだが、あれはシノビマスターしか知らない代物だ。

 骸骨野郎が肌身離さず持っていたからな。


「あ、やっぱりあの村の?」


「聖杯なんて名前だからな」


「だよねー。

 死者のなんて名前がついているくらいだし間違いないかぁ」


「5個中4個は確実ってことだ」


「もうひとつも多分そうだよ」


 カーターが確信しているかのように言ってきた。


「その根拠は?」


「フェーダがシノビマスターから聞いた話だよ。

 シェーデル前伯爵はヴァンパイアになっていたって」


『前伯爵って誰だっけ?』


 一瞬、マジで分からなかった。

 留守番に残してきた新伯爵のことでないのは分かったが。

 ヴァンパイアでどうにか思い出したけど。

 骸骨野郎のことだ。


「あの男がヴァンパイアになったとしたら魔道具の助けを借りているはずだ」


「なるほど」


 シノビマスターを再登場させる必要があるかと思っていたが必要なかったようだ。


「これであの男がすべて購入したことが確定したんじゃないかな」


「それでも目録と持ち出しの記録は確認しておいた方がいいぞ」


「そうだね、そうさせてもらうとするよ」


 2人で頷き合って溜め息をついた。

 肩の荷が下りた気分である。


「あ、あのう……」


 オルソ侯爵が戸惑いながら声を掛けてきた。


「どうした?」


「呪いの魔道具すべてに心当たりがあるのですか?」


 カーターと2人で勝手に話を進めてしまったからな。

 オルソ侯爵には何が何だか分からなかったはずだ。

 それでも雰囲気から察したのだろう。

 確認すべく聞いてきた訳だ。


「あー、すまん。

 内輪ネタだけで話していたな」


「いえ……」


 ソワソワした様子でオルソ侯爵が頭を振った。

 そんなことより質問に答えてほしいといったところか。


「確かに心当たりは全部ある」


「っ!」


 オルソ侯爵が目を見張り声を詰まらせていた。

 他の旧スケーレトロ組も驚いている。

 特に司令官は部下たちよりも、その度合いが強い。

 目録を見たことがあるか無いかの差が出ているようだ。


「そのうち3個は魔法で鑑定して名前も一致している」


「「なんですとっ!?」」


 オルソ侯爵だけでなく司令官までもが思わずといった感じで驚いていた。


「あ、悪いけど物騒な代物だから処分したよ」


「それは構いません」


 オルソ侯爵は返事をしながら安堵までしている。


「我々としても持て余していたものですから」


 呪われた魔道具だけあって使うに使えないからな。

 おまけに簡単には壊れないときている。

 そのせいか司令官などは唖然としていた。


「残りの方も心当たりはあるぞ」


「真でございますかっ!?」


「死者の聖杯ってのは死人をアンデッド化して操る魔道具だよな」


「は、はいっ」


「不死の邪眼が使用者をヴァンパイアにする魔道具だと思うんだが」


「……左様に、ございます」


 俺の指摘にオルソ侯爵は呆然としつつもどうにか答えていた。


「これ、目録とか見る必要ないんじゃないかな」


 カーターが苦笑している。

 確かにその通りだ。

 骸骨野郎が手に入れた魔道具とすべて合致してしまったからな。


 なんにせよ暗殺事件の不明瞭だった部分が明らかになったのは収穫だろう。


読んでくれてありがとう。

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