689 出発に向けての話
修正しました。
王弟再度彼すれば → 王弟サイドから~
驚いた状態から落ち着きを取り戻すと、ダニエルは渋い顔をした。
「それですとエーベネラントの使者を追い抜いてしまいますぞ」
「……………」
面倒な話が出てきた。
「それって間違いない?」
念のために聞いてみた。
いつ帰ったかや行程などの情報がないからな。
王弟ともなれば随行者も相応の数になるだろう。
護衛だけでもかなりの人数になるはずだ。
「間違いありません」
やけに自信たっぷりだ。
「国境を越えるまでこちらで護衛をつけたのです。
護衛の数がかなり絞り込まれていましたので」
「んん?」
国境を越えた報告が入っていないとでも言うつもりだろうか。
往復の時間を考えれば報告はタイムリーな情報ではないはずだが。
まあ、護衛をつけたことは当然の対応だとは言えるが。
国内で盗賊に襲われれば問題になりかねんしな。
とにかく俺が抱いた疑問についてはダニエルの次の言葉で解決した。
「護衛につけた部隊には鳩を持たせているのです」
「あー、そういうこと」
『うちはスマホですぐに連絡できるからなぁ』
アナログな伝達手段が頭から綺麗に抜け落ちていた。
「通常は2回に分けて放つように指示しています。
ですが、まだ一度も連絡は入っておりません」
「2回か……
国境到着直前の宿に入った時にも放つってことか」
2回目は確認するまでもなく国境到着時だ。
ダニエルが頷いた。
「その通りです。
緊急時や襲撃を受けた時にも放つようにしておりますが、その手の報告もありません」
「なるほどね」
それは確実に追い抜いてしまう。
『さて、どうしたものか』
向こうが到着するのを待つなんてのはやっていられない。
かといって追い抜くのは色々と問題があるだろう。
『面倒くさいな』
一度でも関わったことのある国なら諸問題は無視して追い抜くんだが。
それができないんじゃ他の方法を探すしかあるまい。
だが、追いついたら後ろをついて行くのは無しだ。
『チマチマ進むのを待つとかあり得ん』
焦れて「キーッ!」とか発狂するかもしれん。
いや、するだろう。
追い越すのがダメで待つのも論外。
八方ふさがりじゃなかろうか。
『いっそのこと王都で時間を潰していくか?』
巨大ダンジョンに挑むと言っていたのに入ったことすらないし。
『色々あったからなぁ』
決して忘れていた訳じゃないのだ。
言い訳くさく聞こえるだろうから声に出して言ったりはしないがな。
少なくとも有意義に時間が使えるだろう。
そうは思ったのだが……
何か嫌な感じがする。
王都で時間を潰すのは良くない気がした。
根拠も理由もないが、この直感をスルーしてはいけないと本能が訴えかけてくる。
『無理難題を突き付けてくれるぜ、まったく……』
だったら街道を通らずにショートカットする形で移動するかとも考えた。
直接的に追い抜かなければ大丈夫かと考えたのだ。
空中空母で集めた地形データを元に検討してみる。
『ダメだな』
街道は伊達に街道ではないということを思い知らされた。
自分たちだけなら強引に走らせることもできそうなのだが。
ゲールウエザー王国の使者も同行するとなれば街道を行くしかないような状態だった。
マイクロバスではなくラリー仕様の車だとしてもダメだ。
いや、そういう車を使わざるを得ない状況になる時点でアウトだと言えるだろう。
恐らく最初にハマーたちを乗せた時より酷いことになる。
『どうすりゃいいんだよ』
あれもダメ、これもダメ。
考えることすら面倒になりそうだ。
『いっそのこと輸送機に無理やり乗せて連れて行くか?』
ついつい乱暴なことを考えてしまう。
そんなことができる訳はないのだ。
だからこそ頭を悩ませていた。
だが、そういう突飛な発想が時として突破口を産んだりする訳で。
「しょうがないな。
追いついたら拾っていくぞ」
追い抜くのがダメなら連れて行けばいい。
「無茶を言わんでくださいっ」
ダニエルが前のめりで抗議してくる。
もちろん俺は押し退けるのみだ。
「追い抜く訳にはいかないんだろ。
だったら連れて行くしかないじゃんか」
「どうやって連れて行くというのですっ!?」
押し退けられてもダニエルはグイグイと押し返そうとしている。
反論する気は満々だ。
「人は自動車なる魔道具に乗せることができるのでしょう」
「そうだな」
「ですが、馬や馬車はどうするのです?」
「王家が用意したものだから置いていく訳にはいかんと言うんだろ」
「そうです!」
ググッと押し返す力を強くする。
ビクともしないがね。
ただ、ダニエルの反論したい気持ちの度合いを推し量れるような気はする。
