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583 恩着せがましい真似はしたくない

修正しました。

蘇生するの → 蘇生させたり

 ドルフィーネが女性だけの種族と知って些か驚かされてしまった。

 対となる男性型種族もいないそうだ。


『それはともかく、だ』


 ナギノエが復帰してきたなら行動あるのみ。


「ほれ、これも食っとけ」


「えっ!?」


 驚いた瞬間に、魔力回復と体力回復のポーションを口に放り込む。

 こちらは顔をしかめるような味ではないので固まったりはしなかった。


「具合はどうだ」


 すぐには返事がなかった。

 己の体を隅々まで確かめるように見ている。


「えっと、あの……

 凄く調子がいいのですが」


「だろうな。

 俺にもそう見える」


 呆然とした表情でこちらを見てくるナギノエ。


『MPがスッカラカンでHPが半減してたからなぁ』


 そこから一気に回復すりゃあ驚きもするだろう。


「自分を鑑定してみな」


 そのためのスキルをナギノエは持っている。

 俺に言われて、慌てて己の体を見るナギノエ。


「あっ……」


 一瞬、目を見開いたままで固まってしまった。

 すぐに俺の方を見てくるが。


「こんなに劇的な効果のあるポーションなんて……」


 言いたいことは分からないでもない。

 が、うちでは安物である。

 疲労回復ポーションより少し原価が上がる程度でしかない。


「言っとくが、それもコストは疲労回復のと大きく変わらんぞ」


『目的の効果が単一で単純なものだからな』


 これが解毒なんかの効果を追加すると少し話は変わってくる。

 弱い毒を解毒するタイプでも製造原価は倍くらいになってくるだろう。

 万能型だから部外者から見れば考えられないとは思うけどね。


 それなりに高い価値のポーションとなると効果が劇的になってきてしまう。

 切断部位を跡形もなく繋げるのとか。

 欠損部位を再生したりとか。

 死後、数分程度ならば確実に蘇生させたりとか。


『こんなのをホイホイ部外者に使わせるつもりはないけどさ』


 特に西方で使った日にはヤバすぎる。

 あっと言う間に情報が広まるんじゃなかろうか。

 たとえ口止めをしたとしてもだ。

 そうなれば人死にが出るほどの混乱を生むだろう。

 なにしろ人の手によって作れてしまうからね。


 ダンジョンで発見されたレアアイテムなら争奪戦だけで終わるだろう。

 それはそれで事件を引き起こすとは思うが。

 それでも量産品よりはマシだ。

 数が作れるとなれば現物だけでなく製法を探る動きも出てくる。

 血みどろの殺し合いが繰り広げられるのが容易に想像できてしまうというものだ。


『冗談きついよ』


 面倒なことを考えるのはよそう。

 部外者相手にヤバい効能のポーションを使った訳じゃないしな。


「ん?」


 ナギノエの表情がよろしくない。

 体力も魔力も完全に回復したというのにだ。

 拡張現実の表示をオンにしてみたが、何も異常はない。

 [恐慌]のような状態異常アイコンの表示がされない程度にビビっているということか。


「なんでそんなにビビってんだ?」


「これだけのことをしていただいて返せるものが何もありません」


 ガクッときましたよ、ガクッと。


「別にポーションくらいで──」


「いえっ、そうではなくて!」


 俺がポーションのことに言及しようとしたら途中で遮られてしまった。


「今回のことで色々と助けていただきました。

 死にかけていたヤエナミを。

 困窮していた我々をも。

 更には図々しくもお願いまでしてしまっています」


 最後のは隠れ里にこもり続ける危険性の説明を手伝うことなんだろう。


『物々交換のレートはおかしくても気にしないのに、こういうことは気にするのか』


 いい加減なのか律儀なのか、訳が分からない。

 おそらく気にするなと言っても無駄だろう。

 実に面倒くさい。


「俺たちは別に見返りを期待したから動いた訳じゃねえぞ」


 それでも言わずにはいられない。


「ですがっ」


「律儀な人間は嫌いじゃないがね。

 俺は面倒くさいのは好きじゃないんだよ」


 誰だって好きではないとは思うが、俺の場合は人一倍だろう。


「ヤエナミを助けたのはうちの領土に入っていたからだ。

 自分ちの庭で野垂れ死にされちゃ迷惑だろ」


 我ながら酷い言い様である。

 ナギノエは抗議してきたり不服そうな表情を見せたりはしなかったが。


「そうかもしれませんが、それだけではありません」


 簡単には引き下がってくれないようだ。


「魔神とかシャークマンたちのこと?」


「はい」


「それにしたって似たようなもんだ。

 いずれ奴らとは敵として遭遇していただろうからな。

 あの連中は俺たちにとっても敵だ。

 邪悪な奴らだから滅することに躊躇いもないし。

 なにより自分の敵を倒しただけなのに報酬をもらうとかおかしいだろ」


 ちょっとこじつけに近いが、こうでも言わないと引き下がらない気がしたのだ。

