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776 カーターの決意と保護色の話と

59話を改訂版に差し替えました。

「ヒガ陛下は凄いね。

 全員、奥さんだって?」


 カーターが目を丸くしていた。


「全員じゃないよ。

 誰だ、デタラメを言ったのは」


 こういうことを面白おかしく言いそうなのはマイカだが。


「私じゃないわよ。

 宰相の爺さんだから」


「うん、私も聞いたわ」


 マイカが否定しミズキがそれを証言した。


「ダニエルの爺さんか」


「いやはや、申し訳ありません」


 ペコペコ謝るダニエル。


「どうやら勘違いしていたようですな。

 てっきり奥方様だけを呼び寄せられたのかと」


「なんでそう思うんだよ」


 呆れて溜め息しか出ない。


「ガンフォール殿やハマー殿がおられなかったので、つい……」


 男がいないから妻だけ呼び寄せたと思う根拠が分からない。

 妙なところでポンコツになるものだ。


「別の仕事を任せてるから来られないんだよ」


「左様でしたか。

 これは失敬いたしました」


 苦笑して誤魔化そうとしているが、周囲の視線が冷ややかだ。

 特に身内からの視線は氷のようであった。

 信頼回復には時間がかかるものと思われる。


 まあ、俺には関わりのないことだ。

 そちらはスルーで早々に面子の紹介を済ませた。


「奥さんが19人に婚約者が1人というだけでも凄いと思うよ」


 カーターにそんなことを言われてしまった。


「そんなこと言われてもなぁ。

 断る理由がないんだから、いいんじゃないか?」


「自分で納得しているならいいんだ。

 口出ししたいわけじゃなくてビックリしただけだから」


 カーターが言うなら本当にそうなのだろう。


「ビックリしているだけじゃダメなんだけど」


 疲れたように肩を落として溜め息をつくカーター。

 気持ちは分からなくもない。


『王位を継承したら結婚もしないといけないしな』


 王位継承権を持つ者が壊滅状態に近いことを考えると、すぐにでもだ。


 だが、変な相手を王妃や側室として迎えるわけにもいかない。

 俺のように告白されたから迎え入れましたなんてことはできないのである。

 カーターの気苦労は深く重そうだ。

 溜め息をつくのも無理はない。


 もっとも、それが何を意味するのかが分からないと驚かされる訳で……

 急に元気をなくしたカーターを見てフェーダ姫が目を丸くしていた。


「どうしたんですか、叔父様?」


「ああ、大丈夫。

 先が思いやられるなって思っただけだよ」


 カーターが力なく笑った。


「城に帰ると、そんなに大変なのでしょうか?」


 心配そうに叔父を見るフェーダ姫。


「どうだろう?

 人それぞれ感じ方が違うんじゃないかな」


「どういうことでしょう?」


 フェーダ姫は小首を傾げている。

 カーターの言わんとしていることが想像できないようだ。


「王都に戻ると色々と忙しくなるからね。

 それをやり甲斐があると思うかどうか」


「良いことではないのですか?」


 不思議そうに聞いてくるフェーダ姫にカーターは笑みを浮かべて頷いた。


「そうだね、それは良いことだと思う。

 でも、私のように気楽に生きてきた者からすれば……窮屈に感じるんだよ」


「はあ……」


 フェーダ姫には、よく分からない答えだったようだ。

 それは、そうだろう。

 カーターは窮屈と言ったが正しい表現ではないからだ。

 その部分を言い淀んだことからも、それは明らか。


 そして俺には何が言いたかったかも分かる。

 そこに同類の匂いを感じたから。


『面倒、と言いたかったんだろうな』


 おそらくは間違っていまい。

 そう思うと、共感さえ覚えた。

 だからこそ口をついて出てしまう言葉というものがある。


「カーター殿下、窮屈だと思うなら帰らなくてもいいんだぞ」


 一瞬、カーターは驚いたように俺の方を見た。

 スカウトであることに気付いたようだ。

 勘がいい男である。

 しかしながらカーターはすぐに笑みを浮かべて頭を振った。


「そういう訳には行かないよ。

 王族としての義務を果たさないと」


 カーターの目には決断した者の鋭さがあった。

 諦観は微塵も感じられない。


「そうか、分かった」


 わずかにでも躊躇いがあったならスカウトしていたところだったのだが。


「ならば友達として支援することを約束しよう」


「それはありがたいね」


「あ、でも、嫁の紹介は難しいな」


「アハハハハ、それは自力で何とかしないとね」


 俺の軽口にカーターは笑顔を見せた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「馬車はどうしようか」


 カーターが輸送機を見ながら聞いてきた。

 馬の繊細さを心配しているようだ。

 未知のものである輸送機を見て馬が怯えないか。

 あるいは乗っている間、周囲に人が大勢いることで落ち着きをなくさないか。

 そういうあたりを懸念していると見た。


「もう1機の方に乗せよう。

 そっちは馬の面倒を見る人員だけに乗ってもらう」


「もう1機だって!?」


 キョロキョロして探すが見つかるはずはない。


「後で召喚するから」


「おおっ、召喚魔法かい?

