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785 道中では静かだったのに

61話を改訂版に差し替えました。

 荒れ模様の中に重厚さを感じさせる城が壁面モニターに映し出された。

 実用性重視といった感じで秀麗さとは無縁だ。

 とはいえ要塞と評するには物足りなくもある。

 そこまで実用性があるようには見えないせいだろう。


 城壁の外に堀はおろか空堀さえない。

 ならば城壁を高くする必要があるだろうに、そういうこともない。

 分厚くはしているようだが。


 これなら城を攻略するために城壁を上るのも楽そうだ。

 城門の破壊などは二の次にされそうである。

 案外、それが狙いなのかもしれない。

 城壁上に誘い込んで迎撃するのが目的だったり。


『それは無いな』


 どの城壁も均等な高さだし。

 場所によって壁の上りやすさが違うなんてこともない。

 城壁上で迎撃するにしても中途半端な感じの広さだ。

 上られたが最後、一気に城壁の内側へと侵入を許してしまいそうである。


 設計した人間がバカなのか。

 それとも途中で予算が切れたのか。


『両方だろうな』


 まあ、防御力を重視しようとしたことだけは確かだ。

 無骨な見た目をしているため威圧感はそれなりにある。

 王都に住むこの国の民には、さぞかし恐れられているのではないだろうか。


「あれがスケーレトロ王国の王都でいいのかな?」


 カーターが俺の方を見ながら確認してきた。


「ああ」


「よく分かるね。

 来るのは初めてなのに」


 妙なところで感心してくれる。

 まあ、心配はいらない。

 そのために最初から保険は掛けていたからな。


「街道沿いに飛んで来たからな」


 ゲーム機風のコントローラーを操作しながら答えた。

 モニターの一部に地図が写し出される。

 大幅に省略したものなので地図で騒がれることはないはずだ。


「へえ、凄いな。

 こんなこともできるんだね」


 俺の手元と壁面モニターを見比べるカーター。

 見たことがない機能だから気になるのもしょうがないとは思う。


 が、注目されると操作しづらい。

 妙な緊張感があるというか。

 気にしても進まないので、さっさと地図上に赤線で経路を表示させていく。


「これが飛んで来た街道を示しているんだね」


「ああ、そうだ」


 頷きながら経路を確認していくカーター。


「確かに王都のスケーレみたいだね。

 こんなに実用性が半端に見える城だとは思わなかったけど」


 カーターにまで酷評されるか。


『まあ、当然だけど』


 簡単に鑑定してみたけど築城は何百年も前のことだ。

 細かな補修はしているものの、城壁の改修などはされていない。


「予算があれば戦争に注ぎ込むみたいだな」


「中途半端なことをするね」


「同感だな」


「それに……」


 次の言葉を紡ぎ出す前にカーターは深く息をついた。

 心底、呆れているようだ。


「国が傾きかけても方針を変えないのは、下策中の下策だと思うよ」


「俺もそう思う。

 まあ、セコい手を使って一発逆転を狙うような連中だ。

 何百年も続けてきた国の方針は変えられないだろう」


「悪しき伝統ってことかな」


「そうなる」


「気を付けないとね。

 我が国もそこに陥りかけていた訳だし」


 先王のことを言っているようだ。

 自分の兄を相手に酷評とは手厳しい。


 とはいえ、言われても仕方のない相手だったのだろう。

 俺は骸骨野郎によってアンデッド化された後の王しか知らないが。


 いずれにせよ、そう言えるカーターなら大丈夫。

 自分を戒めつつエーベネラント王国をもり立てることだろう。


『これから大変だろうけどな』


 本人はまだ気付いていないようだけど。


「じゃあ、あと数分で到着だよ」


 俺が声を掛けると、ミズホ組の皆は暇つぶしの後片付けを始めた。

 トランプなのでカードを集めて倉庫へポイで終わる。


「ん?」


 視界の片隅にプルプルと震えるものがあった。

 爺さん公爵だ。


 いつの間にかフリーズ状態から復帰していたようだ。

 それは良いのだが……


「どうしたんだ?」


 小刻みに震えているから怒っているのかと思ったのだが。

 顔色がね。

 赤いのかと思って見たら、血色がよろしくなかった。

 輸送機は揺れないから乗り物酔いは考えられないのだけれど。


『高所恐怖症とか?』


 考えられそうなことはそれくらいである。

 壁面モニターを通して見る外の様子は、さほど迫力はないはずなのだが。


 ただ、こればかりは高所恐怖症の人間でなければ分からないことだ。

 映像を通しても恐怖心は変わらないのかもしれない。


 だとすると、ずっと不調と戦っていたことになる。

 顔色を悪くして体が震えるほどとなると、吐き気もあるかもしれない。

 道中は静かだったので放置していたのが裏目に出てしまったか。


「なんですか、この非常識な速さは……」


