773 今度は戦争か?
すみません。
遅くなりました。
暗殺部隊から裏切り者が出たその日の夜。
俺は体育館にミズホ組を集めた。
「──という訳なんだ」
「くくぅくっくうくーくぅくくーくぅ」
どっちが獅子身中の虫なんだかー、などと言いながら笑い転げるローズ。
かなりツボにはまったらしい。
「まあ、滑稽ではあるな」
「それどころではないのでは?」
ナターシャが顔を青ざめさせて聞いてくる。
「そうか?」
「そ、そうかって……
戦争になると陛下はお考えなのですよね」
「まあねー」
「そんな暖気なことを言っていて大丈夫なんですか?
恐らく仕掛けてくるのはスケーレトロ王国ですよ」
偵察として送り出された連中はそちら方面へと移動中である。
スケーレトロ王国はエーベネラントの西に隣接する国だ。
バーグラーの北東部とも隣接している。
現在ではゲールウエザー王国の領土のため、こちらも隣国だ。
更に言えば旧ブレット王国の北方に位置する。
ただし、こちらは間に小国を挟むため直接には接していない。
国土面積的には旧ブレット王国の数倍。
エーベネラント王国やバーグラーよりは少し小さい。
【諸法の理】で歴史を振り返ると、他のどの国よりもバーグラーと戦争をしている。
その他の国とは積極的には争わなかったため軍事国家とまでは言えないが。
頻繁に戦争をしている相手がいる中で他の国と戦争をする余力がなかっただけとも言う。
他国と比べると軍事色が濃いと言えそうだ。
特に現在の指導者は他者を顧みないタイプと思われる。
エーベネラントに工作員を送り込み王弟の暗殺計画に関わらせたりするくらいだからな。
誰がどうなろうと目的が達成されればいいということだろう。
『エーベネラントの中枢を混乱させた頃合いで戦争を仕掛ける魂胆か』
どさくさに紛れる形で強襲。
一気に滅ぼし、エーベネラントの国力を吸収するのが目的か。
その上でバーグラーに決戦を挑む。
悪しき隣人を滅ぼすために。
こう言うと聞こえはいいものの、そこに正義はない。
所詮は戦争である。
『そうだとしても、考えることがあくどいがな』
バーグラーを牽制しつつエーベネラントを滅ぼそうというのだから。
牽制するのは相手が相手だけに当然だ。
国境線は死守すべき絶対防衛ラインである。
破られれば、恒久的に領土を失ってしまう。
だが、穏健なエーベネラントを卑劣な手段で弱くした上で潰そうというのは許し難い。
発想も行動もバーグラーとさして変わらない。
今までとは根本的に方針が違う。
これまでの戦争は守るために攻めていたように分析できた。
しかしながら今回は違う。
何年か前から準備をしていたと思われるからだ。
その割に行き当たりばったりのような杜撰さを感じはするが。
箇条書きにした目標を現場に伝えるだけで判断は現場任せみたいな。
あまりにも筋書きが荒すぎる。
軍の幹部クラスが考えたとは思えない。
『王族が強引に頭から押さえ付けてってところか?』
一番それっぽいと考えられるが、果たして……
2人の元偵察隊が向かう先を確認してから動くとしよう。
関係各所すべてを網羅するほど自動人形を使うのも非効率的である。
なんにせよカーターに喧嘩を売るつもりなのは間違いない。
それだけは確実だ。
ナターシャが言うように国が相手だから、少しばかり派手に動くことになるかもね。
「それで?」
俺が取り立てて反応しないことに、ドンドン焦りを募らせていくナターシャ。
「あの国は代替わりしてから不穏な動きを見せていると言われているのです」
「そうなんだー」
「陛下! 真面目に考えてくださいっ」
とうとうナターシャがキレた。
「まあ、そう怒るなよ。
大した問題じゃないから」
「……………」
目を見開いて絶句するナターシャ。
認識差の大きさに驚いているようだ。
「心配しなくても対応はするさ。
カーターは友達だからな」
「でしたらっ」
何かを言いかけたナターシャだったがポンと肩を叩かれて止まってしまう。
ギョッとした表情で横を見ると、いつの間にかハリーがいた。
「ハルト様は怒っている」
「え?」
怪訝な表情でハリーを見返すナターシャ。
「ハルト様は怒っている」
特に大事なことでもないのだが聞きそびれを考慮したのかハリーは言葉を繰り返した。
ナターシャはその言葉を受けて恐る恐る俺の方を見る。
「まあ、それなりにな」
何も言わないとビビりが増幅されそうなので適当に肯定した。
それでもナターシャの表情は晴れない。
「ブチ切れって程でもないんだが」
控えめアピールをしてみたんだが──
「そんなことになれば誰にも止められない」
ハリーが台無しにしてしまった。
珍しく空気を読まず饒舌なのはハリーも怒っているからか。
「あわわ」
口に手を当ててビビり続けるナターシャが少し可哀相になってきた。
が、現実を見せておく必要もあるだろう。