 本当にヒガ陛下は何でもありだね」


「では、こちらの輸送機はどうして召喚されなかったのですか?」


 フェーダ王女が聞いてきた。


「やっぱり人が大勢いると召喚が難しくなるんじゃないかな」


「なるほどー」


 カーターの推測した答えに王女が納得している。


「そうじゃないよ。

 輸送機を飛ばしたのはデモンストレーションだから」


「「「デモンストレーション?」」」


 親族コンビにダニエルまでもがハモって疑問を口にしていた。


「乗るのを渋りそうなのがいると困るから実演したんだよ」


 誰がとは言わないが離宮組のことである。

 ここにいる面子の中で非常識なものを見ていない方だからな。

 少しでも慣れてもらわないといけない。


「実演ですか」


「実際に飛んでいるのを見たら多少は尻込みしなくなるかと思ってね」


「人が乗っているなら尚更ってことか」


 カーターがそう言いながら、うんうんと頷いていた。


「でも、本当に大丈夫なのかい?」


「なにが?」


「2機で飛んで行くんだろう?」


「ああ」


 言いたいことは何となく分かった。


「いくら見せないように工夫すると言っても限度があるんじゃないかと思うんだが」


 カーターの心配もそこに行き着くようだ。


「やりようはあるんだよ」


 今回は離宮組もいるので派手な方法は使わない。


「この輸送機はね、自在に色を変えられるんだ」


 光学迷彩にばかり頼るのもどうかと思ったので追加した機能である。


「色を?」


 変えてどうするのかと言いたげだ。

 目で先を促された。


「例えば今は薄い緑色だが──」


 言いながら遠隔操作でハッチを閉じる。

 同時にゆっくりと色を替え始めた。


「「「「「おおっ!?」」」」」


 ミズホ組以外のほとんどの者が驚いていた。

 ゲールウエザー組もさすがに色が変わるところを見るのは初めてだからな。


「こうやって薄茶色にすることで周囲の地面に近い色に変えられる」


「これは凄いね。

 目立たなくなった」


 カーターは感心しつつも楽しそうだ。


「こういうのを保護色と言うんだ」


「保護色?」


「生き物が生き残るために利用するものだよ。

 体色を周囲の色や模様に同化させて敵の目を欺くんだ」


「へー、それで保護色かー」


 カーターは素直に感心していた。

 腕組みをしながら──


「保護色とは上手いことを言うね」


 しみじみとした様子で頷いている。


 だが、それを見たフェーダ姫が苦笑していた。

 疑問はまだ解決していないのにカーターが失念していることに気付いているからだろう。


「でも、この輸送機で飛ぶときはどうなんでしょうか?」


 フォローするように質問してきた。

 そこでカーターが我に返る。

 慌てて腕組みを解いて聞く体勢に戻った。

 誤魔化す素振りも見せないのは、よほど焦ったからだと思われる。


「空の色と同化するのは難しいと思います」


 フェーダ姫も気になっていたのだろう。

 なかなか鋭い指摘をしてきた。


「それは昼間だからだな。

 黒くして夜に飛べばいい」


 状況次第では魔法に頼らずとも目撃されるリスクは大幅に減る。


「なるほど、確かに昼間よりも目立たないだろうね」


 カーターがしきりに頷いている。

 まだ動揺が抜けきっていないようだ。


「かもしれませんが……」


 一方で、フェーダ姫の方が冷静である。


「月が出ていると目撃される恐れが残りますよね?」


 追及の手が止まらない。

 今は凜とした方のフェーダ姫のようだ。


「闇夜じゃなければ、魔法でそういう状況を作り出せばいい」


「え?」


「曇り空にして月を隠すまでだよ」


 さすがに予想外だったらしく、フェーダ姫も呆気にとられていた。


「天候まで操ることができるんですか!?」


 イエスとは言いがたい雰囲気だ。

 周囲の俺を見る目が今以上に化け物に対するそれになりかねないからな。


「雨雲だけが曇り空にする方法じゃないぞ」


 言いながら闇魔法で黒い靄を掌の上に作り出した。


「あ……」


「これは闇魔法だ。

 他にも方法はあるが今回はこれでやる」


 納得がいったらしく、フェーダ姫が頷いた。


『目撃されることを心配していたのはカーターだったはずなのにねー』


 結局、途中から選手交代みたいな状態になってしまった。

 カーターも納得しているようだから問題はないけどね。


 なんにせよ、夜になるのを待って出発だ。


読んでくれてありがとう。

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