582 すぐには行けないと言われてしまった
修正しました。
言いたいのは → 言いたいのかは
ナギノエに隠れ里へと招待されることになった。
招待というか懇願というか。
中にいる彼女の同族に現実を説明しなければならないというオプション付きではあるが。
なんにせよ中に入る大義名分は得た。
ドルフィーネの長たるナギノエの案内で向かう以上、我々は客である。
あんまりデカい顔をする訳にはいかないけれど。
それでも無理矢理侵入するのとは訳が違う。
『結果オーライというか御都合主義的にラッキーだったな』
ただし──
「あの、少し待っていただけませんか」
いきなりナギノエから待ったがかかるのだけれど。
「どうした?」
「申し訳ありません。
すぐには隠れ里に向かうことができないのです」
「そりゃまたどうして?」
別に入り口が遠くに移動してしまったとかではないのだ。
魔法の効果によって巧妙に隠されてはいる。
だが、入り口は目の前にあるし。
認識できなきゃ入ることはできないというのもある。
部外者には特に認識を阻害する効果が付与されているし。
だからこそシャークマンたちに発見されなかった。
『奴らじゃ無理でも、うちの面子で見えない者はいないからな』
ナギノエはその辺りの心配をしているのかもしれない。
『俺たちは戦うだけの脳筋集団じゃないんだが』
ヤエナミの報告から誤解されている恐れはある。
そんな風に思っていたのだが。
「皆が後を追ってこられぬように道を塞いでしまったので……」
どうやら俺の懸念した心配はされていないようだ。
そうなると、ナギノエの言ったことが気になってくる。
『そういや出てきた直後にそんなことをしていたな』
俺的には鍵を掛けるような感覚だったけど、確かに塞がれていた。
ナギノエを追う者たちがいても出てこられないようにしたのだろう。
「特殊な閉じ方をしたので長である私にしか道を開くことはできません」
鍵を持っているのがナギノエのみということか。
「それで?」
前提は理解したとばかりに先を促した。
「大変お恥ずかしいのですが、閉じたときに魔力をほぼ使い果たしてしまいました」
ここまで言われれば何が言いたいのかは誰にでも分かる。
「道を開くだけの魔力が回復するまでお待ちいただきたいのです」
『ああ、やっぱり』
思った通りであった。
『さすがに自分の命を消耗させて玄関の鍵は開けられんよな』
「待たなくても行けるぞ」
「え?」
倉庫から固形ポーションを何種類か取り出して見せてみた。
「それは一体?」
「回復系のポーション各種」
「ポーション?
それがですか!?」
液体でないことに驚きを隠せないようである。
「固形ポーションは見たことがないか」
言葉もなくコクコクと頷くことしかできないナギノエ。
『そんなに衝撃的なんだろうか』
ポーション自体は知っているようだけれど。
固形のものとなると、こんな反応を見せるくらいレアらしい。
「ものは試しだ。
使ってみな」
俺が手にした内のひとつを渡そうとすると、ナギノエが激しく首を振る。
それを見て、ずぶ濡れになった犬がブルブルと体を震わせるのを連想してしまったさ。
『すげえ拒否っぷりだな』
未知のポーションが怖いとかだろうか。
あるいは俺の用意したものが信用できないということも考えられる。
後者だったら俺は凹むかもしれん。
「そんな貴重なもの頂けませんっ!」
実にアッサリと拒否の理由が判明した。
内心で安堵しつつも苦笑してしまう。
振り返ってみるが、皆も同様に苦笑している。
『さて、言っても信じるかどうか』
「見たことがないからって貴重品とは限らないんだぞ」
俺がそう言うとナギノエは怪訝な表情を見せる。
「え?」
その目は「なに言ってんだコイツ?」と語っていた。
「こいつの原価は西方で出回っている市場の野菜一盛りと同じくらいだ」
疲労回復ポーションを摘まんで軽く振ってみる。
これがそうだとアピールするために。
野菜にもピンキリがあるが、ここでは低価格なものの代表として例を示したつもりだ。
とにかく安いものだと言いたかったのでね。
「は?」
ナギノエは困惑していた。
どう判断していいか分からないのだろう。
貨幣経済には詳しくないだろうしな。
他種族、特に人間種とは交流を持たないであろうドルフィーネたちであるが故に。
『やはり別の例えが必要か』
そうなると困ったときの【諸法の理】スキルである。
ドルフィーネの価値観に該当するようなものを【多重思考】スキルも使って調べる。
とはいえ、これでも簡単には分からない。
ドルフィーネたちも物々交換ぐらいはするが、等価交換の意識が薄いためだ。
互いが欲しいものを交換しましたというだけなのである。
