585 結局こういう流れになる
修正しました。
何と仰います → 何を~
「くっくぅくー、くーくっくぅくう?」
ついでに全員、国民にしちゃえば?
何を仰いますやらな爆弾発言。
一瞬だけどフリーズしちゃったよ。
すぐに再起動するも動揺は収まらない。
『ぬぅわにぃっ!?』
驚愕の声が喉から出なかったのは俺的ファインプレーだ。
ちなみに岩塚群青さんではない。
混乱はしたが、物真似するほど訳の分からん状態にまでは陥らなかったさ。
そもそも真似たつもりがないからトモさんの物真似とは似ても似つかない代物だ。
単に内心で絶叫させられてしまっただけである。
その上、追い討ちがあるんだもんな。
ローズの立場だと援護射撃になるんだろうか。
「ふむ、悪くないかもしれんの」
ガンフォールまで、そんなことを言い出す始末……
寝耳に水とはまさにこのこと。
『いやはや、想定外だわ』
ぶったまげですよ。
爆弾発言ですよ。
しかも念話ではなく普通に喋ってらっしゃいませんか、ローズさん?
ガンフォールも追撃してくるし。
『いかんな、いかんよ、ダメですよ』
なかなか動揺が収まってくれない。
「主よ、何を躊躇う必要があるのじゃ?」
『マジかぁ……』
シヅカまで加わってきたよ。
「ローズが認めたのであれば問題などなかろう」
『そりゃそうだけどさ』
「事情も分かってる」
ノエルも参戦してきた。
「スカウトくらいはしてもいいんじゃないですかー」
ダニエラまで……
言いたいことは分かるんだが、そんなつもりは一切なかったんだよ。
ドルフィーネたちは住む場所を追われた立場ではある。
けれども、その原因は排除されているのだ。
普通に考えれば彼女らの故郷に帰ると思わないか?
今までちゃんとやってこられたんだし。
今回の敵がイレギュラーすぎただけだよな。
そりゃあ行く当てもないというなら保護も考えるよ。
それこそバーグラーの時の奴隷組のようにな。
でも、彼等は行く当てがなかった訳で。
そういう意味ではドルフィーネたちは帰る場所はあると思うんだが。
ないなら考えてもいい。
別に絶対に嫌だと言いたい訳じゃないんだ。
皆の主張にドルフィーネたちの意思は含まれてないだろ。
まあ、ローズは彼女らの潜在意識を感じ取って言ってるとは思うんだが。
それでも、どうしたいのかと本人たちからは聞いていない。
提案に乗るとしても、そこは確認しないとな。
「こんなことをうちの身内が言ってるんだが、どうしたい?」
ヤエナミを見ながら言ってみた。
「え?」
唐突な話の振られ方で状況が把握できないらしい。
呆気にとられた表情でヤエナミが固まる。
「ヤエナミたちの今後をどうしようか考えようって話だ」
そう言うと、ヤエナミも真剣な表情になった。
「はい」
目をそらさず軽く頷くヤエナミ。
「俺たちからの提案は君らを国民として迎えるというものだ」
俺の言葉を聞いてもヤエナミは動揺しなかった。
まあ、目の前で俺たちがそういう話をしていたからな。
既に知っている話なら動揺することもないだろう。
「先に言っておくが、強制的に従属させるつもりはない。
国民は家族ってのがうちのモットーみたいなものだからな。
無理やり従わせた相手を家族とは言わんだろう?」
「はい」
「もし故郷に帰りたいというなら送っていく」
故郷に帰るのも選択のひとつだと暗に言ってみた。
「はい」
普通に短く返事があるだけだった。
「もしかして話を聞くだけ聞いて皆で相談?」
「ええ、そうしようかと思っています」
「その方がいいだろうな。
色々と意見は出てくるだろうし」
「そうでしょうか?」
ヤエナミは少し首を傾げている。
方針に関わる提案はそうそうなされるものではないと言いたいのかもしれない。
「例えば国民にはならない場合でもいくつかあるだろ。
新天地を探し求めるとかさ。
そういう場合でも何を重視するかで変わってくる。
食べ物が見つけやすいか、隠れやすいか、穏やかな環境か」
「それは確かに」
そんなことを言っているが、その言葉に気がこもっていない。
まるで俺の意見がドルフィーネたちには受け入れられないと言っているかのようだ。
『どういうことだ?』
「あー、うちの近海で住むのも選択のひとつだと思うぞ」
これには強い反応があった。
「いいのですか!?」
「ダメなら、こんなことは言わないよ」
俺としては普通のというか当たり前のことなんだけど。
ドルフィーネたちには驚きであるらしい。
ヤエナミが目も口も開きっぱなしの状態だ。
いつの間にか興味深そうに近寄ってきたドルフィーネたちも互いに顔を見合わせている。
「国民ではなくても友達だからな」
そう言うと、ローズが両手を腰に当てて胸を反らしてドヤ顔をした。
「くぅー」
