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635 ハルトは完敗し、ネージュたちはお願いする

 過去を引きずらないとネージュたちが決めた。

 そこで話が終わるなら楽なんだが、そういうわけにもいかない。


「じゃあ、今後のことを考えましょう」


 ベリルママが仕切っていた。


「今後ですか?」


 困惑の表情を浮かべるネージュ。

 他の面々も似たようなものだ。

 互いに顔を見合わせたりしている。


「何日か滞在したら出て行くつもりでしょ」


「それはそうです。

 我々は余所者ですし」


 重苦しく答えるネージュ。

 対してベリルママはお気楽な感じで笑みさえ浮かべている。


「そんなの気にしなくていいのよー」


 俺も同意見だ。

 コクコクと頷いておく。

 そしたら俺だけでなく皆も頷いていた。

 ネージュたちがギョッとした顔になる。

 不意を突かれる形で一斉に頷かれれば驚きもするだろう。

 キョロキョロと落ち着きなく周りを見回してしまっていた。


『そこまで動揺しなくてもいいと思うんだが』


 苦笑が漏れそうになるが我慢した。

 その間にネージュが動揺から立ち直る。


「ですが、瘴気で荒れた里をそのままにもしておけません」


『真面目だなぁ』


 でも嫌いじゃない。


 ネージュがこんなことを言い出すのは動画をバトルまでで終わらせているからだ。

 彼女らが話しに集中できるよう幻影魔法を消したのだけど。

 なんだか後始末の方を見せる雰囲気ではなくなってしまっている気がする。


『消さない方が良かったか』


 あそこで終わりと思われているなら間違いなく俺のミスだ。


『まあ、後のことは言葉で説明するだけでも充分か』


 納得しなかったら、そこで動画を見せればいいだけのこと。

 ただ、見せたら見せたでネージュたちがショックを受けそうではあるが。


「それなら大丈夫よ」


 ニッコリ微笑むベリルママ。


「え……?」


「ハルトくんがちゃんと丁寧に浄化して元の状態に戻してきてくれたから」


 俺が説明する前にベリルママが言っちゃいました。

 サラッとした感じで俺が理屈っぽくあれこれ言うよりは良かったかもしれない。


「「「「「は!?」」」」」


 ネージュたちが固まってしまった。


『そんなに驚くことなのか』


 フリーズしてしまっているのだから、そうなのだろう。


『で、それは俺のせいなのかぁ……』


 状況がそうだと言っている。

 結局、動画を見せなくてもこの反応。

 納得したくはないのだけれど、これが現実だ。


『だって、後片付けにかかった時間なんてさほどでもないじゃんか』


 現にまだまだ日が沈むような時間でもないのだ。

 そう思って皆の方を見た。

 同意を得られると思ってのことだ。


 だが、真っ先に視線が合ったアニスに目をそらされた。


『どういうことっ!?』


 その隣にいたレイナにも。

 いつものほほんとしているダニエラにまで。

 残りの月影の面子なんて視線を合わせる前からそらしているし。


『何故だっ!?』


 声にならぬ絶叫が俺の中でこだました。

 絶叫は言い過ぎだけどね。


 ならばと3姉妹やABコンビの方を見る。

 申し訳なさそうに目を閉じるマリア。


『ぐっ』


 困ったような苦笑で御免なさいをしてくるクリス。


『ぬっ』


 エリスにはぬるま湯を思わせるような視線を返された。


『ぬっ』


 ABコンビは普通に視線をそらそうとしてお見合い状態になっていた。

 慌てて反対方向を見ている。


『ぐはっ』


 2人の慌てっぷりは滑稽だったが笑えない。

 それどころか俺へのダメージとして積み上げられた。


『トホホなんて言っちゃうぞ、こんちくしょーっ!』


 どう考えても負け犬の遠吠えである。

 実に惨めな心境だ。


「……………」


 身内を見回してみる。

 が、同意を得られるような雰囲気ではなかった。

 残りの面子も似たようなものだったからだ。

 孤立無援とはまさにこのことだろう。


 ただ、トモさんだけがニヒルな笑みを浮かべて──


「坊やだからさ」


 と三毛田庄一さんの物真似で言ってきた。


「いやいや、俺は何も言ってないよっ」


 思わずツッコミを入れた。

 心の中で『何故だっ!?』とは叫んだけどさ。

 念話も使ってないから聞かれるはずはないのだ。

 それをピンポイントで突いてくるとは……


「顔に書いていたよ「何故だっ!?」とね、フハハハハ」


 ドヤ顔で指摘されてしまった。


「くっ……」


 表情に出してしまっていたとは不覚を取った。

