775 飛ばせば信じるか
58話を改訂版に差し替えました。
「「「「「うお─────っ!」」」」」
空から飛来する巨大な物体に興奮状態の面々。
主な面子は離宮組である。
「すっげー!」
「マジで飛んでるよ!」
子供のように、はしゃぎながら指差している。
隠れ里から出てきた時の反応からすると少しは信じてもらえているようだ。
実際に飛んでいるところを見せて正解だった。
横着して召喚風に倉庫から引っ張り出していたら、どうなっていたことか。
それ自体は驚くと思う。
デカいしな。
だが、乗ってくれと言っても素直に従ってくれたかは怪しいところだ。
空を飛ぶと事前に説明しておいただけにな。
得体の知れなさが尻込みさせたと思う。
『まあ、飛ぶところを見せたからといって素直に乗るとは限らんがね』
そのあたりはゲールウエザー組に期待するとしよう。
躊躇わずに乗る姿を見せれば、少しは誘導効果もあるだろう。
それに隠し球も用意してあるから、たぶん大丈夫。
「夢じゃないよな」
「ああ、夢じゃない」
そんなことを言い出す者たちもいたが頬をつねったりはしないようだ。
まあ、日本でもリアルでそんなことする人間を見たことはないが。
「あの王様スゲーよな」
「だよなー。
強えし魔法は凄いし……
おまけに、こんな魔道具まで持ってるし」
「アレに乗って帰るってのが、また凄い」
「皆に自慢できるぜ」
「無理じゃねえか」
「なんでだよ」
「目撃されないようにするって聞いただろ」
「そりゃあ、そうだけどよー。
あんなデカいものが誰にも見られずに済む訳ねーって」
まだまだ簡単には信じてもらえないようだ。
最初から丸々って感じじゃなくなっているだけでも収穫というものだろう。
「でもよー、あの王様だぜ」
「そうそう。
なんか凄い方法を使うのかもよ」
「つーか、あの王様だったら簡単だろ」
さも当然とばかりに1人の男が言ってのけた。
光学魔法のことを知っているのだろうか。
そうは思えないのだが……
「「「「「どういうことだよ!?」」」」」
彼の仲間たちも予想外だったらしくギョッと目を見開いて詰め寄っていた。
「魔法とかバンバン使ってたじゃないか」
男がそう言うと詰め寄っていた一同がたじろいだ。
「それも属性とかお構いなしって感じだったぞ」
更なる男の一言で詰め寄ったときの勢いは完全に消滅した。
が、それでも納得しない者もいる。
「いやあ、いくら魔法でも見えなくするのは無理じゃないか?」
すぐに疑問を口にした。
「そうでもない」
「なにぃ?」
事も無げに言った男の言葉に反論男が唖然とする。
魔法で何とかするという漠然とした答えしか持っていないと思っていたのだろう。
『それにしても……』
つい、トモさんの物真似ネタを考えてしまう。
この会話をトモさんが聞いていたら、と。
俺も思った以上に影響されてしまっているようだ。
「水の魔法を使っていたんだし、霧とか出せばいいじゃないか」
男はそう言った。
特にドヤ顔をする訳でもなく普通に。
そのせいか聞いていた面々が呆気にとられていた。
男の言った言葉を頭の中で反芻して、ハッとした表情になる。
「「「「「それだっ」」」」」
疑問を投げかけた男までもが納得していた。
それだけ説得力があったということなんだろう。
その話で男たちは盛り上がるが、1人だけ具体例を言った男だけが嘆息していた。
「霧じゃないと思うぜ」
ボソリと呟く。
興奮気味に喋っている男たちの耳には届かない。
「現に今は霧なんて出てなかったじゃないか。
それに霧に覆われたら、どうやって自分の位置を確認するんだよ」
自分の答えに自分でツッコミを入れていた。
割と冷静に状況を見ることができるようだ。
『まあ、例外くんだな』
他の離宮組は、ほとんどが飛来する輸送機に興奮していたし。
輸送機を見慣れているゲールウエザー組は生暖かい視線で彼らを見ていた。
「なんだか大騒ぎになってますね」
「しょうがないんじゃない?
