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789 そういや言ってなかった……

 レイナが地面を踏み抜いた。


「うわっ、何よっ!?」


 瓦礫や土砂が崩落したが、それを瞬時に察知した面々は咄嗟に飛び退いていた。

 範囲が狭かったこともあって巻き込まれた者はいない。


 遅れてモワッと砂埃が舞い上がる。

 もう少し大きく崩れていたら、崩落にカーターが巻き込まれていただろう。

 ベルやナタリーの婆孫コンビもだ。


 まあ、派手に崩れないよう理力魔法で支えたから巻き込まれなかったんだが。


 じゃあ、踏み抜き自体をなかったことにすれば良かったんじゃないのかって?

 せっかくレイナが派手に地団駄を踏んでくれたんだ。

 利用しないなんて勿体ない。


「カーター、無事か」


 それは分かっているのだが、何も聞かないのは不自然なので確認する。

 精神的な不調があるかもしれんし。


「あっ、ああ……

 ちょっとビックリしたけどね」


 呼びかけられたカーターは苦笑しながら応じた。


『この程度で取り乱したりしないとは、さすがだな』


「ベルとナタリーはどうだ?」


「大丈夫です」


「私も問題ありません」


 2人の返事に頷きで返すと、再びカーターの方を見た。


「怪我はないか、カーター?」


 これも拡張現実の表示で確認済みだったりする。

 本人の様子からも大丈夫だというのは分かったがポーズというのは大事である。

 【千両役者】があるから、くさい芝居にならずにすむし。


「怪我かい?」


 カーターも聞かれた直後はキョトンとしていた。

 が、すぐに首を巡らせてあちこちを見る。

 ペタペタと自分の体を触って確認しているのは、なかなか慎重だ。


 足手まといになりたくないが故だろうか。

 途中で服から砂埃が舞い上がり咽せたりもしていたが……


「うん、大丈夫だね」


 最終的に自分の体を叩くように払いながら返事をしてきた。


「怪我は何処にもしていないよ。

 結構な砂埃を被ってしまったお陰で口の中はジャリジャリするけどね」


 そう言って再び苦笑した。

 今度の方が困り具合が上のようだ。


 婆孫コンビも同じ状態らしい。

 困ったような表情を俺に向けていた。


「そういうことなら」


 前置きしてからフィンガースナップで指を弾いた。


「パチン!」


 今回の崩落で舞い上がった砂埃と破片だけを対象にして闇魔法の分解を使う。


「おおっ!?」


 カーターが目を丸くして自分の体を叩きながら確認し始めた。

 先程と違って、そんなことをしても埃が舞い上がりはしない。


「えっ!?」


 ナタリーは焦ったようにキョロキョロと周囲を見渡す。

 最終的には俺の方を呆然とした様子で見てきたがね。

 どうやら、この魔法で指定した対象物の多さに気付いたようだ。

 それは制御の複雑さに気付いたということでもある。


「まあっ」


 ベルは驚いているのか喜んでいるのかよく分からない。

 両方なんだと思うことにした。


「ねえ、これってどういうことよ?」


 それまで辛抱していたレイナが聞いてきた。

 目の前の惨状を見て、よく我慢したと思う。


 王城前で地面に長さ3メートル幅が1メートルほどの穴が空いているのだ。

 しかも穴を開けた本人ってことになるんだし。

 気になってしょうがないだろう。

 何がどうなっているか確認したいと思うのは当然であり普通のことだ。


 とはいえ見れば相応の推測はできるとは思うのだが。

 レイナが踏み抜いた地面の下には石の壁で覆われた通路と思しきものがあったからな。

 瓦礫で埋もれているので通路の先がどうなっているのか視認することはできない。

 通路の方向から片方が王城側に通じていることだけは分かるのだが。


「見ての通り、脱出用の地下通路だ」


「それにしちゃあ随分とちゃちね」


『それが見抜けなかった理由か』


 忌々しそうに崩落した地下通路を見ているレイナ。


「配置も深さも強度まであり得ないわよ」


「そこは予算の都合なんだろう」


「ああ、そういうこと……」


 呆れてしまったらしく、レイナはそう返事をしたきり黙り込んでしまった。


「それじゃ、中に入ろうか。

 都合良く脱出路が潰れたことだし」


 ミズホ組から何か言いたげな視線が集まったが気にしてはいけない。

 皆が「都合良く」ではないことに感付いていても聞かれない限りはスルー推奨だ。


「ここから先はしばらく皆に任せる」


 丸投げではあるが、ゾロゾロ連れ立って歩くだけってのも退屈なものだしな。


「「「「「ええっ!?」」」」」


 一斉に驚かれてしまった。

 それどころか、ググッと迫るように集まってくるし。


「な、なんだよ?」


 すっと手がかざされた。

 マイカだ。

 そのまま額にそっと触れてくる。


「熱あるんじゃないの?」


「ねえよっ」


