673 サプライズは考えなしにやるものじゃない
徐々に銘々の遊びを中断していく。
時間は午後2時を過ぎたあたり。
集合時間の2時半に向けて片付けを始めたり海から上がったり。
そうこうするうちに全員が浜辺にそろった。
集合時間の5分前。
『5分前行動が徹底されているな』
日本にいた頃は集合時間を集合を始める時間と勘違いしている奴もいたけどな。
論外であるのは言うまでもない。
個人的にはジャストギリギリに間に合わせるタイプもアウト。
故に国民にも徹底するよう指導した訳だ。
国民に成り立てほやほやの人竜組には軽く教えた程度なんだが、実行できている。
空気を読むのに長けているから周囲に合わせた結果だろう。
とにかく実行できているなら問題ない。
転送魔法を複数展開。
大きな声を出さなくても全員に俺の声が届くようにセッティングした。
「さて、諸君」
皆に呼びかけて声の届き具合をチェックする。
『問題なし、と』
「これより午後のイベント開催を宣言する」
軽く間を置くが、みんな俺の言葉を待っている。
ガヤつくこともない。
「何をするかは説明していなかったから気になる者もいるだろう」
あえて説明していなかったので食い気味に耳を傾ける者たちもいる。
「軽く楽しめる程度の遊びを用意したつもりだ。
ただし、諸君らの奮闘次第でおやつの取り分が変わってくる」
おやつという単語を俺が口にした途端にざわめきが拡がっていった。
「それでこの時間に集合なのね」
人魚組の1人がそう言いながら頷いていた。
その周りにいた他の人魚組も同じように頷いている。
「半端な時間だと思ったけど、そういうことかー」
「時間だけじゃないよ」
「そうそう、飲み食いを控えるようにって言われてたよね」
その指示は俺が昼食前に出したものだ。
昼ご飯を食べ過ぎないようにとも注意した。
昼は屋台飯だったからだ。
何をどれだけ食べるかは本人の判断次第。
調子に乗って食べ過ぎる者も出かねなかったからね。
弱めのブーイングをもらったが押し通した。
おやつが食べられなくなったら可哀相だし。
なんにせよ指示は守られた。
「時間も指示もこういうことだったんだね」
「我慢して良かったー」
「それはどうかなぁ」
「どうしてよ?」
「取り分が変わってくるということは、おやつ抜きってことも……」
「「「「「そんなのやだよーっ」」」」」
絶望したと言わんばかりの嘆きがそこかしこから聞こえてくる。
絶叫する感じではないが心からの叫びであるように聞こえた。
『なんだかなぁ』
普段からおやつを必ず食べるって訳でも無いのに、その反応とはね。
指をくわえて見ているのが嫌ってことなのだろうけど。
「皆ちゃんと指示を守ったから、おやつ抜きはないぞ」
俺がそう言うと、全体に空気が緩くなった。
お墨付きをもらって安堵したってところか。
『そんな大層なもんじゃないんだけどね』
「ただし、ゲームで良い成績を収めれば、おやつ増量だ」
「「「「「やった─────っ!!」」」」」
つい今し方と違って喜びを爆発させた感じの歓声が上がった。
既に自分の分が増量されるみたいな空気になっている。
『まったく……
どんなゲームをするかも発表してないのに、これか』
完全に取らぬ狸の皮算用状態である。
「はやく、はやくぅーっ!」
「待ちきれないよぉーっ!」
他にも急かす声が多数あちらこちらから聞こえてきた。
『現金だよなー』
思わず苦笑が漏れ出てしまう。
そんな雰囲気の中でもゲームのことが気になる者もちゃんといるようで……
「陛下ーっ、どんなゲームするのーっ!?」
後方から聞いてきた者がいた。
こういう風に聞いてくれるのは話を進めやすくて楽だ。
「それではゲームの内容を発表する」
俺が宣言するとピタリとざわめきが静まりかえった。
やはり皆もゲームの内容は気になるらしい。
『おやつの増量がかかっているから当然か』
俺は事前に録音しておいたドラムロールを流した。
「ドゥララララララララッ」
緊張感を盛り上げるのに一役買ってくれるだろうという目論見は当たったようだ。
みんな前のめりで、まだかまだかと待っている。
「ダンッ!」
止めた瞬間は全員で半歩前に出てしまいそうになっていた。
「ゲームはスイカ割りだ!」
「「「「「お─────っ」」」」」
感心するような声が聞こえてきたが──
『あれ?』
思ったほど反応が芳しくない。
『もっと激しい感じを予想してたんだが』
どちらかというと穏やかな感じである。
熱狂的と言うには、ほど遠い。
その原因はざわめきの中から聞こえてきた。
「スイカ割りだって」
「知ってる?」
「知らない」
『あちゃー……』
せめて動画くらいは見せておいた方が良かったようだ。
『でも、それだと何をするのかバレバレだっただろうし……』
最初からサプライズにしなきゃ良かったと後悔するも後の祭り。
つくづく俺はバカである。
「スイカを綺麗に割るゲームかな?」
「包丁使えば簡単じゃん」
「そこは素手じゃないかな」
「手刀でも綺麗に切れるよ」
「だからスイカ割りなんじゃない?
