584 説教される長と懐に入れない王
修正しました。
無理はないことになりかねない → 無理はない
ボコっていたことだ → ボコっているさ
「それは違うんじゃねえかな」→「それは違うんじゃねーの」
「ごめんなさい」
大勢のドルフィーネに囲まれたナギノエが、か細い声で謝っている。
ずっと和の最敬礼状態だ。
顔は下を向いていて表情はうかがえないが、状況に相応のものであろう。
その姿は雨に濡れる捨て犬を思わせた。
取り囲んだドルフィーネたちから責められ続けてすでに半時間は経過しただろうか。
糾弾するというよりは説教されている形なので険悪な雰囲気はない。
それが救いだろうか。
「我々に相談もなくとか酷すぎです!」
『そりゃ無理だろ』
内心でツッコミを入れてしまう。
長が死ぬと分かった上で送り出す者がいるとは思えない。
何があったかや、隠れ里の限界についてはすべて話したからな。
話すだけではなく幻影魔法を使った記録の上映も行った。
ヤエナミが流れ着いたときの状況。
大陸でのデモンストレーション。
魔神の浄化と眷属たちの掃討戦。
そして隠れ里の外に出てきたナギノエとのあれこれ。
一部を除きダイジェストや画面分割なんかを駆使したけどね。
すべてを理解したドルフィーネたちの行動が現状に繋がっている訳だ。
「だいたい無謀すぎるんです。
無茶苦茶な魔法の使い方をして!」
ここで言われている無茶苦茶な魔法とは隠れ里を封印するためのものではない。
あれは行使していないからな。
抗議した者が言うそれは皆を眠らせた睡眠の魔法である。
それも数十人程度を対象としたものなら失敗のリスクもなく実行できただろう。
その十倍の規模となれば彼女らが泣きながら怒るのも無理はない。
現にナギノエは魔力がスッカラカンになっていたし。
それだけではなく体力の方も削り取られて半減していた。
下手をすれば寿命に影響していたのは間違いない。
『それくらいしないと全員を眠らせるのは無理だっただろうがな』
いや、むしろ足りないかもしれない。
妙だと思って再びナギノエを鑑定し直してみたのだが。
鑑定の結果よりも気になる情報があった。
視野外領域に表示させているログ情報である。
[神級スキル【目利きの神髄】を獲得]
『こんな時にかよっ』
条件反射的にログにツッコミを入れてしまう。
入れてしまうが、鑑定結果を無視して【目利きの神髄】の説明文を読んでしまう。
『だって気になるじゃんか』
スキル名だけじゃ、何となく想像がついても詳しい効能は分からんし。
[特級スキル【鑑定】の上位スキル]
まあ、これは当然か。
【鑑定】を使って取得したんだし。
これが何の関連性もないスキルだったら首を捻っているところだ。
ただ、タイミングが遅いんじゃないかとは思う。
『【鑑定】の熟練度をカンストして、そこそこ長いもんな』
使用頻度もそれなりだと思うのだが。
割と使っているスキルにしては遅い取得だ。
少なくとも【魔導の神髄】よりは遅い。
どうやらスキル取得条件は一律ではないようだ。
まあ、それを探るつもりはない。
『面倒だもんな』
普通に考えて、ゲットできないスキルを貰いました、ラッキー。
それでいいのだ。
スキルを得ると呪われるとかであれば話は別だがね。
勿論そういうことはない。
『で、何ができるんだ?』
上位スキルであるなら、より強力な効能があるはず。
『まったく見当がつかんがな』
[過去を指定した場合、その時点の鑑定ができる]
スキルの説明を読んで思わず首を傾げそうになった。
『どゆこと?』
一瞬、来歴かと思ったのだが違うようだ。
もうひとつピンと来ない。
『試しに使ってみるか?』
過去を指定するというなら1年前とか区切りが良さそうだ。
[熟練度が不足しています]
あっさりキャンセルされたと思ったら、そういうことらしい。
『まあ、ゲットしたばかりのスキルだもんな』
しかも神級スキルだから上げにくい。
現時点ではポイントを注ぎ込んで熟練度を上げるのもはばかられる。
『使い方がよく分かっていないからね』
[現時点で遡り可能な時間は6時間前までです]
「……………」
思わず絶句だよ。
スゲえ微妙な時間だ。
丸1日どころか半日前ですらない。
『しょうがない』
ないよりマシというものだ。
ナギノエの6時間前ならドルフィーネたちを眠らせる前のはずだろうし。
俺は現時点の限界まで遡ってナギノエを【目利きの神髄】で鑑定してみた。
「……………」
使ってみて納得した。
6時間前のナギノエの状態を鑑定していたのだ。
隠れ里の全員を眠らせる前ということで、ナギノエのレベルは68だった。
『無茶やった反動でレベルが12アップしたってことか』
