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637 ドヤ顔をするも泣かれてしまった

「気に入ったから誘ってみた」


 ネージュたちが理解できないようだから2回目を言ってみた。

 もちろん大事なことですよ?

 ついドヤ顔になってしまうんだけど、これは許されてもいいのではないだろうか。


「他に理由なんてないんだが?」


 そしてダメ押しの台詞をドン!

 俺の言葉にネージュたちはこれ以上ないくらい目を見開ききっていた。


「わざわざ尋ねてきて事情を説明してくれたのは大きいわ。

 君らの誠意は見せてもらった。

 袂を分かった以上、自分たちの責任でもないだろうにな」


 ドヤ顔のまま話を続けてみたのだが……


『ん?』


 何か様子が変だ。


『瞳が潤んでるんですけどぉ!?』


 どう考えても泣かれてしまう5秒前って感じだ。


『俺が何かした?』


 思い当たる節がない。

 気に入ったと言ったくらいで泣きそうになるなんて思わないだろ、普通。


『まさか、泣くほど気持ち悪かったとかか?』


 国民になるかと誘ったくらいで拒絶反応が激しいのだとしたらショックすぎるだろ。

 それに誘っただけで、強制した訳じゃない。

 断る余地だってあると思うんだが。


『もしかして無いのか?』


 色々な心理的プレッシャーを感じて強制されていると思い込んでいるとか。

 もし、そうだとしたら──


『俺がネージュたちを追い込んだことになるよな、これ』


 無実だと言いたいところではあるが……

 信じてもらえるかは微妙な気がする。

 現に泣きそうになっている状況なので言い逃れはできそうにない。


『何もしてねえんだぞぉー』


 そう思いたいだけじゃないのかと聞かれたら否と断言できるだろうか。

 厳しいかもしれない。

 心当たりはないが、やらかしたかもしれないという思いはハンパなくあるのだ。

 とにかく泣かれる理由が分からない。


 理由はともかく止めなきゃならんのじゃなかろうか。


『どうやってさ!?』


 泣きそうになってる理由も分からないのに止められるとは思えない。

 いや、分かっても止められないだろう。

 俺が混乱している間にもネージュたちの瞳は潤みを増していく。

 ついには、ぽろりと涙をこぼすことになった。


『嘘ぉ────────んっ』


 誰が最初とかでなく、ほぼ同時に全員が涙を流し始めた。

 スルスルと頬を伝い流れ落ちていく。

 嗚咽すらなく、ただただ涙を流すのみ。


 それでも俺からすると一大事なんですが。

 罪悪感ゲージがフルスロットルでレッドゾーンへと叩き込まれてしまいましたよ?


