774 どうやって運ぶかと問われたら
暗殺部隊は壊滅した。
偵察に出たとされる2人は行方不明で片付けられてしまったが。
隠れ里にいた俺たちがそれを知る由はない前提ではある。
そこはシノビマスターの人形を使ったので不自然には思われていないと思う。
隠れ里から出てくるとゲールウエザー組などは伸びをし始めた。
何かしら空気の違いを感じるのだろう。
カーターの護衛や使用人たちは些か緊張気味である。
油断なく周囲を見渡したり、村内の確認を手早く行っていた。
暗殺部隊が壊滅したと聞かされても安心はできないのだろう。
自分の目で確認できていないのだから仕方あるまい。
「村長宅、異状ありません」
「村内各家屋、侵入の痕跡ありません」
「村の外周部、異状ありません」
護衛騎士隊長の所に次々と報告が入ってくる。
キビキビとした動作で騎士らしい。
その度にピリピリした空気が和らいでいった。
「どうやらシノビマスターの言った通りのようですな」
隊長の張り詰めた雰囲気もようやくほぐれたようだ。
カーターは最初からリラックスしていたが。
調べるまでもないと感じていたようだ。
護衛が動き回っていたのはカーターの指示ではない。
好きにさせていただけだ。
「はい、御苦労様ー」
何処までもノリが軽い。
国の中枢が機能不全に近い状態で宣戦布告されるかもしれないのに、これである。
大物なのか天然なのか、判断に困るところだ。
一方で離宮組はというと──
「本当に見知らぬ村だ」
呆然とした面持ちで固まる者が多数いる。
「何処だよ、ここっ?」
ややパニック気味で狼狽える者もそれなりに。
「話を聞いてなかったのかよ」
中には冷静にツッコミを入れられる者もいたが、ごく少数派である。
「聞いた話は覚えてるさ。
けどよぉ、旧街道沿いの廃村って言われてもなぁ……」
「そうそう」
「俺たち王城の離宮にいたんだぜ」
「隠れ里へ送り込まれたときは神の使いの仕業だっていうから、あれだったけどよ」
「そうそう、神様が絡んでるんじゃ納得もするってもんさ」
神様ってだけで鵜呑みにするのもどうかと思うがな。
『まあ、いきなり知らない変な場所に転送されれば、トンデモ話でも信じるか』
「たまげたけどなー」
「まったくだ」
その他にも次々と同意するものが出てくる離宮組の集団である。
「それで隠れ里から出たら二度ビックリなんだぜ」
「城がないーだもんなぁ」
「そうそう。
事前に話は聞いちゃいたけどさー」
「だよなぁ」
「俺なんて、この目で見るまでは城に戻るんだと思ってたよ」
「俺もー」
『……………』
【遠聴】で離れた場所にいる離宮組の面々の様子を覗う限りでは、こんな感じである。
事前に、城ではなく廃村に出ると説明したのに、これだ。
廃村から隠れ里に入った面々にしてみれば普通のことなんだけれど。
城から転送された離宮組からすると城に戻るのが当たり前だったのだろう。
説明は手短に終わらせたつもりだった。
そうしないと最後まで聞いてもらえないような気がしたからだ。
それでも碌に信じてもらえなかったようだ。
簡単に信用されるものではないってことだな。
残念である。
今頃になって彼らがあれこれ言っているのは、それだけ驚いたからだろう。
俺が近くにいないというのもある。
まさか自分たちの話が聞かれているとは思っていまい。
とにかく説明直後は感じたことを表立って言わなかっただけのようだ。
なかなか手厳しい。
『手合わせはビビらせただけで終わりだったか』
仕方あるまい。
やり過ぎたせいで招いた結果だ。
が、決してそれだけではないと思いたい。
最初はビクビクするだけだったが徐々に変化していったし。
途中から率先して食事の用意を手伝おうとしてくれた。
話し掛けると緊張もしていたけどね。
それでも手合わせ直後のようなことはなくなっていたのは収穫だと思う。
なんにせよ信用されたければ地道な積み重ねが必要になる。
たとえ手合わせで加減が上手くいったとしても彼らは俺の説明を信じなかっただろう。
実力を見せるだけでどうにかできる訳はない。
これもまた教訓である。
「出てみてビックリだもんな」
「驚かない方がどうかしてるだろ」
「まるで見覚えのない場所じゃ、しょうがねえって」
「それなんだが、俺は驚かなかったぜ」
1人だけ違った反応を見せた者がいた。
「ウソつけ」
「バカ言ってんじゃねえ」
「ホラ吹くな」
即座に集中砲火を浴びていたが。
「ウソでもホラでもねえって」
「まだ言うか」
「考えてもみろよ。
隠れ里は神の使いが用意したんじゃないって姫様が言ってただろ」
「ああ、そうだったな」
「神の使いは賢者が確保している隠れ里に俺たちを送っただけだって」
