788 賠償請求するモノは
「具体的には、どう責任を取らせるのよ?」
ジト目を向けてくるレイナ。
思いっ切り疑っていますという顔をしている。
「どうって言われてもな」
そんな大層なことをするつもりはない。
人死にが出るようなことは極力回避するつもりだし。
怪我人が出るくらいは許容範囲だと思ってもらいたいところだ。
「まず行うのは王家の解体だ」
「「「「「ええっ!?」」」」」
またしても皆の視線を集めてしまった。
皆は予想外だと言わんばかりの目をして驚いている。
が、俺に言わせれば当然の処置なのだが。
こんな迷惑なことを考える王族などいるだけ邪魔だ。
バーグラーの王族連中と比べればマシだとは思うがね。
そもそも、あの連中と比較するのが間違えていると思うけど。
この国の王族を取っ捕まえてカーターに引き渡しても処刑とはならないだろうし。
それなら修道院にでも放り込んで一生出られないようにするまでだ。
敷地から出たら全身が激痛に襲われるようにすれば逃げられないだろう。
「ちょっと、無政府状態にするつもりなの!?」
マイカが慌てた様子で聞いてきた。
「は!?」
今度はこちらが驚く番である。
周りもざわついている。
どうやらマイカと同意見の者が多いらしい。
「普通は謝罪と賠償を請求するところじゃない?」
そう聞いてきたのはレイナだ。
実に常識的な内容である。
「無政府状態に追い込むのは、やり過ぎよ」
なのに訳の分からない追及をしてくる。
誰がいつそんなことを言ったのか問い詰めたい気分である。
「うちもレイナの意見に賛成や。
無政府状態は、いくらなんでも強烈すぎやろ」
アニスも追随してきた。
やはり言っていることがおかしい。
「皆、なに言ってんだよ!?」
何処をどう解釈すれば、そういう発想になるのだろうか。
「無政府状態になんて追い込む訳ないだろ。
この国の国民だけでなく周辺国が迷惑するっての」
いくらムカついたからって、そんな真似をするつもりはない。
バーグラー?
あれは無政府にした方がマシだったからな。
それと、あの国は既にゲールウエザー王国に譲渡したし。
丸投げしたとも言うけど。
「えっ、せえへんの!?」
やけにアニスが驚いている。
完全に思い込んでいたようだ。
「誰よ、無政府状態に追い込むなんて言ったのは」
犯人捜しをするべく周囲を見回すレイナ。
「主犯はマイカだが、お前も共犯だ」
「「ガーン!」」
2人そろって口で言っちゃってますよ。
そのまま固まってしまったレイナに対してマイカは口を尖らせている。
文句を言う気満々だ。
「だって、王家の解体なんて言ってたじゃん」
「あのな……」
根拠がそれだけとは頭痛が痛い。
いや、頭が痛い。
思わず言葉が変になるくらい発想を飛躍させすぎだ。
マイカらしいとは思うが、いい迷惑である。
こちらからも何か言い返そうとしたところで──
「ハル兄は、まだ話し終わっていない」
ノエルが加勢してくれた。
実にありがたい。
『ホンマええ子や』
心の中で思わず関西人になってしまうくらいありがたい。
そしてマイカに言ってやりたくなった。
ずっと年下のノエルが冷静に話を聞いていたんだぞ、と。
言うと拗ねるだろうから、言わんけど。
「せやな、ツッコミ入れるんは全部聞いてからでもええと思うで」
「お前がそれを言うのか、アニスよ」
「えっ、なんで?」
キョトンとした様子で聞き返してくる。
その言葉からは誤魔化そうなどという気は感じない。
「……………」
実は狐ではなく鶏のラミーナではないのかと言いたくなった。
「共犯者はレイナだけじゃないんだぞ。
無政府状態にするのは強烈だと言ったのは誰だ?」
「あ」
指摘されてようやく思い出したようだ。
そしてショボンと萎んでしまう。
『しばらく反省してろ』
ツッコミ入れるのを前提に話されたことで微妙にイラッとしたしな。
あれのせいで皆もやけに力の入った状態で聞く体勢に入ったし。
まるでツッコミを入れたくて仕方ないように見えてしまう。
『そんなにツッコミを入れたいのか』
続きを話す前からゲンナリだ。
「別にこの国を見捨てる訳じゃない。
それだけは先に言っておくぞ」
まずは宣言しておく。
でないと、次の決めつけ犯が現れないとも限らんからな。
「それで王家を解体してどうするの?」
ミズキが聞いてきた。
マイカが大人しくなったのは自重したからだと思われる。
さすがに2回目の主犯扱いは避けたいのだろう。