度肝を抜くようなことはまだまだいくらでもある。
限度はあるがハリーのやりたいようにさせるのも手だ。
「ハルト様は友達に害をなそうとする輩を放置したりはしない」
「いえ、それは心情としては分かりますが……
たとえそうだとしても相手は国ですよ」
理解を示しながらも反論するナターシャ。
「ハル様は本気ニャ」
ミーニャの発言に振り返る。
自信たっぷりのドヤ顔を見せるミーニャを見てナターシャは戸惑った様子を見せる。
「敵が進軍してきたら壊滅間違いなしなの」
「か、壊滅!?」
ルーシーの発言に目を白黒させ。
「その前に終わらせるんじゃないかなー」
「その前にって……」
シェリーの言葉を耳にして、アタフタと周囲を見回す。
皆から真顔で見返されてしまうのだが。
「「どっちでも同じだと思うよー」」
「………………………………………」
ハッピーとチーからダメ押しが来て再び絶句するナターシャであった。
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明けて翌日。
ナターシャもようやく落ち着きを見せていた。
少なくとも表面上は。
まあ、そればかり気にかけてもいられない。
「カーター殿下、話がある」
「なんだい?」
「こちらに」
呼び出して体育館に連れて行く。
護衛の面々には悪いが外で待機してもらった。
抵抗や抗議を受けることもなく2人ですんなりと中には入れたのは些か意外であったが。
「変わった場所だね。
2階が訓練施設になっているのかな」
周囲を興味深げに見回しているカーターである。
「まあ、そんなところだ」
俺は素っ気なく答えた。
細かい説明は省略だという意味を込めたつもりである。
カーターは察しがいいから、これで通じるだろう。
「それで、こんな場所に呼び出すほどのことが何かあるのかい?」
口調は軽いが目は笑っていない。
何があるかは見当をつけられなくても、深刻なことであることは察したようだ。
『そういや【霊眼】スキルを持っていたんだっけ』
霊視で何かしら見えたと考えるべきか。
「今のままだと戦争になるかもしれない」
断定はしない。
まだまだ確定情報は得ていないからだ。
ほぼ、その流れになっているとは思うがね。
「エーベネラントが戦争を仕掛けられる訳だ」
カーターは特に衝撃を受けるでもなく淡々と受け止めていた。
「とすると、敵国はスケーレトロ王国かな」
「根拠は?」
「あそことは昔から国交が薄いんだよね」
「へー、人の出入りは多そうなのにな」
俺がそう言うのにも、それなりの理由がある。
地図上では他のどの隣国よりも国境線が長いのだ。
「現地レベルでは、他所と変わりないんだよ。
特に検問が厳重って訳でもないしさ」
「もっと上の方で仲が悪いってことか」
「さすがに、そこまでじゃないよ」
カーターが苦笑する。
「滅多なことでは使者が来ないって程度かな。
他の国だと、ちょっとしたことで挨拶代わりに来るから」
「滅多なことだって?」
「うん、そうだね。
前に来たのは向こうの王が崩御して代替わりしたときだったよ」
「それが何時の話になるんだ?」
「あれは……」
カーターが思い出すべく首を傾げて考え始めた。
『おいおい、それくらい前なのか!?』
少なくとも年単位で前の話になるようだ。
「15年前だと思う」
サラッと言われると年月の重みは感じられないが……
「国交断絶レベルじゃないか」
開いた口がふさがらないくらいの驚きがあった。
「敵視されてるわけじゃないよな?」
使者が来たことがあるなら、そういうことはないと思うが。
それにしたって酷いものである。
最後に使者が送られてから戦争をした訳でもない。
過去にスケーレトロ王国と戦争をした記録はあるにはある。
だが、数百年以上は遡らなければならない上に小競り合いと言える程度のものだ。
国境を接している国同士ならどこでも起こり得ることである。
間違っても国同士の関係が決定的に悪くなるレベルのものではない。
「さあ?」
「さあって……」
「本当に何もないんだよ」
「そりゃあ15年も使者を寄越さないんじゃなぁ」
時候の挨拶とは言わないまでも年に一度くらいは送ってきてもいいだろうに。
「そこまで来ると、間違っても友好国とは言えないか」
「それは言えているかな。
私が向こうの使者を見たのは一度きりだが、印象は良くなかった」
「ほう、どんな風に?」
「微妙に嫌みなところがあった。
他の皆が感じない程度だったけどね」
「なんとなくって感じか」
「そうだね」
カーターは元々の情報に加えスキルでも友好国ではないと認識しているようだ。
中立レベルではあるが。
代替わりしてから向こうが水面下で動いていたと考えると、中立でさえないかもな。
そういう雰囲気を感じているなら油断はしないだろう。
読んでくれてありがとう。




