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586 立つ鳥、跡を壊さず解放する

「家族?」


「家族だって」


「家族かぁ」


「友達も悪くないけど」


「家族の方がいいわよね」


 こんな具合に井戸端会議が再開されるが、すぐに終了する。

 どうにもドルフィーネたちは友達や家族というものに執着があるらしい。

 程度のほどは不明だが敏感に反応しているのは確か。

 西方人よりは確実に重要視しているだろう。

 少なくともこの場にいるドルフィーネたちは。


『うちの妖精組にとっての忍者に該当するのかもな』


 何を切っ掛けとして反応するようになったのかは不明だが。

 それによっては他のドルフィーネの集団では異なる反応が見られる可能性はある。


『なんにせよ友達と家族は大事なわけだ』


 彼女らの前で初めて友達という単語を口にしたときにも反応していたし。

 アレがなければ彼女らの懐には入れていなかった気がする。


『まあ、向こうから招き入れてくれたみたいなものだけど』


 結果は同じだからどうでもいい。

 とにかく意外な所で役に立った訳だ。

 瓢箪から駒が出たと言うには微妙に違うのかもしれないが。


『で、友達より家族の方が比重が大きいと』


 そのお陰なんだろうかドルフィーネたちの意見が国民の方へ傾いているようだ。

 こういうのって反対や異なる考えがないというのは危惧すべきだとは思うのだが。

 今回の場合は些か事情は異なるか。


 誰かが誘導した訳ではないし。

 各個人が自分の意思でもって判断しているようだし。

 それが誰1人ズレることなく同じ見解で結論に達した。


 流された訳ではない。

 異常な興奮状態から視野狭窄になった訳でもない。

 結論が一致したのは第三者の目で見れば偶然なのだ。

 本人たちからすると必然のようだが。


 部外者からすると、それはそれで何か空恐ろしいものがあるのかもしれない。

 妖精組の忍者好きという前例を知っていると、なんてことはないんだが。

 何となくだが、俺はそういう風に受け取った。

 病的に過剰反応することもないだろう。

 なんにせよ、ほぼ全員が結論を出した。


「ナギノエはどうする」


「この話、お受けしようと思います」


 そう言ってナギノエは深々と一礼した。


「ヤエナミは?」


「断る理由がありません。

 よろしくお願いいたします」


 ナギノエに倣って深くお辞儀をするヤエナミ。

 すると、他のドルフィーネたちも次々と最敬礼をしていく。

 全員がミズホ国の国民となることを選んだ瞬間であった。


「こちらこそヨロシク」


「相変わらず軽いのう」


 やや呆れ気味なガンフォールがツッコミを入れてきた。


「当人たちが自分の意思で選んだんだ。

 話し合いはしていたが、説得された感じじゃなかったし」


「己の判断で選んだのなら反対する理由はない、ということじゃな」


「ああ、尊重すべきだろ」


「ハルトがそう言うなら、反対する理由はないぞ」


 一瞬、丸投げされた気分になった。


『責任者、出てこい! なんてな』


 俺がその責任者だ。

 最後の判断と決定は俺がしなければならない。

 丸投げされたなんて間違っても言えない訳だ。

 少なくともエリーゼ様あたりから無理難題を吹っ掛けられない限りは。


『自分の国のことだ。

 俺がしっかりしないとな』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 国民が増えた。

 それはいいのだが色々と解決すべきことがある。

 隠れ里の処分もそのひとつだ。

 放置して変なのが利用することになったら厄介である。

 滅多なことでは侵入できないだろうがね。


 逆に自由に出入りできる奴が出てくるとヤバい。

 好戦的な連中だったら基地化してしまうことも考えられるからだ。

 俺たちはともかく他の温厚な種族が被害を被るのはよろしくない。


 ドルフィーネだってナギノエたちだけとは限らないからな。

 別の部族や氏族なんかがいることは充分に考えられる。

 故に後始末はキッチリと、だ。

 わざわざ探し出して国民にならないかと呼びかけたりはしないがね。


『立つ鳥跡を濁さずってな』


 で、誰がそれをやるかなんだが。


「やっぱ俺がやるんだよな」


「はい、是非ともお願いします」


 ナギノエがノリノリだ。


「王様の凄さを皆にも見せてあげてほしいのです」


 こんな風に言われてしまうと、誰かに任せる訳にもいかんし。

 実力的には指名しても大丈夫なはずなんだけど。

 最もレベルの低いリオンでシミュレートしてみたが半時間ほどで終わらせられる計算だ。

 他の面子でも劇的に早くなるわけじゃないので誰に任せても同じだったりする。


 問題点があるとすれば、隠れ里の解放はデリケートな側面があることだろうか。

 故に俺が補助につく必要はあると思う。

 少なくともアドバイスは必要だろう。


 通常時はどうということはないが、解放するとなると隠れ里は危険物になる。

 空間を歪ませて拡張しているからね。

 例えるなら限界まで膨らませた風船だろうか。

 無理やり破壊しようとすると破裂する。


