633 説明しないといけない
幼女まみれになっている時点で俺にできることは限られている。
その上、ひと仕事終えた後の気の緩みで思考すらユルユル状態。
ハッキリ言ってしまうと身動きの取りようがない。
そんなだから袖口をギュッと掴まれて初めて気が付くという体たらくだった。
「お?」
「おかえり……」
ノエルだ。
さすがに小さい幼女たちよりは少しお姉さんなだけあって飛びついては来ない。
でも、ハグされた。
『心配されてたのか』
ケアが足りない証拠だろう。
俺としては心配されるほどのことをしてきたつもりはないのだが。
『時間をかけすぎたせい?』
俺としてはそんなつもりもなかったのだが。
ノエルからするとヤキモキしていたのかもしれない。
これは真剣に反省せねばならんだろう。
『だが、反省するのは後でだな』
現状で反省などまともにできそうにないからだ。
とにかく幼女のおかわりをしてしまった。
YLNT協会から抗議文が届くかもしれん。
文面はノータッチがさんざん繰り返されてそうだ。
『俺が触れてるんじゃなくて触れられている状況なんだが』
言い訳くさいことを考えていると──
「ハルくん、モテモテだね」
ミズキが似たような指摘をしてきた。
『これはこれで怖いんですが』
一歩間違うと背後から刺されそうで、な。
ただ、今回の指摘には棘がなかった。
どうやら嫉妬モードは発動していないようだ。
ちょっと安堵した。
そこまでは良かったのだが……
「キ──────ッ!」
ミズキが静かだと思ったらマイカがうるさい。
完全にヒステリーな状態である。
「モフモフがっ、モフモフが────────っ!」
涙さえ流しながらダンダンと地団駄を踏む。
安堵の後にこれである。
『泣くのかよ』
脱力ものの展開である。
「落ち着けよぉ……」
精神的な疲労感が凄い。
邪竜と戦ったときよりも、その後始末をしたときよりも凄い。
「普段からモフモフにまみれてるんだからさあ」
「ふーんだ、ふーんだ、ふ─────んだっ」
全身を使って拗ねていますアピールをしてきた。
それを見ていると小学校低学年くらいまでの子供を連想してしまう。
『成人してる大人の態度じゃないぞ、それ』
ほとんど身内だからいいけどさ。
『ん? 身内?』
その単語が不意に頭の片隅で引っ掛かった。
『おっと、いかん!
忘れるところだった』
ちゃんとどうなったか説明しておかなきゃならん相手がいる。
「はいはい、ハグハグタイム終了ぉー」
「「「「「えー」」」」」
幼女たちの抗議は受け流す。
俺は彼女らを下に降ろしていった。
ブーブー言いながらも素直に従ってくれるので助かる。
『みんな良い子だよ、ホント』
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ネージュたちに話をしなければならない。
袂を分かったとはいえ同族だったのだ。
何の説明もなしに素知らぬふりは不誠実だろう。
彼女らは何処にいるのかと首を巡らせかけたところでベリルママがやって来た。
「ハルトくん、お帰りなさい」
「はい、ただいまです」
ベリルママの背後に水着姿になったネージュたちがいた。
「どうなったか説明してあげてね」
「連れて来てくれたんですね。
ありがとうございます」
「どういたしまして」
そんなやり取りの後、ネージュたちが前に出された。
着慣れない水着のせいか少しモジモジしている。
『美女が恥ずかしがるのも意外と絵になるね』
「あ、あの……
本当に御迷惑をおかけしました。
申し訳ありません」
ネージュが深々と頭を下げた。
「「「「「申し訳ありません」」」」」
リュンヌやシエルら残りの者たちもそれに続いてガバッと頭を下げる。
「別に謝る必要はないと思うがね。
それよりも俺の方こそ謝らねばならんかな」
「どういうことでしょうか……」
思い当たる節がないと言いたげにネージュが問うてきた。
「すまない。
同族を全滅させてきた」
ネージュたちと同じように俺も深く頭を下げた。
これはけじめだ。
同族であった者たちの成れの果てとはいえ殺したのは俺だからな。
それしか方法がなかったのだとしても。
彼女らが二度と手を取り合わぬと決めた相手であったとしても。
「やめてください。
ベリルベル様から話は聞きました」
ネージュたちを見る。
そこに悲しみはなかった。
俺に憎しみの視線が向けられることもない。
