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787 ノックから始まる宣戦布告?

「ゴーン!

 ゴオーン!

 ズドゴオォォン!」


 正門前に大きな音が響き渡った。

 結界内なので外には漏れ聞こえないが、王城内にいる連中には聞こえたことだろう。


「ガガッバキバキバキッメキャッ!」


 今の音は吹き飛んでいった城門が王城に突っ込んでいった破砕音である。


「な、な、なっ……」


 ナターシャから改名したナタリーが目を見開いてワナワナと震えていた。


『あ、いかん。

 ビビらせてしまったか』


 イライラ解消のために派手なノックにしてみたのだが、加減が足りなかったようだ。

 ミズホ国民初心者には刺激が強すぎたかもしれない。


「あら~」


 同じく改名したベルの驚きっぷりは、どこか暖気な雰囲気が感じられたが。

 少しは慣れたということだろう。

 多少は非常識なものも見せたしな。

 ナタリーも魔法で城門を吹っ飛ばしたのであれば、ここまでビビらなかったはず。

 その程度のことは既に何度も見せているし。


「旦那よ、これの何処がノックなのだ」


 ツバキが呆れた様子で俺の方を見た。

 馴染んでしまうと、このくらいの反応になる。


「訪問時のノックは3回がマナーだろ?」


 2回はトイレで個室にいるかを確認するためのものだからな。


「門を破壊してマナーというのもどうかと思いますが」


 マリアが溜め息をつきながら指摘してきた。


「せやせや」


 それにアニスが同意する。


「これって既に奇襲よね」


 指摘に答える前からツッコミを入れてくるレイナ。


「奇襲だって?

 バカ言っちゃいけないな。

 目には目を歯には歯をって言うだろ?

