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581 泣かないでくれ

修正しました。

同調魔法を使えば → ~が使われれば

 ナギノエに泣かれてしまった。

 慰めの言葉など見つかるものではない。


『なんたって元選択ぼっちだからな!』


「……………」


『自慢するこっちゃねえな』


 虚しくなるだけだ。

 コミュ障ってほど重症患者なつもりはない。

 けれども、こういう修羅場っぽいのは経験が乏しいのだ。

 女の子を泣かせてスマートに対応できるほどリア充なつもりはない。


 最近はイチャイチャするのに慣れてはきたが、泣かれるのはダメだ。

 妻と婚約者の人数だけならリア充どころかハーレムの王だけど。

 泣かせたことなんて数えるほどしかないからな。

 異性を泣かせて平然としていられたことなんて──


「……………」


 これっぽっちも無いと断言しようとして、過去にあったことを思いだした。


『アレを異性と認めるならばだが』


 大学時代の彼女もどきと弁護士同伴で対決したときである。

 奴は完膚なきまでに敗北を喫したことで悔し泣きをしていた。


『ヒステリックに喚き散らすのが鬱陶しかったな』


 数々の証拠や証言を武器にした弁護士相手に論戦を繰り広げても勝てる訳はないのだ。

 追い詰められても俺の情に訴えようとしてきたりと往生際は何処までも悪かったが。

 俺としては冷めた心が更に冷えていくのが分かっただけである。


『誰が弁護士を雇ったか最初に説明したはずなんだがな』


 第三者が俺の目を覚まさせるためになんて状況なら有効な手だったかもしれない。

 が、生憎と俺が自分で弁護士を探したのだ。

 祖父の援助は受けたけれど、交渉は自分。

 地元じゃないからしょうがない。


『何件か弁護士事務所を回ったもんな』


 半時間の有料相談でアドバイスを受けたり依頼交渉したり。

 高校を卒業して間もない若造でそんな経験をした奴なんて、そうはいないだろう。

 自分の意思で動いて社会経験を積んだ訳だ。

 いい経験になったと思う。

 そんな訳だから奴に俺を懐柔することなどできるはずもなかった。

 欠片ほども同情心が湧いてくることは無かったしな。


『つまらぬことを思い出してしまった』


 こんな風に思考が古傷をえぐり出してしまうほど動揺しているのが現状である。

 相手の心情を慮る余裕もない。

 ただ、それを情けないと感じるくらいはできるようだ。


『自慢にゃならんがな』


 情けないままでいるのも、よろしくない。

 いつまでもヘタレのままでいる訳にもいかないだろう。

 動揺は未だに消えないが、なるたけナギノエの心情を考えようと努力してみる。

 ひょっとしたら慰めの言葉が見つかるかもという期待を抱いて。


 真っ先に思い浮かぶのは言い過ぎたんだということ。

 仲間思いのナギノエに、今後も仲間が狙われるだろうと言ってしまったのは重すぎる。

 凶暴な魔物たちから仲間が執拗に狙われ続けることを想像してしまったのだろう。

 己が命をかけようが関係なく、その状態が続くとなったら心が折れるよな。

 配慮に欠けているのだけは間違いない。


『つくづくアホだな、俺は』


 だが、自己嫌悪に陥っている場合ではない。

 単に謝罪するだけでもダメだろう。

 色々と考えてみたが、結局はナギノエを泣かせる結果になってしまう気がした。


『まあ、俺が話し下手というのはあるだろう』


 それで開き直る訳にはいかない。

 俺にとっては難しい問題ではあるが。

 それでも指摘しなければドルフィーネの命運は変わらない。


 ナギノエが命をかけて隠れ里の出入り口に封印をかけたところで限度がある。

 半永久的に維持するのは無理だ。

 何もしなくても良くて数百年が限界だろう。

 破壊工作を行うつもりなら、それだけ維持できる期間は短くなる。

 ちょっとした魔法程度では軽く弾かれるだろうが。

 並の魔法でなければ削られるはず。

 例えば儀式魔法。

 あるいは今回のシャークマンたちのように同調魔法が使われれば、いずれ突破された。


 しかも今の状態なら隠蔽されているが、封印をかければ話は変わってくる。

 隠れ里そのものは隠すことができても封印には隠蔽の効果が及ばない。

 命を代償にして魔力を高めるから尚のこと目立ってしまう。


『何かありますよと言ってるようなものだしな』


 厳重であればあるほど価値があると判断されかねない。

 躍起になって突破しようとする輩が出てきてもおかしくない訳だ。

 最悪のシナリオを辿れば、半年とかからずに全滅することも無いとは言えない。

 それはナギノエの命を無駄にするだけだ。


『魔力資質は高いんだろうが』


 命を代償にするとはいえ、単独で儀式級の封印魔法を使えるようだし。

 もう少し考えて欲しいと思う。

 どうもドルフィーネたちは全体的に逃避を選択する傾向にあるようだ。

 それに引きずられる形で他の方法を考えることを放棄してしまっているような。


『どう転んでもダメダメじゃないか』


 よく今まで生き長らえてきたものだと思わざるを得ない。


『これをどうにか説得しなきゃならんのか』


 泣かせてしまった以上は責任を取るさ。

 謝罪とアフターフォローがセットになるだろう。

 問題はここまで考えてもナギノエを泣き止ませることができそうにないということだ。

 ギブアップが早過ぎと言われるかもしれないが無理なものは無理だ。

 どう考えても俺1人で解決できそうにない。


「……………」


 困った時の神頼みじゃないけど、皆に頼るしかないだろうな。

 久々に脳内スマホの電話を使う。


『くぅーくっ?」


 もしもーし? とお気楽な感じで電話に出るローズ。


『おー、俺だけど』


『くっくぅくー?』


 オレオレ詐欺?


