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688 馬車はお断り

 驚いたまま固まっていたダニエルが血相を変えた。


『精神を病んだは言い過ぎたか』


 しかしながら、こういう状態であることも念頭に置いておかねばならない。


「ヒガ陛下、お願いがございます」


 ダニエルが深刻な表情で訴えてきた。


「俺に行けって言うんだろ」


 言われなくても見当がつくというものである。


「っ!?」


 一瞬だがダニエルは気圧されたように怯んだ様子を見せた。


『脅しすぎたな』


 面倒な話になってしまった。

 自業自得であるが。


「さすがでございますな」


「おだてたって何も出ないぞ」


「やはり無理ですか」


 それはダニエルの早とちりである。


「行かないとは言ってない」


「真でございますか」


「こんなことで嘘ついてどうするよ」


「ありがとうございます!」


 ダニエルは深々と頭を下げた。

 総長やナターシャもそれに続く。


「そういうのはいいからさ」


 顔を上げたダニエルには苦笑されてしまった。


「ヒガ陛下らしいですな」


「面倒くさいことは嫌なだけだ」


 またしても苦笑される。

 今度は総長にも苦笑いされてしまった。

 ナターシャだけは困ったような表情だったが。

 笑っていいのかどうか戸惑っているというところか。


「行くには行くが指示には従ってもらうぞ」


「それはもう」


 ブンブンと頷くダニエル。


「こちらからお願いするのですから当然のことです」


「じゃあ、最初に言っておく」


「何でしょうか?」


「王太子はこの件に関わらせるな」


 俺がそう言うとダニエルが困惑の色を見せる。


「それは我々もそのつもりでありますが。

 一体、どういうことなのでしょうか?」


「エーベネラント側は王弟を使者として寄越したんだろ。

 それを引き合いにして自分が出向くと言い出しかねないぞ」


 その指摘は意外だったのだろう。


「「「あっ」」」


 3人そろって軽く驚きの表情を見せた。


「手紙の件で観察力に感心させられたのは認める。

 だが、フェーダ姫に相当ご執心のようだからな。

 頭に血が上って正常な判断を下せなくなる恐れもある」


 ダニエルが顔色を悪くしている。

 俺の失礼な言い様に腹を立てているという訳ではなさそうだ。


『まあ、いつものことだしな』


 むしろ同意する意思があるからこそヤバいと感じているのだろう。


「無いと言い切れませんな。

 地味で堅実な性格はしておるのですが、頑固なのです」


 ダニエルは溜め息をついた。

 一気に老け込んだかのようだ。


『いや、もともと老人なんだけど』


「そう深刻に考えることもないさ。

 連れて行かなきゃいいだけの話だ」


「アレが自分で付いて来る恐れがあります」


 更に溜め息を漏らすダニエル。

 影が薄めと聞いていたが、どうしてアグレッシブだ。

 それだけのことをしても目立たないのかもしれないが。


『あるいはフェーダ姫が関わる時だけ別人状態になるかだな』


 どうも、それっぽい気がする。


「追いつけると思うか?」


「なんとっ!?

 よもやヒガ陛下の輸送機を使われるので?」


「当然だろ」


 馬車でタラタラ行くつもりはない。


「しっ、しかしっ、大騒ぎになってしまいます。

 今のエーベネラントを無用に刺激するのは……」


 アタフタと慌てた感じでダニエルが言ってくる。


『まあ、自国内で完結しないことだからな』


 友好国とはいえ、微妙な情勢の時期に度肝を抜くような真似はしたくないだろう。

 俺も両国間の関係をぶち壊すつもりはない。


「心配するな。

 途中で自動車に乗り換える。

 空を飛ぶよりは地味だろ?」


「前に仰っていた馬車に変わる乗り物ですか?

