表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
782/1785

772 終わったと思っていたら次の問題が出てくる

 ハンバーガーショックから数日。

 俺たちは未だ隠れ里にいた。


 まあ、数日程度で残党征伐が完了するわけはない。

 斥候型自動人形で確認する限りでは移動も終わっていない様な状況だ。

 全行程を強行軍で進軍すれば到着しているタイミングだろうか。


 ただ、征伐部隊は奇襲をかけるつもりである。

 途中から進軍速度を落としていることからも、それは明らかだ。

 敵に察知されぬよう慎重に動いている。


 強行軍からの切り替えは的確かつ迅速で練度の高さを覗わせた。

 爺さん公爵が鍛え上げたのだろう。

 これなら安心して征伐を任せられそうだ。


 そんな訳で俺たちは隠れ里でノンビリしている。

 ダイアンたちに訓練の指導を頼まれたりはしたが、まあ片手間仕事だ。

 俺の手合わせや子供組の組み手を見ていながら申し入れをしてくる根性は凄い。

 試合の申し込みではないとはいえ離宮組は己の目を疑うような驚きぶりを見せていた。


 実際に指導が始まると顔を引きつらせていたしな。

 フェーダ姫の護衛としてはどうなのかと言いたいところではある。

 ついつい征伐部隊に見せたらなどと比較してしまったり。

 おそらくは参加を志願してくるのではないだろうか。

 あの爺さんが鍛えたのであれば少しもおかしくはない。


『カッツェ・ヒューゲルとか言ったっけ、あの爺さん』


 ヒューゲル公爵がいる限りエーベネラント王国の今後は安泰と思われる。

 ただ、いかに精鋭でも万全の体制で奇襲をかけるには、もう少し時間が必要だ。

 急いては事をし損じるとも言う。

 拙速は巧遅に勝るとも言うが……


 今回に関して言えば後者を選択しても良かったかもしれない。

 カーター暗殺を命じられた残党組が動き始めていたからだ。

 とはいえ部隊すべてを動かすようなものではない。

 偵察隊として2人の人間を送り出すだけだ。


 それも襲撃を受けることを予測してのことではない。

 命令を出した骸骨野郎が滅んでいるとは知らないのだから当然のこと。

 先発隊からの連絡が途絶えているから偵察を出すのだ。


 任務遂行中にしては時間がかかりすぎているのが理由である。

 任務が成功しているなら引き上げてくるはず。

 そうでないなら何らかのトラブルが発生しているということだ。

 どんな状況であれ連絡のひとつもないのは不自然。

 伝令を送る余裕さえなかったとすれば想定外どころの話ではない。


『連中、先発隊がアンデッド化の魔道具を渡されているのを知っていたからな』


 このあたりの情報は斥候型自動人形を見張りにつけているお陰だ。

 特に指揮官の間近に張り付けておくと簡単に情報が入るので楽である。


 当初、指揮官は可もなく不可もないような男だと思われた。

 この数日の部隊運営はそつなくこなしていたからだが。

 見込み違いの無能と気付いたのは今回の対応を見たからである。


「先発隊からの連絡はどうした?」


「まだ何もありません」


「ならば偵察隊を出せ」


 副官からの報告に小さく舌打ちしてから指示を出す。


「人員は如何になさいますか」


「適当に見繕え。

 頭数は2人で充分だろう」


「2人では少ないのでは……」


 困惑しながら副官が進言する。

 指揮官は深く溜め息をついた。


「よく考えろ。

 先発隊の任務失敗はあり得んことだ。

 あの魔道具を使っているのだぞ」


「はい、それは確かに。

 あれなら頭数の少なさを補って余りあるでしょう」


「そういうことだ」


「ならば、今しばらく待っても良いのでは?

