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604 懐かしい授業?

「まずは諸君が苦手としているであろう火魔法を使ってもらう」


 俺が懸念していた通り、人魚組の大半が怯む姿を見せた。

 だが、ざわめく様子はない。

 声もなくたじろいだ、そんな感じだ。

 誰も不満や不安を口にする者はいない。

 思った以上にやる気があるようだ。


『これなら行けるか』


 手応えを感じつつ人間サイズのロウソクをドンと出す。

 どよめく一同。


『まあ、こんなの出されたら驚くよな』


 ついつい苦笑が出てしまう。


「これに火をつけるよりは楽だぞ」


 そう言いながら手本として超特大ロウソクに魔法で火をつけた。


「火をつけたら風魔法で消す」


 デカくても所詮はロウソク。

 すぐに火は消える。

 細く立ち上る煤まじりの煙が残った。

 これに火を近づけるとロウソクに火がつくので注意が必要である。


『まあ、今は関係ない話か』


 思わず苦笑が漏れそうになった。


「最初に言っておくが呪文は厳禁だ。

 ただひたすらに念じるのみで火をつけろ」


「「「「「ええーっ!?」」」」」


 悲鳴に近い声が聞こえてきた。

 無詠唱で魔法を使ったことがない者たちばかりなのだろう。


「嘘ぉー」


「ただでさえ火魔法なんて適性ある子が少ないのに」


「念じるだけって無詠唱ってことでしょ」


「そんなのナギノエ様とヤエナミくらいしか無理じゃない?」


「厳しいわね」


 どうやら条件の厳しさに驚いたようだ。

 だが、そう思っているのは言われた当人たちだけである。


「大丈夫やって」


「そうそう、私たちなんて魔法が全然使えない状態だったんだから」


「そうですよー」


 アニス、レイナ、ダニエラがフォローして回り始めた。


「練習しないと使えない」


「失敗するなとは誰も言っていないぞ」


「「大丈夫だよ、陛下はこんなことで失敗しても怒らないよ」」


 リーシャ、ルーリア、双子も続く。


「ワシらなど碌に魔法が使えなんだ」


「なかなか思い通りに行かないかもしれない。

 だが、最初から諦めては何も始まらない」


 ハマーとボルトも受け持っているグループに呼びかけていた。

 ガンフォールは言葉もなく2本のロウソクを手につけたり消したりを実践している。


「ん?」


 タイミングが一定ではない。

 変だと思ったが、すぐに気が付いた。

 モールス信号である。


[練習あるのみ]


