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790 制圧が始まる

62話を改訂版に差し替えました。

 カーターがスケーレトロを統治するつもりになるとは、どういう心境だろうか。

 鳩が豆鉄砲を食ったような気持ちを表に出さぬようにしながら次の言葉を待った。


「ハルト殿の案は悪くない」


 評価もされているようだ。

 もっと仕方がない的な感覚で考えていると思ったのだが。


「統治するのは大変だろうけどね」


 そのあたりは理解しているようだ。

 故に最初から丸投げするつもりだったと言ったら怒られるだろう。

 それ以前に、うちは国民審査があるから最初から丸投げ前提だったけど。


「それでも戦争を仕掛けられるよりはストレスがなさそうだ」


 カーターも大雑把なところがあるよな。

 天秤にかければ後者の方がマシなのかもしれないけれど。


 リスクについて、ちゃんと考えているのだろうか。

 丸投げしようとしておいて、それを言うのかとツッコミを入れられそうだが。


 だが、まあ言いたいことは分かる。

 うまくやれる自信もあるのだろう。


「カーターがそれでいいなら、俺は最初の予定通りにするまでだ」


「ちなみに、具体的にどうするつもりだったのか先に聞かせてくれるかい」


 王家の解体については既に言ってある。

 具体的にということは、これに至る手順をどうするかということか。

 聞いておかないと不安になるのだろう。


 まあ、賠償で国土を貰い受けるくらいインパクトのある話はもうないのだが。


「大したことじゃないぞ。

 まずは城内にいる連中を無力化だろ」


「ハルトどのたちなら問題なくできるだろうね」


「同時に逃げ隠れすると思われる王族を取っ捕まえる」


「逃げるのかな」


 カーターが同じ立場なら指示を出して混乱を収めようとするだろう。

 それだけに、この国の王もそうするのではと考えたようだ。


「逃げるよ」


 潜入させておいた斥候用自動人形からの情報では、その可能性が高い。

 既に誰よりも浮き足立っているような状態だからな。

 敵襲を知ったなら隠れようとするだろう。


 状況によっては城外へ逃れるために地下通路を使おうとするはずだ。

 つい今し方、塞いでしまったがな。


「確信しているんだね。

 どういうことなのか聞いても?」


 不思議そうな顔をしてカーターが聞いてきた。


「国民に重税をかけて戦争を続けるような奴だからな」


「それが根拠なのかい?」


 よく分からないという顔をするカーター。


「この国の王が軽挙妄動なタイプってのは分かるよな」


「そうだね。

 現実を見ていないようだし」


「そういう奴が自分に害が及ぶとなったら、どう動く?」


「あー、取り乱して逃げ惑う?」


 カーターが聞いてくるが、苦笑しながら頷いてもいる。

 聞くのは確認のためといったところか。


「そういうことだ」


「分かったよ」


 ひとこと返事をするだけで納得してしまった。


「すまない。

 話の腰を折ってしまったみたいだね」


 そう、説明はまだ終わっていない。


「後は謁見の間にでも全員を集めてから宣戦布告だ」


「それは……

 アハハハハ!」


 カーターが笑い出してしまった。


「確かにズルいね」


 笑いを堪えながら頷いている。


「宣戦布告の時点で制圧完了しているじゃないか」


「何を言っているんだ?」


「え?」


「制圧完了じゃない。

 征服完了と言ってほしいな」


「ああ、王家の解体もするんだったね」


「そういうこと」


「これをカッツェが聞いていたら卒倒するなぁ」


 爺さん公爵は伸びたままである。

 途中で起きられると面倒なので魔法で眠らせているのは内緒だ。


「じゃあ宣戦布告もカーターがするかい?」


「その方がいいと思う」


「事後承諾にすると後で怒りそうだけどな」


「怒るだけだから実害は小言を聞かされるだけかな」


「うへー」


 聞きたくない。

 ただでさえ苦手な爺さん公爵なのだ。

 ササッと終わらせて丸投げ状態で帰ることにしよう。


「それじゃあ、今度こそ突入だ」


 俺が1歩下がると、皆が自然に陣形を組む。

 スマホでチャットをして打ち合わせをしていたようだ。


「扉の前に誰も立たないようだけど?」


 カーターが不思議そうに聞いてきた。


「見えなくても気配は感じるからな」


 侵入者がいることは一部の者たちにバレ始めている。

 離れた場所からこちらの様子を覗っているのが何人か居たからな。


 王城の玄関ホールには既に敵が待ち構えていた。

 俺たちが悠長に話をしている間に配置は完了していた訳だ。

 扉を開けただけで弓矢の斉射がプレゼントされることだろう。


「ねえ、ハル」


 こちらを見ずにマイカが聞いてきた。


「どうした?」


「城の破壊はどのくらいまで認められるの?」


「殺さなければ好きにすればいい」


「よーしっ!

