638 遊ぶみんなを尻目に面談をする
皆は遊んでいるが、俺はまだ遊べる状態じゃない。
ネージュたちとの面談があるからな。
皆と遊ぶのは明日に持ち越しになるだろう。
『ああ、そういや夜にお楽しみがあったっけ』
今日を諦めるのはまだ早い。
せっかく泊まり込みで遊びに来ているんだし、とことん楽しまないと!
そのためにも面談はキッチリ終わらせておかないといけない。
言うほど大したことを話す訳じゃないんだけどな。
それでも、なおざりな真似はできない。
何をしたいかという希望を聞くのがメインになるから。
『将来のことを話すのに、いい加減な対応なんてしちゃいかんでしょ』
とにかくネージュたちと座り込んで話をすることになった訳である。
その前に毎度お馴染みのマルチプルメモライズも使った。
でないと肝心なことが何も決められなくなるからな。
ちなみに学校に行くことは話をする前から確定している。
レベルだけなら卒業資格を満たしているけど、覚えることは色々あるのでね。
彼女らもとにかく色々と挑戦してみたいらしい。
「あんな複雑な料理とかしたことないです」
シエルが上の方を見て思い返しながら夢見がちな表情で語った。
「複雑な料理?」
「色々です」
コクコクと頷きながら返事をする。
「思い出すだけで、しゃーわせな気持ちになりますよぅー」
なんだかトリップしてるように見えるのだが。
『大丈夫か?』
他の面子を見てみるが──
『あー……
ダメだ、こりゃ』
シフレと同様の状態である。
人竜族たちのだらしない表情を見ることになってしまった。
「もしかして屋台のことか?」
「そーですぅ」
仕方がないので希望を確認する名目で話を進めた。
彼女らが言うには雑に焼いただけの調理法しか知らなかったそうだ。
しかも調味料はもちろん、出汁も使ったことがないのだとか。
『そりゃあ複雑な料理なんて言うはずだよ』
あまりに憐れで泣きそうになってしまったさ。
「晩飯は期待しておけ。
カニづくしだからなっ」
俺が力を込めて言った言葉に期待感を煽られたのか、ネージュたちがどよめいた。
『フフフ、そう来なくてはな』
彼女らの期待に応えるためには大量のカニが必要になる。
が、心配はナッシング。
自動人形たちからの報告で次々とカニは確保できているのだ。
『夏にカニというのも乙なもんだよな』
余裕をかましていると足をすくわれるものだ。
オロルが感動に打ち震えつつも聞いてきた次の質問に俺はガクッときた。
「カニって何ですか?」
コクコクと全員が頷く。
それはもう興味津々の顔をして。
そのあたりの知識も不足しているので再びマルチプルメモライズ、ドン。
知識を吸収した後は涎が止まらなくなってましたよ。
美女たちの涎姿なんて需要があるだろうか。
『あるんだろうなぁ……』
世の中、何が受けるか分からんからな。
俺はそういう特殊な趣味嗜好は持ちたいとは思わないが。
そういう話の流れから漁をしたいと言ってきたり。
猟の方は食糧確保のために経験があるそうだ。
あるいは農業もやりたいと希望したり。
とにかく、あれもこれもと貪欲に取り組もうとしている。
つい先程まで弟子にしてくれと言っていた面々だとは思えないほどだ。
まあ、彼女らにしてみれば立派な修行になるのかもしれないがね。
ものづくりも教えたらハマりそうな気がする。
何にせよ学校で教えることは山ほどありそうだ。
『そういや魔法も基礎からやり直しになるだろうしな』
その部分だけでも伸び代があるように思える。
どれほどかは俺にもデータがないので不明である。
レベルが高い状態から魔法の基礎を教えるということがなかったからな。
『帰ったら、そのあたり確かめるか』
確かめるという言葉で、ふと思い出した。
ネージュたちのステータスを細かく確認していなかったことを。
今までは客ということでチラ見する程度に留めていたのだ。
ネージュたちは既に国民なんだし、ここらでチェックしておこう。
え? 役所で手続きしてないから国民じゃないだろって?
俺が認めた時点で国民だよ。
まだ書類の記載がされてないってだけだ。
それについても申請の受理が今日になるよう役所の自動人形に指示を送信済みである。
日本じゃ無理だけどね。
とにかく杓子定規なことはしないよ。
そんな訳でネージュたちのステータスを視野外領域に表示させてみた。
[ネージュ/竜種・人竜/竜戦士/女/レベル255]
[リュンヌ/竜種・人竜/竜戦士/女/レベル202]
[シエル /竜種・人竜/竜戦士/女/レベル201]
[クレール/竜種・人竜/竜戦士/女/レベル186]
[オロル /竜種・人竜/竜戦士/女/レベル183]
[シフレ /竜種・人竜/竜戦士/女/レベル183]
[ルシュ /竜種・人竜/竜戦士/女/レベル184]
[コリーヌ/竜種・人竜/竜戦士/女/レベル185]
種族の扱いは特にどうということはない。
竜種なのは最初から分かっていたことだし。
人竜という呼称に些か違和感を覚えたくらいか。
『ずっと人竜族と言ってたからなぁ』
正式には人竜だったのだが。
『これからは人竜組と呼んだ方がいいかもな』
そんな風には思ったけれど。
割とどうでもいいことだ。
それよりも真っ先に気になったのはジョブだろう。
[竜戦士]なんて初めて見ましたよ。
[魔法戦士]よりレアじゃないかな。
まあ、種族専用のジョブみたいだから初めてで当然なんだけど。
『竜種の国民なんて今まではシヅカぐらいだったし』
しかも最初にシヅカのジョブを見たときなんかは[自宅警備員]だぜ。
本人は好きでそうなった訳じゃないと言うだろう。
長らく封印されていただけだ。
なのに、この仕打ちは酷かろう。
その後は[守護者]になったから良かったけど。
そんな訳で竜種専用のジョブは正真正銘の初めてである。
『ちょっと格好良くないか』
なんだか厨二心をくすぐられそうなネーミングである。
ただの戦士だと何とも思わないのにな。
手前に竜とつくだけで羨ましいとさえ思うのは何故だろう?