「別に放置するつもりはないぞ。
少数の人員だけ残して後を追わせるなんてこともしない」
「そんなものまで運ぶおつもりですかっ?」
「ああ、そうだ」
「無理です!」
ダニエルが断言すると、更にグイッと押す力が増した。
「どこがだ?」
「いくら相手の随行人員が少なめだとはいえ、相応に荷物はあるのです」
「馬車が数台に馬は護衛の分もあるか。
馬だけでもかなりの頭数になりそうだな」
「そ、そうですぞ」
ダニエルの突進力が弱まった。
俺がもっと少なく見積もっていると思ったのかもしれない。
「そんな規模で運ぼうとすれば輸送機ほどの大きさが必要になるでしょう」
『んー?』
ダニエルは何か勘違いしていないだろうか。
「おそらく街道が持ちませんな。
街道は魔道具ではないのですぞ」
突っ込んでくる力が盛り返す。
『子供かよ』
一歩下がって普通に話はできないのだろうか。
それだけ頭に血が上っているのだろうが。
『いや、違うか』
前に来た時はこういう状況だと唾を飛ばしていたはずだ。
わずかな期間でそれを克服したのだろう。
代わりに変な癖がついてしまったようではあるが。
『こちらの方がマシだがな』
おそらく、この力強く前のめりになろうとするのも次に来た時には改善していると思う。
『まさか別の変なくせに変わるだけとかはないよな』
「あのさぁ、あのサイズの車があると思うか?」
「っ!?」
ダニエルの動きがピタリと止まった。
顔面を押し返しているので表情の変化は不明だが。
「どうせ輸送機に車輪がついたものを想像していたんだろう」
「うぐっ」
ダニエルがたじろぐ。
そのことで押し返す必要がなくなったのだが。
その表情は図星を指されたと語っていた。
思わず溜め息が漏れる。
「あのなぁ、何台にも分乗するに決まってるだろ。
それに輸送機サイズだと街道を占拠して壁状態になるっての」
他の通行者の妨害というか驚異になってしまう。
街道がズタズタになるとかいう問題もあるだろうがな。
そのあたりは魔法で沈み込まないようにできるので実際は何ともないのだが。
いずれにせよ輸送機サイズで地上を進むのは著しく迷惑であるのは間違いない。
「あ……」
しおしおと萎んでいくダニエル。
自らの考えが思い込みに過ぎなかったことで一気に反発心が薄れていったようだ。
「それにしたって向こうもパニックにはなるだろうから説明とかは任せるわ」
エリーゼ様直伝の丸投げスタイルである。
まあ、でも仕方あるまい。
王弟サイドからすれば、俺は突如現れた奇抜で見知らぬ輩だ。
そんな相手にあれこれ言われても信用などできんだろうし。
『場合によっては戦闘になることも考慮しておかないとな』
護衛が過剰防衛行動に出るおそれは大いにある。
その場合は手加減しつつ無力化しなければならない。
向こうは少数精鋭で来ているようだからな。
『そういうの相手に手加減すると後が面倒なんだよなぁ』
無力化すること自体は特に問題がある訳ではない。
が、そのせいで自信喪失は大いに考えられる。
後々まで引きずられるとフォローしなくちゃならなくなるからな。
仮にも、こちらの都合でスランプに陥ることになるのだから。
『絶対にそうなるとは言わないけどさ』
むしろ、そうならないでくれと祈るばかりである。
「とにかく今日中に面子を決めて準備を整えておいてくれ」
ダニエルの勢いが盛り返さぬうちに話をまとめにかかる。
「出発は明朝、夜明け直後だ」
「急ですね!?」
総長が少し目を丸くしかけた感じで聞いてきた。
「王太子に考える時間を与えると暴走される恐れがある」
そう答えると苦笑しながら総長が頷いた。
「確かに宰相閣下に食い下がりそうな気はしますね。
猶予時間が少なければ強引に振り解いて行くことも可能ですか」
総長はそんなことを言いながら納得していた。
しかしながら俺は聞き捨てならないことを耳にした。
「宰相が使者として行くのか?」
王太子を振り解いて行くとは、そういうことのはず。
「これはヒガ陛下だからお教えするのですが……」
そう前置きして総長が説明してくれた。
エーベネラント王国の王弟が来たことで、元からその予定だったのだとか。
タイミングは1回目の伝書鳩の連絡が来てから。
本来はそれで程々なんだそうだ。
後は人員について。
先方が王弟を出してきたから釣り合いを取るために苦慮したようだ。
結局はダニエルが使者ということになった。
確かに王族だから釣り合いも取れるだろう。
随行員は相手と同じように絞り込むようだ。
その中に総長とナターシャも含まれているのだとか。
総長は相談役と魔導師の兼任である。
読んでくれてありがとう。