切るのも禁止なんだよ、きっと」
「「「「「おぉーっ」」」」」
勝手な推論なんだが、説得力があったのか納得している者が多い。
「どうやるんだろうね?」
「空中に放り投げて拳で割るとか」
『無茶苦茶だ』
そんなことしたら粉々に粉砕されるのがオチである。
案の定、それはないとツッコミを入れられていた。
こういう話をしている面子は前向きというか肯定派だ。
人数的に最も多いので助かっている。
残りで多いのは、よく分からないから様子見をしているパターン。
それ以外となると──
「えーっ、スイカ割りー?」
なんてことを言い出す者がいるんだよな。
『まあ、言うとは思っていたけどさ』
このタイミングでこういうことを言う相手といえば、ほぼ決まっている。
「ケチつけるんだったら食べなくていいぞ、マイカ」
俺が牽制をかけるように言うと不服そうにしていたマイカが慌てだした。
「そそそそういうこと言ってんじゃないわよ」
「じゃあ、どういうことだよ」
「スイカ割りなんて競ったりする要素が何処にあるのよ」
「それは私も思った。
ハルくん、どうするつもり?」
ミズキが加勢してきた。
泡食ったマイカに同情したんだろう。
「そんなもん俺が作った独自ルールでやるに決まってる」
「だーっ」
マイカが砂浜にヘッドスライディングした。
本人としては、ずっこけたつもりのようだ。
時間がもったいないのでツッコミは入れない。
「ルールを説明するぞ」
再びざわめきが消えた。
ルールを把握しておかないと勝ち負けに影響すると思っているのだろう。
皆なかなか真剣な表情である。
『そんなにおやつ増量が大事か』
とはいえ、その姿勢は重要だ。
本気でゲームに取り組む姿勢を見せている訳だからな。
その中でマイカが「何というボケ殺し」と呟いていたとかいないとか。
「まずはこれを見てくれ」
幻影魔法で大きめのスクリーンを展開する。
そこに映し出されたのは黒いラインで描き出された長方形状の枠。
その枠内の奥に的が描かれている。
それが少し間隔を置いて並行に3個ほど並んでいた。
「カーリングみたい」
ミズキがそう呟いた。
ちょっとドキッ。
参考にしたのがバレたかもしれない。
『まあ、いいや。
距離とか大きさは全然ちがうし。
ルール的にはまるで別物だし』
「これは、このゲーム専用のレーンだ」
カーリング用語は使わない。
「最初に的の中心を狙ってスイカを転がす」
滑らすのではなく転がすのでボウリングから用語を拝借である。
スクリーン内で3人がメイド型自動人形がそれぞれのレーンでスイカを転がした。
すると左端のが大きな×印で表示され「ブブー」と音が鳴った。
左端の自動人形の足がアップで表示される。
ラインを踏んでいた。
「これはファールとなる。
投げ直しの上、減点もされる」
そして再び「ブブー」という音が鳴る。
カメラの画像が戻ると真ん中のレーンに×印が表示されていた。
スイカが的に到達せずに止まったからである。
「的の内側に入らないと、これもファールになる」
もちろん投げ直しで減点だ。
「ちなみに黒枠の内側にスイカが入ると、黒枠は見えない壁を発生させる。
これはスイカ専用の壁で、スイカを枠の外へ出させないようにするためのものだ」
スイカは綺麗な球体じゃないから左右にぶれやすいんだよね。
「ここまではスイカ割りに関係なさそうに見えるが本番はここからだ」
最後に残ったレーンの自動人形が竹刀を持った自動人形と交代する。
「スイカを転がした者はここでバトンタッチする。
竹刀を持った者がスイカを叩いて印をつければ終了だ」
スイカ割りと称しているが、本当に割る訳ではない。
そんなことしたらグシャグシャになってしまって食べる部分が減るからな。
それと竹刀は特別製で、スイカに当たると赤い印がつく。
「竹刀を持った者はファールライン手前から目隠しをして進んでもらう。
竹刀で探りながら進むのは減点になるから注意しろ。
具体的には竹刀を下げた状態3秒ごとにスイングカウントが取られる」
1カウント目は減点0だが、それ以降はマイナスポイントがつく。
「目隠しには平衡感覚を掴みづらくする効果を付与してある」
この一言に動揺が拡がっていく。
ザワザワとした雰囲気の中、俺は説明を続けた。
「それを補助するためにレーンのサイドに指示を出すメンバーを配置する」
スクリーン内では数人の自動人形が配置されていた。
「見ての通り、この競技は団体戦だ。
6人以上10人以下で組んでもらう。
指示を出すメンバーには、この特殊効果付きの眼鏡を掛けること。
どういう効果があるかは眼鏡を掛けてからのお楽しみだ」
読んでくれてありがとう。




