605 授業とデザート
修正しました。
魔法を内包型魔法を → 内包型魔法を
初日の授業が終わった。
「皆お疲れー」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
元気のいい挨拶をもらった。
けれども人魚組は直後に座り込んでしまう。
最後の力を振り絞ってと言うと大袈裟かもしれないが、そんな感じだったんだろう。
『まあ、ポーションもそれなりに消費したしな』
普通は魔力を消耗すれば、回復まで待つものだ。
その間は休憩になる。
故に魔法の行使のために蓄積した精神的な疲労も回復する訳で。
これを魔力回復ポーションで休憩時間を短縮させると、どうなるか。
言うまでもないことだろう。
結果は目の前で人魚組が証明している。
皆の頑張りを見ているから不甲斐ないなんてことは間違っても言えない。
火魔法を苦手としている彼女らが苦手意識を克服するのは並大抵のことではないのだ。
とりあえずロウソクなしで火を灯すところまでは全員ができるようになった。
大半の者は授業終わり間近になってからだったけどね。
「授業終了まで残り15分だぞ」
「「「「「きゃ────────っ!」」」」」
俺が残り時間を言っただけで耳をつんざくような悲鳴が上がったからな。
破壊音波と言っても差し支えないレベルだった。
「待って待ってぇ───っ」
ドルフィーネの1人が言った。
「待たないよ」
これ以上は続けても意味がないのは明らかだったし。
疲労が蓄積して集中力が続かなくなっていた。
現段階で疲労時の集中力を維持する訓練は行う予定はない。
もっと安定して魔法を行使できるようにならないと逆効果でしかないからだ。
「もう少しぃ」
「ちょっとだけでもぉ」
「お願いしますぅ」
別のドルフィーネたちが懇願の声を上げてきた。
根性はある。
忍耐を強いられる生活が続いていたからだろうか。
いずれにせよ却下である。
「だーめ!
疲労で集中力が低下すると事故につながるんだ」
そう言うと、何も言わなくなったが。
代わりにテンションが下がってしまった。
「そんな簡単に諦めるなよ。
まだ時間は残ってるんだぞ。
今日できなかった者は明日も同じメニューになるからそのつもりで」
この言葉で再び内包型魔法習得に向けて取り組み始めた。
が、いまいち身が入っていない。
『こういう時にこそラストスパートで集中力を高めて欲しかったんだがなぁ』
仕方がないので強制的にブーストがかかる魔法の言葉をチョイスした。
「今日、内包型魔法が使えた者は晩御飯にデザートをつけるよ」
これで全員の目の色が変わった。
カッと両目を見開き、鬼気迫る表情に。
『デザートがなんなのか言う前からこれかよ』
どんだけ食い意地が張ってるのかと小1時間ほど問い詰めたくなったさ。
まあ、今日1日で最高の集中ぶりを見せてくれたから邪魔はしなかったけど。
とにかく本物の魔法を習得してくれればそれでいいのだ。
「それじゃあ残りの時間を無駄にせず最後まで頑張ろう!」
俺が声を掛けても返事はなかった。
『まるで聞こえていない、か』
それはそれで問題があるのだが。
隙だらけになるからな。
今日のところは良しとする。
結局、発奮したことで皆が内包型魔法を使えるようになったのだし。
それに隙を見せるなと言っても今の彼女らには、どうにもできない。
集中が乱れるだけで終わってしまうのがオチだからな。
そういうのは必要最低限のことができるようになってからでも遅くはない。
少なくとも今週中にどうにかできるものでもないだろう。
『焦らず追々だな』
とにかく全員が初日で初期目標を達成できたのは良かった。
丸々2日はかかるかと思っていたし。
短縮できたのは食い意地が張っていたお陰というのが、いまいち締まらない話だけど。
一方でナギノエやヤエナミなどは次のステップへと進むことになった。
全員一律で公平になんて言わない。
先に進むことができるならドンドン進めていくのがうちの主義だ。
学校で重要視されるのは獲得単位である。
学年の概念もない。
在籍日数は少ないほど良いとされる。
そうしないと居心地が良すぎて卒業を意図的に遅らせる者が出かねないのだ。
『授業料は無料だし学食を利用するための補助も出るからなぁ』
補助の割合は獲得した単位の内容によって変わる。
現時点で人魚組は全額補助だ。
生産や狩猟を行う実習授業を受ければ変わっていく。
これらの授業では授業の成果である提出物を学校が買い取ることになっているからだ。
別の見方をすれば、授業でアルバイトをしているようなものである。
買い取り報酬を受け取るということは給与を受け取っているのと同じだからね。
品質は高くないものが多いので支払われる額も多くはないけれど。
ちなみに補助にしても給料にしても硬貨は使われない。
国内でのみ流通が許されたマギマネーで支払われる。
スマホに専用アプリを入れて使う代物だと言えば勘の良い人ならピンとくるだろう。
ぶっちゃけ電子マネーである。
電子データではないのでマギマネーと名前を変えている訳だ。
『ホントは名前だけじゃないんだろうけどな』