『どどどどどうすりゃいいんだぁっ!?』


 ハッキリ言って邪竜と戦っている方が何倍もマシである。

 3倍と言いたいところだが、3倍じゃ全然足りない。


『いや、そんなのに拘っている場合じゃないんだよ』


 とにかくネージュたちに涙を流されてしまったのは事実。

 不甲斐なさに打ちのめされそうだ。


『何とかしないとっ!』


 そうは思うが、気ばかりが焦る。


「おおおおおおいいぃぃぃ!?」


 何とか声を掛けようとしたが、この有様。


『あ、ダメだ。

 混乱したままだ、俺』


 それが理解できていながら落ち着くことができない。

 助けを求めるべく皆の方を振り返る。

 一斉に視線をそらされた。


『薄情者ぉっ!』


 どうやら救援要請はできないようだ。

 こういう状況で女性に泣かれた経験が皆無の俺にどうしろと言うのか。


 伊達に何十年と選択ぼっちを続けていた訳ではない。


『自慢にゃならんがな』


 小さく溜め息をついてネージュたちの方へ向き直った。


「申し訳ありません」


 涙も拭わずネージュたちが頭を下げた。


『どういうこと?』


 一瞬、訳が分からなくなる。

 そして断られたのだと気が付いた。


『うーん、残念』


 そうは思うものの引き止めるのは良くないだろう。

 泣かれたからなんて理由ではない。

 彼女らの意思が重要なのだ。

 それは尊重すべきだろう。


「取り乱してしまいました」


『ん? あれ?』


「いいや、取り乱したのは俺の方だろ」


 何か違和感を感じつつも返事をする。


「こんな風に受け入れてもらえるとは夢にも思っていませんでした」


「そうかい?」


 違和感は少しずつ膨れ上がっていく。


「同族同士ですら憎しみ合うことになった我々にはとても新鮮だったのです」


「そうなんだ」


『何か変だよな?」


「凄く嬉しくて思わず泣けてしまいました」


「そっか……」


 ここに来てようやく俺は自分が勘違いしていたことに気が付いた。


『あっぶねー』


 断られたのではない。

 泣いたことを謝られただけだったのだ。


『どうりで変だと思ったよ』


 誰かに事情を知られたら気付くのが遅すぎると言われそうだ。


『変なこと言わなくて良かったー』


 危うく恥をかくところだったさ。


「それは悪いことじゃないよ」


 ドキドキしながら、とにかく無難な言葉を絞り出す。


『カッコ悪ぅ』


 そうは思うが、これが精一杯。

 何とも締まらない話である。


「ありがとうございます」


 ネージュたち人竜族一同8名は深々と頭を下げた。

 そして顔を上げる。

 先程の不安げな表情はもう見られない。


『大丈夫なようだな』


 俺もちょっと落ち着いた。

 まだドキドキはしてるけどな。


「ヒガ陛下」


 ネージュが真剣な面持ちで呼びかけてくる。


「おうよ」


 返事をすると、全員が俺の目を見てきた。

 迷いのない本気の目ってやつだ。

 それを証明するかのようにネージュがハッキリと言った。


「私はヒガ陛下のお誘いを受けようと思います」


 間を置かずにリュンヌたちもネージュに続く。


「「「「「よろしくお願いします」」」」」


 8人がそろって頭を下げた。


「こちらこそ、ヨロシクな」


 内心ドキドキを残しながら返事をしたのは内緒である。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ネージュたちを国民として迎えることになった。

 そのあたりで遊び足りない面々はめいめいで散らばっていった。


 ひたすら泳ぐ者。

 普段、漁で散々泳いでいるだろうに楽しそうだ。

 漁のときと違って水面を派手にバシャバシャさせたりできるのがいいらしい。

 人魚組もいるので交流を深めることにもつながっている。


 そのうち水面からジャンプして潜ってとあれこれやり始めた。

 水魔法で空中に大きな輪っかを作って潜り抜けたりとか。

 ジャンプ後に空中でクルクル回ってみたりだとか。

 少し高めの位置に浮かせたあんパンに食らい付いたりとか。


『何故にあんパン?』


 遊んでいる面々の会話からするとイルカショーごっこらしい。

 あんパンである理由がますます分からなくなった。


『もしかして運動会のパン食い競争と混同しているのか?』


 そのへんは謎である。

 後で確認するしかあるまい。


 続いて浜に目を向ける。

 砂遊びで盛り上がっている者たちがいた。


『ちょっとデカくないか?』


 明らかに皆の背丈を軽く超えている。

 幅もそこそこあるし。

 理力魔法で浮きながら作業をする者までいる始末だ。


『そこまでするのか』


 本気で遊ぶのは良いことだと思うけどな。


『それにしても、これは……』


 見覚えのある形が築き上げられている。


『ミニチュアサイズだが日本の城だよな』


 記憶に間違いがなければ旅行に行ったときに見た城だ。

 確か白鷺とも言われていたと思う。

 砂で築城すると、そういう雰囲気が感じられなくなってしまうのが些か残念ではある。


 それよりも気になるのは比較的近くで飛び回って遊んでいる者たちがいることだ。


『大丈夫か、これ』


 突っ込んできて惨事が引き起こされないことを願う。


『まあ、皆ならそういう事故も起きないか』


 ビーチボールで遊んでいるようだし勢いがつきすぎるということもないだろう。

 空気抵抗をもろに受けるボールだから余裕を持って目配りできるだろうし。


『これがビーチバレーだったら、どうなっていたか分からんがな』


 盛り上がるにつれ周囲の状況への目配りが減っていくことは想像に難くない。

 ギリギリの状況が発生することもあるだろう。


『そういうこともあって向こうの面子は離れた場所なのか』


 砂遊びをしている面々とはビーチボール組を挟んだ反対側が賑々しい。

 派手に走り回っている者がいて周囲の者たちがはやし立てている。


『なんだ、ありゃ?』


 四つん這いで走っているんですが?


 しばらく様子を覗ってみて何をしているのかは理解できた。

 フリスビードッグごっこである。

 本人たちがそう言っているのだから間違いない。

 実際、それっぽく見える。

 わざわざベリルママに結界まで張ってもらって動きに制限もつけているし。


『それを選択するセンスが独特すぎるだろ』


 個人の趣味なのでとやかくは言わないがね。

 犬というくらいだからパピシーたちが夢中になっている、という訳でもない。

 妖精組も人魚組も関係なしだ。

 さすがに人魚組はフリスビーを咥えたりはしないようだけど。


 よく見れば月影の面々もいる。

 そしてマリカもここだ。

 狼モードで駆け回って一番の喝采を受けていた。


『本物には敵わないよな』


 どうにか対抗できるのは妖精組くらいのものだろう。

 それでも骨格上の問題から四つん這いの疾走はマリカの独壇場ではあったが。


 なんにせよ、みんな楽しそうで何より。

 生き生きと遊んでくれるなら何だっていいと思う。


『海水浴に来た甲斐があるってもんだ』


読んでくれてありがとう。

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