『無い物ねだりなんだろうか』
竜種にはなれないんんだからしょうがない。
諦めが肝心である。
それとネージュだけジョブ欄がひとつじゃなかったんだが、そこは省略した。
[元王族]ってだけだ。
表示されなくても困らないので見やすさ優先である。
おそらく本人も消したがる肩書きだろう。
『姫様と呼ばれることを嫌がっていたし』
何にせよ全員のジョブが戦士系であるのは楽だと思う。
西方の常識を身につければ、すぐにでも冒険者登録できるだろう。
『本人たちがそれを望めばだけどな』
その場合は[竜戦士]ではなく[魔法戦士]あたりに偽装しないといけないが。
問題になるのは戦闘スタイルか。
邪竜の戦い方が人竜族の戦い方だとすると近接戦闘は格闘ということになる。
武器の扱いは素人なんてこともあり得る訳だ。
そういう情報だけが変に一人歩きされるとトラブルが発生しかねない訳で。
無用のトラブルに巻き込ませないためにも──
『武器の使い方は教えておいた方が良さそうだ』
だが、それだけではダメだ。
手加減の仕方も教えないといけないだろうし。
『あとブレスの使用と竜への変身を禁じないと』
どちらも竜が出たということでパニックになる。
単なる騒動で終わらないのは言うまでもないだろう。
これについては言って聞かせるだけで良いとは思うが……
いずれにしても冒険者デビューするのであれば目が離せそうにない。
『誰だ、すぐにでも冒険者登録できると言った奴は』
俺だった……
口外していないしセーフだと思いたい。
え? ダメ?
『そうかい、ダメかい……』
自分の間抜けさ加減が嫌になる。
『……気を取り直して次に行こう』
さて、レベルの確認だ。
今後を考える上で、これが最も重要だろう。
『ネージュは8人の中でも飛び抜けているか』
1対1では他の面子は圧倒されるだろう。
さすがに束になって掛かられると負けるとは思うが。
怪我をしたというのも、そういうことなのだろう。
互角以上の相手もいたのかもしれないが。
数で来られたか不意打ちをくらったかはしているはずだ。
リュンヌたちがあれほどキレるのだからな。
なんにせよネージュに怪我をさせた連中はもういない。
慌ててレベルアップする必要性もないだろう。
『本人たちは納得しないかもだが』
必死になって弟子にしてほしいと頼み込んできたくらいだ。
立ち止まることは罪だとさえ思っているかもしれない。
『おまけに邪竜の強さが目に焼き付いているだろうしなぁ』
さすがに単独でとは言わないまでも8人で互角に戦えるようにとは考えそうだ。
こちらで修行のセーブとかも考えないといけないかもね。
正直なところ面倒くさいが、やり過ぎで怪我をされても困る。
国民は全力で守ると決めているのだから。
『最初は手加減の仕方から教えていくか』
並行して我慢することも覚えるだろうし。
それができなきゃ国外へ連れて行くこともできそうにない。
ふとした拍子に建物の壁をぶち抜いたとか、あり得そうだし。
相手が西方人だったらと思うと血の気が引いてしまいそうだ。
『レベルが軒並み高いから楽だとか思ってたら痛い目を見るぞ、これは』
ネージュたちのステータスを見て気の引き締まる思いがした。
ちなみに冒険者について聞いてみたが、興味がない訳ではないそうだ。
が、思ったほど食いつきはよろしくないようで。
どうやら他の挑戦したいことの方へ興味が向いている様子。
『そういうことなら焦ったりは、あまりしないかもな』
むしろ俺の方が焦っているのか。
つい、あれこれと考えてしまったからな。
マイカあたりにこのことを話せば、きっと相変わらずだと笑われるだろう。
「心配性が過ぎる」
なんて言われるのがオチである。
今は基本方針だけ決めて、後は帰ってから考えた方が良さそうだ。
ステータスの確認が終わった後もネージュたちと面談を続けた。
それが終わる頃には日が暮れかけていて……
「もうすぐ夕食の時間だ」
カニが俺たちを待っている!
読んでくれてありがとう。




