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797 目敏いオッサンとちゃっかりさん

 謁見の間の壁が城壁の内側へと飛んで行き激突。

 普通はバラバラになるところだが、そうはなっていない。

 城壁の内側に突き刺さることで止まっていた。


 結果の再現性に問題がある気がしたので理力魔法でズルをしたのは内緒だ。

 そのせいで、それなりに離れていることもあり派手な音はしなかった。


「まあまあかな」


 そこそこの加減で上手くできたと思う。

 爆散なんてさせたら見た目にも派手すぎるからな。

 下手をするとスケーレトロの面々が腰を抜かすようなことになりかねない。

 オルソ侯爵を納得させるだけではダメなのだ。


『まったく、面倒な注文ばっかだよな』


 内心でぼやきつつも結果に満足しつつ振り返ってみたのだが……


「あるぇ?」


 そこにはギャグアニメのような光景があった。

 オルソ侯爵が目と口を大きく開ききり固まっている。

 目玉が飛び出していたら本当にアニメか漫画だと思ったかもしれない。


 そして、この状態は侯爵だけではなかった。

 他の貴族も騎士や兵も、同じように凍り付いていたのだ。


「何故だ!?」


「坊やだからさ」


 トモさんの物真似ツッコミが入った。

 このタイミングでとなると、やり過ぎを指摘されていると思った方がいい。


「そんなに?」


 試しに聞いてみたらコクコク頷かれてしまった。


「加減したつもりだったんだけどなぁ」


「どこがやねん」


 ぼやくとアニスには透かさずツッコミを入れられるし。

 そのツッコミに合わせて、みんな一斉に頷くし。

 四面楚歌の気分だ。


 お陰でもう少し加減すべきだったということは、よく分かった。

 まあ、結果を取り消すことはできないのだけど。

 出来ることと言えば、オルソ侯爵が正気を取り戻すのを待つことくらいか。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「納得したか?」


