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792 ハルト、マジギレする

 スケーレトロの王城にいる人間が謁見の間に集められていた。


「カオスだ」


 ほとんどの人間が眠らされたり気を失ったりだ。


 グルグル巻きで縛り上げられた上に引きずって来られた者たち。

 理力魔法で浮かせて連行された者たち。

 リヤカーで運ばれた者たち。


 意識を失っている連中の運ばれ方は概ねこの3種類。


 他は何らかの方法で脅してここに向かわせたようだ。

 俺と似たようなことをしたのか、怯え方が半端じゃない。


『ありゃあトラウマ級だな』


「子供組は考えたもんやなー」


「リヤカーとはね」


「「「「「えっへん!」」」」」


 アニスとレイナが話し掛けると子供組はそろって胸を張った。


「あの隅っこの連中は誰が追いやったんだい?」


 トモさんが皆に聞いている。


「俺とシヅカだよ。

 俺が無力化してシヅカが誘導した」


「えー、皆に任せるって言ったじゃん」


 マイカがケチをつけてきた。


「しょうがないだろ。

 ここに来る途中で遭遇したんだ」


「なぁんだ」


 クレームをつける気満々だったマイカのやる気ゲージが一気に下がった。


「てっきりサーチ&デストロイしたのかと思ったのに」


「カーターたちがいるのに、する訳ないだろ」


「でもさー、遭遇しただけにしては酷いことになってない?」


「殺気を放つ時に加減を間違えた」


「何それ」


「もっと精神の強い連中だと思っていたんだよ」


「そういう風には見えないけどねー」


「そりゃあ今の姿を見ればな」


 完全に怯えきっているし。

 体付きなんかは職業軍人だけのことはあるんだが、今はとてもそうは思えない。

 ウドの大木と言われても仕方のないような有様だ。


「どいつもこいつも似たようなものでしょ。

 アタシらが締め上げた連中も最初から弱そうだったわよ」


「人は見かけによらないって言うだろ」


「結果は買い被りすぎになったけどねー」


 意地の悪い笑みを向けられてしまった。

 事実なので言い返せない俺としては心の中で「ぐぬぬ」と唸るしかない。


「ねー、陛下ー」


 子供組のシェリーが俺の服の袖を掴んできた。


「どうした?」


「はやく終わらせよー」


 催促されてしまった。


「そうなの。

 終わらせて帰るの」


 ルーシーもシェリーの意見に同意している。

 それだけではない。


「帰るニャー」


 ミーニャも俺の袖を掴んで揺すりながら主張してくる。


「「帰ろー」」


 ハッピーもチーもウルウルした瞳で催促してくるし。

 完全に仕事は終わったと言わんばかりだ。


「まだ、お仕事は終わってないよ」


「だったら終わらせるニャ。

 待つだけなんて退屈でしょうがないニャ~」


「それもそうか」


 震え上がっている連中がもう少し落ち着くまでとか考えていたのだが。

 よくよく考えれば遠慮はいらないだろう。

 あれだけビビらせても話を聞いて理解することはできたんだし。


 性格の悪い騎士はどうするのかって?

 あれは確かに話を聞ける状態ではない。


 が、聞かせても意味はないだろう。

 騎士は続けられないだろうし。

 それ以前に、解雇は確定だけどな。


 とにかく眠っている連中を起こす。


「パチン!」


 フィンガースナップを合図代わりに魔法を発動。

 気を失っている連中に軽い衝撃を与え目覚めを促した。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「こんなバカな話があるかっ!」


 バーコードな頭をした脂ぎった顔のオッサンが唾を飛ばしながら叫ぶ。


「そうよそうよっ!」


 隣にいた厚化粧なBBAがキーキーと不快な音波を発していた。

 どちらも不摂生の塊としか言いようのない体型で不快感は割り増しされている。

 2人のそばにいるだけで体感温度が跳ね上がりそうだ。


 この国の王と王妃がこんなのだとは夢にも思わなかったさ。

 食生活は贅の限りを尽くしていることだろう。


 着ている服もゴテゴテしているし。

 装飾品も付けられるだけ付けているといった感じだ。

 何処をどう見てもザ・悪趣味としか言い様がない。


 品性がないということは中身も推して知るべしというものである。


「いや、現実なんだけどね」


 カーターが特に表情も変えずに言った。


「先にも言ったようにエーベネラント王国は貴国に宣戦布告する。

 我々が要求するのは王族すべての解体だ。

 その要求が通らない場合は、この世から消えてもらう」


 なかなか物騒なことを平然と言い切るものだと感心する。

 カーターの覚悟は間違いなく本物だ。


「いずれであるにせよスケーレトロ王国はこの世から消える。

 既に王城は制圧したから戦争は終結したも同然だ。

 故に、ここはもうエーベネラント王国の領土だよ」


「横暴だ!」


「無茶苦茶よっ!」


 文句を言うのはバーコードと厚化粧だけだ。

 それだけで充分にうるさいがね。

 主に厚化粧のせいなんだけど。


「城内は完全に制圧した。

 降伏したも同然とは思わないかね」


 眉ひとつ動かさずに冷たく言い放つカーター。


『大した役者だよ』


 内心で苦笑する。


「よくそんなことが言えるな!