「それがどうした」
「実際、カーター殿下たちは自分たちで隠れ里に入ってきたじゃないか」
大半の者たちが男の言葉を聞いても、その意味に気付いていなかった。
「もしかして俺たちの入り方が普通じゃなかったってことか」
「言われてみれば……」
「いつの間にか居たって感じだったよな」
「確かに」
「本来の出入り口から出たら俺たちの知らない場所だとしても、しょうがなくないか?」
驚かなかったと主張した男が締めにかかるのだが……
「えー」
「けどなぁ」
反応は今ひとつ。
やはり彼らには理屈より違和感の方が比重が上のようである。
結局、男は信じてもらえなかった。
悲しい敗北である。
なんだか共感を感じずにはいられなかったのは俺も信じてもらえなかったからだろう。
とはいえ俺が慰めるわけにもいかない。
コッソリ話を聞いていたのがバレてしまうからな。
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「それで、この後はどうやって移動するんだい?」
カーターが俺に問うてきた。
離宮組がいるからな。
非常時でなければ彼らに歩かせて自分たちもトロトロと移動することになる。
だが、戦争になるかもしれない状況でカーターがグズグズしている訳にはいかない。
王族直系の生き残りとして責務を果たさねばならないからだ。
指導者不在の国ほど脆いものはないからな。
爺さん公爵が頑張りはするだろうけど限度がある。
戦争になった時に国王不在では兵たちの士気に関わるだろう。
さりとて離宮組を置き去りにする訳にもいかない。
そう考えているのだろう。
「カーター殿下は俺がシノビマスターと手合わせする前にやり取りを見ていただろう?」
俺からの指摘を受けてカーターが一瞬だが目を丸くする。
そのまま考え込み始めるが、それも束の間のこと。
「あっ」
すぐに思い出したようだ。
「ああ、そうだそうだ!
確かに何か移動の話をしていたね」
そこから更に考え込む。
「何だかを使うという話になっていたような……」
飛行機という単語までは覚えていないようだ。
「ヒガ陛下はヒューゲル公爵が心臓麻痺を起こすとか言ってなかったかい?」
「言ったね」
いきなり飛行機で行けば、そうなりかねないと。
『しまったなぁ』
飛んで行くと言っておけば良かった。
そうすれば隠れ里にいる間にカーターも飛行機のことを聞いてきたんじゃなかろうか。
「それでシノビマスターが説明しておくからとか」
「正解だ」
が、実際にはお告げで既に知っている。
離宮組のようにまるで信じていないとまでは思わない。
何しろ外面のいいラソル様のお告げだからな。
ただ、あまりにも公爵の常識から外れた話の場合は勘違いされる恐れがある。
空を飛んで帰ってくるという言葉が、鳥が飛ぶような速さで帰ってくるとか。
勘違いと言うよりは都合のいい解釈をしてしまうと言うべきかもね。
「何で行くって言ったっけ?」
腕組みをしたカーターが、もう少し考えようとしたが。
すぐに頭を振った。
「ダメだ、これ以上は思い出せないよ。
ヒガ陛下は何を使って移動すると言ったんだい?」
「飛行機だ」
「ヒコウキ?」
「空を飛ぶ乗り物の魔道具だよ」
「はあ……」
キョトンとした顔で静止状態になるカーター。
奇想天外な返事に唖然とするしかなかったようだ。
「信じられないなら──」
ゲールウエザー組に聞けばいいと言おうとしたのだが。
「いやいや、信じるよ」
カーターは慌てて両手を胸の前で振りながら言葉を被せてきた。
「ちょっと前に空を飛ぶ経験はしてるからね。
でも、まさか魔道具まであるとは思わなかったよ」
カーターが苦笑する。
「全員を運ぶことはできるんだよね」
そこだけは譲れないと確認してくるカーター。
「それは大丈夫。
飛行機の中でも輸送機という大型機を使うから」
「へー、色々あるんだねー」
全員で移動できると分かった途端に興味深げな笑顔になる。
瞳をキラキラさせて、まるで子供のようだ。
「大型ゆえに問題もあるがな」
釘刺しのつもりで言ってみたのだが。
カーターは思わく通り、真顔に戻った。
「物凄く魔力を消費するとかかい?」
「いや、目撃されると騒ぎになるだろう?」
「あっ」
指摘されたことで初めて気が付いたと言わんばかりに驚くカーター。
「その辺は対策するけどな。
それでも乗り込む人間の口から情報が漏れかねない。
そんな訳だから飛行機のことは秘密を徹底するように頼む」
「スケーレトロ側に漏れるのを防ぐためだね?」
「まあ、そういうことだ」
これから戦うかもしれない相手に手札を見せる必要はない。
読んでくれてありがとう。




