742 してやられた
本日中に53話を改訂版に差し替えます。
俺は奴の頭上にラーヴァフロウ光式の魔法を展開し、一気に流し込んだ。
聖炎の効果を持つ溶岩流で光壁の内側が見る間に満たされていった。
魔法は即興で改造したものである。
『取って置きは言い過ぎか』
だが、名も無き悪魔専用として改造したのは間違いない。
奴を確実に消滅させるために用意した。
魔道具の体は溶岩が。
悪魔の霊体は聖炎が。
両方同時に燃やし尽くす。
『作成時間は1秒とかかっていないがな』
既にある魔法を混ぜて終わりなのでね。
何もない状態から術式構築するより遥かに簡単だ。
まあ、それも【魔導の神髄】があるからこその話だが。
「存分ニ味ワウガイイ」
そうは言ったものの、味わえているかは確認しようがない。
まず、俺の言ったことが聞こえているか怪しいところだ。
それと理力魔法で押さえ付けているので藻掻く様は見られないときている。
断末魔の悲鳴は聞けなかった。
『悪魔にも意地があるか』
少なくとも骸骨野郎のような狂いっぷりは見せずに燃えていく。
とにかく最後まで逃げようという意思は捨てていなかったようだが。
結局、碌に抵抗できないまま名も無き悪魔は燃えつきた。
溶岩を消し光壁を解除する。
塵ひとつ残っていない。
あたりに漂うのは静けさのみである。
『気配は……無いな』
レーダーを広域に切り替えても引っ掛からない。
『RRRRR』
と、そこに脳内スマホの着信音が入ってきた。
『このタイミングでかよ』
内心でツッコミを入れつつ思わず身を固くした。
これでラソル様だったら文句のひとつも言ってやりたいところだ。
こっちは本当に悪魔が消えたかどうかの確認中だというのに。
『RRRRR』
俺は深く息を吐き出してから通話ボタンを押した。
『毎度どうもぉ。
ハルトはん、お騒がせしとります』
第一声を聞いて肩の力が抜けてしまった。
『エヴェさんでしたか』
『いやぁ、すんまへんなぁ』
『謝る必要はないんじゃないですか』
『いやいやいや、そうはいきませんのや。
どっかのチャラい筆頭亜神が引っかき回してますからな』
『連帯責任ですか?』
『まあ、そういうことでんな』
本当に迷惑な筆頭亜神である。
『それで捕まりましたか?』
『ええ、お陰さんで何とか』
『なるほど、その連絡でしたか』
メールで済む話を電話連絡してくれるとは律儀なことだ。
『それもありますけど、本題がありますねん』
『え?』
一瞬、まだ何か仕事があるのだろうかと考えてしまった。
『あ、罰のリクエストだったら特にないです。
お任せしますので存分にやってください』
『ハハハ、そっちの話やないですよ。
でも、まあ「存分に」っちゅうことはちゃんと伝えさしてもらいまっさ』
その返事に苦笑が漏れた。
『本題っちゅうのは悪魔の方ですわ。
アレやったら完全に消えてまっさかい、征伐完了でよろしおまっせ』
俺が確認したかったことを教えてもらったのは実にありがたい。
同時に申し訳なくなってしまった。
『わざわざ、そのために……』
ラソル様に引っかき回されたせいで忙しいだろうに。
『そんな恐縮せんといてください。
わてらの管理不行き届きのせいで、こないなことになったんでっさかい』
エヴェさんは気にした様子も見せずに笑っている。
『それと迷惑料っちゅうことでボーナスポイントつけさしてもらいました』
『ボーナス……ですか?』
『後でステータスの確認しといておくんなはれ』
『はあ』
『ほな、わてはこれで失礼させてもらいまっブツッ』
「……………」
最後のは切断音である。
たぶん「失礼させてもらいまっさ」と言いたかったのだとは思う。
あのタイミングで電話を切られてしまうと、どう反応していいのか戸惑うばかりだ。
返事をする猶予などあろうはずがない。
『せっかちだなぁ』
そうは思うが、本当に忙しいのだろう。
だが、欲しい情報は得られた。
ラソル様の逮捕は重要だ。
俺の精神を安定させることにつながるからな。
そして悪魔も征伐できたことが判明。
奴の痕跡が残っていないか調べる手間が省けた。
小技を効かせてくる奴だったから慎重に探らなきゃいけなかったのだが。
『殴って終わりの相手と違って面倒くさい手合いだったからなぁ……』
戦っている時から気疲れさせられたし。
手間が省けたのはすごく助かる。
『それで、ボーナスポイントとか言ってたけど?』
ステータスを確認してみる。
見た瞬間──
「ナンデストォッ!?」
思わず飛び上がりそうになった。
[ハルト・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/シノビマスター@神の使い/──]
一部、表示のおかしな部分があったからだ。
特に意識せずに見たつもりなんだが。
『どうなってんだよ、俺のジョブ欄』
本来なら[ミズホ国君主]のはずだ。
たまに弄ることもあるが、今回はそれをしていない。
気疲れしている時にコレは来るものがある。
『誰だ、こんなイタズラした奴!?』
内心で吠えた瞬間に気付いたさ。
犯人が誰であるか。
『ラソル様じゃねえかあああぁぁぁぁぁっ!』
声に出して絶叫しそうになったが、どうにか堪えた。
そんな時である。
『メールを1件、受信しました』
脳内スマホがメールを受信した。
これが『メールだよ』で始まるふざけた着信音だったらシカトした。
確実にラソル様からの追撃だっただろうからな。
読めばキレること必定である。
『いかんな……
考えるだけでイライラしてきた』
落ち着くためにメールを読む。
約1名からのメールでないなら大丈夫だろうと判断してのことだ。
[タイトル:言い忘れてましたわ]
[度々すんまへん、エーヴェルトです]
タイトルでほぼ気付いていたが、本文1行目でエヴェさんであることが判明した。
これなら安心して読める。
[ハルトはんのステータスのジョブ欄、遊ばれてましたやろ?]