2倍や3倍程度の差なら気にしない。
さすがに家宝にするくらいレアなものは交換には使わないしな。
それでも西方じゃ詐欺で訴えられるレベルだろう。
『ちょっとあり得ないよなぁ』
実に厄介である。
俺は【諸法の理】に頼るのを諦めた。
「別の言い方をするなら、食事1回分の価値より低い」
アバウトだが仕方あるまい。
それでも例としては適していたのだろう。
「嘘っ!?」
目と口を開ききった状態でナギノエが固まってしまった。
『これを待っていたんだよ』
固形ポーションのひとつをナギノエの口腔内目掛けて弾いた。
口の中に入った時点で急減速するように魔法を仕掛けた上でだ。
減速させなかったらナギノエがダメージを受けるのは必至だったからな。
「んぐっ」
目を白黒させたナギノエが次の瞬間。
「────────っ!」
瞼と口をすぼませていた。
減速の反動を利用して細かく砕けるようにしておいたから口の中で味が拡がったのだ。
こんな顔をするのは疲労回復ポーションしかない。
生まれて初めての梅干し味に「酸っぱい!」を顔全体で表現している。
というよりも、その状態でナギノエの時間が止まっていた。
「うわぁ……」
そう言ったのはリオンである。
食べてもいないのに唇がすぼまりかけている。
『まだ、あの味に慣れていないからなぁ』
「無茶をしおる」
ガンフォールが嘆息混じりに言った。
「それくらいしないと絶対に食べなかっただろうからな」
「それはそうじゃろうがのう」
軽く頭を振っている。
「何故に疲労回復のやつなんじゃ。
魔力回復ので充分だったのではないか?」
「かなり疲れているのが見て取れたからな。
隠れ里の維持拡張に追われていたんだろう」
「どういうことじゃ?
隠れ里は作るのには相応の魔力を要するのは分かるわい。
じゃが一度作ってしまえば、環境魔力で維持できるはずじゃろう。
拡張するというのも意味が分からんぞ。
隠れ里を広げては必要な魔力が多くなってしまうではないか」
ガンフォールにしては読みが浅い。
『いや、ドワーフとドルフィーネじゃ種族的な気性が異なるからな』
浅いのではなく、感覚の違いから読み切れないと見るべきか。
「ガンフォールは彼女らが住むだけの狭い隠れ里を根城にしていると思っているのか」
「そうじゃが?」
何を今更と言わんばかりに怪訝な目を向けられてしまう。
「食糧確保のために彼女らが隠れ里を出入りすると思っているなら大間違いだな」
俺がそう言うと、ガンフォールは目を見開いた。
「まさかな……
隠れ里の中で食糧確保をするというのか」
「そのまさかなんだな」
ガンフォールが考えていた隠れ里の形態はマンションだろうか。
だとすれば、できるのは住むことだけ。
食糧の確保は外注となるから隠れ里の外でどうにかしなければならない。
それは外の世界との出入りを頻繁にすることを意味する。
逃げ回っていたドルフィーネたちにとっては好ましい状況ではない。
敵に発見されやすくなるからな。
外に出ることで襲われるのでは隠れ里を作った意味が薄れてしまう。
仮に逃げ切れたとしても兵糧攻めにされることだって考えられるのだ。
敵は交代しながら見張ればいいだけだからな。
だが、もし隠れ里の中に小さな世界があったらどうだろうか。
自給自足で完結させられる環境としての世界があったなら。
当然、外に出なくて良くなる。
敵に発見されることもない。
完全自給できればだが。
そのために隠れ里を拡張する必要があったという訳だ。
別の言い方をするなら開墾だ。
「なるほどのう。
安全確保のためじゃな」
ガンフォールも納得がいったようだ。
「ならば空間魔法と植生魔法が日常的に使われていたということじゃな」
「そゆこと」
「……………」
ナギノエが俺たちの会話を聞いて唖然としていた。
いつの間にか酸っぱさから復帰していたようだ。
見ると顔色が随分と良くなっている。
『やっぱ美人は健康的じゃなくっちゃな』
鑑定してみたが、状態異常は見られない。
ステータスを見てみると気になる個所がひとつある。
うちの妖精組にもあった性別がないのだ。
明らかな女性型なのに。
[ナギノエ/妖精種・ドルフィーネ/-/レベル80]
こんな具合である。
意外にレベルが高いことなど飛んでしまった。
『まさかの両性具有?』
どういうことかと【諸法の理】で調べましたよ。
「……………」
女性型しかいない種族だってさ。
どうやって増えるのかと思ったら、単一でも子を成すことができるそうだ。
『はあっ!?』
訳わからん。
よく読んでみるとクローンを作るような感じらしい。
それと人間種に依存する形での生殖行動もできるのだとか。
妖精にも色々あるようだ。
読んでくれてありがとう。




