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606 短期集中強化授業の結果

 いよいよ明日は海水浴となった日の夕刻。

 人魚組の短期集中強化授業が終わった。

 グッタリヘロヘロで地面に突っ伏している。


『さすがに8時間耐久の野外戦闘演習はキツかったか』


 演習とはいえ敵は古参組が召喚したゴーレムだ。

 しかも手加減なしで召喚していた。


『容赦なかったよなぁ』


 ゴブリンと同等の強さのゴーレムは常に数千はいた。

 さすがに学校の外でやったよ。

 それだけの数を有効に攻め手として活用するには、その方が都合が良かったのだ。


 完全に囲まれた状態を想定して8時間耐え凌ぐという恐ろしい実習内容である。

 数百人で対抗していたとはいえね。

 相手は時間内であれば復活し続けるし。

 自分たちは疲労が蓄積する。


 最初に注意しておいたとはいえ、ペース配分や休憩まで管理できたのは見事だと思う。

 もちろん1人も死亡判定を出すことなく凌ぎきった。


 たまにホブゴブリンやオーク相当のゴーレムも召喚していたし。

 最後まで耐えきるのは並大抵のことではなかったはずだ。

 ガチの集団戦闘と言って差し支えなかったと言える。


「お疲れ様。

 よく頑張ったな」


 労いの言葉も、ごく自然に出てきた。


「「「「「……ザァ……ス」」」」」


 ありがとうございますも碌に言えないくらいの状態だ。

 徐々に過酷さを増していく中で脱落者もなく、よくぞ頑張ってくれたと思う。


『根性じゃ在校生に勝ち目はないな』


 今まで逃げて耐えての生活で忍耐強さを養ったのだろう。

 そこから粘り腰につながり、最後まで奮闘した訳だ。

 これは人魚組だからこそできたことだと言える。


 途中で合同授業にするかと考えたんだが、できなかったんだよな。

 3日目の授業終了時に在学生の平均レベルとトントンにまでなった。

 そこで4日目の授業前に在校生に対して強化授業の参加希望者を募ったのだ。


 だが、来たのはたった1人。

 ブルースのオッサンだけだったのだ。


『マジかって思ったもんなぁ』


 当初は希望者の少なさに首を傾げたものだった。

 こんな状態で合同授業などできるはずもない。

 平均レベルは合わせたつもりだったが別の問題があったのだ。


 それは2日目と3日目の強化授業の内容に端を発している。

 人魚組が珍しかったのだろう。

 授業を見学する者がそれなりにいた。


 これを見て、俺は4日目からは希望者には一緒に教えようと考えたのだ。

 見学するくらいだから、きっと受講したがるに違いない。

 そう単純に考えてしまったのだ。


『間違いだったけどな』


 実際の結果は残念なお知らせになってしまった。


「意外だな」


 俺がただ1人で募集に応じてきたブルースに声を掛けると怪訝な表情を返された。


「何がです?」


 自分が参加するのは当然なんて目でこちらを見ていたさ。


「参加希望者がブルースだけってのがな」


 そう言うと、納得がいったように何度も頷いていた。


「昨日と一昨日の強化授業の評判が口コミで拡がったせいでしょうね」


「どゆこと?」


 見学していた者たちが宣伝してくれるなら希望者が殺到してもおかしくない。

 最初はそんな風に考えていたが、どうも違ったようだ。


「結論から言うと無理だそうです」


「え?」


 返事を聞いた瞬間は訳が分からなかった。


「ローズ先生の特訓より過酷だから無理なんだそうですよ」


 その一言で察することはできた。

 見学者たちが怖じ気づいてしまったという訳だ。


『そこまでの授業をしたつもりはないんだが……』


 そういう意識があるから、こちらとしては困惑するばかり。


「在校生の間じゃ噂で持ちきりでしたよ」


「なんと?」


「ひとことで言えば「死ねる」そうです」


 そんな風に思うなら怖じ気づくよな。


「安全マージンは確保するようにしていたつもりだったんだがなぁ」


 危険はないように細心の注意を払っていたし。

 まあ、ポーションは使い倒して休憩時間は最小限になるようにはしたけどさ。


「アレでですか!?」


『なんでブルースまで驚くのさ』


 そういや此奴も見学していた。

 にも関わらず強化授業に参加を希望するのだ。


『だったら、そこで驚くのはどうよ?』


 矛盾していると思うのだが。

 そうでないと言うなら生粋のMってことにならないか?