 それが信号の内容である。

 ロウソクの点け消しで信号を発信するとは思わなかったさ。


「……………」


 呆れて言葉も出てこない。

 人魚組にはまだ教えていないことだからな。

 モールス信号なんて今後の授業で学ばせようと思っていたことだ。

 しかも海水浴の前にはやらんし。

 人魚組が覚える頃には今日のロウソク信号など忘れているはず。

 仮に記憶に残っていても、細かい文面までは覚えてはいまい。


 意味もなくやっているとは思えないのだが。

 あるいは意図的に意味のない行動をしているとかだろうか。

 なるたけ口出しを控えるために代替行動を行っているみたいな。


『分からん』


 スルー決定。

 邪魔をしているわけではないし。

 手が足りない状況でもない。

 他のグループはちゃんと別の担当がついている。


「陛下は無理なことできないことは言いませんよ」


「ちゃんと加減してくれていますから」


「無茶を言っているように思えるかもしれませんが大丈夫ですよ」


 エリス、マリア、クリスの3姉妹。


「ミズホ国では今までの常識に囚われていると苦労するぞ」


『おい、キース……』


 それはフォローになってないだろうと言いたくなった。

 が、担当しているドルフィーネたちが苦笑しつつも頷いているのを見てストップ。

 不器用ながらも気遣っている気持ちは伝わっているようだ。


「慣れるのが大事ニャ」


「練習練習また練習です」


「いっぱい空想するのがコツなの」


「「頑張るの」」


 子供組が体全体を使って訴えかけている。

 受け持ちグループの面子やその近辺にいる者たちは萌えに萌えて身悶えしていた。


『あの近くにマイカを配置しなくて正解だったな』


 絶対にモフモフ病の発作を発症したはずだ。

 で、そのマイカは子供組とは反対側のグループを担当。


「心配しなくて大丈夫よ!」


 根拠も示さず豪快にサムズアップ&ウィンク。


「最初はうまく行かないと思うけど根気よく続けることが大事よ」


 ミズキがフォローする形だ。

 他の古参組もそれぞれの言葉で人魚組を宥めに回ってくれた。

 あちこちでざわつきかけていたが急速に鎮静化。


『助かったぁ』


 ホッと一安心である。

 一時はどうなることかと思ったさ。

 これは皆の働きあっての結果だろう。

 俺だけじゃこんな短時間で皆を静まらせるのは不可能だからな。


『みんな、サンキュー』


 心の中で礼を言っておく。

 だが、まだまだ油断のできる状況じゃない。

 爆弾はまだ残っているのだ。


 むしろ、今から言うことの方が人魚組にとってショッキングだと思う。

 不安がないと言えば嘘になる。

 だが、古参組も人魚組のことも信じて前進あるのみだ。


「まず言っておく。

 ミズホ国で使われている魔法以外はどれもまがい物だ」


 アニスとレイナが「自分たちも言われたっけ」みたいに頷き合っていた。

 他の月影の面子も懐かしがっているようである。


『思えば成長したもんだ』


 一方で人魚組の大半が「そんなこと言われても」と、戸惑いの表情を見せていた。

 最初はこんなものである。

 頷き合った2人も、そんな反応だったし。

 そもそも自分たちの使ってきた魔法を全否定されるとは思っていなかったはずだ。

 常識の範疇にないことを言われて「はい、そうですか」と納得できる者は少ないだろう。


「俺に言わせれば魔法の使い方をみんな間違えている」


 俺がそう言うと人魚組は困惑の色を深めた。


「そうなの?」


「どうなの?」


「詳しい話も聞かずに分かるわけ無いじゃない」


「呪文禁止と関係あるのかもしれないわね」


「そうかしら?」


 そこで魔法の基礎から教えていく。

 まずは発動方法から。

 内包型と後から開発された放出型。

 皆の使っている魔法が放出型であること。

 放出型が練習用として作られたことを説明すると──


「うそー」


「やだー」


「信じらんなーい」


 何とも気の抜ける反応をされてしまった。

 こういうのはごく一部だったけどね。

 信じ難いというのは全体的な傾向ではあったが。

 そこで詳細な手順を説明していく。

 長所や短所もなるたけ分かり易くなるように合わせて説明した。


「楽な方へ流れてしまったんだ……」


 誰かがそう言うと、一斉に落ち込んでしまった。

 些か予想外の反応である。


「内包型の練習を始める前からそれか」


 前途多難である。


「だって今までの魔法の概念をすべて捨てないとダメなんですよね」


 別のドルフィーネがそう言った。

 うんうんと同意する一同。


「そういう発想こそ捨てるべきだな」


「「「「「えっ!?」」」」」


「内包型の練習を始めるときに真っ先に求めるものがあるからだ」


 少し間を置く。

 体育館の中が静まりかえっていた。

 固唾をのむ音すら聞こえない。

 誰もが次の俺の言葉を聞き逃すまいと集中していた。


「それは空想力だ。

 あるいは妄想力でもいい。

 とにかくイメージを強くすること。

 強く思い描き願うこと。

 それが内包型の魔法で求められるものだ」


 俺の言葉は意外だったのだろうか。

 にわかには信じられないらしく、誰も言葉を発さない。


「まずは渡したロウソクに火を灯してみせろ」


 そう言うと、皆の雰囲気が変わった。

 こちらに向けられていた気配が手元に変わったからだろう。

 相変わらず無言であったが、本気で内包型の魔法に取り組み始めたようだ。


 ここで簡単に火がつくようなら苦労はしない。

 そう思ったのだが、何事も例外はある。

 ヤエナミが数分とかからず成功させたのだ。

 続いてナギノエ。


 1番がヤエナミだったのは意外ではない。

 少なくとも人魚組は誰も驚かなかった。

 次代の長候補筆頭だったというのは伊達ではないようだ。


『才能の上では長をも超えるか』


 生まれてくる世代が同じであったならヤエナミが長だったかもしれない。


『ビビり癖が抜けないことにはダメなんだろうけど』


 なんにせよ2人は別格のようだ。

 とりあえずグループからは引き抜いて体育館の隅っこへ連れて行ってもらう。

 現物なしでイメージする練習をさせるためだ。


 イメージのロウソクに点火し、炎を残したままロウソクを排除する。

 月影の面々が苦労したトレーニング。

 もちろんヤエナミやナギノエがすぐにこなせるわけでもない。

 実物のロウソクのあるなしでイメージに差が出ているせいだろう。

 燃やすための何かがあるという先入観は無意識に差を生み出していた訳だ。

 それを払拭できるかは本人たち次第。

 簡単なようで難しい最初の壁だ。


読んでくれてありがとう。

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