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737 道化師は踊り歌い笑う

申し訳ありません。

遅くなりました。

 全身が赤と白のチェック模様に包まれた道化師が踊る。


「無駄ですよ」


 百を超える光弾をグネグネと体の形を変えながら躱す。


『ほとんどスライムだな』


 躱し終わった後は道化師の姿に戻るのだが。

 しかも御丁寧に一礼してくる慇懃さがある。


 まあ、まだまだ余裕だと印象づけたいだけだ。

 あるいは慇懃すぎて無礼に取られかねないことを見越した行動か。


 いずれにしても俺を苛立たせたいのは明白だった。


『俺を掌の上で弄びたいようだな』


 悪趣味な道化師である。

 少なくとも人を笑わせようというサービス精神は持ち合わせてはいまい。

 奴だけは、ずっと笑いっぱなしであるが。


『ムカつく輩だな』


 次の光弾をセットして撃つ。


「無駄無駄ぁ~。

 無駄なんですよぉ~」


 今度は歌うように台詞を口にしてくる。

 躱し方も踊っているかのようだ。

 ただし体は奇っ怪に変形しているので見た目は美しさとは無縁だ。

 むしろ、おどろおどろしい気持ち悪さが勝っている。


「クハハハハ!」


 本人は実に楽しそうに舞いながら躱しているが。


「こういう躱し方もぉ~」


 際どい躱し方をする道化師。

 完全に歌っていた。


「スリリングでぇ~」


 緩急をつけてトリッキーな動きをする。

 動きに合わせて歌うのは、なかなか難しいと思うのだが。

 ヘラヘラした顔を意図的に見せながら道化師は歌う。


「本当にぃ面白いですねぇ~!」


 余裕を持って躱しながら歌いきる。

 またしても、すべて躱しきった。


『無駄にいい声じゃないか』


 声の張りも声量も充分だ。

 戦っている緊張感など微塵も感じられない。


『ミュージカル俳優にでもなったつもりかよ』


 まあ、ルベルスの世界には演劇はあってもミュージカルまではないのだが。

 コイツが知っているとも思えない。


「おや、もう弾切れですか?」


 俺が次弾をセットせずにいると、からかうように聞いてきた。


「まあ、数を増やして攻撃するという発想は悪くなかったんですがね」


 クックックと喉を鳴らして笑う道化師。

 そして意地の悪いニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「残念なことに私には微塵も通用しないんですよ」


 笑みを浮かべたまま深々と礼をする。


「いやはや、残念ですねぇ」


 顔を上げた後はより笑みを深くした。

 いちいち挑発的な奴だ。


「さて、どうなさいますか?」


「次ダ」


 光の丸鋸ことライトサーキュラーソーを2枚、両脇に出現させる。


「おやおや、急に数が減りましたよぉ?」


 道化師は腹を抱えて「ヒャヒャヒャ」と気味の悪い声で笑い出す。


「これは……

 フヒャーッ!

 いけません、ねぇ……

 ヒャヒャヒャッ!」


 体を捩って笑っている。

 一見すると隙だらけだ。


 が、ああ見えて油断なく気配を探っている。

 挑発行為の中に上手く紛れ込ませているのだ。


『布石も打ってやがるしな』


 攻勢に転じないのは俺がより隙を見せるのを待っているのだろう。

 イライラが募り激怒した瞬間などが狙い目になるはずだ。

 今までに相手をしてきた脳筋的な連中とは明らかにタイプが違う。

 ハッキリ言って嫌な相手だ。


『面倒くせえっての』


 やたらとテンションの高い脳筋の相手をするのも鬱陶しいが。

 こういう裏で腹の探り合いをしなければならないような手合いも同じくらい鬱陶しい。


「もし、かして……

 フヒーッヒャヒャヒャッ!

 魔力切れ……でぇすかぁ……?

 ブヒャヒャヒャヒャヒャッ!」


 馬鹿にしているように見えて探りを入れてきている。

 油断のならない奴だ。


 俺は答えずにライトサーキュラーソーを放った。

 狙うは道化師の首と腰である。

 フリスビーサイズであるが故に一撃で切り落とせるのは首だけだ。


「ずぅわんねぇんでぇしたぁーっ」


 腕を伸ばし、わざわざS字を作るように体をくねらせて躱す道化師。

 すぐに4枚を用意する。


「おやおや、先程のちっこいのと同じパターンですくわぁ?」


 それにも答えず無言で放つ。

 更に体をウネウネとくねらせた道化師によって躱された。

 次も4枚。


「あれれぇ?

