↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
618/1785

609 困ったオッサンと疲れる美女と

修正しました。

溺れくらい → 溺れるくらい

 後はベリルママたちが来るのを待ってオオトリに向かうのを待つばかり。

 そう言いたいところではあるが。


『さすがにそれは無視しているようで可哀相か』


 別に俺が避けていたなんてことはないのだが。

 むしろ待っていたくらいである。


 向こうも先程から何度も声を掛けようとして躊躇し続けていたのは分かっている。

 まるで隙だらけなのだ。

 見なくても気配だけで手に取るように動きが分かってしまう。

 今日が遊ぶ日でなければ説教ものの無防備さだ。

 それだけ頭の中が真っ白に近いのだろうが。


「用があるのかないのかハッキリしろ」


 振り返り様にそう言うと、ビシッと気をつけの姿勢で固まってしまった。

 そこにいたのはブルースである。


「……………」


 待っても何も言わない。


『ダメだな』


 完全にガチガチで顔面まで引きつってしまっている。

 女子に囲まれて舞い上がってしまったというところか。

 世話の焼けるオッサンである。


 溜め息のひとつも漏らしたいところであったが自重した。

 それだけで重圧を感じかねないと判断したからだ。


『まったく……』


 このまま放置しても時間の無駄である。

 しょうがないのでバフを掛けてみた。

 これでダメなら荷物扱いでオオトリに連れて行くしかなかろう。

 そのうち復活するかどうかまでは知ったことではない。


 バフはすんなりかかった。

 徐々に緊張がほぐれていくのが顔の強張りが緩んでいくことで分かる。


「で、何の用なんだ?」


 充分に時間をかけて待った後に聞いてみた。


「す、すんません」


 ペコペコ謝り出す。

 どうにも居心地が悪そうにしている。


「それはいいから」


 話が進まなくなるのを懸念して先を促した。


「自分が参加しても良かったのでしょうか」


 何を今更な質問であった。

 だが、気持ちは分からんでもない。

 今回は女子率が異常に高いからな。

 肩身が狭い思いをするのも無理からぬところだ。


 おまけにブルースと気心の知れた面子などほとんどいない。

 唯一といっていいレオーネは妹とガッチリ状態で入り込む余地がないし。

 少なくともブルースには無理だろう。


『御褒美のはずが拷問になってしまっているか』


 そう考えると憐れではある。


「良いか悪いかで言えば良いに決まっている。

 ブルースはそれだけのことをやり遂げたんだからな」


「はあ」


 煮え切らない様子のブルース。


「参加は強制じゃないぞ。

 辞退するのも自由だ。

 理由も問わん」


「いえっ、参加しまっす」


 またもやビシッと直立不動になる。


『まあ、自分からは断れんか』


 角が立つとか考えたのだろう。

 そこで話をそれとなく誘導して自分の参加を却下されるようにとか考えていたのだろう。

 微妙に「やっちまった」な雰囲気を漂わせていることからも、それが窺い知れた。


 そう思っているのも無理からぬところがある。

 このままだとイベント終了まで1人寂しく過ごすことになりそうだし。

 現時点でその気配は濃厚である。


『ぼっちなのが嫌なんだろうなぁ』


「どうせ肩身が狭いんだろ」


「うぐっ」


 しおしおと縮んでいく。

 伸びたり縮んだりと忙しい男である。

 ぼっちに慣れていないと、こんなものだとは思うけど。


『しょうがねえなぁ』


 自分で解決しろというのも酷かもしれん。

 どうも女子相手にはコミュ障なようだし。

 間違ってもリア充な行動は期待できないだろう。


「なんだったら屋台か海の家で働いてみるか?」


 今日は全員で遊ぶと決めていた。

 故に働き手はメイド型自動人形たちでなんとかするつもりだったのだが。


『遊んで針のむしろじゃ意味ねえし』


 それどころか、遊び相手を見繕えずに隅っこで座るだけになりかねない。


「えっと……」


 思わぬ提案だったらしい。

 少々困惑気味ではある。


「もちろん働いた分は給料出すぞ」


 この提案も解決策と言うには違う気もしたけどね。

 今から急にブルースのお世話係を誰かに任命するのも、また違うだろうし。

 ぎこちなくなって双方が楽しめなくなるリスクが高すぎる。

 真面目なブルースだとそういう状況に陥りやすいだろう。


「どうする?」


「それでお願いします」


 何か取り憑いていたモノが落ちたような吹っ切れた表情でブルースは頷いた。

 店員と客の関係なら、ぼっちでも耐えられると判断したのだろう。


『次はこういうことが無いようにしないとな』


 ブルースには悪いことをした。

 俺のミスなのは明らかだし。

