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610 ベリルママが興奮するとこういうことになる

 胸元クッションから解放されても心安まるのは一瞬だけである。


 マイカの無言でニヤニヤな視線攻撃。

 ミズキの「しょうがないよね」と言いたげな訳知り顔。

 トモさんの「俺もエリーゼママにアレをされるのか……」な呟き。

 フェルトの驚きに固まった表情。


 その他いろいろな視線に晒されている。

 主に古参組だ。

 大半が生暖かい視線である。

 まずはこれに耐えなければならない。


『俺のライフがもうすぐゼロになりそうよ』


 こういうのは、いつまでたっても慣れることができないんだよな。

 針のむしろは言い過ぎにしても心のライフゲージがザクザク削られていく。


 だが、それに耐えたりするだけではいられない。

 土下座モードに入っている多くの人魚組を何とかせねばならん。

 一応はベリルママと一緒に来た亜神たちがぐるっと囲んでくれてはいたのだ。


『知らん人もいるから紹介してもらわんとなぁ』


 などと暖気なことを考えている場合ではない。


『これでもダメなのか』


 土下座のしようがないことは実証済みであるはずのフォーメーションなんだが。

 亜神たちがいることなど毛ほども気にならない様子で一心不乱に土下座土下座土下座。

 俺の方を向いているのでプレッシャーが激しい。


 まあ、土下座をする相手は俺ではなくベリルママなんだけど。

 側にいる俺まで土下座されている気分になってしまったのは不可抗力だと思いたい。

 それだけ必死なのだ、人魚組が。


 どうにか立っていられるドルフィーネもいるが6名だけ。

 ナギノエを筆頭とする成績上位者たちである。

 彼女らにしてもガチガチに緊張してしまっているけれど。


「あら~?」


 ベリルママは頬に手を当てて小首を傾げている。


『あの様子だと自分が原因であるとは気付いていないな』


「テンション上げすぎです。

 神気を抑えてください」


 俺が指摘と注意をすると、ようやく気付いたようだ。


「あらあら、御免なさい。

 ハルトくんに会えると思ったら嬉しくなっちゃって。

 ダメねー、周りが全然見えてなかったのねー」


 ニコニコしながらテヘペロされてしまった。


『それはいいから早く神気の発散を控えてください』


 ツッコミを入れる前に場の空気が軽くなった。

 ナギノエたちの緊張が解ける。

 が、残りの人魚組は土下座のままだ。


「どうしましょう?」


「しばらく待つしかないですね」


 もちろんバフは掛けておく。


「時間は大丈夫なの?」


「問題ないです。

 大勢で行動することを想定して集合時間を決めていますから」


 間違っても「こうなることは予測済みでした」とは言えない。

 言っているようなものだがベリルママは無反応。

 ギリセーフだと思いたい。

 露骨に言えばたぶんアウトだ。

 言えば「迷惑を掛けた」とかで泣かれる恐れがある。


 俺のことが関係してくると、どんな反応をされるか分かったもんじゃない。

 なんにせよ懸念事項は回避できたと思う。

 薄氷を踏む思いはさせられたがね。


 後はバフの効果が出るまで待つだけ。

 結局、雑談しながら小1時間ほど待つことになった。


『予想通りだな』


 遊ぶにしては早すぎる集合時間にしたのは正解だった。

 それだけベリルママの神気が強かったってことだ。

 慣れている者でも一瞬は体を強張らせたりしていたし。

 不慣れであれば簡単には復帰できないだろう。

 幸いにしてトラウマにはならないことは分かっている。


『でなきゃベリルママも慎重になっていたはずだよな』


 例えば神気が殺気だったなら。

 失神者続出である。

 強化授業を始める前の人魚組なら、もっと酷いことにもなっていただろう。


『神気は逆だから良かったよ』


 強烈すぎてショックを受けたりもするようだけど、本来は癒やしの効果とかもあるのだ。

 あれくらい強力なら状態異常は一発解除だし。

 精神疾患を患っていても回復するし。

 身体的にも部位欠損が再生する。


『そういやバーグラーでラソル様が使ったアレも近いものがあるな』


「っ!」


 そこまで考えて俺はとんでもないことに思い至ってしまった。


「どうしたの、ハルトくん?」


 ベリルママは気付いていないようだ。


『マジか!?

