810 司令官、ポンコツになる?
黒巨人兵を燃やし尽くした。
さほど時間はかけていない。
さっさと終わらせたかったからね。
そんな訳で裏技を使った。
聖炎に浄化の重ね掛けを山ほどしただけなので力技とも言う。
はっきり言って魔力の無駄遣いである。
つい向きになってしまった。
反省はしていない。
もちろん後悔なんかもしていない。
二重三重の重ね掛けじゃなかなか終わりそうになかったのでね。
あと、浄化されるのを嫌がる怨念の権化が何体かいたのも理由と言えるだろう。
放置すればヤバそうなアンデッドになっていたと思う。
呪いの指輪も無責任なことをしてくれたもんである。
まあ、器物に責任がどうのとは言えないか。
とにかく怨念の権化がしつこかったのだ。
いちいち誰かなんて確認してなかったけど特にしつこかったのは巨漢野郎だと思う。
燃え続ける黒巨人兵の中から出ようと暴れに暴れたし。
聖炎で燃えるのもお構いなしで外に出ようとしたのは、その1体きりである。
ライトダガー弐式は空間魔法による固定しかできない。
精神体である怨念の権化には枷とならなかったのが面倒の元だった。
聖炎の中では動きが大きく制限されたけどね。
それでも他の怨念を盾にするような真似までして脱出をはかったのには呆れたさ。
奴には特別に全周囲浄化で13連鎖しておいた。
魔力の消費を目視できるような者が現場にいたら卒倒していたことだろう。
俺の場合は瞬時に回復するのでバレなかったかもしれないが。
そんな訳で黒巨人兵は消し炭すら残さなかった。
残らなかったと言うべきか。
ミズホ組の真面目な面々からは、やり過ぎと言われる気がする。
なんにせよ、わだかまりを残した魂の存在も感じられない。
その上で周辺の浄化も重ね掛けした。
地面の中まで念入りにね。
何か変なのが残っていたら大変だからな。
結果として辺り一帯がこれ以上ないくらい清浄化された。
やはり、やり過ぎなのだとは思う。
それくらいやっても気が晴れない。
最悪の気分は脱したものの憂鬱な気分が残っていた。
俺の心は癒やしを求めている。
具体的な形で。
ベリルママを呼ぶとかどうだろうか?
本当に飛んで来そうだ。
しかも呼ばれた理由を知ったら仕事をほっぽり出して居座りそうだし。
『やめておこう……』
俺のせいで世界の管理が変になったらシャレにならん。
大丈夫。
俺には他にも家族がいっぱい居るからな。
妻組とか子供組に後で癒やしてもらおう。
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「いやあ、どっちが子供か分からなかったね」
カーターが笑っている。
ちなみに子供というのは俺のことのようだ。
だとすると大人は黒巨人兵か。
スケールの感覚が無茶苦茶である。
「叔父様、大人と子供の差を優に超えていましたよ」
そう言ってツッコミを入れているフェーダ姫は正しいと思う。
でも笑いながらなので説得力には乏しい。
「ハハハ、細かなことを気にしてはいけないよ」
「もうっ」
余裕を見せるカーターと呆れた様子を見せるフェーダ姫。
ボケと突っ込みのナイスコンビと言うべきか。
それとも似たもの叔父姪と言うべきか。
いずれにせよ、ちょっとだけホッコリした気分になれた。
オルソ侯爵たちは生憎とそうも言っていられないようだが。
特に司令官以下の現場組は顔面蒼白である。
「城の壁を蹴り抜いた時も思いましたが無茶苦茶ですな」
嘆息しながらオルソ侯爵がそんな感想を漏らした。
その心情は如何なるものか。
少なくとも諦観は感じているだろう。
哀愁を帯びた空気を纏っているのが見えるかのようだ。
『これでも皆に見られてるから控えめにしたんだがな』
などと言えるような雰囲気ではない。
あと「どこが控えめだ」というツッコミは無しでお願いしたいところである。
ふと気付くと、司令官たちがオルソ侯爵の方を震え上がった状態で見ていた。
余計なことを言ったのではないかと怯えているようだ。
巨人兵を凌駕するような黒巨人兵を易々と倒してしまった存在が目の前にいるからな。
そういう圧倒的な活躍を初めて見た訳だし。
ビビるなと言う方が無茶な要求だ。
まだまだオルソ侯爵のように開き直れはしないと思う。
『城を壊して建て直すのを見せると、やっぱ違うね』
ここで築城するわけにもいかないから彼らに関しては放置するしかないだろう。
放っときゃ、そのうち慣れるだろう。
「いやー、悪い悪い。
まさか城をぶっ壊した時のような魔法を使うわけにはいかないだろ」
ノリはあくまで軽く。
司令官たちがビビらないよう「怒ってないですよ?」な感じで。
不自然にならないよう【千両役者】を使ってさりげなさをアピール。
って、なんでここまで気を遣わにゃならんのだ?