「修道院に放り込んで一生出られないようにする」
「流刑ってことね。
それで、その後は?」
「後は謝罪と賠償だろうな。
とはいえ謝罪なんか要求するつもりはないが」
「なんだかハルト様らしくないですね」
「反省するまで、この国の王族を追い詰めそうな気がしたのですが」
そう言ってきたのはABコンビであった。
他の皆もうんうんと頷いて同意している。
俺に集まる視線には「何故?」がこれでもかと上乗せされていた。
「謝罪を求めない理由が知りたいのか?」
一斉に頷くミズホ組一同。
「じゃあ、逆に聞くけどさー。
今回のようなことを企む奴が反省すると思うか?」
「「「「「……………」」」」」
返事がないのが返事であった。
それだけで皆が、ほぼ理解したと言っていいだろう。
言葉にはしなかったが「あー」という弛緩したような納得の表情を浮かべていたし。
「するわけないよな。
したって表面上だけだろぉ……」
思わず遠い目になってしまう。
「そんな奴の謝罪なんて断じて聞きたくないっ」
「「よく分かりました」」
ABコンビが素直に引き下がってくれた。
皆も同様である。
「それでは賠償の方はどうするのですか?」
それを聞いてきたのはカーラであった。
「この国が満足に支払える賠償金はないと思うのですが」
「あっても武器とか他の戦費に化けているであろうな」
ツバキもカーラの意見を捕捉してきたということは同じ疑問を持っているのだろう。
まあ、それは他の皆も同じように見える。
チラリと日本人組を見た。
ミズキが小首を傾げる。
マイカは無反応。
よほど主犯扱いが答えたようだ。
トモさんは──
「金がないなら差し押さえかな」
目が合った瞬間に頷きながら自分なりに考えたであろう解答を披露してくれた。
「ほい、正解」
「「「「「おおーっ」」」」」
皆が感心したようにトモさんを見た。
が、正解した本人は浮かない表情である。
「どうしたのさ?」
「完全に正解した気分じゃないんだよね。
具体的に何を差し押さえるかまでは分からなかったからさぁ」
「向こうが賭けに使ったチップは大きかっただろう?」
「ああ、国同士の戦争じゃ小さい方がどうかしてるよ」
トモさんは、そう言い切って──
「ん?」
眉根を寄せて怪訝な表情をした。
そして、すぐに目を見開く。
「まさかっ!?」
簡単すぎるヒントだったかもしれない。
「この国、丸ごとかい?」
「またもや正解」
「「「「「どういうこと!?」」」」」
今日は予想外が続く日のようだ。
さすがに正解を出したトモさんは皆ほどの驚きは見せていなかったが。
「この国の支配権を奪うおつもりですか」
エリスが確認するように聞いてきた。
「奪うとは人聞きが悪いな。
損害賠償としての支払いを要求するだけだ」
「また、無茶を言いますね」
マリアが呆れ顔である。
「俺は妥当だと思うんだが」
「何処がよっ」
すかさず噛みついてきたのはレイナだ。
共犯者ショックからは復帰できたらしい。
「いくらムカついたからって国の支配権を要求するのはやり過ぎじゃない」
「は?」
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
すぐに言いたいことが何であるか見当はついたがね。
「まるで俺が受け取り人であるかのような口振りだな。
ムカついたからって俺がこの国の支配権を要求する訳ないだろ」
ローズの審査もしていない人間ばかりなのに、それを受け入れ前提なんてあり得ない。
またしてもレイナは早とちりしてしまった訳だ。
まあ、俺を心配しているが故だというのは分かるので腹が立ったりはしない。
むしろ可愛くて仕方がない。
ただし、それで終わらせる訳にもいかない事情がある。
レイナが早とちりを連発させたことだ。
『もうちょっと落ち着きを持ってもらわんとな』
反省させるために、ちょっとからかっておくことにした。
「俺の発言に矛盾を感じて心配したんだろー」
ニヤニヤしながらポンポンと軽く叩く感じでレイナの頭を撫でる。
「ああっ、もうっ、その通りよっ」
肯定しながら顔を真っ赤にしている。
だが、まだまだだ。
「可愛いなぁ」
「キィ─────ッ!」
奇声を上げながらダンダンと地団駄を踏むレイナ。
「ボコォッ!」
城に入る直前の場所で地面に穴が空いた。
どうしてこうなったかはレイナに聞いてくれ。
読んでくれてありがとう。