 さほど心配することもないでしょう。

 我々の勝利は揺るぎないのですから」


「フン、我々ではなく奴ら先発隊だけの勝利だ」


 指揮官が苦々しい顔で吐き捨てるように言い直した。


「シェーデル様は我々よりも先発隊を評価するだろう」


 忌々しいと言いたげだ。


『悪党ってのは、どうして一枚岩じゃないんだろうなぁ』


 実にらしいと言えるのだが。

 それ故に典型的すぎて笑いそうになってしまった。

 周囲に人が居るときだったので冷や汗ものだ。

 危ない人に見られるのは御免被る。


「……それは、確かに」


 副官も渋い表情をする。


「そこで、だ」


 指揮官が表情を引き締めた。


「奴らの評価にケチがつくようなネタが欲しいとは思わんか?」


「それで偵察ですか」


 副官は今ひとつ乗り気になれないようだ。

 成果が期待できないからだろう。


「偵察とは言ったが伝令のようなものだ」


「伝令……ですか?」


「先発隊の奴らが帰還もせず連絡さえ怠っておるのは何故だ?」


「そう言われましても……」


 副官は見当がつけられず言い淀む。


「フン、分からぬか。

 勝利に浮かれているからだろうよ」


 指揮官が根拠のないトンデモな推理を披露し始めた。


「ということは先に祝杯でも挙げてしまっているとかでしょうか」


 副官までがそれに乗る。


「それ以外に連絡を忘れる理由が考えられるか?」


「確かに考えられませんな」


 この連中は不測の事態が発生しうることを考えないのだろうか。

 そうは思ってもツッコミは入れられない。


「だが、そこは連絡が途絶えたことを懸念したことにするのだ」


「偵察部隊を送り出す名目が必要ですからな」


「そういうことだ。

 報告するときは万が一を考えたとでも言っておけばいい」


 その万が一が発生しているのだが。

 またしても笑いそうになってしまった。


『危ない、危ない……』


「なるほど、分かりましたぞ。

 偵察に行かせた者たちが先発隊が酒盛りしているところを見つけてしまう訳ですな」


「そういうことだ。

 偵察に向かった者たちにワシが心配していたと言われれば、どんな顔をするだろうな」


「それは手厳しい伝令になりそうですな。

 シェーデル様に報告すれば面白いことになりそうです」


 副官の言葉に司令官がニタリとほくそ笑む。


「ですが、もしトラブルで連絡できなかったのであれば、いかがなさいますか」


「それこそ好都合ではないか」


「はあ……」


「分からぬか。

 帰還も連絡もできないほどの問題だぞ。

 先発隊だけでは人員が不足していると見るべきだろう」


「おお、そういうことですか。

 我々が手を貸して迅速に問題を解決する。

 さすれば我々も評価されることになるという訳ですな」


「フフン、分かっているではないか。

 手柄を上げたのは奴らだが、黙って満点をくれてやる必要はないのだ」


「連中の評価が下がれば我々にもチャンスが巡ってくるやもしれませんな」


「そういうことだ」


 指揮官と副官は2人して笑い始めてしまった。

 任務成功を確信しているんじゃ、しょうがない。


 問題発生がどうとか言ってはいたが。

 それも任務成功後のことを想定しているようにしか見えない。

 先発隊が全滅しているなど夢にも思っていないからだろう。

 実際はミズホ組の手で綺麗サッパリ片付けられているのだけれど。


『アホだ……

 危機感なさ過ぎ』


 その方が油断して隙だらけになるので、こちらとしては好都合なんだけど。

 大いに油断してほしいものである。

 此奴らは先発隊の全滅を知ることなく終わるだろう。


 問題があるとすれば偵察に送り出された連中だ。

 この2人はタイミング的に征伐を免れることになる。


 まあ、2人では戻ってきたところで何ができるのかという話になるが。

 故に問題と言い切れるものでもない。

 征伐部隊が暗殺部隊を全滅されられるかどうかの違いでしかないのだから。


 もし、全滅を狙うなら強引に奇襲をかけた方が良かったというだけの話である。

 察知されても迎撃準備が整う前に強襲することは出来たはずだからな。


 そうは言っても、これはたらればの話。

 征伐部隊は迂闊な真似もできない。

 強襲になってしまえば被害が出てしまう恐れもあるのだし。


 ならばということで、最初は偵察の連中を俺が密かに消そうかとも考えたりしていた。

 だが、結局は様子見で放置中。

 2人が帰り着く頃には征伐が終わっているタイミングであることに気付いたからだ。


『どうせなら、征伐部隊に全部お任せだよな』


 少しでも戦果を上げさせるためとかではない。

 単に面倒くさかっただけだ。


 だが、それは思わぬ結果を生む。

 偵察に出た2人が誰にとっても予想外の動きを見せたからだ。


 副官は士気の高い者を選ぶために志願者を募った。

 これは決して間違いではないだろう。

 志願者に忠誠心があればだが。


 その時、副官の呼びかけに応じ即座に立候補した人間が2人いた。

 副官は両名が腹に一物を抱えているとは思わず、任務を与え送り出したのである。


 もちろん俺はこの2人にも斥候型自動人形を張り付かせて監視していた。

 全滅した村に到着するまでは任務通りに動いていた2人なのだが。

 村の様子を少し確認すると任務を放棄したとしか思えない行動を取り始める。


「どう思う?」


「魔道具が暴走して全滅だろうな」


「王弟諸共というところか」


「おそらくは」


「それにしてはアンデッドと遭遇すらしなかったが」


「ダンジョンから出てくるのとは違うのかもしれん」


「と言うと?」


「魔道具が壊れた時点で存在を維持できなくなるのだろう」


「確かにありそうな話だな。

 得体の知れない道具に頼ると碌なことがない」


「そうでもないさ。

 俺たちには都合がいいと思わないか」


「では、頃合いか」


「ああ、王弟が死んだことが伝われば少なからず動揺が拡がるだろう」


「隠すのではないか?」


「だとしても国の中枢はそうはいくまい」


「確かにな。

 この状況を利用しない手はないか」


「そうとも。

 この情報を持って帰れば本国は動くだろう」


「思ったより状況が早く動いたな」


「ハハハ、まったくだ。

 獅子身中の虫である伯爵様に感謝だな」


「ああ、我々の出世の手助けをしてくれたのだから」


「指揮官殿は逆に失脚か」


「いいんじゃないか?

 仲間に引きずり込む価値もない男だ」


「それは言えているな」


「「ハハハハハハ」」


 ひとしきり笑った2人の男たちは姿をくらまし消息を絶つべく動き始める。

 その後、暗殺部隊は全滅したのだが。

 彼らがそれを知ることはなかった。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