672 午後のひととき
午前中はとにかくウォータースライダーで遊びまくった。
1巡したくらいでは皆のボルテージが冷めることもなく。
それどころか2巡目で色々してくる面子が出始めた。
「そぉれーっ!」
ジャンプ地点で飛び出した勢いを利用してバク転したり。
「13回転ジャンプー!」
同じくスピンしたりと。
13回というのは、いつもより多く回っております的な競い合いをした結果だ。
最初は3回転だったのだが、徐々に増えていった。
10回を超えるとグルグルすぎてドリルとしか思えなくなってくるがね。
ちなみに魔法の補助はなしで、これだけ回っている。
その気になれば身体能力のみでもっと多く回れたのだけれど。
試す者はいなかったがね。
『そんなに回って意味はあるのか』
俺なんかはそう思ったし。
皆の競い合いは加熱してたけど同じように感じる者も少なからずいたようだ。
そういう訳で13回を最大として回数が減っていった。
直接のブレーキとなったのはマイカである。
「多く回るだけって脳筋よねー」
そんな発言をしたからだ。
何気なく呟いただけだったのだが切っ掛けとなった。
「確かに無理やり回ってる感がある」
リーシャが同意した。
すると──
「美しくないかも」
「優雅さが足りないわ」
アンネとベリーのABコンビも追随した。
結果として、いかに美しく見せるかに皆がこだわり始め回数が減っていった訳だ。
滞空時間の関係もあるから少なめになるのは、むしろ当然と言えた。
それまでが多すぎたのだ。
仕方あるまい。
ただ、結論はすぐに出た。
ジャンプポイントは何カ所もあるので試行錯誤しやすかったからだ。
スマホで動画撮影して研究する者たちまで出る始末だったことには苦笑させられたけど。
最終的に5回が至高ということになった。
俺はノータッチなので皆の出した結論にはコメントしなかった。
普通に滑るだけだったからね。
『なんか1年間の眠りから覚めたときのことを思い出すんだよなぁ』
バカみたいにジャンプして回転してた時が俺にもありました。
『今思い返すとプチ黒歴史だったりするんだな、これが……』
抹消したい記憶である。
そういうのほど後々まで残るので質が悪いのだが。
なんにせよウォータースライダーは皆で堪能したよ。
昼ご飯の時間がずれ込むくらいにはね。
浜で屋台ものを食べる予定だったからウォータースライダーの撤去が前提だったのだ。
それから昼休憩の後はしばし自由時間となった。
確認を取ってみたがウォータースライダーを希望する者はなしである。
「あんまりやり過ぎると次の機会に楽しめなくなるのでいりません」
「やっぱり程々が一番だと思います」
「次も楽しみにしていますね」
エリスたち3姉妹の意見である。
他にも似たような回答をいただきました、ハイ。
そんな訳で昨日と似たような光景が目の前で繰り広げられるのであった。
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俺は皆には付き合わず海の家で茶を飲んで涼んでいた。
熱い時に熱い茶を飲むのも悪くないものだ。
そこへレイナたちが現れる。
残りの面子はアニスとノエル、そしてレオーネとリオンであった。
『珍しい組み合わせだな』
月影の面子は固まっていることが多いのだが。
「枯れてるわねえ」
レイナが苦笑交じりに声を掛けてきた。
「入ってくるなり第一声がそれか」
「だって1人で梅昆布茶なんて飲んでるんだもの」
「落ち着いた午後のひとときに飲む梅昆布茶は旨いんだぞ」
そう反論して俺は熱々の梅昆布茶をチビチビと飲む。
「やだ、お爺ちゃんみたいよ」
レイナにしてみれば、からかい半分の気持ちなんだろう。
けれども酷い言われようである。
わざわざ【ポーカーフェイス】を使うまでもないことなので不服を表情に貼り付けた。
するとノエルの機嫌まで悪くなった。
「ハル兄は疲れている」
ムスッとした表情で反論までしてくれた。
「えー、ハルトが疲れるなんてある?」
ノエルの不機嫌さに多少たじろぎつつも軽口を叩くことをやめないレイナ。
「昨日から色々と気を遣うことばかり」
「えー、そう?」
ピンと来ないのか首を傾げるレイナ。
「人竜組の件」
「そんくらいは大したことないでしょ。
ハルトなら楽勝じゃない。
私達、全然待った気がしなかったわよ」
しかしながらノエルは止まらない。
「花火大会」
