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812 この扱いの差は何なのか

 カーターの暗殺を目論んだ骸骨野郎はスケーレトロから邪悪な魔道具を手に入れていた。

 実際に取り引きをしたのは戦闘狂個人ではあったが。

 国の宝物庫から盗んだ物なので国同士の取り引きと言えなくもない。

 骸骨野郎の資金源は国家予算だったからな。


 いずれにせよ売却益を使って戦争とは恐れ入る話だ。


「何という恥知らずなっ」


 司令官が吐き捨てるように言っていた。

 側近や騎士たちも同じ心境のようだ。

 まともな神経をしているようでなによりである。


 ローズに霊体モードのまま回ってもらったが、騎士以上の身分の人間はセーフのようだ。

 オルソ侯爵が人選に苦労したのは想像に難くない。

 戦闘狂のように変なのが大勢いたら、とっくに開戦していてもおかしくなかったしな。


「グッジョブ」


「……え?

 あの……

 何です?」


 サムズアップ付きでオルソ侯爵を称えたが、困惑されてしまった。


『あ、しまった』


 言葉の意味もジェスチャーもどちらも分からないのを忘れていた。

 こんなのが通用するのは、うちの国民だけだ。

 新規に国民となったベルやナタリーだと分からんがね。


「良い仕事をしたと言ったのさ」


「はあ……

 ありがとう……ござい、ます……」


 何を褒められたのかが分かっていないので結局は困惑が続いている。


「まあ、気にするな。

 褒美とかは出ないから」


「はあ」


 どうしていいか分からず生返事をするのが精一杯のオルソ侯爵であった。


 だが、これが切っ掛けで世にサムズアップ付きグッジョブが拡がっていくことになる。

 予知や予見ができない身としては知る由もないことであったが。


 そうこうするうちに伝令が戻ってくる。


「通達完了しました!」


「御苦労」


 最後の伝令が帰ってきて司令官への報告が終わる。


「そんじゃ、まあ合図を出しますかね」


 右手を頭上に掲げ控えめに爆炎球を放つ。

 ヒュルヒュルと花火の時のような効果音を追加。


 これは気分の問題だったのだが。

 遠くにいる面子にも魔法を使ったのが伝わっていた。

 瓢箪から駒が出るとは言い過ぎになるが、結果オーライではある。

 とりあえず何食わぬ顔をしておけば誰も偶然とは思わないだろう。


 そして壁を更に超える高さまで飛ばしたところで爆炎球を破裂させた。


「ドーン!」


 合図用に術式を調整したので何かに着弾させる必要がない。

 お陰で綺麗に破裂の光を見せることができた。


 思わず「玉屋ぁーっ!」と言いたくなったが我慢我慢。

 さすがに花火やら玉屋の説明をするとなると面倒だからな。

 下手をすると異世界の話までしないといけなくなってしまう。

 いくら何でも、それはマズい。


「あのような火魔法があるとは」


 騎士の1人が呆然とした面持ちで上を見上げながら呟いていた。

 他の面子も似たようなものである。


「あれは俺のオリジナルだ」


「「「「「おおーっ」」」」」


 一同が感心しているが……


「それより向こうを見といた方がいいぞ」


 壁の方を指差す。


「え?」


 誰かがその言葉を発した直後に壁が沈み始めた。


「「「「「うわあぁっ!」」」」」


 なかば悲鳴のような驚きの声が発せられた。

 それこそ、そこかしこから。

 特に騒がしいのは騎士よりも兵士たちだ。


「ししし沈んでいくぞっ!」


「スゲえーっ!」


「どうなってんだ!?」


「魔法しか考えられんだろう」


「バカ野郎、そんなの当たり前だろう」


「なんだとぉ」


「考えてもみろ。

 合図のすぐ後に動き始めたんだぞ。

 しかも、あの規模でだ。

 儀式魔法にしたってすぐに発動できるもんじゃないだろう」


「うげっ、本当だ」


「マジかぁ……」


「ウソだろぉ」


「儀式って、そんなすぐ終わるのかよ」


「「「「「そんな訳ねえだろっ」」」」」


 こんな具合である。


 いや、中には声もなく腰を抜かしているような者も何人かいた。

 漏らしたりはしていないようだが。


 驚きすぎだとは言えない。

 単に俺たちミズホ組が慣れてしまっただけである。

 ミズホの常識は西方の非常識ということを忘れてはいけない。


『これでもマシな方なんだろうな』


 通達を出していなければ、どうなっていたことか。

 大混乱で収拾がつかないことになっていた恐れがある。


 何千という人間がパニック状態になったら……

 考えたくない事態だ。


 怪我をさせずに収束させることなどできないだろう。

 パニックが始まった段階で将棋倒しやら何やらで怪我をするはずだ。

 運が悪ければ死んでしまうような者が出てくるものと思われる。


『事前に周知させるのはマジで大事だな』


 その後も壁は順調に沈んでいく。

 俺からすると焦れったいスピードだったがね。

 だいたい分速10メートルくらい。

 最初の10メートルは数秒でストンと落ちたんだけど。


 下で騒ぎになったのを聞きつけて更に自重したものと思われる。

 あのままペースを変えずに壁を消していたら、どんな目で見られることやら。


「あの王様以外にも凄いのがいるんだな」


「もしかしたら王様より凄いかもよ」


「冗談が過ぎると言いたいところだが」


「あれを見せられたら否定できん」


「とはいえ王様のように1人じゃないだろう」


「壁の規模からすると百人くらいじゃないか?」


「そんなに少ないか?」


「むしろ百では多いかもしれん」


「いやいや、いくら何でも……」


「あのスピードで壁を沈下させているんだぞ」


「そうだ、精鋭って聞いたぞ」


 ヒソヒソ声で騎士たちがそんなやり取りをしているくらいだ。

 空気を読むって大事だよ?


