684 トラブルが見えてきた?
干ばつの件については理解した。
認識に温度差があっただけで、こうも困惑させられるとは思わなかったが。
結果、感謝するのも程々にしてほしいと要望して終了である。
その場に居合わせた全員が何か言いたそうにはしてたけど。
とにかく騒がれるのは好きじゃないから感謝は心の中でしろと言ったら鎮静化した。
代わりに眼差しが変わってしまいましたよ?
それまでが感謝だとすれば、今は尊敬って感じかな。
両方がない交ぜになっているのかもしれないが。
大勢から熱い視線を送られるというのは元選択ぼっちには辛いものがある。
煩いわけじゃないから、これ以上は何も言えないし。
邪険にする訳にもいかない。
『この国の人間ってホント義理堅いのな』
中には変なのもいたけれど。
禿げ脳筋とその弟とか。
冒険者ギルドで絡んできた連中とか。
そんなのに比べれば、ここにいる面々は鬱陶しいとまでは言えない。
疲れはするけどな。
連絡手段の魔道具についても了承してもらった。
腰を落ち着けて話をしようってことで移動する途中、簡単に話しただけだったが。
なんか相談したいことがあるらしい。
そのためか忙しいだろうに自ら部屋へ案内してくれたよ。
『ようやく本命の話か』
ダニエルの様子から察するに深刻な事態ではなさそうだ。
だからといって面倒事でない保証はないのだけれど。
さて、どんな話が飛び出して来るやら。
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来て早々に相談があると言われて連れて来られた場所が謁見の間ではなかった。
もっと奥まった場所にある一室。
そして、その部屋には先客がいた。
見知った顔である。
クラウド王ではない。
『向こうも暇ではないだろうしな。
こっちも急に押し掛けてしまったし』
だから王がいないとしても、さほど気にならない。
むしろ目の前の相手が元気そうにしていることの方が俺を喜ばせるというものだ。
「御無沙汰しております、ヒガ陛下」
赤毛の婆さんがそう言って深々と頭を下げた。
宮廷魔導師団総長ベルベット・ジョイスである。
後ろに控えていた補佐役のナターシャ・ホルストも同じくお辞儀した。
「よっ、久しぶり。
元気そうで何よりだ」
軽く手を挙げて俺からも挨拶した。
人の良さそうな老人が元気にしているのは微笑ましいものだ。
祖父母に育てられたからなんだろうね。
それと一時は酷い状態だったから、余計にそう感じるのだろう。
顔を上げた総長が苦笑する。
「相変わらずですね」
俺の砕けた態度を見て言っているのだろう。
そんなものを気にする人間はこの場にはいない。
「そうかい?
見たところ公式の場じゃなさそうだしな」
向こうのことを気遣う必要もなさそうな場所でまで堅苦しい態度は取りたくない。
「ヒガ陛下、できれば護衛の方々には席を外していただきたく」
ダニエルが申し訳なさそうに言ってきた。
「余程の大問題みたいだな」
「ある意味では……」
言い辛そうに頷かれる。
見れば総長の笑顔も消えていた。
適当に言った自分の言葉を強く意識させられる。
『これは腹をくくる必要があるか』
俺は軽く溜め息をついた。
そして皆の方を見る。
「そういうことだ」
俺がそう言うと、うちの子たちが無言で部屋の外へと出て行った。
が、俺が連れて来た面子なら廊下に出たくらいじゃ室内の会話も聞き取れる。
たとえ室内に遮音の術式が施されていてもね。
ブルースも3桁レベルになっているしな。
ネタバレをするつもりはないので、ここはスルーだ。
それ以前に聞くつもりはないと思う。
「これでいいか?」
「ありがとうございます」
「で、どんな問題なんだ」
間怠っこしいのは無しにしてくれと目線で伝える。
ダニエルの眉間に皺が寄った。
しばし沈黙が続く。
『そんなに言い辛いことなのかよ』
急かしたところで口を割るとも思えないので待つことにした。
ダニエルが口を開くまで数分ほどかかっただろうか。
その間に宰相として考えられることを考えていたのではないかと思う。
「我が国の王太子に関することなのです」
ダニエルがおもむろに語り始めた。
「原因不明の病気にでもなったか?」
俺の何気ない言葉にダニエルが目を丸くした。
それどころか総長やナターシャもだ。
「なんだよ、図星か」
それなら俺が診察して解決かと思ったのだが、そう単純な話ではなかった。
「いえ、殿下が病気になられたわけではありません」
「……訳が分からん」
図星じゃなければ、そこまで驚かんだろうに。
「いえ、当たらずとも遠からずでしたので……」
「じゃあ許嫁がそうなったとかか」