「里を出る前から既に彼等は敵でした」
その時点で本当にそれを受け入れられただろうか。
何年も同族として生きてきた。
それがふとした切っ掛けで失われる。
一朝一夕で割り切れるものでもないと思うのだが。
「この地に辿り着く前に覚悟は決めているのです」
何の、とは聞けなかった。
語るのはネージュであったが、他の者たちも含め強い意志を感じさせる目をしていた。
最初に話を聞いたときの興奮状態はそこにはない。
あの時、ルシュやコリーヌはかなり物騒なことを言っていた。
それが勢いに任せただけの発言だったならとも思ったのだが。
今の彼女らの目に激情はない。
かつての同族に対する情も感じられない
前を向いているのだと感じた。
チラリとローズの方を見るとコクコクと頷かれた。
「わかった」
これ以上、謝るのは彼女らの覚悟を認めていないことになる。
この件で謝罪はもうしない。
ネージュたちと視線を交わし互いに了解した。
「では、どうなったかを聞かせていただけますか」
ネージュは躊躇いなく言ってきた。
他の人竜族たちを見ても静かに頷くのみ。
そこからは気負いも感じられない。
「もちろんだ。
では場所を変えよう」
「その必要はありません」
「幻影魔法を使うつもりなんだが?」
この場で披露すれば皆にも見られることになる。
なにより見ている自分たちの様子も見られることになると、言外に込めてみたつもりだ。
「あの沢山食べる動画というものと同じ方法ですね」
「そうだ」
「私は構いません」
ネージュが振り返り同胞たちを見る。
リュンヌたちがしっかりと頷いた。
誰1人として逡巡する素振りすら見せない。
了解が得られるなら俺に躊躇う理由などあるはずもなく。
「そうか、ではここで」
砂浜で動画による報告会となった。
転送直後の状態から見せていく。
もぬけのカラとなった里の様子。
そこから動画は岩山の様子へと変わっていく。
「洞窟に入ったということですか」
険しい表情で聞いてきたのはシエルであった。
「そうだな」
俺はここで動画を一時停止させた。
指先を動かして幻影魔法で映し出した映像に円を描く。
「この辺りから恐らく全員の気配を感じた」
驚いた表情で人竜族たちが振り返ってくる。
『そんなに驚かれてもな』
何に驚かれたのかも分からんし。
幻影魔法に書き込みをしたからか、洞窟内の状況を俺が把握したからか。
「儀式の場ですよ、ここ」
クレールが言った。
その表情はあり得ないと語っている。
「全員でなんて……」
オロルが呟くように言った。
何か問題のある場所なのだろうか。
「入れる者は限られていたはずなのに」
シフレがそう言ったことで俺も理解した。
どうやら制限のある場所だったようだ。
なにかしら特別な意味合いを持つ場所だったのだろう。
「落ち着きなさい」
リュンヌがたしなめた。
「あの場の結界は破ろうと思えば破れる程度のもの。
我らには警告程度の代物でしかない。
狂った連中が己が目的を優先するなら、どうするかは目に見えている」
沈黙が訪れた。
「続けていいか?」
「はい、失礼しました」
ネージュが返事をしたのは身内が落ち着いたのを己の目で見てからであった。
「じゃあ再生する」
そこから先も動画を流しては止めて解説する流れは同じだった。
ただし、ネージュたちにとっては驚きの連続となってしまったが。
俺の先手、挨拶代わりのギガクェイク。
これをネージュたちに見せることになるのを失念していた。
『要反省だな』
続いて狂った人竜族たちがひとつの邪竜となった事実。
ギガクェイクの時よりも衝撃は大きかったようだ。
まあ、より強い存在となるために融合してしまっているからな。
そこに底深い執念を感じたのだろう。
ネージュたちは戦慄すら覚えたのか身震いすらしていたほどだ。
そして瘴気を発するようになったことにも瞠目していた。
「狂いに狂って竜としての誇りまで見失うとは……」
ネージュが信じられないとばかりに頭を振る。
「嘆かわしい限りです」
リュンヌが険しい表情を見せた。
最初は怒り、そこから嫌悪へと変えていく。
「そうまでして強さを手に入れたかったとは……」
シエルは呆然とした様子で呟いている。
残りの5名も怒り呆れていた。
だが、同時に悔いているようにも思えた。
『どうにかして止められなかったかなんて考えてそうだな』
気持ちの整理をつけるのに時間がかかりそうな話だ。
読んでくれてありがとう。