 簡単に引くとも思えなかったが、こういうのは勢いが大事である。

 現に「ぐぬぬ」な状態で何も言えずにいる。


『悪いがダメ押しさせてもらう』


「言っておくが、今から説得しに行くのは単なる手伝いだ」


 そうだったという表情を見せるが、まだこちらのターンだ。


「これくらいなら、ありがとうの一言で終わる話だろ。

 何か報酬を要求する方が厚かましいと思うんだが、どう思う?」


 最後の「どう思う?」はナギノエではなく振り返ってうちの面々に聞いてみた。


「ハル兄に同意」


 静かに頷くノエル。

 何も言わないがハリーもそれに同意するように首肯している。


「そうじゃな」


 ガンフォールも同じく首を縦に振る。


「ナギノエ殿がどう思うかは重要ではないのじゃ。

 失礼な話だが、他の者が我々を図々しい輩と見るやもしれん」


 手厳しいことを言う爺様である。


「気にしない方がいいですよー。

 ハルトさんは決めたことをなかなか曲げませんからー」


 ダニエラがフォローしてくれた。

 微妙に俺を悪者にしている気がしなくもないが。

 まあ、目くじらを立てるほどのものでもないだろう。

 他の面子も肯定はするが否定はしなかった。


「という訳だから、とりあえず横に置いておくといい」


 反発されないよう「気にするな」とは言わなかった。


「どうしてもと言うなら、後回しにしてくれ。

 別に二度と関わらないでくれと言ってる訳じゃないだろ」


「はあ」


 返事が鈍い。

 だが、とりあえず引き下がる気にはなってくれたようだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 あれからすぐに隠れ里に入ってきたのだが。


「あるじー、みんな眠ってるよー?」


 俺の方を見上げながらマリカが不思議そうに聞いてきた。

 確かにそこらじゅうで倒れ伏したドルフィーネたちが寝息を立てている。

 その中にヤエナミの姿もあった。

 特級スキルの【気力制御】を使って起きている者がいないか探ってみる。


「……………」


 どうやら直接の視界に入らない者も含め皆が眠っているようだ。

 いや、眠らされていると言った方が正しいだろう。

 故意に眠らせなければ、この状況は考えづらい。


 それを確かめるために手近で眠っている者たちを鑑定してみる。

 結果は魔法による[睡眠]状態だった。

 数名を確認しただけだが、残りの面子も同じ結果になるだろう。

 誰がこれをやったのかは明らかである。


「魔法で眠らされているな」


 俺の言葉にマリカが首を傾げる。

 何故そんなことをするのか、分からないのだろう。


「どうして?」


 ナギノエを見上げて問いかける幼女マリカ。


「それは……」


 たじろぎ言葉に詰まるナギノエ。

 どうやら後ろめたい思いをしているようだ。

 責められているように感じたのだろう。

 マリカは純粋に疑問を抱いているだけなんだがね。

 ナギノエも悪いことをした訳じゃないものの、仲間を謀っているからな。


「誰にも気付かれずに外に出たかったんだろ。

 命をかけて入り口を封印するつもりだったからな。

 バレりゃ絶対に止められたのは間違いないだろうし」


「はい、その通りです」


 ナギノエは恥ずかしそうに縮こまりながらも白状した。

 そしてすぐに表情を引き締める。


「皆を起こします」


「ちょいと待った」


「なにか?」


 俺の制止に怪訝な表情を見せるナギノエ。


「起こすのに魔法を使うだろ」


「はい、それがどうかしましたか?」


「眠らせるときと同じくらい消耗するよな」


 そこまで言われて気が付いたようだ。


「そうですね」


 返事をするナギノエの表情が渋い。


「全員を一気にとなると、そうなります」


「じゃあ、俺がやろう」


 消耗されると、またポーションを食わせないとなんないし。

 面倒くさいやり取りのやり直しなんてしたくない。

 ナギノエには有無を言わせずフィンガースナップを1回。

 使ったのは生活魔法の魔覚醒。


『同じ生活魔法の覚醒だと魔法で眠らされている場合は目覚めないからなぁ』


 ちなみに魔覚醒は俺が覚醒の術式を改造して作った。

 魔力コストがほとんど変わらないくらいお得な魔法だ。


「なっ!?」


 ナギノエが驚愕に目を見開いていた。

 皆が目を覚まし始めたからだろう。


『数百はいるからな』


 この数になると一瞬で把握するのは、うちの面子でも無理だ。

 俺の場合は【多重思考】があるからな。

 複数の俺で人海戦術である。

 故に同時ロックオンの数が何倍になろうと必要な時間は同じままだ。


「同時展開をこんな一瞬で?

 あり得ない、早過ぎる……」


 案の定、そんな呟きが聞こえてきた。


「そんなこと言われてもなぁ」


 種明かしもできないから苦笑するしかない。


読んでくれてありがとう。

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