634 バトルシーンは刺激が強すぎたかもしれない
修正しました。
静止が → 静止画
ネージュたちの気持ちが少し落ち着いたところで動画の再生を続ける。
『最後まで折り合いをつけるのは時間がかかるだろ』
というより時間をおいた方がいいような気がした。
『そういう時に見せていい代物かは微妙なところではあるな』
なにしろ邪竜との戦闘だ。
色々と刺激が強すぎる訳で……
「こうも巨大だったとはっ」
ネージュが驚きの声を上げた。
邪竜の大きさをバトルが始まるまで認識できていなかったようだ。
明らかに動揺している。
冷静な状態だったならアレが飛び出してきた瞬間に推測できていたはずなのだ。
ギガクェイクの穴から出てきたこと。
その穴と岩山との対比。
正確には無理でも見当をつけるぐらいは難しいことではない。
そういう諸々の判断ができなくなるくらいの状態ということだ。
『中止するか?』
迷うところである。
だが、ここで動画再生を止めることは彼女らが望まないだろう。
仮に止めたらクレームが凄いことになりそうだ。
幸か不幸か動画を再生していること自体に文句は言われていない。
『そんな余裕がないだけとも言えるがな』
邪竜の巨大さに驚いているのはネージュだけではないのだし。
「なんというブレス……」
クレールが血の気の引いた顔をしていた。
「我々では束になっても太刀打ちできない」
呆然と頭を振るオロル。
「それ以前に防御すらままならないわよ」
呆れたように溜め息をつくシフレ。
「2発目が特に凄まじいわ」
ルシュが溜め息をつく。
「それを事も無げに消せるというのが……」
コリーヌが呟くと同時に5人組が俺の方を見た。
「ほら、動画は止めてないから見落とすぞ」
指差しながら言うと幻影魔法の方へ向き直りはしたが。
『この程度のブレスに対抗したぐらいで驚かれてもなぁ』
正直、うちの古参組なら対抗できたはずである。
その事実を知ったら彼女らはどんな反応をするのだろうか。
精神衛生の観点からは考えない方が良さそうな気がする。
なにしろバトルは始まったばかりだ。
すぐに肉弾戦になる訳で……
「「「「「あっ!」」」」」
間合いを詰める速さに驚愕し。
「「「「「ああっ!」」」」」
拳の勢いに目を見張り。
「「「「「──────っ!」」」」」
肘だけで終わらない数々の連続攻撃に圧倒されていた。
「「「「「ええ──────っ!?」」」」」
そして俺が邪竜の後頭部に膝を落とした時には目を白黒させて俺の方を見てきた。
5人組だけでなく、リュンヌやシエルも。
ネージュでさえ動揺して助けを求めるような視線を向けてきたほどだ。
『あー、転送魔法のことは知らないんだっけ』
ここから先は説明を省略して動画を流した。
ネージュたちが驚くたびに説明していると延々と時間がかかりそうだったからだ。
驚くたびに一時停止して動画を見るように促すことにはなったけどね。
どうにかバトルの方は終わらせた。
「「「「「………………………………………………………」」」」」
沈黙が場を支配する。
うちの面子は「気持ちは分かるよ」とばかりにネージュたちを眺めるばかりだ。
「くーくぅ」
元気出せとローズがネージュの肩をポンと叩いた。
ビクリと反応しギギギと擬音の聞こえてきそうな動きで振り向いてくる。
『いかんな……
刺激が強すぎたか』
こんなことなら静止画中心で説明した方が良かったかもしれない。
後悔しても後の祭りである。
「ヒガ陛下、このようなことになり申し訳ありませんでした」
「だから謝らなくていいって」
「ですが、まさかこれほどの事態になっているとは思っておりませんでしたし」
「いいんだよ」
「我々では手も足も出なかったはずです」
「対抗するつもりだったの?