ドヤァって口で言ってますよ、ローズさん。
『そんな自慢げに言うようなことじゃないでしょうが』
とりあえず喉まで出かかったツッコミは飲み込んでおいた。
ローズの「ドヤァ」はヤエナミ以外に聞かれた様子がないからだ。
俺の発言の直後にドルフィーネたちは口々に話し始めたし。
まるで井戸端会議を何組も集めてきたかのような様相だ。
そこかしこで数名のグループを作ってあーだこーだと話している。
ヒソヒソした感じは全然ない。
お陰で急に騒がしくなった。
『ついさっきとは大違いだな。
信じられんくらい無防備だ』
俺たちの側で、こちらを気にすることなく話に夢中だもんよ。
ドルフィーネたちから壁がなくなりでもしない限り、こうはいかないはず。
懐に入れそうにないと頭を悩ませていた頃からすると大違いだ。
『どうしてこうなった』
まあ、好ましい方への変化だと思うから気にしてもしょうがないとは思うけど。
むしろ気にすべきは彼女らの話題だろう。
【多重思考】スキルで複数の俺を立ち上げて各グループの話題を把握する。
「……………」
何を喋っているかというと、俺の提案についてどうするかが話題となっていた。
これはまあ当たり前。
話題のメインは国民になるかならないか。
なる派は半分くらいだろうか。
気にしているのは友達ではなくなること。
『そんなに友達ってのは重要なのか?』
そして彼女らの意見で気になる点がもうひとつ。
残り半分のならない派について。
彼女らの選択肢が一択のみなのはどういうことなのだろうか。
ならない派がいるグループは何処もうちの近海で住むという意見しかないのだ。
『なんか意見が偏ってないか?』
誰も他の案について話題にしないってのが謎だ。
「なんか国民にならない意見の方は極端すぎないか?」
俺と相対していたために井戸端会議に参加することのなかったヤエナミに聞いてみる。
するとヤエナミが苦笑を返してきた。
「ヒガ陛下の感覚からすると、そうかもしれませんね」
「あらら」
どうやらヤエナミには予想の範疇だったらしい。
「私は最初、国民として迎え入れてもらう意見だけになると思っていましたから」
なぜかドヤ顔のヤエナミである。
「ですから友達という言葉は大きかったと思いますよ」
「マジかぁ」
見た目はともかく考え方の上では似たもの同士がそろっているようだ。
そう考えると、先程ヤエナミが首を傾げたことにも納得がいく。
『ほぼ一択状態だって言いたかったんだろうな。
国民にならないにしても、それに近い状態を望むと』
現状の井戸端会議における意見の偏りはそういうことだったのだ。
国民にならないとしても、そんなに差はない結果になるのは目に見えている。
友達で充分とするかどうかなんだろう。
『故に友人として隣人になるしか考えられないってことか。
それなら確かに多種多様な意見が出ることは考えにくいよな』
そのうち意見が統一されたと思しきグループが周辺へと散らばっていった。
皆に伝達するためのようだ。
しばらく見ていると、彼方此方で井戸端会議グループができていく。
もはやお説教チームも解散状態である。
お陰で解放されたナギノエが力なくフラフラとこちらにやって来た。
こってり絞られた感じが見て取れる。
小1時間ほどなんだが、集中砲火を浴びていたしな。
それでも俺の前に来ると背筋を伸ばしてから深々と一礼した。
「何から何までお世話を掛けてしまい申し訳ありません」
「気にするな。
俺がそうしたいからするだけだ」
「ですがっ」
食い下がってくるナギノエ。
「友達が困っているなら手助けしたいと思うだろ」
「それはそうですが……」
「俺たちが勝手に友達だと思っているだけだ」
一方的すぎるとストーカーになりかねないから注意は必要だがな。
向こうに振られることも考慮しておかねばならないってことだ。
怖がられてダメってことはあるだろうし。
「俺たちからすりゃあヤエナミは、もう友達だ」
そう言うとヤエナミがピクリと反応した。
嫌悪感は感じない。
むしろモジモジし始めた。
『これは受け入れられているってことだよな』
一方通行でないことに安堵する。
「で、ここの皆はヤエナミの仲間か身内かってとこだろ?」
質問の形になっているが答えを聞くために言ったことではない。
ある意味、ドルフィーネたちへの語り掛けだ。
「友達の仲間も身内もみんな友達だ」
俺のこの言葉にナギノエは呆気にとられている。
それほどインパクトのあることを言った覚えはないのだけれど。
「国民になるというなら友達から家族になってしまうがな」
俺がそう言うと、周囲の空気が変わった。
いつの間にか静かになっていたのに、またしてもざわつき始める。
『なんだろな?』
嫌な感じはしないけど。
読んでくれてありがとう。