 お墨付きは貰ったわよ」


 みんな一斉にガッツポーズをした。


「おいおい……」


 なんだかんだ言って皆もフラストレーションが溜まっていたんじゃないか。

 俺のことは言えないと思うんだが。


『まあ、いいさ』


 この突入で少しは解消できるだろう。

 マイカが指揮を執るのかと思ったが、ハンドサインを出したのはトモさんだった。

 ゴーサインを出した次の瞬間。


「バゴオォッ!

 ドゴオォン!」


 さっそく大きな扉の両脇の壁が、ぶち抜かれていた。

 魔法ではなく拳でだ。

 言うまでもなく加減されている。


 国民に成り立てのベルやナタリーを除けば全員レベル300以上だからな。

 本気でやったら壁をぶち抜くだけですむはずがない。


 いずれにしても壁に大穴を開けるなど敵は夢にも思わなかったことだろう。

 故に扉が開かれた時を想定して展開していた。

 正面から斜めにかけて玄関ホール奥に弓兵を配置。

 これで扉を開いた時に斉射される訳だ。


 そして扉の両脇に槍兵が数名。

 突入してきた時に側面攻撃を仕掛けるつもりなのは明らか。

 盾持ちがいたとしても正面の弓兵に気を取られるはずだ。


 そこを横からブスリ。

 エグいと言わざるを得ない。

 俺たち以外が相手ならばだが。


 そんなことをする間もなく槍兵たちは吹き飛ばされて完全に気を失っていたが。

 それどころか弓兵たちまでもが破片の直撃を受けて倒れていた。

 怪我人続出である。


「死にそうなのから順番に治癒魔法をかけて眠らせていくわよ」


 やることが無茶苦茶だ。

 目覚めた時に怪我をしていなければいいだろうという発想が大胆すぎる。

 俺も人のことは言えないのだが。

 そんなことを考えている間に処置は終わった。


「じゃあ、次だ」


 ここから先は鬼ごっこのようなものだった。

 鬼が何人もいたりするから手分けして追い詰めていくのだけど……


 トモさん夫婦の場合──


「侵入者め、大人しく縛に就け」


 さすがに最初から逃げるような連中はいない。

 数人の騎士たちが剣を抜き放ち向かってこようと踏み出した。


「ドゴォッ!」


 トモさんが横に拳を突き出して壁を破壊する。


「なっ!?」


 騎士は全員が1歩踏み出しただけで固まってしまった。

 フェルトも反対側の壁を殴りつける。


「ボゴォッ!」


 こちらも壁はガラガラと崩れ落ちた。


「「「「「ひっ……」」」」」


 そんなものを見せられれば屈強な騎士も震え上がってしまう。


「一戦交える気があるなら、こうなる覚悟で来い」


「容赦はしませんよ」


「「「「「うっ、うわあ─────っ!」」」」」


 少し脅しただけで逃げていった。


 月影の場合──


「「「「「うおおぉぉぉっ!」」」」」


 何人もの兵士が突撃してくる。


「ねえ、まともに相手するの?」


「面倒やで」


 レイナやアニスが振り向いて仲間に問いかける。

 兵士など眼中になかった。


「隙あり!」


「もらった!」


 先頭を走ってきた敵2人が剣を突き出す。


「うるさいっ!」


「やかましいわっ!」


 振り向きざまにレイナは魔法で圧縮空気の塊を放ち。

 アニスは水平方向に雷を撃ち出した。


 突進の勢いは空気の壁に阻まれ。

 魔法の雷に突進してきた兵士がすべて打たれた。

 もちろん耐えられる訳もなくバタバタと倒れていく。


「最初っから飛ばすわね」


 呆れたようにリーシャが溜め息をついた。


「こんなん飛ばしたうちに入らへんわ」


「片手間よね」


「そういう意味じゃない。

 この連中、ここに置き去りにしていくつもりか」


「そうですよー。

 ふん縛るのは確定としてもー、引きずっていくつもりですかー?」


「「あ……」」


 ダニエラにまでツッコミを入れられてしまう2人であった。


 子供組の場合──


「バカなっ、子供だと!?」


 先頭にいた騎士が叫ぶ。

 後ろにいる兵士たちは言葉を失っていた。

 次の瞬間にはバタバタと倒れていったが。


 一瞬で接近され当て身で気絶させられたと理解できた者は1人もいなかった。

 1人残らず縛り上げられ即席で作られたリヤカーに放り込まれていく。


「次、行くニャ」


「「「「おー!」」」」


 残りの面子も手法は違えど似たような感じで城内を制圧していくのであった。


読んでくれてありがとう。

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