 声を絞り出すようにして、ようやく爺さん公爵が喋った。


『そういや到着予定の説明はしていなかったな』


 普通なら何日かはかかる道程を数時間で到着したなら、この反応も頷ける。


「そんなこと言われてもなぁ……」


 どう答えたものかと考えながらも、ちょっと安堵する。

 高所恐怖症という訳ではなかったようだ。


 とするなら、爺さん公爵をどう落ち着かせるかが問題になってくる。


『誤魔化してみるか』


 平時であれば通用しないのは目に見えている。

 だが、今の爺さん公爵は普通でない精神状態のはず。

 それを逆手にとってみることにした。


「検問で引っ掛からんし。

 この輸送機は馬のように疲れたりしないし」


「そんなものは微々たることではないですか。

 検問が無かったとしても、ここまで日程は短縮できません。

 馬を変えながら走らせたとしても同じです。

 何日もかかる道程を数時間だなどと……」


 爺さん公爵はその先の言葉を見つけられずに頭を振った。

 キレる寸前といったところか。

 にもかかわらず、誤魔化されなかった。

 冷静な部分は残しているようだ。


『なかなか手強い』


 面倒くさいとも言う。

 が、冷静なら役割を思い出させるだけで充分かもしれない。


「とにかく、到着したから使者として落ち着いて行動してもらおうか」


「ぬぐっ」


 己の役目を思い出したのだろう。

 爺さん公爵の追及は止まった。

 相手が生真面目な人間だからこそ使える手である。

 乱用するとキレられるけどな。


「じゃあ格納庫に行くぞ」


 皆を促して行動を開始。

 爺さん公爵も渋々といった様子で後を付いて来る。

 俺たちはエレベーターで階下の格納庫へと下りた。


「王城の正門前かー」


 苦笑交じりにカーターが言った。


「こんなことをして本当に大丈夫なのですかな?」


 今更なことを言ってくる爺さん公爵である。


「先触れもなく」


 ブリブリと文句を言う。


「この嵐だからな。

 先触れが到着しなかったとしても通じると思うぞ」


 それ以前に真っ当な交渉をするつもりはないので、どうでもいいのだが。


「嵐でなければどうしたのですかっ」


 何だかカリカリしている。

 到着が早すぎるとブーブー言っていた先程の精神状態を引きずっているのだろう。


「えー、この周辺だけ嵐にしたかな」


「なっ!?」


 カクーンと爺さん公爵の顎が落ちた。

 外れはしなかったようだが。


「天候操作の魔法って儀式級じゃありませんか?」


 しばらく静かにしていたフェーダ姫が口を開いた。


「それも百人単位の魔導師が必要になるというのを書物で見た覚えがあります」


 魔法使いでなくても知識はあるようだ。

 西方の魔法限定ではあるが、なかなか詳しそうである。


「そうなのかい?」


 カーターも聞いてきた。


「範囲を絞れば儀式にするほどじゃないぞ。

 魔力さえ確保できるなら人数もいらないし。

 少しばかり、それを証明してみせようか」


 そう言いながら俺は人差し指を上に突き上げた。

 釣られるように目で指先を追う2人。


「ほい」


 気の抜けたような掛け声と共にサッと指を振り下ろす。


「ドゴオオォォォォン!」


 轟音が間近で響き渡った。


「うわっ!」


「きゃあっ!」


「ハルト殿、今のは何だい?」


 呆然とした面持ちのままだが、カーターがどうにか聞いてきた。


「雷を城に落とした」


「「ええっ!?」」


 目を丸くする叔父姪コンビ。

 爺さん公爵は大口を開けて固まったままだ。

 いや、更に口が大きく開いていた。


『あれで外れないとか凄いもんだ』


「今度はモニターを見ておくといい」


 2人の視線がモニターに向かったところで、先程と同じやり方で王城に落雷させる。


「ゴッオオォォォォン!」


 画面には天から城へと落ちる光の筋があった。

 もちろん光量は補正している。

 ついでに画面分割してリアルタイムと落雷した瞬間で止めたものの両方を流した。


「光りましたよ、叔父様!」


 興奮気味のフェーダ姫。


「ああ、光ったね」


 それに対し落ち着いた様子のカーター。


「これが雷光かい?」


「正解だ」


「初めて見たよ」


「なら、もう一丁サービスだ」


「ドッゴオオオォォォォォン!」


 今度は近めで迫力満点である。


「きゃっ!」


 フェーダ姫が短い悲鳴を上げた。

 調子に乗りすぎたようだ。


「これは、すまないことをした」


「いえ……

 でも、魔力は大丈夫なんですか?」


「それについては心配いらない。

 この嵐に蓄えられていたものを利用させてもらっただけだ」


 故に魔力消費なんて、ほとんどしていない。

 そこまでは説明しないが。


「こんな具合でね。

 条件を絞ればどうにでもなるんだ」


読んでくれてありがとう。

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