 下賤な傭兵どもを雇い入れた挙げ句に夜襲までかけるとはっ」


 憎々しげに言い返すバーコード。


 厚化粧は不快音波が鬱陶しいので遮断した。

 口元を見れば激しく動いていたが誰の耳にも音波は届かない。


 いや、本人にだけは音量3倍で届くようにしてある。

 それ故か既に厚化粧の口も動きを止めていた。

 やはり3倍の威力は凄い。


「エーベネラントの人間は恥という言葉を知らんのか!」


 その間もバーコードは言いたい放題だ。

 コイツを黙らせると話が進まないのでしょうがない。


「恥知らずなのは誰の目にも明らかだお」


『だおって、何だよ』


 単に噛んだだけなんだろうが……

 わずかに残っていた緊張感が一気に崩れてしまった。


 が、バーコードは気にせず続けるようだ。

 自分が噛んだことにも気付かず下卑た笑みを浮かべた。


『なんだ?』


「夜襲に娼婦じみた女傭兵を使うくらいだしな」


 どうにも聞き捨てならない言葉が出てきた。

 一瞬でミズホ組の緊張感が復活する。


 が、誰も殺気立たなかった。

 皆が我慢したということだ。

 それがよく分かったからこそ俺だけ怒る訳にもいかなかったのだが。


 しかしながら俺の我慢もここまでだった。


「エセエルフに卑しい四つ耳まで使うとは名のある傭兵団から断られたのであろう」


 次の瞬間にはバーコードが宙に浮いていた。


「──────っ!」


 奴は額に両手を当てて藻掻いている。


「「「「「おおっ……」」」」」


 謁見の間に集められたスケーレトロの連中が驚き呻く。

 何の支えもなく肥え太った肉の塊が浮いたのだから無理もない。


 ただ、俺が何かしたことだけは感じ取った者も何人かはいるらしい。

 左手で何かを掴むような状態で斜め上に突き出しているからな。


 実は理力魔法と連動させてバーコードの額を鷲掴みにしているのだ。

 そのため左手がわずかでも握り込む方へ動くとバーコードは藻掻き苦しむことになる。


「───────────────っ!」


 痛みのあまり悲鳴も上げられないバーコード。


「おい、下種野郎」


 俺はバーコードに冷たく呼びかけた。


「俺の身内に随分な言い草だな」


「───────────っ!」


 何かを言おうとしたようだが悲鳴も上げられない状態ではどうしようもない。


「自己管理もできない肉塊の分際で調子に乗ってペラペラと」


 奴の言葉を思い出すだけでムカムカする。

 左手が微かに動いた。


「─────────────────────っ!」


 これ以上は頭蓋が割れるだろう。

 その時はスプラッタな光景を披露することになるが知ったことではない。


「この場にいる誰よりも貴様が下賤で醜悪だ」


「……………」


 バーコードはダラリと垂れ下がっていた。

 死んだ訳ではない。

 その証拠にピクピクと痙攣している。

 抵抗する気力を失ったといったところか。


『言いたい放題だった割に呆気ない』


 バーコードが簡単に折れたことで苛立ちが増した。

 このまま握りつぶすか壁か床に叩き付けたくなってくる。

 そのせいで一瞬だが微かに殺気を揺らめかせてしまった。


「ハルさん、殺すのは無しだ」


 トモさんに察知されたようだ。

 いや、トモさんだけじゃない。

 他の皆にも完全にバレていた。


「ああ」


 俺が返事をすると他のミズホ組の緊張がわずかに緩むのが分かった。

 どうやら俺を止めようとしていたらしい。

 マイカとミズキに制止されていなければ皆にのし掛かられていたかもしれん。


『3人のファインプレーに助けられてしまったな』


 俺はバーコードを放り捨てた。

 起き上がってこない。

 わずかに残っていた意識を手放したようだ。


 音を封じた厚化粧も、それを目撃して直後に卒倒した。


「貴様らの残りの人生は平民だ。

 それが嫌なら自害するがいい」


 2人には聞こえていないだろうがクイックメモライズで叩き込んでおく。

 他の王族にも。

 痛みにのたうち回ろうが知ったことではない。


 ついでに呪いの方も刻みつけておいた。

 地位や富を求めようとすれば全身が激痛に襲われる呪いだ。

 決して痛みに慣れることはないようにしておく。


「殺しはしない。

 その価値もない」


 じきに折れて何も望まなくなるだろう。

 生きること以外は。

 それくらいしても俺の腹の虫はおさまらんがな。


読んでくれてありがとう。

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