771 驚かれたり喜ばれたり騒がれたり
包んでいた葉っぱをガサガサと音を立てながら開く。
ハンバーガーが姿を現した。
「違和感たっぷりだね、ハルさん」
葉っぱが巻かれているハンバーガーに視線を落としながらトモさんが話し掛けてくる。
トモさんの言う違和感が葉っぱとハンバーガーの組み合わせなのは言うまでもない。
『日本で見慣れてしまっているからなぁ』
気持ちは俺も分かる。
包んだ本人が違和感を感じているんだから。
ただ、そんなことを言っておきながらトモさんは早速かぶりついているけどね。
それだけ腹が減っていたんだろうけど。
俺も同じなので返事をする前に、まずは一口。
「しょうがないよ」
行儀が悪いが咀嚼しながら話を続ける。
「部外者相手だと包み紙の方が不自然だからさ。
一応は抗菌作用のある葉っぱを使っているから、これにも意味があるんだけどね」
「そっかー……」
トモさんも食べながら話を続ける。
「包み紙を見せたら、やっぱり騒ぎになるかな?」
「おそらくね」
「カルチャーギャップだねー」
「だねー」
しみじみした空気感の中で俺たちは昼飯を食べる。
すぐ側ではハグハグとガッツ食いに近い勢いで食べている子供組がいたけどね。
でも、まあ殺伐とした感じではない。
俺からすれば微笑ましく感じるくらいだ。
その光景に目を細めながらハンバーガーを味わう。
が、食べ始めたばかりの状況であるにもかかわらず──
「「「「「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」
という雄叫びのような叫び声が聞こえてきた。
それも1人や2人ではない。
聞こえてきた感じからすると数十人規模である。
とすると離宮組の面々ということになりそうだが。
「どうしたんだろうね?」
トモさんが俺と同じように離宮組の方を見た。
「まだ食べてもいないみたいだよ」
「そうだな」
別に離宮組は腹が減っていなかった訳ではないだろう。
未知の料理を振る舞われたことで戸惑いがあっただけのことだ。
いい匂いはするものの、聞いたことのない名前の料理が目の前にある。
実際、ハンバーガーを積み上げてこれが昼食だと言ったときは戸惑っていたからな。
ゲールウエザー組はまた新しい料理だと知ってワクワクしていたくらいなのに。
そんなだから抵抗なく食べ始めている。
子供組の食べ方を見て真似ているようだ。
何だか初々しく感じる。
「隊長、なんか凄いですよ」
護衛騎士の1人が目を輝かせてハンバーガーにかぶりついている。
「そうだな、たしかに凄い。
ヒガ陛下のことだから凄いのだろうとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった」
ダイアンも一口食べて驚いている。
「なんといっても、この柔らかさですよね」
護衛ちゃんが満面の笑みで咀嚼している。
「いやいや、味でしょうよ。
このソースが絶品なんだから」
護衛ちゃんの姉が反論しつつ、やはり咀嚼している。
「両方でいいんじゃないの?」
「「そうとも言う」」
ツッコミを入れてきた仲間に護衛ちゃん姉妹はハモって答えた。
「そうとしか言わないわよ」
連続ツッコミだ。
一口食べただけで、これだけ盛り上がれるとはと感心させられる。
女子会のノリというやつなのだろうか。
そのせいかダニエルが少し寂しそうに肩を落としている。
ムスッとした表情で食べると美味しさが半減するような気がするのだが。
が、よくよく見てみると満足しているのがチラチラと垣間見えた。
咀嚼するたびに笑顔になりかけて引き締めるようなことを繰り返している。
女子の輪に入れないので目立ちたくないだけのようだ。
下手に声を掛けられでもしたら対処に困るという態度のように見えた。
おそらく何を喋っていいのか分からないのだろう。
だが、特に手助けはしない。
俺が質問攻めにあってゆっくり食べられなくなりそうだからな。
「何でもいいわよ。
とにかく美味しいんだから」
護衛騎士の1人が言う通りである。
美味しく食べてくれているなら文句なしだ。
「「「同感」」」
アハハと笑顔が拡がった。
と、ゲールウエザー組の反応はこんな感じである。
離宮組のような大騒ぎにはなっていない。
慣れてくると、知らない食べ物を出されても不安は感じにくくなるようだ。
そういう意味ではカーターたちも近いものがあった。
多少の不安は残していたけどね。
包まれていて中身が見えないのがダメらしい。
『失敗したかな』
そうは思うが、今更である。
それにカーターたちだって不安より興味の方が勝って食べているし。
「ビックリするくらい何もかもが柔らかいんだね」