 復帰してきたオルソ侯爵に声を掛けた。


「するしかありませんな」


 先程までより小さく見える侯爵が嘆くように言った。

 何やら悟りを開いたようにも見える。

 話を聞いてくれる分には、どういう状態でも構わない。

 それが確認できたのでカーターに任せようと思ったのだが。


「ひとつ、よろしいでしょうか」


 オルソ侯爵に声を掛けられた。

 微妙に違和感を感じつつ振り返る。

 その原因はオルソ侯爵を見ればハッキリした。


 俺に視線を向けていない。

 ややズレた方向を見ているのだ。

 その先にいるのはフェルトであった。


『気付いてたのか、オッサン』


「私ですか?」


 怪訝な表情を浮かべながらも応じるフェルト。


「先程、こちらの御仁を陛下と仰っていましたな」


 俺の方をチラ見しながらフェルトに問いかける。

 フェルトは表情こそ変えなかったが釣られるように俺の方を見た。

 オルソ侯爵の視線の動きに合わせてだったので、向こうには知られていないはず。


 フェルトの目が「すみません」と言っていた。

 別に失敗とも思わないのだが。

 どうせ、いずれは知られることだ。


 そうは思うのだけれど俺からはアイコンタクトが返せない。

 オルソ侯爵に見られているからな。

 別に隠そうと思った訳ではない。

 なんか駆け引きに負けた気になりそうだったからだ。


 やがてオルソ侯爵がフェルトの方へ視線を戻す。

 鋭い目付きになっていた。

 何も見逃すまいと必死になっているのが手に取るように分かる。


『そこまで必死にならなきゃいかんことか?』


 それを確かめて何をするというのか。

 何も変わるまい。


 それでもオルソ侯爵は気迫を込めた視線を送り続けている。

 あまりの迫力にオッサンの背後にいる連中がビクついているほどだ。


『身内をビビらせてどうすんだよ』


 思わず内心でツッコミを入れてしまった。

 生憎とフェルトは、その程度で気圧されるほど柔じゃない。


「……………」


 オルソ侯爵の視線を受け止め無言を貫くフェルト。

 特に堪えた様子はない。

 むしろトモさんが堪えていた。

 微妙に困った視線を送ってきましたよ。

 自分の奥さんに甘い男である。

 まあ、俺も人のことは言えないのだが。


『しょうがないなぁ』


 このまま無為に時間を潰すことになっても、勿体ないしな。

 口出しすることにした。


「オルソ侯爵よ、確かにその者は俺のことを陛下と呼んだぞ」


 フェルトの代わりに答えた。

 瞬時にズレていた体の向きを俺の方へと戻してくる。


「先に言っておくが──」


 口を開きかけたオルソ侯爵を手で制した。


「俺はエーベネラント王国の人間ではない」


 まだ言葉が続くというのにオルソ侯爵の目が既に見開かれている。


「なんと!?」


 やはりエーベネラントの王と誤解されていたのか。


「驚くのは勝手だが、話は最後まで聞いた方がいいぞ」


 その一言でオルソ侯爵は即座に気を引き締めなおしたようだ。

 唇を引き結び真剣な目を向けてくる。


「俺の名はハルト・ヒガ。

 遙か東の果てにある島国ミズホ国の王だ」


「な……」


 言葉を失うオルソ侯爵。

 意外に反応が薄いか。

 いや、驚きすぎて心に思考が追いついていないと見た。


『この調子じゃ細かい説明なんてしても耳に入らんか』


 うちの領土が島だけじゃないとか教える必要もないだろうし。

 するべきタイミングでもないしな。

 とりあえずオルソ侯爵が我に返るのを待つ。

 そこまでの驚きではないようで、すぐに戻ってきた。


「俺がここにいる理由は簡単だ」


 固唾をのんで聞き入ろうとする。


「俺はエーベネラント王国の王弟と友誼を結んでいてな」


 カーターはまだ正式には王位を継承していない。

 外国では王弟として扱われることだろう。

 俺の感覚じゃ、既に王だがね。


「なっ!?」


 仰け反って驚いている。


『オッサン、驚きすぎ』


 それに話はまだ途中だ。


「今回は一国の王ではなく傭兵としてここに来た」


「な……」


 本当に「な」ばかりのオッサンである。

 それしか言えなくなったのかと言いたくなるくらいだ。


「でもって、そこにいるのが王弟だ」


 親指でカーターを指し示す。


「やあ、どうも」


 軽く手を挙げて柔和な笑みを浮かべるカーター。


「私がエーベネラント王位継承権第1位のカーター・エーベネだよ」


「な……」


 凍り付くオルソ侯爵。

 まあ、最高責任者に近しい存在が現場に来ているんだから無理もない。


「ちなみに近日中に私が王となる」


『ここで追撃するか』


 なかなかインパクトのある自己紹介ではないだろうか。


「なっ!?」


 少なくともオルソ侯爵にとっては心臓直撃ものだったようだ。

 ちょっと可哀相な気もするが、まだ軽い。

 土下座でカーターが難儀させられたことを思えばな。


「そういうことだからエーベネラント王国は友好国になる」


 オルソ侯爵の顔色が悪くなってきた。

 だが、これくらいは話の流れから想像できたはずである。

 もうひとつくらいは爆弾がほしい。


「友好国と言えば、ゲールウエザー王国もそうだ」


「なっ!?」


 ここで驚くのは仕方あるまい。

 大国の名を出されたのだから。


「言っとくが、土下座はなしだぞ」


 嫌な予感がしたので先に止めておく。

 すると、読み通りというかオルソ侯爵がビクリと体を震わせた。


「しっ、しかし……」


 顔面蒼白の状態で俯き気味に何かを言おうとしているオルソ侯爵。


「無礼だとかそういうのは気にしてない」


 言いながらカーターを見た。


「私も気にしていないね。

 あ、後ろも平伏は無用だ」


 判定で残された[普通]より上の面々が土下座していた。

 知ってたけど、あえて気にしないようにしていたのだ。

 オルソ侯爵が命令すれば動くだろうし。

 それまでは置物だと思っておくことにする。


 カーターの言葉で面を上げたのは騎士を含む貴族連中だけだった。

 俺の方を見て肩をすくめるカーター。


「いいんじゃないか。

 オルソ侯爵と話ができるだけで充分だろう」


「それもそうか」


 言いながらカーターは苦笑する。


「ただ、私としては少し休憩したい気分だよ」


 土下座をやめさせるため思った以上に気疲れさせられたみたいだからな。


「そんな訳だからハルト殿、バトンタッチだ」


 そう言って2歩3歩と後ろに下がった。


「おい、ちょっと待て」


「いやいや、お構いなく~」


 顔の前で小さく手を振る。

 コミカルな仕草には嫌みがなかった。

 そのせいか少々イラッとはしたが、どうにも憎めない。

 この男も得な性格をしていると言える。


 が、仕事を丸投げされて喜ぶ俺ではない。


「俺は今回、傭兵として来ているんだからな」


「正体をばらした以上は、そんな理屈は通じないよ」


「くっ」


 どう考えてもあり得ない行動をしておいて言うことか。

 正論で逆襲されるとは思っていなかったさ。


『ちゃっかりさんめっ』


読んでくれてありがとう。

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