「アレは確かに楽しませてもらったけど」
若干怯んだ様子を見せるレイナ。
「枕投げ騒動」
「ぐっ」
更に怯むレイナ。
「今日の準備」
『うわっ、急遽アレを用意したのがバレバレか』
我が婚約者は侮れない。
「え、どういうこと?」
訳が分からないとばかりにレイナが前のめりな感じで聞こうとしていた。
「そんくらいにしとき、レイナ」
そこにアニスが待ったを掛ける。
「何よ、アンタは気にならないの?」
「全然、気にならへんわ」
アホくさと言いたげに溜め息をつくアニス。
「そない些細なこと気にしてたら禿げてまうで」
「なっ……」
目一杯目を見開くレイナ。
虎縞の尻尾も伸びきった上に膨らんでいる。
「禿げませんー!」
いーっと歯を見せる感じで反論するレイナ。
「禿げるっちゅうねん」
同じレベルで応戦するアニス。
「禿げないわよ」
不機嫌さを隠すこともなくレイナは迎撃態勢を取る。
互いに額を付き合わせるほどの至近距離で睨み合う2人。
これがアニメなら互いの視線がぶつかることで火花を散らしていたことだろう。
「禿げるっ」
「禿げないっ」
そこからは堂々巡りであった。
2巡3巡と同じ言葉の応酬となる。
『子供の口喧嘩だな。
よくもまあ飽きもせず同じことを繰り返して言えるものだ』
俺は気にせず静かに茶を啜る。
ここから酷い喧嘩に発展するようには見えなかったからだ。
5巡目あたりで再び歯をむき出しての睨み合いとなった。
『そろそろアニスが切り札を使うだろ』
「ノエル怒らせたら後がしんどいで」
俺の予測通りにアニスが伝家の宝刀を抜き放った。
「うっ、分かったわよ」
これにはレイナもタジタジである。
「とりあえず座らないか」
レオーネが頃合いと見たのかスルッと割り込んできた。
「もう座ってる」
ノエルはちゃっかり俺の隣の席を占拠していた。
「あのお先に失礼しています」
その反対側にリオン。
こちらもちゃっかりさんである。
「「早っ」」
アニスとレイナが2人の抜け目なさに目を丸くしていた。
「素早いとは言えるけど、アナタたちが無防備だったこともあるんですよ」
レオーネが淡々と指摘する。
「どういうこと?」
怪訝な表情でレイナが聞いている。
アニスも同じ疑問を抱いているのだろう。
コクコクと頷いていた。
それを見てレオーネが深く溜め息をつく。
「あれだけ派手に言い争えば隙だらけなのも分かるんですけどね」
「「っ!?」」
レオーネの指摘にアニスとレイナが互いに顔を見合わせた。
今度は歯をむき出したりはしていない。
もちろん喧嘩腰でもない。
声には出さないが2人とも「あっちゃー」という顔をしていた。
そして恐る恐る俺の方を見る。
「指摘されるまで気付けなかったのは問題だな」
「「うぐっ」」
大袈裟なポーズで仰け反っている両名。
ふざけている訳ではない。
俺が問題視したことにビビっているのだ。
「まあ、致命的状況下でのミスって訳でも無いしな」
俺がそう言うと、明らかに安堵の表情を見せた。
『甘いなぁ』
「戒めとして軽めの罰がいいよね」
「「そんなぁ……」」
途端に情けない声を出す2人。
「心配しなくても俺特性青汁はなしにするから」
なしって言ったのに、ギョッと目をむかれてしまった。
俺の特製青汁は恐怖の象徴として認識されているということだろうか。
腹立たしくも悲しい現実である。
「という訳で、ブルース」
海の家を任せているブルースを呼ぶ。
「はい」
注文待ちで待機していたので即参上。
「この2人はノーマル青汁な」
「はい、かしこまりました。
他の方はいかがなさいますか」
「ハル兄と同じの」
ノエルは俺に付き合うつもりらしい。
「では、私もそれを」
リオンもだ。
「私も梅昆布茶にします」
レオーネもか。
『流行ってるのか?』
そういう話は聞いたことがないが。
「それと、この2人にも口直しに何か聞いてやってくれ」
俺の言葉にブルースは戸惑った様子を見せた。
それで罰になるのかと言いたいのかもしれないが、と思ったのだが。
「気を失っている」
ノエルの言葉に2人を見ると目を見開いたまま意識を手放した2人の姿があった。
青汁という単語に反応してしまったようだ。
「ノーマルって言ったんだけどなぁ」
「しょうがない。
それだけハル兄の青汁はトラウマになっている」
「……………」
容赦ないツッコミだ。
『お兄ちゃんは悲しいよ』
読んでくれてありがとう。




