711 見回り半分
トモさんが【挑発】を使い大半のゴーストを捌いている。
ミズホ刀を構えてはいるが躱すことに専念しているようだ。
『シンサー流を実戦で試すんじゃなかったっけ?』
ウォーミングアップにしては時間をかけ過ぎな気もする。
俺たちが来るまでにゴーストがすべて調伏されていないのが不思議なくらいなんだが。
何かしら思惑があるのだろう。
一方で、ブルースは残りの群がってくるゴーストに2本の小剣で斬り掛かっていた。
光魔法を纏わせた状態で斬っているので、擦らせるだけでもダメージは入る。
「……………」
そう、一撃必殺とはいかないようだ。
『そんなトリッキーな動きでもないんだが……』
どうやら浮遊する相手に戸惑っているらしい。
ブルースの攻撃の隙を突くようにゴーストが殺到するのも原因のようだ。
大きく体勢を崩されている。
攻撃をくらってはいないものの危なっかしい。
長年の我流の戦い方が染みついているせいで無駄な動きが多いようだ。
躱す時間が長めである。
『敵の数が多いとボロが出るか』
学校で再教育が必要と見た。
『やっぱりシンサー流を必須科目にするか』
光魔法を習得していればアンデッド対策は充分かと思っていたけど甘かった。
そうでもないことが判明した以上は対処する必要がある。
『とりあえず短期の合宿で基本だけでも身につけさせて……』
ブルースが苦戦しそうな気はするが、そこは頑張ってもらおう。
なんにせよ今回の一件が終わって国元に帰ってからのことになる。
『まずは、このゴーストどもだ』
ブルースには奮闘してもらわないとな。
変に手こずっている場合ではない。
数が多いとはいえゴーストの動きは単調なんだから。
ハッキリ言ってしまうと素人そのもの。
『元が村人だからしょうがないがな』
おまけに制御している輩も未熟となれば結果は推して知るべし。
ブルースのリズムまで単調になっている。
『終わったら説教ものだ』
体勢を整えつつ躱して躱して躱しまくって安定したら攻撃するの繰り返し。
若干、危なっかしさを感じなくもないが本人の息は乱れていない。
まだまだ余裕がある証拠だ。
トモさんについては言うまでもない。
危なげなく回避し続けている。
何故か攻撃しないのは変わらぬままだ。
『やはり何か目的があるのか?』
サッパリ分からない。
そんな中でトモさんが俺たちに気付いた。
「おー、ハルさん」
構えを解いて手を振ってきた。
足も完全に止めている。
それを隙と見たのだろう。
ゴーストたちが我先にといった勢いで殺到した。
これはゴーストの意思と言うより操っている者が強制したように思える。
一斉に襲いかかるのだが、それだけだ。
何の工夫もない。
波状攻撃にすらなっていないのはどうなのか。
『操る方も素人かよ』
剣を持って戦ったことのない者なのは火を見るよりも明らか。
セコい作戦を考える割に手際が悪いと思ったら……
会議室で踏ん反りかえるタイプのようだ。
戦闘は現場で起こっているんだと言ってやりたい。
「見回りかい?」
トモさんが棒立ちで声を掛けてくる。
ゴーストが殺到するが、表情ひとつ変えずにサクッと避けた。
素人目には瞬間移動に見えたかもしれない。
実際、ゴーストたちはトモさんを見失っていた。
躱された直後は何が起こったのか理解できずに停止。
次に目標を見失ったことに気付いてキョロキョロと周囲を見渡すような動きをした。
それでようやくトモさんが数メートル離れた場所にいることに気付く始末。
「半分はね」
俺の返事を合図にしたかのように、ゴーストたちが突進という名の攻撃を再開する。
ただし、今の一斉攻撃と違ってバラバラに突っ込んでくる。
「半分だって?」
聞き返しながら、トモさんはすり足でスルリスルリと我武者羅な突撃を躱していく。
当たりそうで当たらない。
素人目には冷や汗ものの回避に見えることだろう。
ギリギリの見切りで静と動が一瞬で切り替わる。
そこにはフェイントでの牽制などはない。
することは、ただひとつ。
来た攻撃だけを最小限の動きで躱すのみ。
シンサー流の歩法だからこそなせる技だ。
『構えを解いたからといって隙になる訳ではないんだよ』
ゴーストたちへのツッコミはしない。
してもトモさんの動きを見きれる訳ではないし。
操っている奴を刺激して終わりになるだけだ。
下手をすれば今よりも雑な攻撃になりかねない。
「大本の所へハリーを案内する途中だ」
俺が返事をすると、トモさんが軽く目を見開いた。
そこに2体のゴーストが左右から挟み打ちを仕掛ける。
が、それだけだ。
他のゴーストからの時間差攻撃などもない。
『その程度かよ』
あれだけ躱されているのに、まだ舐めてかかっているようだ。
それとも制御する側に余裕がなくなってきているというのか。
そのあたりは行って確かめなければ分からぬことである。
「なるほど、ついでか」
