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791 謁見の間で待とう

 ミズホ組がスケーレトロの王城内を制圧して回っている。

 俺は守護者組とエーベネラント組を連れて謁見の間へと先に向かっていた。


 途中で警備兵を大勢引き連れた騎士と遭遇。

 向かっている場所が奥まった場所だけに仕方あるまい。


「怪しい奴め。

 大人しく縛に就け」


 騎士が長剣を抜き放つと、後ろに控えていた警備兵がゾロゾロと前に出てきた。


「数が多いようだけど?」


 カーターが俺に問いかけてくる。

 こちらの3倍以上の頭数ともなれば確認したくもなるだろう。

 エーベネラント組は身を守る術を持たないからな。


 もしかするとカーターは護身術くらいは身につけているかもだが。

 いずれにせよ多勢に無勢の状況では無意味だ。


「問題ない。

 こいつらがベアボアやオーガだったとしても結果は同じだ」


 一瞬、呆気にとられたようなカーターだったが。


「やれやれ……

 ハルト殿と一緒にいると私の常識がどんどんズレていくよ」


 そう言って、すぐ表情が苦笑に変わった。

 兵隊たちは動かない。

 騎士の指示待ちだ。


 で、肝心の騎士はというと顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

 俺たちから無視されたのが、よほど腹立たしかったのだろう。


「殺せっ!」


『うわー、短絡的だなぁ』


 警備兵も戸惑うことなく抜剣した。

 こういうところは軍事国家だけはあるのだろうか。


 面倒なので殺気を放ち威圧することで追い払いにかかる。

 相手はプロの軍人みたいだし強めに浴びせることにした。


 カーターたちがいるから全周囲という訳にはいかないが。

 そこは【気力制御】で敵だけに殺気が向かうようにした。

 ついでに騎士には更に強めにしておく。


「「「「「ひいいいぃぃぃぃぃっ!」」」」」


 厳つい顔したおっさん連中が情けない声で悲鳴を上げた。

 そしてその場で青い顔をしてガタガタと体を震わせ始める。


「マジか……」


「加減を間違えたようじゃな、主よ」


 シヅカに指摘されてしまった。


「プロ軍人みたいだから鍛えられてると思ったんだよ」


「買い被ってしまった訳じゃな」


「そういうこと」


「じゃあ、あの騎士が一番弱いの?」


 小首を傾げてマリカが聞いてくる。

 簡単にブチ切れて「殺せ」とか命令していた騎士は、へたり込んだ状態で失神していた。


「どうだろう?