 ここで天然モード発動ですかい』


 内心でツッコミを入れる。

 あくまで内心でだ。


「いえ、思い出したことがあって……」


 俺が言葉を濁すと可愛らしく小首を傾げている。


「ちょっと待ってくださいね」


 そう言い置いて俺は周囲を見渡し始めた。

 ただ見るだけではない。

 【天眼・鑑定】の連発である。


『ブルースは……何もないな』


 息つく間もなく次の相手を見る。


「くう?」


 ローズと目があった。


『守護者組は何もないのは分かっているんだよ』


 シヅカにしてもマリカにしてもな。


『ミズキもマイカもそのままだ』


 見ても仕方ないのは分かっている


『妖精組もな』


 だが、近場から順番に見ていくとそうなるのだからしょうがない。


「……………」


 地味にイラッとした。

 順番に見ているから、そんなことになる。

 よくよく考えたら【目利きの神髄】スキルがあった。


『俺もかなり動揺しているようだな』


 取得したスキルを失念するとかどうかしている。

 とにかく神級スキルでならこの場にいる国民全員を指定して一気に鑑定できるはずだ。

 俺は即座に【目利きの神髄】スキルを使った。

 一気に表示されていく鑑定情報。

 凄まじい勢いで流れていくが見落とすことはなかった。

 熟練度がカンストした上級スキルの【速読】が仕事をするまでもなく読み取った。


「…………………………」


 言葉がなかった。

 ある意味、予想通りであったから。

 一部は違ったのだが、どういうことだろうか。

 少し整理して考える必要がありそうだ。


 まず、ブルース。


[ブルース・ボウマン/人間種・ヒューマン+/男/31才/レベル113]


 強化授業でレベルアップした後のままだ。

 俺の予測なら何かしらあるはずだったんだが……


『何もないんだよなぁ』


 首を傾げたくなるくらい変化がない。

 とはいえオッサンに固執していても仕方がないので他の面子をチェックだ。


[エリス・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/女/27才/レベル327]

[マリア・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/女/22才/レベル327]

[クリス・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/女/15才/レベル327]

[アンネ・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/女/19才/レベル327]

[ベリー・ヒガ/人間種・エルダーヒューマン/女/19才/レベル327]


 妻組である。

 ヒューマン+だったはずがエルダーヒューマンに進化していた。


『やっぱり……』


 ならばなおのことブルースに変化がないのが変だと思っていたら──


[進化のための祝福が不足しています]


 視野外領域にそんなテキストが表示された。


『祝福って何だよ』


 思わずテキストにツッコミを入れる。


[マスターが当人より全幅の信頼を受けることが条件です]


『……………』


 ここでいうマスターは俺のことだ。

 俺への信頼度が高いほど祝福をより多く受けて進化しやすくなるってことか?


『なんで俺なんだよ』


 一瞬そう思ったが、ベリルママの神気を受けて進化するのだから変ではないのか。

 むしろ必須条件のような気がしてきた。

 だとするとブルースとの信頼関係が不足しているということになる。


『そりゃあ距離はあったさ』


 積極的に指導したのは今回が初めてだったし。

 そんな風に考えているとテキストが追加された。


[当人が何も貢献できていないと迷いを抱いているのが原因]


『あちゃー』


 これはもしかすると国民になったばかりの頃なら進化できていたのかもしれない。

 運のないオッサンである。

 これから頑張ってもらうとしよう。

 とりあえずジェダイトシティの方で教師として頑張ってもらうというのはどうだろう。


『ちょうど向こうに分校を作ろうと思っていたし』


 向こうなら攻略しがいのあるダンジョンがあるから己を鍛えることもできる。

 冒険者と教師の二足のわらじを履けば、少しは迷いも吹っ切れるんじゃなかろうか。


『まあ、本人に打診してみないと受けるかどうかは分からんがな』


 とりあえず海水浴から帰ってきたら持ちかけてみるとしよう。

 なんにせよエリスたちが進化した理由は分かった。


[ガンフォール/人間種・ハイドワーフ/男/66才/レベル327]

[ハマー   /人間種・ハイドワーフ/男/52才/レベル327]

[ボルト   /人間種・ハイドワーフ/男/22才/レベル327]


『ドワーフ組も進化したか』


 惑星レーヌにおける初のハイドワーフである。

 いや、この世界ルベルスと言うべきか。

 西方でこの事実を知られると鬱陶しそうだ。

 ドワーフ+だって同じだったが。


 いずれにせよ面倒なことになるから大変だ。

 その点では人魚組も似たようなものだろう。

 まあ、妖精種ってだけで大騒ぎになるだろうけど。


『しかも上位種だし』


[ナギノエ/妖精種・ハイドルフィーネ/-/レベル118]

[ヤエナミ/妖精種・ハイドルフィーネ/-/レベル115]

[マリナミ/妖精種・ハイドルフィーネ/-/レベル111]

[クノミカ/妖精種・ハイドルフィーネ/-/レベル110]

[ユリノエ/妖精種・ハイドルフィーネ/-/レベル109]

[アスカミ/妖精種・ハイドルフィーネ/-/レベル108]


『一気に上がりすぎィ!』


 最上位種族って……

 ドルフィーネ+なんだろうなと思っていたら2段階の進化を一気にしてるし。

 念のために確認した残りの人魚組はドルフィーネ+なんだが。

 ちょっと安堵する。

 が、それだけに6人が際立ってしまう。


『これって、つまり俺への信頼度がより高いってことなんだよな』


 少なくとも他の人魚組よりは高いのは確実だ。

 強化授業で少し多い目に接した程度で出る差なのかと問われれば首を傾げてしまう。


『まあ、事実は引っ繰り返しようがないからな』


 さっさと受け入れてしまうしかない。

 それより今日をどう楽しむかの方が重要だ。


読んでくれてありがとう。

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