「ウソだぁ」


 疑り深い目で見てくるし。


「自分で熱を測ったじゃないかよ」


 ジト目になるのは必然だ。

 いくら手の感覚とはいえ自分で確認してきて分からんとか……


「えー、でもハルの平熱知らないしぃ」


「あのなぁ……」


 ツッコミどころ過ぎて何も言う気が起きなくなってしまった。


「とにかく、ここから先は皆で分担して追い詰めてくれ」


「ひとつ、いいだろうか?」


 ルーリアが聞いてきた。


「ああ、構わない。

 どうしたんだ?」


 頷きながら返事をして了承する。


「皆に任せるということは既にハルトの気が晴れたと判断しても良いのだろうか?」


 俺の機嫌を確認する質問がされるとは思わなかった。

 ある程度は把握できても、正確には読み切れなかったのだろう。


「それはイエスでありノーでもある」


「どういうことだろうか?」


 具体性に欠ける返答では見当がつかなかったようで聞き返されてしまった。

 ただ、日本人組は俺の言いたいことが分かったらしい。

 姉弟で顔を見合わせてフンフンと頷いていた。


「怒りのレベルが少し下がったってことだよね」


 俺の方を見て確認するように言ってくるトモさん。


「ああ」


「ここの王族を前にしたとき即キレるようなことは無くなったとも言えるわ」


 ついさっき俺の熱を測ろうとしていたマイカが言ってくると、少々ムカッとするが。

 言っていること自体は間違っていない。


「でも、ハルくんはまだ怒っている」


 ミズキが捕捉することで俺のイライラを静めてくれた。


「これでいいかな?」


 3人が代弁してくれたので俺から付け足すことはない。


「理解した。

 手間を取らせてすまない」


「いや、いいさ。

 気がかりを残したまま作業に入ると思わぬミスをしかねないし」


「ふむ、確かに」


 ルーリアは納得してくれたのだが。


「仕事ではなく作業になっちゃうんですね」


 リオンが妙なところを気にしていた。


「諦めなさい、リオン。

 もはや私達も一般人とは違うんだから」


 姉のレオーネにフォローになっていない慰めをしている。

 いま話し掛けるとリオンが余計に落ち込みそうなのでスルーしておくことにした。

 作業に専念させれば気にならなくなるだろうし。


「王族以外は無力化すればいい。

 殺すの厳禁だからな。

 できるなら怪我をさせるのも回避すること」


「王族は殴っても?」


 リーシャが手を挙げながら聞いてきた。


「殺さなければ好きにしていい」


「ぞんざいだな」


「王族じゃなくなるからな。

 ここはエーベネラント王国の領土になるんだし」


 この発言にカーターが慌てだした。


「ちょっと待とうか、ハルト殿」


「どうした、カーター」


「どうして、そうなるのかな?」


 いま知りましたとでも言いたげな驚愕を顔に張り付けているのが予想外だった。


「え? 言っただろ。

 王家の解体をするって。

 それに賠償として国を丸ごと要求するとも」


「君の所が……」


 途中まで言いかけた言葉を飲み込むカーター。


「要求しないと言っていたね」


 思い出したことを脱力した様子で語った。


「そういうことは事前に相談してほしいものだよ」


「あ、スマン。

 すっかり忘れてた」


 うっかりミスである。


「「「「「おいぃっ」」」」」


 絶妙なタイミングで皆からツッコミが入ってしまった。

 それも無理はない。

 俺だって立場が逆なら同じ反応をしただろう。


「嫌なら変更するけどね」


 それくらいはして当然だ。

 敵の企みをやり返すなんて最高の意趣返しになるかと思ったのだが。

 本人が望んでいないなら意味がない。

 無理に押し通せば、それはただの自己満足になってしまう。


 俺の言葉にカーターが顎に手を当てて考え込んでいた。


『あー、これは了承されないな』


 きっと他の賠償できるものを考えているのだろう。

 妥当なのは金銭による賠償で分割払いではなかろうか。

 ただ、一括払いと違って途中で無かったことにされる恐れはある。

 それを考えると、さじ加減が難しいところだ。

 考え込むのも仕方あるまい。


 しかしながら城内の慌ただしい状態も時間の経過と共に鎮静化していくはず。

 正直に言って時間はかけたくないのだが……

 自分のミスによることなので早くしてくれとは言える訳もない。

 最悪の場合は、再度なにかの騒動が発生するように動くしかないだろう。


『今は無人になっている最上階を吹っ飛ばすとか……』


 そんなことを考えていると、カーターが顎から手を離して頷いた。

 結論が出たようだ。


「いや、変更はしないよ」


 苦笑まじりに答えるカーター。


「え?」


 俺にとっては些か意外な返答であった。


読んでくれてありがとう。

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