 反省である。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



『そろそろか』


 約束の時間まで数分を残すばかりとなった頃のことである。


「ん?」


 ふと、背後に空間の歪みを感じた。

 何の前兆もなくいきなりだ。

 唐突だが違和感の欠片もない。

 あまりに見事な空間魔法の気配に俺は振り向くことしかできなかった。


『何だ?』


 振り返った瞬間、俺の視界に入ってきたのは白く細い2本の腕。

 にゅっと伸びてきて俺の顔面に迫ってきた。


「うおっ」


 慌ててバックステップ……


「なにぃっ!?」


 何故だかキャンセルされた。

 飛び退こうとした瞬間はギリギリ腕の間合いから外れていたのにだ。


『嘘だろぉ!?』


 見えない力によって吸い寄せられたとしか言い様がなかった。

 だが、理力魔法や風魔法が使われた痕跡はない。

 魔力は空間の歪みからしか感じられなかったからな。


 誰かに背後から突き飛ばされたのでもない。

 まるで磁石が鉄を引き寄せるかのようだった。

 が、俺は鉄でも磁石でもない。


 ありとあらゆる感覚で感知できない見えざる何かが作用しているとしか言い様がない。

 こんな理不尽な力を俺はひとつだけ知っている。

 ただしリアルではない。


『ここで格ゲーを思い出すとはな』


 間合いの外から相手を引き込んでグルグルな投げ技に持ち込むアレだ。

 格闘ゲームと違うのは回転も投げられもしないことか。


 あと、むさいオッサンが吸い込んでいる訳ではないということ。

 これが重要である。

 でなきゃ全力で拒否してるって。


「ハルトく~ん、久しぶり~!」


 いきなりのハイテンション。


「ムギュ」


 顕現するなり抱き寄せられた。

 お久しぶりのベリルママである。


『気持ちは分からなくはないんだけどさ』


 電話とかメールで連絡を取るのとは違うと言いたいのだろう。

 とにかくガッチリホールドされていた。

 たっぷりの愛情を全身で表現された結果だ。

 母親が愛情たっぷりなのは良いことだと思うんだけど。


『オーバーアクション過ぎないかい?』


 神様のフルパワーで抱き寄せられてしまったせいで色々と困ったことになっている。

 まず、柔らかい胸部装甲により視界が塞がれた。


 眼福だろって?

 至近距離でも見えなきゃ意味ないんだよ。


 その気になれば神級スキルの【天眼】でどうにかできるけど。

 スキルを使うのはバレバレになるみたいだから、やはり意味がない。


 で、塞がれたのは目だけじゃない。

 口と鼻もだ。

 お陰で満足に喋ることもできない。

 それ以前に普通の人間なら窒息コースなんですが。

 俺は普通じゃないんで、この状態が半日続いても呼吸困難にはならんけど。


 問題は人前だってことだな。


『あー、やーらかーい』


 柔らかいのは至福であるとはいえだ。

 皆に見られるのは恥ずかしい。

 ちょー恥ずかしい。

 が、ここで脱出を試みるなどしてはいけないのはお約束。


『海水浴に行く前から泣かれちゃ敵わん』


 ベリルママに泣かれるくらいなら羞恥心の海で溺れるくらい、お安い御用である。

 慣れたから、そこまで恥ずかしくないんだろって?

 冗談はよしてくれ。


 くれぐれも言っておくぞ。

 顔から火が出そうになるくらい恥ずかしいんだ。

 取捨選択しかできんから、現状維持しているに過ぎない。


 できることなら魔法で光学迷彩くらいは使いたいところなんだが。

 俺が恥ずかしがっていると悟られると非常にマズい。

 恥ずかしがる=拒否と受け取られかねないからだ。

 同様に転送魔法でベリルママと一緒に逃走することも許されない。


『何したって詰むとか冗談きついよな』


 俺のことが絡むと急に思考がポンコツになるベリルママである。

 恥ずかしいのさえどうにかできるなら嫌ではないんだが。

 そんな都合の良い手段はない。


 皆の視線を感じても、どうせ【天眼・遠見】は使いづらいのだし。

 ただ、耳からストレートに情報が入ってくるのは羞恥心に直結する。

 見えないが故に余計にな。


『犬や猫じゃないんだし程々で勘弁してほしいなぁ』


 こんな風に思うことも、なるたけ控えなければならない。

 神がかった鋭さで読まれる恐れがあるからだ。

 いや、相手は神様なんだけど。


 今の俺は極力無心でひたすら耐えるのみ。

 修験者か仙人にでもなった気分が味わえるさ。


 ただし、俺にも切り札はある。

 とにかく耐えること数分。


『あの、そろそろ集合時間なんですが』


 念話でベリルママに呼びかけた。


「あら~、御免なさい」


 たった一言で離れてくれた。

 やれやれである。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。