 門を破壊したのも、そういうことだ。

 前線に軍隊を大量配備してから宣戦布告を企むような奴らに遠慮はいらん」


 キッパリと断言した。

 アニスとレイナが互いに顔を見合わせる。

 そして肩をすくめた。

 ツッコミを入れるのは諦めたようだ。


「しかも、だ」


 まだ言いたいことは残っている。


「俺の仕事が終わったと思ったタイミングでだからな」


 スケーレトロの連中は俺を怒らせた。


「そんな連中に遠慮する必要が何処にある?」


 いや、ない。


「とかなんとか言いながら、友達を困らせるような奴が許せないだけでしょ」


 マイカがしたり顔でツッコミを入れてきた。


「ハルくん、本気で怒ってたもんねー」


 ミズキが楽しそうに追随している。


「壊すの前提だったけど、吹っ飛ばす方のさじ加減に苦労してたでしょ」


 ドヤ顔でそんなことを言ってくるマイカ。


「そうでもないぞ。

 ジャブ2発で調整したからな」


 2発もあれば余裕で修正できる。


「ジャブって言っちゃったよ」


 ドヤ顔から一転して苦笑するミズキ。


「それ、もうノックじゃないじゃん」


 同じく苦笑しながらツッコミを入れてくるマイカ。


「マイカ殿、それ以前の問題だ」


 ルーリアがマイカのツッコミにダメ出しをする。


「そうだな。

 3回目が後ろ回し蹴りの時点でノックとは言えない」


 リーシャが同意しながら何故ダメなのかを言った。

 皆もウンウンと頷いている。


「だそうですぜ、ダンナ」


 マイカが俺に振ってきた。

 此奴は都合が悪いと、すぐにこれだ。

 大学時代からの得意技で定番の台詞である。

 あの当時からエリーゼ様の娘だったんじゃないのかと思うくらいの丸投げっぷり。


『まったく……』


 昔の癖で「誰がダンナだ」と文句を言いそうになった。

 今はそれを言うと間違いなく俺が指差されて切り替えされるはず。

 結婚してるからな。


「これくらいしないと中の連中が出てこないだろう?」


「逆に中で大騒ぎになって出てこない気がします」


「怪我人はいないようですけど、その確認が先でしょうね」


 ABコンビが真面目な答えを返してきた。


「まあ、そのうち確認するために誰か下っ端が来るだろうよ」


「捕まえて案内させるんですかー?」


 ダニエラが聞いてきた。


「まさか、そんな面倒なことする訳ないだろ」


 案内をさせる方が効率が悪いのは目に見えている。

 出てきたら多少のO・HA・NA・SIはすることになるだろうし。

 その後で俺たちの間近に残しても、まともな受け答えができないだろうからな。

 だったら使いっ走りをさせるのが一番だ。


「下っ端には俺たちが来たことを知らせてもらわないとな」


「そうだよ、ダニエラちゃん」


「ハルトさんなら、もう城内の様子を確認済みだって」


 俺の反論にメリーとリリーが乗ってくる。

 無駄に高い信頼だ。

 俺に問い合わせるまでもなく確信していることに苦笑を禁じ得ない。


 まあ、古参組なだけはあるってことだ。


「何と言っていいのやら。

 凄まじいものだね」


 頭を振りながらカーターが語り掛けてきた。


「身体強化魔法もハルト殿の魔法の腕前でとなると、ここまでになるのか」


 なにやら盛大に勘違いしている。

 今のは素のステータスでやったことだ。

 しかも加減しているくらいである。


 魔法で補助などした日には、考えたくもない惨状が繰り広げられることだろう。

 皆もそれが分かっているので気まずそうな顔をしていた。

 幸いにしてカーターには気付かれなかったようなので俺もスルーしておく。

 わざわざ【千両役者】の世話になるまでもない。


「とにかく、こんな場所に居続けても意味はない」


「主よ、下っ端が出てくるのを待つのではないのか?」


 シヅカが怪訝な表情を浮かべて聞いてきた。


「ノックはしたが出てこないんじゃねぇ」


 ニヤリと笑う。


「うわっ、ドSな顔になってるよ!」


 やけに楽しそうなトモさんである。


「出てこないって、言うほど待ってないじゃないですか」


 フェルトにツッコミを入れられた。


「待つなんてとんでもない。

 絶対に逃げ出す奴がいるからな」


「誰が逃げようとするのよ」


 逃げられる訳ないじゃないと言わんばかりの呆れた視線を送ってくるレイナ。


「ノエルの結界のことを向こうは知らんからな」


「ああ、そういうこと……」


 レイナも納得したようだ。

 物理的にも効果のある結界だからな。

 でなきゃ雨を防ぐなんてことはできない。

 そんな訳で裏口はもちろん、地下の隠し通路なんかを使っても脱出は不可能だ。


 ノエル以上の魔法が使えるなら話は別だが。

 うちの面子でも数えるほどの面子にしかできないがね。

 ちなみにミズキとマイカに守護者組のことである。


「でも、それは分かるけれど……」


 エリスは何やら思案顔をしていた。


「分かるけど、何かな?」


「こういう軍事色の強い国で敵前逃亡はないんじゃないかしら」


 その言葉に皆も頷いている。


「逃げると処刑なんてことになりそうですね」


 クリスが物騒なことを言った。


「あー、ありそうよねー」


 レイナが同意した。


「これだから軍事国家は」


「やーねー」


 眉をひそめるマイカにトモさんがカマっぽい声音で同意した。

 特に誰かの真似という感じはしない。


「それ誰の真似なのさ」


 念のために聞いてみた。


「えっ、誰の真似でもないよ。

 強いて言うならモブの井戸端会議風?」


 持ちネタを使わずにボケたということか。

 まあ、意味もなくこんなことをするトモさんじゃない。

 その視線の先を見れば、爺さん公爵が泡を吹きそうな感じで引っ繰り返っていた。


『これを知らせるためか』


 前ばかり見ていて後ろは皆に任せていたからな……

 やっちゃった感がハンパない。


 ナタリーでさえ、あの反応だったのだ。

 俺たちのあれこれを見慣れていない部外者であれば当然の反応と言える。

 ハリーが支えてくれたようで、打ち所が悪くてなんてことにはなっていないのは幸いだ。


「どうしましょう」


 珍しく情けない声を出しているフェーダ姫。


「別に宣戦布告のときに起こせばいいんじゃないか?」


 静かになってくれるなら、その方が好都合だ。

 そんな訳でメイド型自動人形に背負わせることにした。


「じゃあ、行くか」


「ほとんど殴り込みよね」


 今更なことを言うマイカである。


「えっ、気付いてなかったのか?」


「ちょっ……

 宣戦布告しに来たんでしょ!?」


「軽く制圧してからでも、できるけど?」


「「「「「制圧!?」」」」」


 皆の驚きに彩られた視線が一斉に俺へと向けられた。

 意外なことを聞いたと言わんばかりである。


「だから言ったろ?

 目には目をって」


「言ってましたね」


 エリスが言いながら苦笑する。


「でも、まさかそこまでするつもりだったとは思いませんでしたよ」


 マリアは若干、困惑気味だ。


「そこはハルトさんですから」


 クリスが、そんなことを言ってマリアを納得させていた。

 他にもルーリアが苦笑しながら頷いている。


「この国の指導者は運がなかったな」


「運じゃない」


 ルーリアの言葉にノエルが異を唱えた。


「指導力がなかった」


「それは言えているな」


 ルーリアも思わず頷いていた。


「指導力があらへんから無茶を重ねてたんやもんなぁ」


「で、引き際を見誤って八方ふさがりなんて、馬鹿としか言い様がないわね」


 アニスはともかくレイナは、なかなかに辛辣である。


「そして虎の尾を踏んでしまった訳ですねー」


 ダニエラが納得がいったとばかりに頷き、そんなことを言っていた。


「この結果は確かに指導力の無さが招いたと言わざるを得ないな」


 リーシャが締め括る。


「そんな訳でこの国の王には責任を取ってもらおう」


読んでくれてありがとう。

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