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654 湯船から上がると幕が上がった?

 俺、ノエル、アニスが湯船から上がる。

 そのタイミングでリオンが声を掛けてきた。


「陛下、よろしいでしょうか」


「どうした?」


 俺の見る限りでは再び具合が悪くなったとかはないようなのだが。


「陛下が好きです。

 私を妻にしてください」


「ああ、そう……」


 言葉が耳から入って脳に届くまではすぐに完了した。


 そこから情報を処理するまでに数拍の間を要したのは何故なのか。

 まあ、頭の中を妻という単語が駆け巡ったからだとは思う。


『妻?

 いま妻と言ったよな。

 紛れもなく間違いもなく妻と。

 妻って、あの妻だろ?

 妻だから妻と言うのであって……

 だから妻なんだよ。

 でも、リオンが妻?

 そんなフラグがいつ立った?

 だって妻なんだぞ!』


 我ながら支離滅裂である。

 後で思い返したときにはプチ黒歴史級のダメージが入ったさ。

 このときは、そんなことに思い至る余裕がないのはお約束。


「はあぁ──────っ!?」


 それはまさしく青天の霹靂。

 俺にとっては不意打ちの一言であった。

 言った本人も顔を赤くさせているので勢いに任せて言ったのは明白だ。

 しかしながら、これでリオンが矛盾した行動をとったことにも納得がいった。


『俺に告りたかったから恥ずかしがりながらも近寄ってきたんだな』


 それに気付けなかった俺はやはり[鈍感王]である。


『ダメダメじゃんか、俺っ』


 頭を抱えて悶絶したくなる。

 露天風呂の端から端まで転げ回りたくなるくらいに。


 だが、そんなことはしていられない。

 向こうからボールを投げられたのだ。

 ほったらかしで悶々としている場合などではない。


 俺が受け止めて返さねばならないだろう。

 まずは受け止めきる必要がある。


「確認しておきたいんだが」


「はい」


 神妙な面持ちでリオンは頷く。


「男女の愛という意味の好きなんだな?」


 自分で言葉にしておいてスゲえ恥ずかしい。

 【ポーカーフェイス】の助けがなければ赤面どころの話ではないだろう。


 それでも聞かねばならない。

 ハッキリさせておく必要がある。

 ほぼ間違いないとは思うのだが。

 そんなことは俺も雰囲気から察していた。


 しかしながら念には念をとも思う。

 先走って勘違いだったりしたら黒歴史が確定してしまうからだ。

 俺の問いかけに対しリオンは更に顔を真っ赤にさせる。

 それでも次の瞬間には大きく頷いていた。


『やっぱ、そうなのか』


 これでファンブルの心配もなくなった。

 間違いなく受け止める。


 リオンはこの上なく本気だ。

 姉が嫁だから自分もという考えがないとは言えないだろうが。

 そういう部分は薄いと思う。

 真面目だから、そういう意識が強いとこんなことは言い出さないはず。


『もしかすると葛藤があったのかもな』


 好きという気持ちと打算を消しきれない気持ち。


『……………』


 間違いなくあっただろう。

 そう思うと申し訳なさで一杯になる。

 だが、罪悪感だけでリオンのことを考えるのは間違っている。

 リオンは真剣に悩んだはずだ。

 その思いを踏みにじるような真似だけはしてはいけない。

 リオンのことを考えてみる。


『最初は行き倒れていたのを発見したんだよな』


 姉に助けを求めるべく、たった1人で集落を出た。

 無謀であるとも言えるが事情が事情だったし、やむを得ない側面があったと思う。


『頑張り屋であるのは確かだよな』


 その後の執念にも近いレベルアップも、それを裏付けていると思う。


『本当に急成長したもんなぁ』


 それも姉を思えばこそなんだが。

 どんだけお姉ちゃん好きなんだよとツッコミを入れたくなるほどだ。


 まあ、それが嫌な訳ではない。

 むしろ好ましいと俺は感じている。

 好きか嫌いかで聞かれれば好きだ。


『美人だし』


 文句のつけようがない。

 ただ、リオンに対する気持ちが現状で愛なのかと聞かれると困る。

 イエスとは言えないだろう。


 じゃあノーなのかと言われると、そうとも言い切れない。

 少なくとも家族に対する情愛みたいなものはある。

 今まで妻にしてきた皆のことを考えてみても決して引けを取らない。


 この時点でマイナス要因は無いに等しいと言える。

 あるとすれば、リオンが悩んでいたであろう打算の部分だけである。


『些細なことだな』


 あの目は真剣だ。