 実際は彼らが予測した人数の半分よりずっと少ない頭数でやっているし。

 消し終わった後が見物である。


 そして10分とかからず壁は消えて無くなった。


「「「「「うおぉ────────っ!」」」」」


 壁に近い場所で見ていた兵士たちがどよめく。

 そこから何故か拍手が湧き起こったりもした。

 別に見世物ではないのだが。


 気付けば司令官たちも拍手をしていた。


「いやあ、スペクタクルだったねー」


 笑顔で拍手しているカーター。


『カーターもかよっ』


 言うまでもなくフェーダ姫もだ。

 していないのは俺とベルとナタリーだけ。

 アウェイ感が凄い。


 だが、そう思ったのは俺だけのようだ。

 婆孫コンビは拍手している面子に共感している風だったのでね。

 そういう意味では、まだまだうちのカラーに染まっていないと言える。

 あと、拍手に包まれながら向かって来るミズホ組はドヤ顔だ。


『俺の時はこんなじゃなかったぞ』


 黒巨人兵を倒した後のことだ。

 結界を解いてカーターたちの方へ歩き出すと、あからさまに引かれたからな。


 完全に静まり返っていたし。

 ビクビクしているのが多かった。

 猛獣が街中に現れたら、こんな反応するのかなとか思ったくらいである。


 緊急出動的に出て行ったからしょうがないのだろうけど。

 それでも扱いの差には納得がいかない。


「なぁに仏頂面してるのよ」


 やって来たマイカに言われたくらいだ。


「それは言わぬが花だよ、マイカちゃん」


 ツッコミを入れているミズキには何に不満を抱いているのか完全にバレている。

 伊達に付き合いが長い訳ではない。


 そして2人は何のことか分からずにいる他の妻組にコソコソと内緒話を始めてしまった。

 後で弄られるのは仕方ないとしても実に居心地が悪い。


 不幸中の幸いと言うべきか、現場の面々は放心状態に近かったのだけれど。


「こっ、子供!?」


「ラミーナもいるぞ」


 司令官の側近たちが愕然とした表情で固まっていた。

 差別的なニュアンスは感じられない。

 ただただ驚いているだけのようだ。


「それで、あんな大魔法を使っていたとは……」


 司令官の言葉にそれは集約されていると思う。


「信じられん」


 茫然自失の体となってしまうのも無理からぬところなのだろう。

 騎士たちなどは言葉も忘れたかのようにポカンと大口を開けている。


 それを見たオルソ侯爵たちは同情的な視線を送っていた。

 何時間か前に自分たちも同じような思いをしたのだと言いたげにも見える。


「言いたいことは色々あるんだろうがな」


 そう前置きしてから話し始める。


「これからが大変なんだぞ。

 撤収するだけで終わりじゃないんだ」


 真っ先に反応したのはフェーダ姫だった。


「そうなのですか?」


「農業復興は急務だ。

 ギリギリの綱渡り状態を脱するには開墾も必要になるだろう。

 飢えた農民にそんな重労働が耐えられるはずもないよな?

 騎士だから農作業なんてできないとか言ってられる状況じゃないぜ」


「あ……」


 フェーダ姫が自分の見えていなかった部分に気付いたようだ。


「いけませんね。

 私は何も分かっていない」


 ションボリと落ち込んだ様子を見せる。


「気付けたなら上等だ。

 そこから為政者の仕事は始まるからな」


「はいっ」


 俺の言葉にフェーダ姫は気力を復活させる。


「あとは地方領主などは反発する輩も出てくるだろうよ。

 そういう連中は軍に排除してもらわないといけない」


「え、そちらは……」


 俺がどうにかするのではないかと言いたいのだろう。

 確かにその方が手っ取り早い。

 こんな中途半端な状態で投げ出すつもりはないが、延々と付き合うつもりもないし。


「形だけでも軍が討伐に向かったことにしないとダメなんだよ」


「どうしてでしょうか?」


「疲弊している地元民に国への帰属意識を持たせるにはプロパガンダも必要なのさ」


「悪い地方領主を退ける新しい君主が率いる軍隊という形でしょうか」


「そういうことだな」


「勉強不足で恥ずかしいです」


 再びションボリするフェーダ姫。


 ただ、彼女の場合はそういうのを学ばせてもらえなかったのが原因だろう。

 これから学ぶことに問題はないはずだ。

 本人も意欲は充分にあるようだし。

 お節介など焼かなくても何とかするだろう。


読んでくれてありがとう。

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