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685 医者じゃないんだが

改訂版43話をアップしました。

「で、向こうが泣きついてきたって?」


「そういうことになりますな。

 中級の治癒魔法でも効果がなかったそうです」


「中級ねぇ」


 西方基準での中級だから推して知るべしなんだが。

 上級だって期待はできない。


 その上級を試せていないのは使える人材がいなかったのだろう。

 こっちじゃ中級の治癒魔法でも使える者が限られるようだし。


 ただ、話を聞いていて引っ掛かる部分はあったので結論は出せない。


「ヒガ陛下でしたら治せますか?」


 不意に総長が聞いてきた。

 3人が期待するような眼差しで見てくる。


『まったく……

 俺は医者じゃないんだぞ』


 まあ、鑑定すれば何が原因かは分かるだろうけど。


「どうだろうな?

 直に診てない相手をどうこう言えないよ」


 明らかに落胆する3人。


「それはどういうことでしょう?」


 諦めきれないとばかりにナターシャが聞いてきた。


「病気も、それに対処する治癒魔法も色々あるんだよ」


「そうなんですか!?」


 予想外の返事だったらしく驚いている。

 ナターシャだけでなく総長や宰相までもが、だ。

 病に関する知識が圧倒的に不足していると感じた。


『西方じゃこんなものか。

 簡単な治癒魔法で治る病気が多すぎるからなんだろうな』


 薬師や医者なら、あるいは知っているのかもしれない。

 この場にいないから意味はないけど。


 嫌な予感がしたので、ひとつ聞いてみることにした。


「この国じゃ病人が死ぬことは珍しくないのか?」


 俺の質問にダニエルがばつの悪い表情を浮かべる。


「重い病気であれば、そうですね」


 答えたのは総長だった。


「平民の中には風邪をこじらせて亡くなる者もいます」


「金がなくて薬に手を出せない。

 格安の治癒魔法すら受けられない、か」


 神職も無償で治療は行わないからな。

 宗教団体の運営にだって金はかかる。

 奉仕活動をすることがあっても常にって訳じゃない。


「左様にございます」


 俺の推測は総長の返事によって肯定された。

 残念だが、それは仕方のないことだ。

 この世界は日本のように医療も保証も発達していない。

 誰でも病気や怪我の治療が受けられるわけではないのだ。


「治癒魔法を受けることができる者たちでも助からないことがあるよな」


 俺が知りたいのはそこだ。


「そうですね。

 貴族や豪商の中でも亡くなる者はおります」


「それ、たぶん適切な治療じゃないから死んでるぞ」


「「「ええっ!?」」」


 俺の言葉は相当に衝撃的だったようだ。

 フリーズするのかと思ったら、前のめりに押し寄せてきた。


「「「どういうことですかっ!?」」」


 ジジイにババアにお姉ちゃん。

 3人の顔がドアップで迫ってくる。


 ここにゴードンが加わっていたら至近距離で唾まで飛ばされていたはずだ。

 まだマシと感じるべきなのか。

 それとも鬱陶しいと思って良いのか。


「近えよ、落ち着け」


 とりあえずジジイの顔を押し退けておく。


「申し訳ありません」


「すみません」


「失礼いたしました」


 3人が我に返り、引き下がってくれた。


「重い病気になると治癒魔法に魔力を注ぎ込んだから治るってもんじゃないんだ」


「そ、そうだったのですか……」


 動揺を隠しきれずに唸るダニエル。


「総長なら知っているんじゃないか。

 怪我と病気では使う治癒魔法の質が違うだろう」


「言われてみれば、そうですね」


「総長が長らく伏せっていたのも原因が毒だと特定できなかったからだろ」


 俺がそう言うとナターシャが困惑の表情を浮かべた。



「恐れながら、毒と病では別物だと思うのですが」


「病によっては体の中で毒が作られるものもあるんだよ」


「それは真でございますか!?」


 またしても身を乗り出してこようとしたダニエルの顔面を片手でキャッチ。


「ふぐっ」


 グイッと押し返す。


「申し訳ありません」


 どんどん、この爺様のイメージが崩れていく気がする。

 もっと思慮深かったと思うのだが……

 これが地だというなら知らんがね。

 他に部下がいたり、うちの面子が残っていれば違ったのかもな。


「嘘なんか言わねえよ。

 毒ができる病も色々あるんだ。

 コレラ、O-157、破傷風、百日咳、ボツリヌス症……

 こんな具合に原因は1種類じゃないんだ。

 毒性も症状も違うしな。

 それぞれに細かい説明なんて始めたら日が暮れるだけでは終わらんぞ」


 細菌性の病気なんて、どこから説明したらいいのか。