 逆に経年劣化で魔力を徐々に失っていくなら問題はない。

 歪みも徐々に解除されていくからだ。

 膨らませた風船が知らぬ間に萎んでいく感覚に近いだろうか。


 破裂する場合は風船のサイズに応じて影響は変わってくる。

 ここの隠れ里はナギノエたちが拡張に拡張を重ねていたからな。

 周辺環境は見る影もない状態になるだろう。


『考えなしに拡張してくれたもんだよ』


 これで通常空間にむき出しの状態だったら、どうなっていたことか。

 隠れ里は空間魔法が使えないと手出しできないから破裂する恐れはなかったがな。


 では、拡張時は破裂する危険があるのではないかという疑問が出てくると思う。

 ひとつの風船を限界以上に膨らませようとすれば、そうなるだろう。

 拡張時に魔法を暴走させる必要はあるが。


 が、普通に拡張させたいと思うなら、そういうことにはならない。

 こういう場合、複数の風船を追加してひとまとめにするからだ。

 これが本物の風船であるなら、ひとまとめにしても内部空間が繋がるわけではない。


 だが、これは空間魔法である。

 複数の風船は融合して繋がるのだ。

 シャボン玉の泡が集まって大きなひとつのシャボン玉になる感じだろうか。


『そこまで脆くはないか』


 なんにせよ隠れ里に干渉して解放しようとするなら相応の魔法制御能力が必要になる。

 レベルアップ前のガンフォールたちではまず無理だった。


『俺がアドバイスしながらだったとしてもね』


 じゃあナギノエは無理じゃないのかとなると思う。

 作った本人であれば話は別だ。

 解放するための解除ポイントが分かるからな。


 問題は解除ポイントが分かっても解放するためには、やたらと時間がかかることだろう。


『魔法の制御能力は古参の面子とは比べるべくもないからな』


 ナギノエに任せていたら半日はかかると思われる。

 俺の凄さを皆に見せたいとか言ってるが、実質的には丸投げである。


『ちゃっかりしてるよ』


 手法は違うがエリーゼ様を思い出させてくれる。


『まあ、しょうがないか』


 面倒くさいとは思うけど御指名とあれば仕方あるまい。

 ただ、変に期待されてしまうとね。

 やりづらい部分はある。


「凄さって言われてもなぁ」


 イメージとしては実に地味なんだが。

 拡張した空間の端っこから解体していくだけなものでね。

 派手にやらかすと周辺環境など跡形も残らんし。

 好戦的な魔物を引き寄せかねないというのもあるし。


「あんま凄く見えないと思うぞ」


 ひとこと断っておく。

 とにかく皆の期待値が高すぎるのだ。

 皆というかドルフィーネたちだけだがな。

 名残惜しむことなく隠れ里の外に出てきてくれたのはそのせいだろうか。


『ワクワクした目で見られても困るんですよ?』


 古参の面子は皆して苦笑い。

 俺が面倒くさがっているのがバレバレだ。


「そんなことはありませんよ」


 古参組の様子に気付いていないナギノエは実にいい笑顔だ。

 清々しいという言葉が実によく似合う。

 ヤエナミがそれを見てハラハラした感じなんだが。


「ああ……」


 溜め息交じりの声が、それを強調している。


『そんなに心配か?』


 微妙に首を傾げたくなった。

 が、色々と見てきたが故に思うところがあるのかもしれない。

 俺の魔法行使そのものを心配しているのではないはずだ。

 散々見せてきたからな。

 よもや、しくじるとは思うまい。

 仲間がどんな反応をするのかが気になって仕方がないのだろう。


 俺がセーブして超地味に見せることで期待外れに感じるのではないかとか。

 あまりに普通すぎて盛り上がりに欠けるとか。

 いずれも失望させるパターンだな。


 逆にビビらせてしまう恐れもあるだろう。

 派手にやり過ぎた場合だ。

 状況によってはパニックになるかもしれないと思っているのだろう。

 そんな真似はしないつもりだが、ヤエナミがそれを知るはずもないからな。


 他にヤエナミが懸念するようなことというと、俺がヘソを曲げることだろうか。

 そういう態度を見せたつもりはないのだけれど。

 短い付き合いだ。

 まだまだ俺の性格は把握しきれていないだろう。


『あんまりドギマギさせても可哀相だしな』


 さっさと終わらせる。

 パチンとフィンガースナップで指を鳴らして隠れ里の解放開始だ。

 空間魔法で隠れ里に干渉する。

 ここで制御力が低いと、いきなりドカンだ。


『とにかく複雑に絡み合ってるからなぁ』


 感覚的にはグシャグシャになっている糸を解きほぐすのに近い。

 先程、例えた風船で言えば融合を解消して独立した風船に戻すところから始める。

 そしてまとまりから外して空気を抜きにかかるイメージだ。

 普通はひとつずつ順番にやっていくことになる。


『そんな間怠っこしいことはやってられないんだよ』


 【多重思考】スキルを使うまでもない。

 いかに複雑に絡まっていようが風船の数は変わらない。

 全てを把握し同時に解放。


「はい、終わり」


 始めてから約数秒で完了した。


読んでくれてありがとう。

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