これは来歴では分からないことだ。
【鑑定】では過去の特定の時点における詳細な状態を知ることはできない。
それを考慮すると便利と言えなくもないのか。
『微妙な気はするな』
少なくともポイントを注ぎ込んで熟練度を上げようとは思わない。
今回に関しては多少は役立ったがね。
なんにせよナギノエは無茶をした結果、大幅にレベルアップしたことが判明した。
『魔法を暴発させてたら死んでたな』
身内だったら小1時間は説教である。
それを考えると、今の状況は当然の報いだと言えた。
因果応報というやつである。
『そろそろ助け船を出そうかと思っていたんだが』
俺の中でキャンセルされてしまった。
『命があることに感謝しろ。
こってり絞られてこい』
こんな台詞を聞かせたら、ナギノエはどんな反応をするだろうか。
情けなく縋ってくるか。
それとも真摯に受け止めるか。
おそらくは後者のような気がする。
いずれにしても終わるまではノータッチだ。
別にナギノエはロリ少女ではない。
むしろ大人の女性である。
「……………」
『下らんことを考えてしまった』
言葉にしていたらダメージは黒歴史級だったな。
気を取り直して周囲を見渡す。
俺たちも囲まれる感じにはなっているが、ナギノエの囲まれ方とは違う。
物理的な距離もそうだが、何処かよそよそしさが漂っているのだ。
ナギノエたちは互いに懐に入った感じ。
俺たちの方は得体の知れない見世物にされてしまったかのようだ。
警戒されているようなピリピリした空気は感じないがね。
正直なところ敵対的な反応でないだけでも助かる。
もし、そんな状態だったら悪者の気分を味わっていたことだろう。
相手が善良なだけに反発することもできない。
悪党連中にそんな真似されていたら問答無用でボコっているさ。
罪状次第では瞬殺もあり得る。
何の罪もないドルフィーネたちに、そんな真似はできないのだけど。
そのせいでプレッシャーを感じているのだけれど。
『下手すると罪悪感に押し潰されそうになっていたかもな』
ないとは言い切れないから怖い。
悪人や魔物に殺気を浴びせられる方が気が楽である。
敵に敵と思われるのは何でもない。
けれども、敵でない者に恐れられるのは嫌だ。
無視される方がマシというもの。
だから、今までは正体を知られぬように変身したり人形を使ってきた。
今回はその手が使えなかったから精神的重圧を感じる羽目になったのだが。
『まだ、マシな方なんだろうな』
どうやら敵対視はされていないようだし。
微妙に恐れられてはいるみたいだけど。
『敵と思われてなきゃ御の字だ』
密かに安堵してしまう。
そのタイミングで近づいてくる者がいた。
「ヒガ陛下」
ヤエナミである。
目の前まで来たヤエナミは深々と頭を下げた。
「なんで?」
訳が分からない。
詫びを入れられる理由がないのだ。
「申し訳ありません。
私の説明が至らぬばかりに、このような事態を引き起こしてしまいました」
「それは違うんじゃねーの」
「え?」
「ヤエナミが見てきたものを言葉だけで理解しろってのが無理なんだよ」
「それは……」
「別にヤエナミを責めているわけじゃないんだ。
むしろ、これは俺のミスだろう。
こうなることを予測できたはずなんだ」
「それを言うならワシも同罪じゃな」
ガンフォールが横に並び立った。
「今にして思えば考えてしかるべきだったのじゃ。
ハルトに進言せねばならぬ立場であるにもかかわらず、それをせなんだ」
他の皆も何か言いそうになっていたが俺はそれを制止した。
「全ての責任は王である俺にある。
俺の判断ミスだ。
だから謝るのは俺の方だろう」
俺がそう言うと、ヤエナミはアタフタしていた。
プレッシャーを掛けたつもりはないのだが。
これで謝罪すると、もっと酷くなりそうな気もする。
その時はその時だ。
「すまない」
俺は頭を下げた。
皆もそれに続く。
「あっ、あのっ……」
どうしていいのか分からないとばかりに左右を見てオロオロし始めるヤエナミ。
ヤエナミの返事をもらえるまでは頭を下げ続けるべきだったのだろうが、できなかった。
あんまり放置すると何が起きるか分からなかったし。
「ん?」
気付けば、俺たちを囲んでいたドルフィーネたちの距離が近くなっていた。
「どゆこと?」
ガンフォールに聞いてみる。
「ワシにも分からぬ」
首を捻っている。
『くーくぅくくっくーくうくっくぅくー』
謝ったお陰で壁がなくなったんだよー、だってさ。
わざわざ周囲に聞かれないように念話で教えてくれるローズさんである。
ありがたいね。
さすがは我が相棒。
そう思ったのはローズの次の発言を聞くまでの間のことであった。
読んでくれてありがとう。