地球で採用されているシステムをコピーしたわけじゃないからね。
詳しく調べたわけでもない。
こんな感じだろうという推測の元に自分で組み上げた。
従って中身は別物と言っていいと思う。
入出金の代わりにスマホで管理するポイントの増減を行うシステムを作っただけだし。
あんまり複雑にすると後が大変そうだったというのがある。
概念的には同じなんだろうけどね。
運用のされ方とかは見てきている訳だし。
それだけで真似をするというのは、なかなか困難ではあった。
足りない部分は自分で考えないといけなかったからね。
『苦労させられたさ』
それでも採用することにしたのは、お金の使い方を皆に教える必要があったからだ。
そういうときに限って外貨が不足するんだよね。
国民が一気に増えたからなんだけど。
使い始めてみると思いのほか便利だったので最近ではこれがメインで使われている。
給付金とか補助金の処理が楽なんだよね。
『そのせいで卒業させるのに頭を悩ませることになったりするんだけど』
そのあたりは複数の手で対応している。
短期で卒業した者は表彰するのも、そのうちのひとつだ。
副賞として報賞金と記念品が授与される。
これは名誉であることを重視しているので出費は少なめだ。
ただ、在学期間が短いほど副賞も良くなるようにはしている。
一律じゃ気合いが入りづらいからね。
後は単位ごとに獲得までの期間を評価するシステムを入れている。
卒業時に総合評価がマイナスであればペナルティが発生するようにしたのだ。
そのひとつが罰金である。
支払期限を設定し、額によっては分納できるようにはしたけれど。
支払いが滞れば利息が増す。
罰金と言うよりは借金に近いか。
いずれにせよ授業料を無料にしている反動と言えるだろう。
ちなみに誰でも無料って訳じゃない。
卒業しても在学を希望する者には授業料を払ってもらう。
『今のところ、そんな物好きは妖精組だけだがな』
あと、他のペナルティとしては成績に影響する。
希望する進路で有利不利ができてしまうし無視はできない。
『調整はなかなか難しいけどな』
まだまだ試験運用している段階だ。
ちなみに評価システムはゆるめにしている。
お陰でペナルティが発生しそうな者は現状では1人もいない。
むしろ表彰者が何人か出ている。
人魚組からも何人かは出そうな感じだ。
その候補者たちは早い段階で体育館から実習用の教室へ移動することになった。
体育館内で派手に魔法を使うと他の皆に影響しかねなかったのでね。
魔法実習室行きは次の6名だ。
[ナギノエ/レベル80 → 83]
[ヤエナミ/レベル72 → 79]
[マリナミ/レベル63 → 73]
[クノミカ/レベル58 → 71]
[ユリノエ/レベル52 → 68]
[アスカミ/レベル48 → 65]
ナギノエとヤエナミが含まれているのは、まあ当然だろう。
マリナミは紺色の髪のおっとりさん。
少し色気のある感じのお姉さんだ。
ザ・無表情のクノミカはオレンジ色の髪をしている。
ノエルを大人にするとああいう雰囲気になるのかもといった感じ。
ユリノエは眠そうなタレ目がトレードマークのようだ。
緋色の髪で目立つけど本人は自然体である。
というより、ボーッとしていて何も考えていないように見えてしまうのだが。
実際がどうなのかは、まだ掴みきれていない。
暗緑色の髪のアスカミは地味な雰囲気を漂わせている。
まあ、物静かなだけで根暗とまでは言えないかな。
気配が薄そうというか、とにかく目立たないけれど。
気付いたら側にいて驚かされたなんてことがありそうだ。
とにかく、この面子が初日の成績優秀者である。
体育館で合流させてから学食へ向かおうと思ったのだが……
『こりゃ、移動は難しいか』
疲労はポーションでなんとかできる。
けれども空腹では如何ともしがたい訳で。
『みんな頑張ったからなぁ』
ナギノエたちは余力がある感じだが、体育館組はヘロヘロだ。
このまま学食まで歩かせるのは酷というもの。
転送魔法で学食の近くまで送ることはできるけど、現状だと1歩でも動くのは辛そうだ。
些か変則的だが、晩御飯の前に何かを食べさせた方が無難である。
『倒れられても敵わんしな』
甘くてすぐにエネルギーになるものがいいだろう。
そう考えた瞬間、思い出した。
「約束だったな。
先にデザートを配るぞ」
「「「「「きゃ─────っ!」」」」」
碌に力が出ないはずなのに驚くほど大きな歓声が上がった。
ただ、授業の残り時間を言った時の悲鳴とは似て非なるものだ。
少なくとも耳にダメージが残りそうな感じではなかった。
「まずは皿を出す。
全員、手を出せー」
そしたら古参組も当然のように手を出してきた。
『まあ、いいけど』
落としても大丈夫なように野外用のアルミの皿を瞬時にコピー錬成。
短距離転送でパパッと配布した。
「じゃあ、次は本命のデザートだ」
今度は歓声こそ上がらなかったが、待ちきれない空気が俺を飲み込んだ。
『そんなに期待されてもな』
用意していたのはシンプルなアイスクリームだし。
まあ、物珍しさもあったせいか好評ではあったけど。
読んでくれてありがとう。