 それなら分かるが、理解したくはない。

 俺の中でMな人間は変態が多いからだ。

 とりあえず、その件に関してはスルーしておいた。


「怪我人は出していないし。

 それに脱落者もいないだろ」


「そりゃ、そうなんですがね……」


 歯切れの悪いブルースである。

 納得していないのだろう。

 どうにも互いの意識にギャップがありすぎる。


『皆の中で俺はどれ程の鬼畜野郎なんだか』


 少なくともドS認定されてそうだ。

 泣いていいかと聞きたくなってくる。

 誰にもそんなことは聞かないし、泣くこともしないけどな。


「なんなら強化授業の参加は止めておくか?」


「いえっ、是非ともお願いしまっす!」


 直立不動のビシッとした姿勢で即答された。

 不安もあるだろうに、やる気は本物のようだ。

 逆を言えば「Mなんじゃね?」という疑問が湧いてくるが。

 それについては強化授業が終わった今も疑惑が残っている。

 人魚組とは離れた所で大の字になって寝っ転がっているけれど……


『悪いけどキモいぞ、ブルース』


 疲労しているのにニヤニヤが止まらないんだよな。

 いい年したオッサンが人目もはばからず、そんな姿を見せているのが怖い。


『まあ、本人が気付いてないだけなんだろうが』


 気持ちは分からんではないが。

 気合いと根性で強化授業を乗り切ったのだ。

 相応の充実感を感じているのだろう。

 現に頑張りに相応しいだけのレベルアップをしている。


[ブルース・ボウマン/レベル88 → 113]


『短期間でこれだけレベルアップしたなら満足か』


 キモいのはスルーしておこう。

 見なけりゃ気にならんレベルだし。

 その場にいる他の面々がどう思うかは別問題である。


『ニヤニヤするのはせめて1人の時にしておけば良いのに』


 後々に影響するかもしれんが、そこまで責任は持てない。

 ん? どんな影響があるかって?

 ズバリ、女の子から敬遠されるっ。

 下手をすれば男からもだが……


 ただ、従来の在学生でこの強化授業に参加したのはブルースだけだ。

 致命的な噂は拡がらないだろう。

 女子に関しては人魚組が誰と親しくなっていくか次第だと思われる。

 少なくとも人魚組からは敬遠されるはず。

 1人が気付けば全員に拡散して終わりだ。


 今のところは疲労で動けないこともあって気付かれていないが、時間の問題である。

 後は人魚組が誰と親しくなっていくかなんだが、これは読めない。

 何となくブルースの将来は野郎どもに囲まれてそうな気がするんだが。


 ちなみに古参組は生暖かい視線をブルースに対して送っている。


『憐れな……』


 同情はするが、どうにかはしない。

 そこまで過保護にするのもどうかと思うし。

 そもそも頼まれてすらいない。

 頼まれることはないだろうけど。


 さて、オッサンの話題はここまでだ。

 強くなったのはブルースだけではない。

 人魚組も全般的にレベルアップした。

 大半の者がレベル80台後半である。

 残りは初日に実習教室行きを達成した6名だ。

 低いわけがない。


[ナギノエ/レベル83 → 118]

[ヤエナミ/レベル79 → 115]

[マリナミ/レベル73 → 111]

[クノミカ/レベル71 → 110]

[ユリノエ/レベル68 → 109]

[アスカミ/レベル65 → 108]


 ナギノエとヤエナミは完全にブルースを逆転している。

 このあたりは魔法の才能もあるのだろう。

 あと、意外ではあるが近接戦闘でも差がついた。


 戦うのが苦手だと思っていたドルフィーネが教えれば教えるほど伸びたのだ。

 今までは単に戦い方を武器の扱いを知らなかっただけ。

 教わる相手もいなかった。

 それなりに魔法は使えたのも近接戦闘を回避してきた理由のひとつだろう。

 気構えが大きな要因ではあったが。


「襲われるのは舐められているからだぞ。

 別の言い方をするなら餌だって思われているんだ」


 2日目の授業開始直後くらいに俺が言ったことだ。


「怖いと思う相手に喧嘩を売る奴はそうそういない。

 普通は本能が中途半端に薄れたゴブリンくらいのものだ」


 みんなポカーンとしていたよ。


「普通じゃないのは、どんな相手なんでしょうか?」


 ドルフィーネの1人が聞いてきた。

 俺は質問で切り返す。


「敵に追い詰められたらどうする?

 無抵抗でされるがままなのか?」


「「「「「あ……」」」」」


 聞いてきたドルフィーネだけでなく、多くの者が呆気にとられていた。


「おいおい、今まで考えたこともなかったって顔してるぞ」


「考えたことなかったです」


 素で返されるとは思わなかったさ。

 ガックリだ。


「逃げることばかり考えてました」


「戦い方を知らないし……」


「それを俺たちが教えてやる。

 いいか、肝に銘じろ。

 守ってもらうだけじゃ何処かに隙ができる。

 最後に自分の身を守るのは自分だってことだ。

 そして己自身を守れるなら皆も守れる。

 仲間が大事なら皆で強くなれ。

 1人だけより皆を守る力が強くなる」


 静まりかえっていた。

 よほどショックを受けたのだろう。

 人魚組が再起動するまでにそれなりの時間を要したほどだ。


 その後、憑き物が落ちたかのように戦い方を学ぶ姿勢を見せるようになった。

 結果は彼女らの現在のレベルが示している。


読んでくれてありがとう。

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