 顕微鏡とか持ち出さないといけなくなってくるだろうし。

 少なくとも、この場でするような話じゃないだろう。


「何でもかんでも治癒魔法なんて思っていると痛い目を見るってことだ」


「「「……………」」」


 返事がない。

 呆気にとられているように見受けられるが、ピンと来ないのだろうか。


「原因を特定せず闇雲に治癒魔法を使っても逆効果ってこともあるんだぞ」


 殺気立ったりはしないが脅すように言ってみる。

 病気に対しての認識が軽すぎる気がしたからだ。

 重病なら助けるという意識が薄らぐというか。

 死を覚悟するような諦念があるのだろう。


『最初から諦めていたら助かるものも助からんだろ』


 俺なんかは、そう思うのだが。

 向こうの3人はそうではないらしい。

 そろって「そんなこと言われても」と言わんばかりに困惑の表情を見せている。


「今さっき挙げた病気は症状を治しても原因が除去できないと再発することがある」


 免疫力しだいとも言えるが、そこまで説明するつもりはない。

 反応も薄いし。

 やはりピンと来ないようだ。

 病気の知識が薄いとこんなものなのだろう。


「病気は治癒できても症状が進行してしまったことで手遅れになることもあるしな」


「それは確かに」


 重苦しい雰囲気を漂わせて総長が頷いた。

 ダニエルもだ。


『長く生きていれば人の死にも多く向き合うことになるだろうしな』


「手遅れの場合はどうにもならんが──」


「ヒガ陛下にそんなことがあるんですか!?」


 ナターシャが俺の言葉を遮るような驚き方をした。


「あのなぁ、俺は神様じゃないんだぞ」


 神の息子ではあるけれど。


「何でもかんでもできる訳じゃない」


「そうなんですか!?」


 驚愕に目を見開くナターシャ。


「おい」


 そこは驚くところじゃないだろう。


『俺を何だと思っているんだか……』


 ナターシャの中では確実に人間扱いされていないと思う。

 そこのところを重点的に小1時間は問い詰めたいところだ。

 が、そんな気力は湧いてこない。


「そもそも俺は医者でも神官でもないんだ」


「分かっておりますとも」


 俺の主張に当然と言わんばかりのナターシャ。


「お? おう」


 意外な返事に俺の方が戸惑ってしまったさ。


「ヒガ陛下はミズホ国の王様であらせられます」


 ガクッっとズッコケた。


「あら?」


「あら、じゃねえよ。

 違わねえけど、そういうことを言ってんじゃねえ」


「失礼いたしました」


「まったく……

 俺はしがない賢者なんだからな」


 知識だけで知恵がない賢者ではあるが。

 しかも知識だって【諸法の理】なんてチートスキル頼みだし。


「「「いやいやいやいやいや」」」


 3人そろって否定するように目の前で手を振っている。

 お笑い番組でも見せられているような気分だ。


「なんだよ?」


「しがないなどと御謙遜を」


 ダニエルが真顔でツッコミを入れてきた。


「ヒガ陛下の凄さは我々一同よぉく存じ上げておりますよ」


 総長から笑顔で追撃が入る。


「そうです。

 御自身を卑下なさるのは良くないですよ」


 ナターシャまでもが鬼気迫る顔で言ってきた。

 宰相と総長はまあいい。

 だが、ナターシャだけは変だ。

 あまりに必死すぎるように見えるのだが。


『人生経験の差か?』


 この場合は当てはまらないだろう。


「あれほど凄いのに自分を誇らないなんて信じられません」


 何があれほどなのかは不明だが、言いたいことは何となく理解した。


「それはお前さんの価値観に基づく主張だろ」


「うっ」


 ナターシャがたじろぐ。

 そればかりか必死すぎた表情が一気に鳴りを潜めてしまった。


「俺には俺の価値観ってものがある。

 できないものを出来るとは言いたくない」


 だから「しがない」と言ったのだ。


「今回の一件にしてもそうだ。

 限られた情報だけで診断を下せと言われても無理がある」


 それは先程も言ったように俺が専門家ではないからだ。

 知識からある程度の見当はつけられるかもしれないが。

 それにしたって正しいとは限らない。


「もし直に診ることになっても助けられるとは限らないんだぞ。

 完治させられると豪語して、無理だったらどうするんだ?

 責任を取るのは診察した人間になるということを忘れるな」


 そこまで言って一息ついた。


『過大評価されるのは堪らんな』


 その上無茶な仕事を引き受けさせられて責任は自分持ち?

 冗談キツすぎる。


読んでくれてありがとう。

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