 馬なしの乗り物とて充分以上に刺激的です」


 引きつった顔をして、かなり必死な様子だ。


「天と地ほどの差はあると思うんだがな」


「我々にはどちらも天です。

 馬が不要な車など前代未聞なのですぞっ」


 自動車も飛行機とさほど変わらぬくらい相手を驚かせてしまうと言いたいのだろう。


『まあ、大型の魔道具に分類されるしな』


「そのうち誰かが真似をするだろうよ」


 気休め程度にそんなことを言ってみた。


「無茶を言わないでください」


 期待外れで予想通りの返事だったが。


「そうか?」


 それでもショックを受けていない風を装っておく。


『空を飛ぶよりは随分とマシだと思うんだがなぁ』


 内心では愚痴りたくて仕方なかったが。


「あれほど高度な魔道具を誰が作れるというのですか」


 追撃してくるダニエル。

 ちょっとムカッとした。

 勝手な言い草かもしれないがね。


「俺たちだが?」


 ダニエルの肩がガックリと落ちる。


「移動に時間をかけることほど無駄なことはないからな」


 俺がそう言うと、疲れた様子で恨めしげな視線を向けてきた。


『人に行くように頼む割に制限をつけるとかどーよ?』


 引き受けた以上はキャンセルなどするつもりはないが、イラッとする。


「嫌なら勝手に行って無理やり解決してくるが?」


 こんなことを言ってしまったのもイライラのせいだろう。

 さすがに言い過ぎだという自覚はある。


「そそそそれだけは勘弁していただきたい」


 ダニエルが必死の形相で迫ってきた。

 無言で押し退けるが押し返そうとしてくる。

 禿げ脳筋の時のようなことになりはしないかと戦々恐々なのだろう。


「分かったから下がれ。

 心配しなくても勝手に行ったりはしねえよ」


 そう言うと、どうにか引き下がった。


「とにかくジェダイトシティまで輸送機で飛ぶ。

 その後は自動車に乗り換えてエーベネラントまで行くぞ」


 有無は言わせない。

 宰相の都合?

 知らんな。

 現状で移動手段を変更するなど配慮するつもりはない。


 面倒事などササッと終わらせるに限るのだ。

 ならば移動だって高速で終わらせようとするのは自然な流れというものである。

 むしろ転送魔法を使わないだけ穏便な方なのだ。


「そうなりますと移動時間は半分ほどに短縮されるでしょうか」


 総長は冷静に計算している。

 早々に自動車でエーベネラント王国へ赴くことを受け入れた証拠だ。

 ただし、所要時間を読み違えている。

 輸送機でジェダイトシティへ行くまでの計算はできているはず。


『乗ったことがあるからな』


 故に間違えているのは自動車の移動速度である。

 総長は馬車と同等だと思っている節がある。

 そう誤解させてしまったのは災害対策の時に使うとしていたからか。


『馬車と同じ速度だと思ったんだろうな』


 そんな訳はない。

 それもこれも実際に走らせていないせいである。

 誰が悪いかと言えば、何処かの筆頭亜神だろう。


 直接、現地へ輸送機を乗り付けられるようにお告げまで出していたからな。

 その時の脳内スマホに届いたメールの文面なんて思い出したくもない。

 とにかく、そのせいで自動車をお披露目する機会は失われたのだ。

 故に自動車の公開は今回が初めてとなる。


『あ、でも見せていても結果は変わらんか』


 向こうの馬車に合わせたスピードで移動せざるを得なかっただろうし。


「移動時間はもっと短いぞ」


 誤解されているなら解くべきだろう。

 実際に乗ってからのサプライズとする訳にはいかんしな。


『刺激が強すぎる』


 たとえ本気の山岳ラリードライブを封印したとしてもだ。

 まあ、山を下る時は裏技を使うつもりだが。


『その方が時短になるしな。

 ラリードライブよりは刺激も少ないだろうし』


「もっとですか?」


「自動車は馬車などより速く移動できるからな」


 何気なく聞いてきた総長の言葉に答えたら目を丸くされてしまった。

 ダニエルもだ。

 ナターシャなどは呆れているようにも見える。


「では数日で到着するのでしょうか?

 それだと馬車よりも倍の速度で走れることになりますが……」


 まさかそれはないだろうと言いたげに総長が問うてきた。


「明日の早朝に出れば日が暮れるまでに到着するぞ」


「「「えっ!?」」」


 3人に、なに言ってんだコイツの目で見られてしまった。


「山を下るときは空輸するから数時間分は稼げるし」


「空輸とは?」


 ダニエルがたまらずといった様子で聞いてきた。


「空を飛んで輸送する。

 だから空輸って訳だ」


「それはジェダイトシティで乗り換える意味があるのでしょうか?」


 ナターシャがツッコミを入れてきた。


「今回は何も積み込まずに来たからな。

 自動車を用意する必要があるだろ」


「そうだったのですか」


「あと、ジェダイトシティで弟子と合流する」


 そう言うと3人は首を傾げていた。

 合流する理由が分からないらしい。


「俺が男だってことで診察を拒否されることもあり得るだろ」


 相手は嫁入り前の王族だから充分に考えられることだ。

 説明すると、すぐに納得の表情になった。


「では、山を下ったあたりから自動車で走るということですね」


 総長が確認してきた。


「ああ、そうだ」


「だとしても速過ぎませんか?」


「自動車は馬と違って疲れないからな。

 それに平坦な場所なら馬車の数倍以上のスピードで走れる」


「「「なっ!?」」」


『ホントに息ピッタリだな、コイツら』


読んでくれてありがとう。

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