636 本当に弟子になりたいのか?
修正しました。
どうたって → どうだって
いまひとつネージュらの意図が読めない。
が、土下座モードは解除されたのでとりあえずは良しとしよう。
今度は全員そろって最敬礼状態だがな。
『ビシッと決まって格好いい……じゃなくてっ!』
「とにかく顔を上げてくれ。
話はそれからだ」
ビクともしてくれませんよ?
『やむを得まい』
脅迫っぽくて嫌なんだが。
「できないというなら話はここで終わりだ」
ネージュたちは俺の言葉を聞くなりシュババババババババッと直立不動となった。
表情は強張っている。
というより今にも泣きそうだ。
罪悪感ゲージが急上昇していく。
『これ、俺が悪いのか?』
そうでないことを切に願うばかりだ。
できれば直立不動というのも勘弁してほしい。
『傍目には変態かドSな鬼畜男に見えるんだろうな』
海辺で水着姿の美女たちを苛めているようにしか見えないし。
そうは言っても、現状のネージュたちには直立不動が精一杯のようだ。
俺がああ言わなければ、ずっと土下座で通していただろう。
少なくとも話を聞き終わるまではこのままのはず。
これ以上、脅迫めいたことは言えない。
言えば言うほど互いにダメージが来るからな。
話が進まず共倒れなんてことになったら目も当てられない。
『しょうがないか』
憂鬱な気分を抱いたまま話を進めることにする。
でないと何時まで経っても、このままだ。
「それで理由は何なのさ?」
少し待ってみたが返事がない。
どうやら完全にテンパってしまっているようだ。
『あー、嘘だろ……』
ナイフ1本で山ひとつ開墾することになったらこんな気分になるだろうか。
さすがにそれは言い過ぎかもしれない。
だが、途方に暮れそうになったのは事実である。
『どうすんだ、これ』
眺めていても何も始まらないだろうし。
放置してもすぐには復帰できないのは明白だ。
だからといって逃げ出す訳にもいかない。
『しょうがない』
俺はバフを使うことにした。
『これで落ち着いてくれりゃいいんだが』
結果が出るまでは俺にも分からん。
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テンパっているネージュたちにバフを掛けて待つことしばし。
引きつった表情が少しほぐれてきただろうかという頃合いを見て再び聞いてみた。
「どうして弟子になりたいんだ?」
「我々が弱いからです」
『それはどうなんだろうな』
間違っても弱くはない。
うちを基準に考えれば強くもないけれど。
だが、西方では決死の思いで対応するはずの翼竜でさえ子供扱いする相手だ。
弱いと言い切ってしまうことには違和感を覚える。
「何を基準にして弱いと言っている?」
「えっ!?」
「少なくともお前さんたちを弱いと言う者がいるなら見てみたいものだ」
「それは……」
ネージュが言葉に詰まる。
自分たちが他者より強いという自覚はあるようだ。
『ない方がおかしいけどな』
「これからどんな場所で生きていくつもりだよ。
自分たちが最下層の存在になるような秘境にでも行くつもりか?」
まあ、そんな場所はないんだが。
「決してそういう訳ではないのですが……」
ネージュは困惑しつつも話の腰は折らずに普通に答えた。
俺の言いたいことは分かるようだ。
「じゃあ、どういう訳なんだよ」
『ネチネチしててヤダなぁ』
自分でも嫌になる。
が、有耶無耶にする訳にはいかないという確信めいた思いがあった。
「それは……」
俺の追及にネージュは答えに窮してしまったようだ。
「……………」
ついには黙り込んでしまった。
それはそうだろう。
ただただ弟子になりたいと思っただけなのだから。
要するに彼女の中でも明確な理由付けがなされていなかったということである。
これはリュンヌたちも同じであった。
だからこそ黙したままネージュをフォローできずにいるのだ。
それを情けないと思っているのだろう。
皆すがるような目を俺に向けてくるんだよ。
『勘弁してくれよぉ……』
俺だって苛めたい訳じゃないのだ。
だが、ここで止めたら苛めただけで終わってしまう。
罪悪感に押し潰されそうになりながらも俺は踏み止まった。
『ちゃんと分かってもらわないとな』
自分たちでも何故かが分からぬままに弟子になりたいと言ったネージュたち。
『本人だからこそ分からぬことがあるんだよ』
彼女らは自信を喪失しているのだ。
かつての同族から怪我を負わされ故郷を追われた。
行く当てなどありはしなかったのにだ。