『誰がだ!?

 人聞きの悪いことを言わんでくれ』


『くぅ、くう』


 冗談、冗談って、おい。


『くうくっくくーくぅくっくーくくっくぅくー』


 軽くツッコミ入れると切り替えやすいっしょって、バレバレか。

 状況の想像がつくってところなんだろう。

 あーだこーだと説明して、結局は来てもらうことにした。

 ナギノエにはどう説明したものかと思ったが、説明中に泣き止んでいた。


「……………」


 どうしたものかと思ったが、事実は変えられない。


『なんか1人で泣き止んだ』


 事実は伝えた。


『くうっ』


 ありゃ、だってさ。

 後はどうするかだが、方針をコロコロ切り替えるのは良くない。

 このまま皆を呼び寄せることにする。

 驚かせるのは本意ではないので声は掛けておく。


「ナギノエ、今から仲間を呼ぶ」


「え? あ、はい……」


 涙を拭って返事をするナギノエ。


「転送魔法だから驚くなよ」


「えっ!?」


 完全に無茶振りである。


『そっち、準備いいか?』


『くぅくーくっくぅ』


 いつでもオッケーの返事をもらって転送魔法を実行する。


「─────っ!?」


 案の定、皆が現れた瞬間に驚かれてしまった。

 無茶だと思うから特にツッコミは入れない。

 ナギノエが落ち着くのを待つ。

 ヤエナミと違ってすぐに立ち直ったけれど。


 長というだけはあるようだ。

 単にヤエナミがダメダメということも考えられなくはないが。

 とにかく、そこから皆を紹介し終わる頃には完全に落ち着きを取り戻していた。

 少なくとも表面上はね。


「驚きました。

 まさか、こんなにも多様な種族の方々がいらっしゃるとは」


 そんなことを言いながらも表情は変わらないので、取り繕っているだけかもしれないが。


「ヤエナミから報告は聞いてなかったのか」


「その点に関しましては同胞がいる程度でしか聞いてはいませんでした」


「あー、そういうこと」


 おそらくは最初に大雑把な報告を受け、そこから質問に答える形を取ったのだろう。


「妖精がいるということを知っても外には出たがらなかったか」


「はい、隠れ里にいれば誰も襲われることがありませんでしたので」


 日常的に誰かしら襲われる状況だったようだ。

 本当によく生き延びられたと思う。

 魔法を含め逃げることに関して特化した技術を持っているのだろう。


「だが、それじゃあいつか破綻するぞ」


「……どういうことでしょうか」


 ナギノエは理解できていないらしい。


「隠れ里を過信しすぎだよ」


 俺は隠れ里が破壊可能なことや出入り口を封印するデメリットを伝えた。


「そ、そんな……」


 俺の話を聞いて狼狽えるナギノエ。


『頼むっ!

 泣くのは勘弁してくれよ』


 内心でそんなことを願いつつ、皆の方を見る。

 苦笑されてしまった。


『フォローしてくれよぉ』


 何のために呼び寄せたんだか分かんねえじゃねえか。

 幸いにしてナギノエは泣かなかったが。


「私はどうすれば……」


 そんな呟きが漏れ聞こえてくる。

 無意識の独り言だとは思う。

 だが、俺はあえてそこにツッコミを入れることにした。


「戻って皆に説明すればいいだろ」


 俺がそう言うと、捨てられた子犬のような目で見られた。


『だから泣かないでくれえっ!』


 ここでもどうにかナギノエは耐えてくれた。


「御一緒していただけないでしょうか」


「は?」


「私が説明しても信じてもらえないかもしれません」


「それだけ隠れ里が信頼されていると」


 信頼と言うよりは過信なのだけれど。


「はい」


「無理じゃねえかな」


「えっ?」


「部外者の言うことに耳を傾けるとは思えんぞ。

 少なくとも長が語る方がよほど信頼されるだろう」


 俺がそう言うと、ナギノエは何も言い返せなかった。

 この場合は俺の説明よりは同行する口実を求めていたのかもだが。


「一緒に行くくらいは構わないが」


「ぜひともお願いいたしますっ」


 前のめりで頼まれてしまった。

 いつの間にか距離がグンと縮まっている。

 最初のような身構えた距離感はない。

 それだけでも進歩と言えるだろう。

 少なくともナギノエには信頼されたようだ。

 ただ、隠れ里に残っているドルフィーネたちはそうはいかないと思われる。


『どうしたもんかな』


 彼女らを説得するのは戦うよりも難しそうだ。


読んでくれてありがとう。

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