 悔しいなんてもんじゃないだろう。

 こんなことなら【ポーカーフェイス】スキルを使っておくんだった。

 そんな風にも思ったが、場の空気が少し変わっている。

 俺たちのやり取りで安堵感が生まれていた。

 気まずさも薄れている。


『これを狙っていたのか……』


 侮れない男である。


『礼は言わんぞ』


 たとえ小さい男と言われようとだ。

 そんな意思を込めてトモさんを見たらニヤリと笑われた。

 少しは元気が出たかい、なんて言いそうである。


 しかし、言わない。

 言ってしまうと周囲の皆が俺を落ち込ませたことを気にするだろうから。

 そこまで気配りされると、ぐうの音も出ませんよ?


『方針変更したくなるじゃないか』


 それも許されないけどね。

 俺が礼を言うと、トモさんが気を遣っていたことを皆に気付かせることになる。

 それこそ「ぐぬぬ」と言いたくなるほどにジレンマだ。


『トモさん、恐ろしい子っ』


 そんな目を向けると「フフフ」と笑われてしまった。


『なんてこったい』


 完敗を喫した気分だよ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 つまらない敗北を喫してしまったが、復帰するのに些か時間がかかってしまった。


『俺、メンタル弱すぎ』


 かつては職場で鉄仮面とまであだ名されたというのにね。

 昔に戻りたいとは思わないけどさ。


 そんなことよりネージュたちだ。

 フォローすることをほったらかして落ち込んでたとかダメにも程があるだろう。

 まあ、ベリルママが色々と説明とかしてくれていたみたいだけど。

 そこは本当にありがたいと思う。


『頼りっぱなしじゃ、いかんだろうがな』


 そう思ってネージュたちの方を見る。


「ん?」


 なんだか彼女らの表情が硬い。

 俺がメンタルダメージを受けている間に何があった?

 ベリルママの方を見てみる。

 ニコッと笑顔で返された。


「……………」


 後は何もない。


『それだけ?』


 マジで何したんだって感じだ。


『こんなことなら、もう1人の俺で会話内容をチェックしておくんだった』


 今更である。

 俺が困惑している間にネージュたちが前に進み出た。

 表情は硬いままである。


『相当に思い詰めてる感じだな』


 ネージュたちが強く力のこもった視線を向けてきた。

 人によっては過剰反応して喧嘩になったりするような感じのやつだ。


「どうしたんだよ?」


 俺が声を掛けるとビクッと反応された。

 やたらと緊張しているようだ。


『ホント何事?』


 もう一度、声を掛けようかと逡巡していると──


「お願いがございます!」


 ガバッとネージュが地に伏した。

 見事なまでのジャンプ&土下座。

 残りの面々も次々と続く。


『なんでジャンピング土下座なんだよっ』


 お願いがあるからなんだというのは分かるよ。

 が、何をお願いするのかサッパリである。

 それ以前にネージュの勢いに圧倒されて口からツッコミの言葉が出てこない。


「我々を弟子にしていただけないでしょうか!」


 代表してネージュが願いを口にした。


「「「「「お願いします!」」」」」


 そして全員で懇願する。


「やだ」


 にべもない返答。


「何とぞっ、何とぞお願いしますっ!」


 喉を潰すかと思うほどネージュは必死に叫んでいる。


「「「「「お願いしますっ!!」」」」」


 残りの面子も必死さを増していた。

 だが、認める訳にはいかない理由がある。


「土下座するなら認めない」


「え……?」


 俺が言ったことは耳から入っていたはずだ。

 それが意味のある言葉として頭に届いたかは別問題。

 ネージュが顔だけ上げて聞き直したいと言わんばかりの目を向けてきた。

 それだけ意外な発言だったということだろう。


 ネージュなりに色々と問答を想定していたはずだ。

 特に考えられるであろうパターンにのみ集中していると聞き逃してしまう。

 俺にも覚えがないとは言えない。


「土下座されるのが嫌だから認めないと言ったんだ」


 シュザザザザザザザザッと即座に立ち上がる一同。

 足場の悪い砂浜のはずなのにキビキビした動作である。


『これ、俺の弟子になる必要あるのか?』


 そう思うくらい動きに無駄がない。

 亜竜を子供扱いできるのだから、むしろ当然か。

 だからこそ思う。


『弟子になって何をするつもりだ?』


読んでくれてありがとう。

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