邪竜が倒された今なら帰るという選択肢もあるだろうが、そこには誰もいない。
辛いことも思い出すはずだ。
にもかかわらず、そこにいる仲間は己を含め8人のみ。
ぼっちよりはマシだろうが寂しさに押し潰されそうになることもあるだろう。
それらが明確に自覚できていた訳ではあるまい。
しかしながら半ば本能的に漠然とした不安を感じてはいたのだ。
『だからこそ己を弱いと言った』
それと、もうひとつ。
基準となる強さを想定していない。
ひたすらに強さを求めれば際限がなくなってしまうのは道理。
心の持ちよう次第で如何様にも変わってしまう。
それに彼女らは邪竜が自分たちより遥かに強くなったのを見てしまった。
恐怖すら感じていたはず。
これもまた自分たちを弱いと評価する要因であろう。
結局、弟子になりたいと言ったのは不安を払拭するためだったということになる。
それを解決する方法はただひとつ。
俺はベリルママを見た。
ネージュたちをこうなるように促したのはベリルママだ。
こうなることを読んでいたのは間違いない。
ベリルママは相変わらずニコニコしたままであった。
ただ、何も語らず頷きだけを返してくる。
『やっぱり、そうなんだ』
続いてローズを見る。
ベリルママが頷いた時点でその必要はなかったがね。
ローズは両腕を使って丸のポーズをしてきた。
『ダメ押しされたようなもんだな』
思わず苦笑してしまう。
そして俺は決意を固めた。
観念したといった方が正しいのかもしれない。
それもまた微妙に違う気はするのだけれど。
とにかく方針は決まった。
だから俺はそれを口にする。
「うちの子にならないか」
俺はハッキリとした声でネージュたちに提案した。
ストレートに「ミズホ国民にならないか」でも良いかとは思ったのだが。
なるたけソフトに届けばと思った結果である。
実はネージュたちを客とすると決めたときから考えていたことだ。
とりあえず一緒に遊んで互いのことを知った上でそうしようと思っていたのだ。
『前倒しになってしまったけどな』
予定は未定というやつである。
そう思うと苦笑を禁じ得ない。
まあ、提案された方はそれどころじゃないようだが。
ネージュは絵に描いたようなポカーン顔だ。
リュンヌとシエルはしばし呆気にとられたあと互いに顔を見合わせていた。
クレールはフリーズして固まっている。
オロルはオロオロとした様子で震えていた。
シフレは最初は呆気にとられていたが、時間の経過と共に顔色を悪くしていく。
ルシュとコリーヌは顔を見合わせながら互いのホッペをつねっていた。
『どうしてこうなった状態だな』
人竜族だけで見ればカオスな状況であった。
「意味が通じなかったか?
別の言い方をするならミズホ国民になるかと聞いているんだが」
俺のその言葉に全員が震え上がった。
『何故だ!?』
継続させているバフの効果もあって震えたままにはならんが。
『解せぬ』
「俺が言ったことは理解できるよな」
ガクガクした感じで頷く一同。
「考える時間が必要か?」
「え、いや、あの……」
ネージュでこの状態だ。
他の面子もほぼ同様である。
「話し合うというなら、しばらく外すが?」
その方が良さそうだと思って動こうとすると──
「待ってください!」
引き止められた。
「本当によろしいのですか」
不安げな表情でネージュが聞いてくる。
聞いてきたのはネージュであったが、他の面子も似たような思いをしているらしい。
捨てられた子犬のようなという表現がピッタリな顔をしていた。
「俺が迷っているように見えるか?」
フルフルと首を横に振るネージュたち。
「そっちは出自を気にしているんだろうがな」
この一言にションボリする一同。
泣く寸前とまでは言わないものの俯いてしまっている。
「そんなものは欠片も気にしてないぞ」
「「「「「えっ!?」」」」」
バッと顔が跳ね上がる。
『バネ仕掛けかよ……』
向こうからすれば、そんなことを気にしていられる状態ではないのだろうが。
バフの効果は継続しているというのに、これである。
「俺は君らが真っ当だと思った。
血がどうのとか関係ねえんだわ」
「え……!?」
呆然とするネージュ。
声を漏らしたネージュ以外の面々も俺の発言に引き気味だ。
「細けえこたあどうだっていいんだよ。
俺がネージュたちを気に入ったから誘ってみたんだが?」
「え、あ……え?」
大きく目を見開くネージュたち。
『完璧に困惑してるよな、これ』
さてはて、どうしたものか。
読んでくれてありがとう。