解せぬ。
「確かにそうですな」
オルソ侯爵が苦笑した。
俺の乗りに付き合ってくれる感じではなく、普通に応対している。
やはり【千両役者】は特級スキルだけあるな。
熟練度も前に確認した時はカンスト寸前だったし。
『あ……』
カンストしてました。
神級スキルと違って熟練度はカンスト寸前でもサクッと上がってしまう。
使用はなるたけ控えようと思っていたのにこれである。
なってしまったものは仕方がない。
今後はホイホイ使わないように注意しよう。
たぶん無理だと思うけどね。
ただ、タガが外れると常時使用なんてことになりかねない。
故にこれくらいの感覚でいいと思う。
「それでな、司令官」
「ひゃいっ!」
俺が呼びかけると司令官は飛び上がって返事をした。
噛んでるし、変な汗までかいている。
今にも失神しそうな状態だ。
『呼ばれただけで、それってどうなのよ?』
なんだか俺が苛めているような気分になってきた。
罪悪感ゲージが跳ね上がる。
「悪いが頼みがある」
「にゃにゃにゃんでしょうきゃっ」
また噛んだし。
更にどもっているし。
しかも猫っぽいのはなんでだ?
訳が分からないが返事の時より酷くなっているのは疑いようがない。
『大丈夫かよ……』
不安が増大していく。
それに比例して罪悪感ゲージが増え、レッドゾーンに突入した。
俺の精神衛生面から考えても好ましくない状況だ。
さっさと用事を済ませよう。
「今から国境線の壁を崩して元に戻す。
その時に慌てず落ち着くよう通達を出してほしい。
火魔法を打ち上げるのが崩す時の合図だ。
それと壁を崩したら、うちの精鋭がいるはずだからこっちに案内してくれると助かる」
「りょっかいしますたっ」
直立して受任する司令官。
「頼むよ」
その言葉が司令官の目に見えない呪縛を解く鍵だったようだ。
「伝令を出す」
第一声からして正常だった。
噛んでないし、どもってもない。
そのまま次々と部下に指示を出していくが的確だ。
先程までのポンコツぶりは何だったのかと問いたい。
問えばぶり返すだろうけど。
できる限り早く慣れてほしいところである。
「アレを叱らんでやってください」
司令官が指示を飛ばす中でオルソ侯爵が声を掛けてきた。
アレとは司令官のことだろう。
「別に叱る要素は何もないと思うが?」
「司令官として不適切な狼狽えぶりでした」
「手厳しいな。
そのくらいで目くじら立てたりしないって。
畏縮してどもったり噛んだりするのは不可抗力だろうに」
俺の返事を受けてオルソ侯爵がキョトンとしてしまった。
「いやはや、何と言えば良いのでしょうな」
オルソ侯爵が苦笑する。
「我々はスケーレトロの武人として相応しくあれと叩き込まれてきたものですから」
「人前で恥をかかないようにってのも含まれるのか?」
「左様にございます」
「だとしても気にしなくていいや」
「え?」
「君らは今やエーベネラントの人間だ」
「あ、そうでした」
失念していたことを指摘されてオルソ侯爵の表情が少しだけ柔らかくなった。
「それで王様はそのあたり厳しくするつもりかな?」
カーターに話を振ってみた。
「程々にしようかと思っている」
特に考え込むでもなく返事がもらえた。
カーターの程々だから緩いだろう。
そういうのはオルソ侯爵には分からないかもしれないが。
「それと、今のはハルト殿が言ったように不可抗力だと思うよ」
「なんと……」
今までの環境とまるで異なると、戸惑うしかできないらしい。
いずれは落ち着いて行動できるようになってほしいところである。
「分かったら驚くのは後にしてくんないか」
「まだ、何かあるのでしょうか?」
オルソ侯爵が少しだけ緊張した面持ちになった。
「あると言うよりは、あったと言うべきだな」
「どういうことでしょうか?」
俺の今の言葉がヒントになる訳がない。
故にオルソ侯爵は緊張の度合いを深めていく。
「済んだことだから深刻になる必要はないぞ」
「はあ」
生返事をしたオルソ侯爵は、戸惑いの表情を見せた。
「ハルト殿、まだ問題があるのかい?」
カーターが不思議そうに問うてきた。
現場組がビクリと体を震わせ恐る恐る俺の方をチラ見してくる。
「いや、確認事項があるだけだ」
「「確認事項?」」
カーターとオルソ侯爵の声がハモった。
両者とも怪訝な表情である。
「ああ、聞いても分からんかもしれんがな」
その言葉を聞いてオルソ侯爵は不安げに瞳を曇らせる。
逆にカーターは興味深そうに身を乗り出してくるのであった。
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