無謀なこと考えるなぁ」
いや、邪竜の存在が念頭になかったことを忘れてはいけない。
互角の相手ならばと考えを巡らせていたのだろう。
それ故に反動も大きい。
ネージュたちは邪竜の存在感と力を目にして沈み込んでしまっていた。
動画を見ている最中こそコメントをすることもできたが。
見終わるとネージュが謝罪したのみである。
それもローズが元気を出せと労いの言葉を掛けてようやく再起動したくらいだ。
そんな状態だから誰も言葉を発することができなくなっていた。
『まあ、彼女らにしてみれば圧倒的だったか』
もしかしたら恐怖すら感じているかもしれない。
「いずれにせよ終わったことだ。
君らが気にすることじゃない」
俺のこの言葉が引き金になったのか俯きがちだった人竜族たちの頭が跳ね上がる。
誰もが必死な形相をしていた。
「いえっ、我々の責任です!」
ネージュが無念を感じさせる顔をしながら断言した。
「そうです、言い逃れはできません」
リュンヌもだ。
「我々はアレがまだ同族である間に止められなかった」
シエルが理由を述べる。
残りの5人組も重苦しい表情でひとつ頷きを見せた。
「ベリルママ、止められたと思います?」
俺が言葉を尽くして説得しても納得しそうにないのでベリルママに振ってみた。
『だって、すっごく頑固そうじゃんかっ』
しかも向こうは8人だ。
これ以上の面倒事は御免被りたい。
「無理よ」
にべもない返答。
が、この言葉は俺ではなくネージュたちに向けられていた。
「貴方たちは山から崩れ落ちる落石を言葉だけで止めることができるの?」
無理難題ってやつだな。
言葉だけってことは魔法も使わずってことだし。
そんなことができる奴がいたら見てみたい。
俺がそんな風に思うくらいだ。
ネージュたちに「できる」と言えるはずがなかった。
「アレもそんな状態だったのよ。
アナタたちがおかしいと感じた時点でね。
結果が覆らないことは、もっと前に確定していたの」
愕然とする人竜族一同。
唯一と言っていいであろう悔いるべきと思っていたことが無いと言われたも同然なのだ。
事実誤認と言ってしまえばそれまでだが。
それを変えられたはずの現実と思っていたネージュたちには重すぎる。
『今すぐ割り切れとは言えないよな』
時間がかかりそうだ。
「ちゃんと現実に目を向けなさい。
聞く耳を持たないどころか怪我をさせられたでしょ」
ベリルママは俺とは意見が異なるようである。
なかなか手厳しい。
『こんなスパルタなベリルママは初めて見た』
「一歩間違えば死んでいてもおかしくなかったはずよ」
その一言でネージュ以外は目の色が変わった。
みんな怒りに燃えている。
それを見て不意に彼女らの話していたことを思い出した。
『確か「姫様を亡き者にしようとするなどあり得ません」とか言っていたよな』
クレールの発言だった。
あれを切っ掛けに5人組の他の面子が騒ぎ出したのだ。
それに加わることこそしなかったがリュンヌやシエルも怒りを露わにしていた。
『どうやら、かなりヤバい状況だったようだな』
ベリルママがあんなことを言うくらいだし。
ネージュが死ぬような怪我を負わされるところであったのは間違いなさそうだ。
「分かりました。
我々も引きずるようなことはしません」
そう言ったのはネージュではなくリュンヌであった。
『あー、納得しちゃうんだ』
本気で怒らせたのは間違いないようで。
『悔いすら吹き飛ばしてしまうほどなんだな』
逆鱗に触れてしまったが故にというところか。
「ちょっと!? リュンヌ!」
ネージュが慌てているが、他の面々はジッと見返していた。
普段はネージュに従う者たちも、これだけは譲れないようである。
ネージュを思うが故に。
言葉はない。
そんなものはなくとも自分たちは決めたからと彼女らは目で語っていた。
「うっ……」
一同の視線を受けてネージュはたじろぐ。
何かを言おうとして言葉を飲み込み、唇を噛みしめた。
「…………………………」
そして待つことしばし。
ネージュはふうっと大きく溜め息をついた。
己の奥底に堪っていたものを吐き出すように。
さらに頭を振る。
纏わり付いたものをそれで断ち切ったのだろう。
肩の力が抜けていた。
「本当にそれでいいのね」
「もちろんです」
リュンヌが躊躇うことなく返事をした。
「二言はありません」
シエルの発言は侍っぽいと思ってしまった。
「いいんです」
クレールの言葉にも迷いはない。
断言した口調が熱狂的サッカーファンのタレントを想起させた。
「いいに決まってます」
オロルが自信たっぷりに答えている。
「間違っても悪いなんて言いません」
シフレは少し興奮気味だ。
「そうです、私達の決意は固いんです」
ルシュがその興奮を引き継いでか鼻息が荒かった。
「右に同じです」
コリーヌはチラリと2人を見た後、落ち着いた口調でそう言った。
ただし視線にこもるものは他の面々に引けを取らない。
強い意志を感じさせた。
彼女らの言葉を聞き、ネージュが頷いた。
「みんな納得しているのね」
強い視線でネージュも見返す。
「そういうことなら私も引きずらない」
その声音から決意の強さがうかがえた。
『ベリルママはこうなることを読んでいたんだな』
俺はまだまだ修行が足りません。
「あの時のことはワイバーンにでも噛まれたとでも思っておきましょう」
ネージュは厄払いだとでも言わんばかりに小さく強く息を吐き出した。
死ぬような目にあった時のことなんだろう。
『そこは犬に噛まれたじゃないんだな』
日本人組は同じことを思ったようで、思わず視線を交わし合ってしまった。
読んでくれてありがとう。