『タイムリーだな』
そして表現が的確だ。
[言うの忘れてて、えらいすんまへん]
この素直さと謙虚さが何処かのおちゃらけ亜神にあれば俺も心穏やかにいられるのだが。
まあ、無理な相談である。
『あのイタズラ好きぶりは病気だ』
きっと不治の病だ。
[あれ、犯人はあの人ですわ。
気付いてはるとは思たんでっけどな。
念のため連絡入れさしてもらいました]
俺の予想通りであった。
というより、こんなの予想を外す訳がない。
そしてエヴェさんも俺が気付くと思った上でメールをくれたようだ。
申し訳ない気持ちになってしまった。
本当に律儀な人である。
文面はまだ続くので、これだけのためにメールした訳ではなさそうだが。
[とにかく、このイタズラもカウントさせてもらいまっさ]
ラソル様の罪状が増えるようだ。
特に思うことはない。
因果応報としか言い様がないからね。
[なんぞリクエストあったら言うてください。
お仕置きも追加さしてもらいまっさ]
至れり尽くせりだ。
[ほな]
最後の素っ気なさは先程のせっかちさを思い出させてくれた。
そのせいか思わず吹き出してしまう。
『締めくくりもエヴェさんらしいな』
読み終わった俺は両手を合わせた。
エヴェさんのフォローは本当にありがたい。
言い忘れてたことを謝ってくれたが気にもならなかった。
それどころかイタズラされたことさえ、どうでも良くなっている。
お仕置きの追加で充分に納得したし。
最後に笑わせてもらった。
『あー、レベル見てなかった』
ジョブ欄のインパクトに慌ててしまったからな。
さっそく確認する。
[ハルト・ヒガ/レベル1245]
「……………」
『2レベルもアップしたのか!?』
何かの間違いじゃなかろうかと思ってしまったが、そうじゃない。
これがエヴェさんの言うボーナスポイントだったのだ。
経験値を大量に貰わなきゃレベルアップはなかったはずだし。
言い換えれば詫びの品ってことだろう。
それにしては少なすぎるだって?
レベルが4桁超えてからの2レベルは大きい。
出来損ないのヴァンパイアと悪魔の両方を合わせてもレベルアップできたかどうか。
『まあ、負債じゃないから貰えるものは貰っておこう』
後は感謝を忘れないようにすれば問題になることなんてないだろう。
『という訳で、ベリルママありがとう』
短い時間だが両手を合わせておいた。
「サテ……」
ステータスで思い出したものがある。
そう、称号だ。
目を背けていたとも言うが、さすがにそろそろ確認しないといけないだろう。
俺の予想では3個は増えているはずだが……
『6個も増えてるうううううぅぅぅぅぅぅぅぅっ!』
それ以上の言葉が出てこない。
ラソル様にイタズラされた後に、これってあまりな仕打ちじゃなかろうか。
『勘弁してくれよぉ』
途方に暮れたくなった。
が、いつまでも現実逃避している訳にはいかない。
人間嫌いの公爵が真夜中なのに動き始めているからね。
ジジイは血圧が高い生き物のようだ。
『動くのは夜が明けてからでいいだろうに』
神のお告げを聞いたことで張り切っているのは言うまでもないだろう。
『次から次へとっ』
処理案件が増えていく。
心の安まる暇が無い。
読んでくれてありがとう。