 己の気持ちが欲望にまみれたものであると判断したなら、あんな目はできない。

 これが芝居であるならアカデミー賞ものだ。

 リオンに限ってそんなことはないがね。

 つまり、彼女の内にある打算など気にするほどのことはない訳だ。


『求婚されて断る理由は何一つないってことか』


 他の妻たちも反対はしないだろう。


『むしろ歓迎するんじゃないかな』


 現にアニスもノエルも一切の口出しをしてこない。

 ただ見守るのみである。

 その様子もどこか暖かい感じがするし。


『アニスからは生暖かい視線も感じるがな』


 ニヤニヤ寸前の顔である。

 冷やかされているようで地味にムカつく。


『後でくすぐりの刑だな』


 そしてノエルも平常運転ではない。

 相変わらず他人からは無表情に見えるのだが。

 俺には分かる。


『あれは絶対にワクテカしてる』


 人の告白シーンがそんなにノエルの興味を引くとは思わなかった。


『恋愛映画じゃないんだが』


 そう考えて、ふと想像してしまった。

 もしも今の状況が映画のワンシーンだったら、と……

 主役がリオンで相手役が俺ということになるだろう。


『うおーっ、ムズムズするぅ!』


 恥ずかしいにも程がある。

 スクリーンに映し出されるのが俺たちだと思うと──


『似合わねー』


 真っ先に思い浮かんだのが、それである。


『顔だけなら絵になるかもね』


 恋愛映画でメインをはれると思う。

 リオンは美少女から脱却しつつある美人さんだし。

 生まれ変わった俺はベリルママのお陰でイケメン顔だ。


『とはいえ状況が酷すぎるよな』


 露天風呂で告るなんてシチュエーションなんてあるだろうか。

 せめてお湯に浸かりながらだと絵になったかもしれないが。

 リオンはのぼせた後で岩ベンチから立ち上がった状態だもんな。

 俺は湯船から上がった直後だし。

 リオンも俺もタオルで隠しちゃいるが、告白の雰囲気にはそぐわない。

 コメディ色のある映画だとしても笑う要素などない。


『グダグダすぎだろ』


 だが、ここで折れてはいけない。

 不格好だろうが何だろうがリオンは本気なのだ。

 ならば俺も本気でボールを投げ返さねばなるまい。

 もちろんストライクでね。


『……なんて言えばストライクになるんだろ』


 俺、ダメダメである。

 こういう時に選択ぼっちだった影響が出てしまうのだ。

 実に情けない。

 下手をすれば[ヘタレ王]なんて称号がつけられたり……


『不甲斐ない。

 しっかりしろよ、俺っ!』


 上手く言おうとするからダメなんだ。

 向こうが本気でぶつかってきたなら俺も本気で返すまで。


「リオンが本気なのはよく分かった」


 彼女の目を見ながら話し始める。

 俺の強い視線を受けてもリオンの瞳は揺るがない。

 体の方はブルッと小さく震えてはいたがね。

 でも、それだけだ。


 覚悟を決めて告った人間が逃げたりはしない。

 逆に俺を強い視線で見返してきた。


「ならば、俺はそれに応えよう」


 俺も逃げない。

 真正面でリオンの視線を受け止める。


「俺はリオンを妻として迎えることをここに誓う」


 回りくどい言い方はなしだ。

 誤解されるような言い回しをするよりはマシだろう。

 たとえセンスがないと言われたとしてもね。

 リオンの返事を待つ。

 俺からはボールを投げ返したのだ。

 後はリオンがそのボールを受け止めるかどうか。


「……………」


 返事がない。

 心の奥底から徐々に不安が増してくる。

 本当に大丈夫なのかという気持ちが湧き上がってくるのを止められなかった。

 論理的に考えれば、間違った選択をしていないのは明らかなんだが。


 それでも動揺を抑えられない。

 人は感情で行動する生き物だからだ。

 すべてを引っ繰り返されることだって無いとは言えない。


『やっぱり御免なさいとか言われたら、どうする?』


 まあ、どうしようもないのだが。

 問題は少ないとはいえ人前だということ。


『オーケーでも恥ずかしいのにな。

 ノーだったら黒歴史級だぞ、これ』


 そう思うとドキドキを御しきれなくなってきた。

 そのタイミングで俺は見たくないものを目撃してしまう。

 リオンの両頬を伝うもの。

 それは涙であった。


「ちょっ!?」


 そこから頭を下げられてしまう。


『展開が急すぎてついて行けねー。

 これって御免なさいってことだよな』


 どうしてこうなった。


読んでくれてありがとう。

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