王城に初めて飛んで来た時を思い出しなさいよ」
「そう言えば……
今と似たような感じだったかしら」
「あの時も大変だったわよねー」
「ちょっとぉ、嫌なこと思い出させないでよぉ」
護衛騎士の1人が抗議した。
『嫌なこと?』
初めてゲールウエザー城に飛んで行ったときに不愉快な思いをさせたのだろうか。
だとしたら可哀相なことをした。
どんな内容かは分からないので罪悪感はあまり湧いてこないのだが。
「なによ、カリカリして」
不思議なことに思い当たる者とそうでない者がいるようだ。
飛行機での訪問はインパクトが強かったと思うのだが。
「前伯爵のこと思い出しちゃったじゃない」
「あー、あの禿げジジイかー」
「軍務大臣の時は根性論連発で何人も潰されたものねぇ」
「酷かったわよね。
重症なのに治癒魔法をかけさせないこともあったでしょ」
「そうそう、治癒魔法などまやかしだとか言ってさ」
「ポーションが間に合ってなかったら、どうなったことか」
『……………』
よくよく聞いてみれば禿げ脳筋のことだった。
俺もイライラさせられたが、彼女らも迷惑していたのは間違いないようだ。
「でも、シノビマスターとヒガ陛下が完膚なきまでに潰してくれたよね」
「できれば、もっと早くに来てほしかったよ」
それは申し訳ないことをした。
『いずれにせよ、俺が原因でなくてなによりだ』
そして残るはカーターの護衛や使用人たち。
離宮組のように騒ぎ立てたりはしなかったが、驚いていない訳ではなかった。
「もう、何でもありだな」
隊長が棒立ちで飛来する輸送機を眺めている。
「そうですね」
「これ以上は何があっても驚きはしませんよ」
「確かに」
「同感だ」
「「「「「ハハハハハ……」」」」」
脱力したように笑ったかと思うと脱力して肩を落とす一同であった。
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輸送機が着陸すると、あちこちから溜め息を漏らす声が聞こえてくる。
主にエーベネラント組だ。
遠巻きにして眺めるばかりで近づこうとする者がいない。
着陸するまでは危ないから離れているようにとは言ったが。
完全に停止しているのに近づく様子も見せない。
遠くを飛んでいる間は子供のようにはしゃいでいたりもしたのに。
まるで正反対の反応である。
畏怖しているからなのだろうか。
今は緊張感のある表情で眺めるばかりである。
『何と言ってもデカいからなぁ』
初見なら威圧感も相当なものがあるはず。
ゲールウエザー組も初めての時は泡を食ったようだし。
「本当に凄いね」
なんて感心しているカーターは例外だ。
一貫して瞳をキラキラさせて見入っていた。
いや、過去形ではない。
「こんなに大きいものが空を飛ぶなんて……」
今も見入っているから現在進行形だ。
「本当ですわねー」
例外がもう1人いた。
フェーダ姫だ。
カーターのように無邪気な雰囲気は感じられないが。
それでも大半のエーベネラント組のように顔を引きつらせ青ざめさせたりはしていない。
何処から見ても怯えの色は見られない。
「どうやって飛んでいるんでしょうか?」
不思議そうにしている姿はごくごく自然体である。
「翼もありませんよ。
とっても不思議です」
首を傾げるフェーダ姫。
どこか不思議ちゃんな雰囲気を感じる。
凜としたところを見せたり。
フワフワしていたり。
とらえどころのないお嬢さんである。
「確かにフェーダの言う通りだね。
魔道具だからと特に気にしていなかったんだけど。
よく考えると、翼もなしに飛ぶというのは驚きだ」
カーターが俺の方を振り返ってみてくる。
その瞳はどんな返答がされるのだろうという期待に満ちていた。
空気抵抗がどうのと真面目に話しても満足してくれそうにない。
「魔法の力で空は飛べるから翼はいらないんだよ。
逆に翼なんかあったらドラゴンと勘違いされかねないのでね。
パニックを起こして攻撃されたら面倒極まりないだろう?」
「おおっ、それは確かに」
「そうだったんですねー」
雑な説明なのに2人とも納得してくれた。
まあ、納得しなくてもそれ以上の説明をすることはなかったが。
それというのも輸送機の後部ハッチが開き始めたからだ。
「「「「「おおっ!?」」」」」
初見の者たちは皆、それだけで驚く。
もう驚かないと言っていたカーターの護衛の1人も例外ではない。
ハッチが完全に開ききると、中からゾロゾロと人が出てくる。
「うおっ、人が出てくるぞ」
「マジかよ」
「アレに乗って飛んで来たのか」
「本当に人が空を飛べるんだな」
ここまで見せても飛ばない飛べないと主張する者はいないだろう。
「やっほー、来たよー」
お気楽なノリで手を振って歩いてくるマイカ。
ミズキたち妻組が勢揃いである。
それだけに留まらない。
守護者組はもちろん、人魚組や人竜組もいる。
「随分と呼び寄せられたのですな」
マイカたちが降りてくるのに合わせて近づいてきたダニエルが言ってきた。
「ちょいと頭数の必要になりそうな野暮用ができそうなんでな」
読んでくれてありがとう。