 何とも言えないな。

 そいつには他の連中より強めにしておいたからさ」


「さして変わらんのではないか。

 こういうのを、どんぐりの背比べと言うのであろう?」


「そうだな」


 3人で「ハハハ」と笑ってしまった。

 ひとしきり笑ったところで──


「ハルト殿?」


 カーターに声を掛けられた。


「ああ、すまない。

 どうかしたかな?」


「良ければ何をしたのか教えてもらえないだろうか。

 何かをしたから、ああなっているのだというのは分かる。

 だが、私には何がなにやらサッパリ分からないのだよ」


 困惑混じりの真剣な表情で聞いてきた。


「個別に殺気を叩き込んだ」


「そんなことができるのかい!?」


 目を丸くして驚いている。


『さて、どう説明したものか』


 これ以上は言葉で説明して理解できるものでもない。


「こんな感じだ」


 震えている警備兵の中から可哀相な犠牲者1名を選んだ。


「うひぃっ!」


 視線を向けただけで震え上がる。

 隣の男に視線を移すと──


「いいい、命だけは……」


 今度はそいつが大きく身震いした。

 更に隣へと移す。


「ころ、ころ、ころさなひで……」


 この男も同じような反応をしていた。

 全員にトラウマを植え付けてしまったようだ。

 まあ、説明するには都合が良かったかもしれないが。


「こんな感じだ」


 怯える連中を親指で指差しつつカーターを見た。


「はー、凄いものだね」


「加減を失敗したけどな」


「これでかい?」


「強く威圧しすぎたんだよ。

 本来なら追い払うつもりだったんだが……」


 チラリと警備兵たちを見たが、大きな動きはない。


「逃げることもままならないらしい」


 先程から廊下を塞ぐ形で立っているだけだ。

 明らかに失敗である。


「そうでもないぞ、主よ」


 意外な言葉にシヅカの方を見た。


「捕らえるか追い払うかが分からなかった故に手出しをせなんだだけじゃ」


 そう言って不敵に笑うとシヅカは警備兵たちの方を向いた。


「そこのお前とお前」


 わずかに殺気立ちながら2人の警備兵を指名するシヅカ。


「はひっ」


「はいぃ」


 条件反射的に直立の姿勢となる犠牲者2名。


「そこで情けなく座り込んでいる馬鹿者を謁見の間へ連れて行くのじゃ」


 だが、犠牲者たちは動かない。

 動けないと言うべきか。

 蛇に睨まれたカエル状態なのは想像に難くない。


「ほう、ここで血祭りにしてほしいようじゃのう」


 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。


「「たたた直ちにぃっ!」」


 それぞれが乱暴に騎士の手首を掴んで走り出す。


「ズザザザザザ────────ッ!」


 まるでソリのように騎士が引きずられていく。

 それなりの速さがあるので廊下の床面との摩擦が凄いことになりそうだがお構いなしだ。

 あれじゃあ到着した時には低温火傷は確実だろう。

 服もボロボロになっているはず。

 上官よりも俺たちの方が怖いってことだな。


「貴様らも謁見の間へ行くのじゃ。

 死にたければ他の場所へ逃げるがよい」


「「「「「お助けを────────っ!」」」」」


 残りの警備兵たちも一目散に走って逃げていった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 謁見の間には一番乗りした。

 直行したから当然だ。


「狭いな」


 謁見の間を実際に見た感想である。


「そうかい?

 謁見の間としては充分だと思うんだけど」


 カーターが首を傾げる。

 時折、破壊音や爆発音が聞こえてくるのだが、特に気にした様子はない。

 皆もかなり派手にやっていると見た。

 それでもカーターたちは騒いだりしない。


「この城の中にいる全員を集めるのは無理があるんだよ」


 俺がそう言うと、カーターは苦笑した。


「警備兵までとなると確かにそうかもね」


 先に追いやられた連中は片隅で固まって震えている。

 騎士などは頭を抱え込んでうずくまっていた。

 服はボロボロズタズタだが気にしていられる余裕はないようだ。


「再起不能?」


 マリカが首を傾げている。


『さて、どうだろう』


 俺も首を傾げた。

 そこに霊体化しているローズが念話で話し掛けてくる。


『くーくぅくくっくーくうくーくぅ』


 心が折れたから戦闘職は無理無理、か。


『回復の見込みはないってことか?』


『くぅーくぅくっ』


 元々が小心者~、だってさ。

 つまり、復活はないと言いたい訳だ。


 そうしたのは主に俺だが特に思うことはない。

 簡単にキレて「殺せ」とか言うような奴だしな。

 小心者だからこそ虚勢を張っていたと考えればヒステリックな反応にも納得がいく。

 間違っても罪悪感を感じるような相手ではない。


「コイツの騎士生命は終わりだな」


「良いのではないか」


 そう言ってきたのはシヅカだった。


「あのような振る舞いをする男には似合いの末路よ」


 蔑みの目で怯えるだけの男を見るシヅカ。


「そんなものか」


 俺にとって重要なのはスペースの確保だ。

 ガラの悪い輩が引きこもりになろうが精神を病もうが知ったことではない。


「それより、この場所を拡張するぞ」


「どうやってじゃ?」


 シヅカが問うてくる。

 俺が空間魔法を使う気がありそうなのを懸念してのことだろう。

 そんなつもりは毛頭ないが。


「こうするのさ」


 震えている連中とは反対の壁に向かって、まずはエアスラッシュ。

 縦横の格子状に撃ち放つ。

 派手な音をさせると制圧に回っている皆が心配しかねないので消音させながらだ。


 続いてエアスマッシュ。

 横一列に並べて一斉発射。


 これが本来ならもっとも派手な音をさせるはずだ。

 音は遮断しているため破壊音は一切しない。

 振動はあったが。


『まあ、これくらいはしょうがないよな』


 音なしだと壁が吹き飛んでも迫力に欠ける。

 そんな風に思っていたのだが。


「「「「「うひぃ────────っ!」」」」」


 破壊の光景に耐えられなかったのか警備兵たちが悲鳴を上げた。

 消音は破壊している壁に対してだけだ。

 オッサンの悲鳴が重なると実に耳障りである。


 いや、単発でも耳障りだと思う。

 何にせよ、そっちも消しておけば良かったと後悔した。


「これまた派手にやったのう」


 シヅカが楽しそうに笑みを浮かべている。


「えー、音を消すとインパクトに欠けるよぉ?」


 マリカがシヅカを見上げながら不思議そうに聞いていた。


「結果を言っておるのじゃ」


「壁が無くなった」


「残骸として瓦礫は残ったがのう」


 そこは分解の魔法の出番ですよ。

 片っ端から消していくと警備兵どもが震え上がった。

 が、悲鳴はこちらに届かないように遮断。

 そうそう何度も聞いていられない。


「向こう側は何もかも吹き飛んじゃったね」


 それくらいしないと定員オーバーするからな。


「お陰で外が丸見えじゃ」


 奥の奥まで吹っ飛ばしたからな。

 ちょっとやり過ぎた?


読んでくれてありがとう。

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