適当に言ってみた。
「「「っ!?」」」
今度こそ図星だったらしい。
全員驚愕の表情で固まってしまった。
ナターシャなんて震え出す始末だ。
『なんで震えるんだよ?』
「さすがは干ばつを予言されたヒガ陛下ですな」
絞り出すようにダニエルが言った。
『なんか適当に言ったら、まぐれ当たりしたって言い辛い雰囲気だな』
まあ、いいか。
前の予言にしても仕立て上げたものだし。
「そんなこと言われてもな。
細かい情報は知らんぞ」
念のために牽制しておく。
すると、向こうの空気が弛緩した。
何もかもお見通しのように感じていたのかもしれない。
俺の話しぶりから、そうではないことくらい分かりそうなものなのにな。
面倒なので指摘はしないが。
それよりも詳しい事情を聞かないことには、どうしようもないだろう。
「どういった事情なんだ?」
俺は話を聞くべく先を促した。
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一通りの話を聞き終わった。
『話を整理してみるか』
まず、王太子の名前はストームであると知った。
『初めて聞いた』
それどころか会ったこともない。
外見はクラウド王の若い頃にそっくりなんだそうだ。
実務能力も高いという。
ただし、存在感が今ひとつらしい。
『勇ましそうな名前なのに影が薄めとか……』
微妙に憐れだよな。
とはいえ、そのあたりの悩みどころは今回の一件とは関係ないのだが。
問題は許嫁である。
この国の出身ではないそうだ。
隣国エーベネラント王国の王女で名前はフェーダ。
王太子と姫が年端もいかぬ幼子だった頃に婚約が決まったという。
それなのに本人同士が会ったことが皆無というのが凄い。
一応、肖像画を送り合ったりはしているそうだが。
『王族の婚姻ってのは大変なんだな』
うちの場合とは大違いである。
本人同士が合意して役所に届けを出したら終わりである。
結婚式をあげるかどうかは自由だし。
俺は奥さんたちの要望を聞いて食事会で終わらせたけど。
奥さんたちに言わせると、豪華な式は周囲に気を遣うだけになりそうで嫌だってさ。
結婚したという実感が得たいのに気疲れなんてしたくないってことだろう。
親しい人たちと飲み食いして「おめでとう」を言ってもらえたら最高とも言っていた。
『あー、そういやリオンのはまだだったな』
帰ったら、ちゃんとしておこう。
そのためにも問題を解決しないといけないのだが。
最近になってフェーダ姫の様子がおかしいという噂が届くようになったそうだ。
幼い頃は快活だったにもかかわらず、近頃は引きこもるようになってしまったと。
ストーム王子も気になって手紙を何通も出したという。
だが、返事は代筆ばかりで内容も当たり障りのないことばかり。
この代筆も本人がまるで関わっていないと王子は主張しているのだとか。
『よく分かるもんだね』
感心させられたが、主張が確かだという保証はない。
手紙から感じた違和感などは間接的なものだし。
そう思ったのだが、ダニエルによると王子は確信しているという。
今まで何度も文通を交わしていたからこそ分かるのだそうだ。
『筆まめな王子様だ』
紙が貴重な西方で王族だからこそできることだろう。
贅沢ではあるが決して無駄遣いにはならない。
許嫁同士の絆を周囲にアピールできるのは政治的な意味合いもあるからだ。
だからこそエーベネラント側も代筆とはいえ必ず返事を寄越している。
フェーダ姫が関わっていない疑惑があるというのに御苦労なことだ。
『まったく、政治が関わると碌なことがねえな』
王子自身は純粋に文通を楽しんでいたそうだが。
『手紙の方が存在感あるんじゃないか?』
それを声に出して言う訳にはいかんがな。
とにかくフェーダ姫の様子がおかしいというのはゲールウエザー王国でも認識された。
それについて噂が蔓延することのないようにと釘を刺したという。
「そしたら極秘で使者が来た、か」
「はい」
神妙な面持ちでダニエルが答えた。
「王弟だから極秘ってのも分かるんだが」
使者として来るには大物過ぎるだろ。
「仕方ありませんな。
迂闊な者にこれほど重要な情報は渡せません」
うちの面子を退出させる訳だ。
俺に聞かせるだけでも問題がある。
「そりゃそうか。
下手すりゃ国際問題だ」
俺の言葉に3人とも渋い表情となった。
「実は姫が伏せっていて面会謝絶なんて簡単には言えないよな」
「それについては……」
「心配しなくても他言はしねえよ。
ミズホ国の王として誓おう」
「助かります」
ダニエルが心底安堵したと言わんばかりにホッとしていた。
読んでくれてありがとう。