一口目でカーターが感心していた。
「私、こんなの初めてです」
目を見開いているフェーダ姫。
でも、咀嚼は止まらない。
「おいしーですー」
満面の笑みで食べている。
『そいつは良かった』
「最初はちょっと野蛮な食べ物かと思ったんだけどねぇ」
苦笑しながらも食べ続けるカーター。
おそらく葉っぱで包んでいたことが野蛮と評された原因と思われる。
確かに見た目はワイルドな感じがしなくもない。
後は食べ方もだろうか。
直接かぶりつくというのは作法が身についている彼らからすると違和感が大きいようだ。
「繊細に感じるほど柔らかい上に美味しいだなんて驚きだよ」
「本当ですね。
こんなに柔らかいのにお肉に火が通っているのも不思議です」
「しかもジューシーだ。
こんな肉は食べたことがない」
「お肉だけではありませんよ、叔父様。
このパンは本当に凄いです。
甘くて柔らかくてモチモチです」
「そうだね。
しかも挟んでいる具材ともマッチした味と弾力がある」
叔父と姪が微笑みを交わしながら、ゆっくりと食べ進めていく。
「いやはや、ヒガ陛下は本当に凄いね」
「私もそう思います」
聞いていると、くすぐったくなってくる。
カーターの護衛や使用人たちも似たような感じだった。
驚きながらも食べるのが止まらない。
「昨日の寿司でも驚かされたが、これはもっと驚きだな」
「ああ、ギャップが凄かった」
「自分は最初、保存食かと思っていました」
「それはあるな。
葉っぱで包んだものが出されるとは思わなかった」
「私など葉っぱにくるまれた状態を見た瞬間、干し肉かーって思いましたよ」
ここでこの集団に笑いが起こる。
「自分もですよ」
「私もだ」
「なのに手にしてみたら柔らかいし、いい匂いがするし」
「開いてみたら白パンに色んな具材が挟まってると来たからなー」
「高級食材を惜しげもなく使っているのには唖然としたよ」
「しかも白パンの柔らかさときたら」
「私はこんなに柔らかい白パンは初めてです」
「自分もだ」
我も我もと同意する一同。
「そしてパンに負けぬ軟らかさの肉だ」
「こんなの見たことないぞ」
「それは同感なんだが、この味には覚えがある気がするんだ」
「いやいやいや、それはないでしょう。
こんなに均質で脂身が見当たらない肉なんですよ?
我々では手に入れられるかどうかも分かりませんって」
「そうなんだが……」
反論された騎士は首を捻っている。
「ソースがそう感じさせているのかもしれませんよ」
使用人の1人がフォローを入れている。
「うーん……」
なおも首を捻り続ける騎士。
この騎士は、なかなか味覚が鋭そうだ。
「特殊な調理法で肉に味を染み込ませているのかもしれんなぁ」
生憎と俺は、そんな真似などしていない。
それでも色々と推理して答えを求め続ける姿勢は好ましいものがある。
見ていると彼らはいつの間にか調理法を巡る議論へと発展していた。
結局、誰も正解には辿り着かなかったけどね。
肉をミンチにするという概念がないせいかもしれない。
なんにせよ、こんな具合に賑やかな食事風景だったのである。
が、やはり離宮組のようなことはなかった。
それだけは確かだ。
離宮組の面々なんて騒いだきり、しばらく固まってしまっていたし。
「こうして見る限りでは、包み紙を開いた直後に驚いたっぽいね」
トモさんの指摘は俺もその通りだと思う。
「おいっ、白パンだぜ」
「これが白パン」
「俺、こんな間近で見るの初めてだ」
「持っただけで分かるくらい柔らかいのな」
「やらけーっす」
「本当に食べていいのか?」
「金を取られるとかねえよな?」
「どんだけ払わないといけないんだよ」
「金貨とか必要だったりして」
「冗談キツいよ」
確かにハンバーガーひとつで10万円は笑えない。
どんな高級料理なんだか。
原価どころか販売したって大銅貨でお釣りが来るレベルだってのに。
もちろん金を取ったりはしない。
「葉っぱにくるまれた料理が、ひとつ金貨1枚っておかしいだろ」
「そりゃそうだ」
「「「「「アハハハハハハ」」」」」
全員が笑っているところを見ると一応は冗談だったのだろう。
ひとしきり笑った後で食べ始めた。
微妙に青ざめた表情を残してはいたが。
が、それも食べ始めるまでだ。
「スゲー、なんだこれ!?」
「無茶苦茶うめえぞ!」
「フワフワだぁー」
「肉まで柔らけえって、どうなってんだ!?」
「しかも旨いときてやがる」
「こんなの食ったことねえよっ」
「止まんねえ。
後で金払えとか言われたら絶対無理なのに止まんねえ」
『だから金は取ったりしねえっての』
その後、おかわりをする者が続出したが、離宮組は泣いている者が多数いた。
読んでくれてありがとう。