 やっぱり魔力切れじゃーないですかぁ。

 ウヒャヒャヒャヒャ────────ッ!」


 飛び跳ねて足で拍手しながら馬鹿笑いする道化師。


『器用なもんだ』


 そう思うと同時にイラッとしたものが込み上げて来る。

 だから俺は何も答えない。

 ライトサーキュラーソーは先程と同じようなタイミングで放った。

 もちろん愚弄する態度を崩さぬままに躱される。


「ヒーヒヒヒッフヒィ─────ッ!」


 とにかく可笑しいようだ。

 息をすることもままならぬほどに笑う道化師。


『息を吸いながら笑うとはね』


 更にイライラが募る。

 だが、ここは勝負所だ。

 俺は【千両役者】を使って苛立ちを封じ込めた。


『そうまでして笑うところを見せたいのか?』


 コイツの笑いは半分が計算だ。

 残りの半分は本気であるが故に演じる必要性はない。

 そこが俺を苛立たせている。


『本気でなければ完全に無視できるってのに』


 地味に嫌な奴である。

 この後の反応が予想できるだけに、ウンザリした気分になるのを止められない。

 だが、奴が本気になっているからこそ可能なことがある。

 俺は2枚のライトサーキュラーソーをスタンバイさせた。


「フヒッフヒヒヒヒッ!」


 案の定、道化師は俺のことを見て嘲笑う。


「イーヒヒヒヒヒッ!

 数が減りましたよぉう。

 魔力は大丈夫でぇすくわぁー?」


『余計なお世話だっての!

 後で絶対に吠え面かかせてやる』


 俺の密かな決意を奴は知る由もない。

 故に挑発すればするほど逆効果になることにも気付いていなかった。


「これを外すと、もう後がないでちゅよー?

 ヒャーハハハッヒャッハ────────ッ!」


 よりにもよって赤ちゃん言葉を使ってまで挑発してきたではないか。


『ああ、そうですかっと』


 内心で返事を返しつつ2枚を放った。


『思い知るがいい。

 そいつらは今までとは違うからな』


 真っ直ぐに首と腹部を目掛けて飛んで行く。

 スピードも同じままだ。


「フヒヒ、何の工夫もないですよっと」


 向こうは両脚を開いて伸ばすなんて変化をつけてきたさ。

 どうやら跨ぎ越すつもりのようだ。


『些か想定とは違うが……』


 むしろ、こちらには好都合である。

 奴の股下を潜る瞬間に2枚をピタリと止めた。


 ただし、重ね合わせていた本命の方をだ。

 予備は何の変化もなく通り過ぎていく。

 そして結界に到達する前に消した。


「フヒョーッ!

 ざざざ残念どぅえしとぅわー」


 癪に障る言い方をしながら体を元の形へと戻していく道化師。

 本命の2枚は垂直に角度を変えた。

 もちろん奴の股下で停止させたままだ。


「イーヒヒヒッ……ヒッ?」


 上下で多少前後していることで奴の体を確実に両断していく。

 飛ぶという観点では停止させたが回転まで止めた訳ではない。

 光の丸鋸は見事な切れ味を見せてくれた。

 何の抵抗もなく奴の体を切り裂いていく。


「あれるりらろぉ?」


 違和感を感じた時点で道化師は下を見る。

 が、その時には体は元の形に戻っていた。

 既に深手を負った状態ということだ。


 しかしながら、そこでは終わらせない。

 2枚を上方向へ飛ばした。

 共に頭頂部を抜けていくまで。

 その結果、奴の体は左右に分離した。


「真っ二つぅ─────ん」


 斬られた時までふざけたことを言う奴だ。

 そう、体が完全に切り割られても道化師は喋っていた。


「フヒヒヒヒィーン!」


 すぐにピタリと閉じ合わさって元の姿に戻る。


「お生憎ぅーっ。

 ウヒャヒャッヒャーッ!

 このくらいじゃ死なないよーん。

 ゲハハハハハハハハハハハハハッ!」


 道化師は腹を抱え体を折り曲げ足をバタバタさせて思いっ切り笑った。

 直前まで両断されたとは思えないほど激しい動きだ。

 かと思うと、ピタッと動きを止めてこちらを指差した。


「もうネタ切れなのかなぁ~?」


 パチリとウィンクしてくる。

 それを合図にして俺の足元に拡がっていた影が蠢いた。


 次の瞬間、影が幾重もの鋭い剣となって地面から剥がれるように上へと伸び上がる。

 まるで地中から鋭い突きが放たれたかのようだ。


 ただし、俺自身を狙ったものではなく周囲を壁のように囲われている。


「それではサヨナラでぇーす」


 奴がそう言うと、切っ先がより合わせるように閉じていった。


「その影からは絶対に出られませーん。

 永遠の闇の中で朽ち果てていきなすわぁーい。

 ウヒャヒャヒャヒャッヒャーヒャッヒャッヒャッ!」


『闇魔法と空間魔法を融合させているのか』


 なかなか高度な魔法を使ったものだ。


読んでくれてありがとう。

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