俺の返答から察したトモさんが苦笑した。
そのままゴーストと変わらぬ速さで一方のゴーストへと踏み込む。
半身の姿勢ですれ違うように躱し止まる。
上体は些かもぶれない。
そのまま反対側から飛来するゴーストへと踏み込む。
再び半身ですれ違った。
相手が同時に向かってきても躱し方で時間差に変えることができる訳だ。
口で言うほど簡単なものでもないがね。
タイミングもシビアだし。
ギリギリの見切りも霊体のゴースト相手では困難だ。
「だから半分だって」
俺も苦笑で返す。
「ところでひとつ疑問があるんだが」
話題を切り替えてくるトモさん。
背後の斜め上から飛び込んでくるゴーストがいるが気にした様子もない。
歩法で1歩だけ引き、やり過ごす。
攻撃を仕掛けてきたゴーストなど見やりもしない。
「何かな?」
「ハルさんたちにゴーストが襲いかからないのは何故だい?」
もっともな質問である。
ここに来てから俺たちは、ただの一度も襲われていない。
まあ、勿体ぶるほどのことはしていないがね。
「認識阻害の魔法を使ってるんだよ」
「へ?」
トモさんが目を丸くする。
襲ってくるゴーストを何気なく躱しながら首を傾げていた。
トモさんが疑問に思うのも道理である。
認識阻害の魔法は対象者が他者から認識されないようにする魔法だからな。
今は俺とハリーにかけている。
「それなのに俺に認識できているけど?」
「自分も分かりますが何故でしょうか?」
トモさんばかりか、ゴーストの突進を躱しながらブルースも聞いてきた。
なんだかんだで俺たちの会話もちゃんと耳に届いていたようだ。
危なっかしく見えるようで実は余裕があるらしい。
実際、ここまでで4体のゴーストを仕留めている。
『安全マージンを多めに取っているのか』
あの安定感のない戦い方でと考えると脱力してしまいそうになる。
まあ、ひとつ朗報もあった。
普通のアンデッドと違ってゴーストを倒すと魂が解放されたのだ。
しかも成仏してくれるようだし。
『魔道具の支配下にあるアンデッドがすべて成仏する訳ではないみたいだけどね』
心配になったので【多重思考】と【天眼・遠見】でフェルトを観察していたのだ。
結論から言うと、圧倒していた。
盗賊ゾンビに接敵するやいなや聖炎の火炎放射器状態だったし。
焼いて焼いて焼きまくって浄化もされたはずなのに、灰が残っていれば焼き尽くす。
『何処の放火魔だよっ』
さすがにそれは言い過ぎかもしれないがブチ切れているのは確かだ。
それだけやってもゾンビたちから魂が解放されることはなかった。
ゴーストとゾンビで差があるのかもしれない。
あるいは根本的な問題か。
村人と盗賊では罪深さに決定的な差があるからな。
フェルトがやり過ぎたからではないと思いたい。
それも、この事態を引き起こしている輩を捕まえれば判明する。
魔道具の解析をすれば推測で話していることにも決着がつけられるはずだ。
そういう訳で敵の大本へと向かわねばならない。
逃げられてしまうなど以ての外だ。
と、その前に質問には答えないとな。
「認識阻害の相手をアンデッドに限定しているんだよ」
「なんですと!?」
トモさんが飛び上がらんばかりに驚いていた。
ブルースは絶句している。
『そんなに驚くんだ!?』
その事実に俺の方が驚かされたよ。
まあ、そんな状態だろうと2人とも回避することは忘れていないのだけど。
「難易度が高すぎないかい?」
『どうだろう?』
俺的には実は難しくなかったりするんだよね。
神級スキルの【魔導の神髄】が仕事してくれるからな。
それに【魔導の極み】でもいけそうな気がするから難しいとは思えないんだけど。
「これをやっとかないと操っている奴に逃げられるだろ?」
どうやら支配しているアンデッドと視覚を共有しているみたいだし。
「「あー」」
2人が呆気なく納得した。
「ハルさん、人の死を冒涜するような輩は逃がしちゃいけねえぜ」
おそらくはフェルトの影響をもっとも受けているであろう人物の御言葉である。
「それでトモさんは攻撃しなかったとか?」
相手は元村人だし被害者だ。
そのために攻撃の手が鈍っていたのかとも思ったのだが。
俺の疑問にトモさんが怪訝な表情をした。
「ん? ああ、いや、違うよ」
すぐに否定する。
「ブルースの経験値稼ぎを優先させているんだよ。
8体倒すまで待って俺が1体倒す感じかな」
「なんだ、そういうことか」
実に単純な理由であった。
「これで8体目! ですっ」
ブルースがゴーストを倒しながら申告してきた。
「はいよ」
トモさんがシンサー流の構えを取る。
ドッシリと腰を落とし目線の位置を刀身が走る霞の構え。
ここから繰り出される剣速はまさに電光石火であった。
斬られたゴーストが銀色の炎に包まれる。
「あの世でゆっくり休みな」
ゴーストはあっと言う間に燃えつきた。
読んでくれてありがとう。




