578 家で待つことにする
修正しました。
中盤あたりで全体の2割程度を入れ替えています。
ただ待つだけって意外と重労働なんだよ。
洋上なんて暇つぶしできるものは何もないし。
さすがに皆の魔力消費量が馬鹿にならなくなってきたので海から出てきましたよ?
輸送機で待機とかも考えたけどサイズがネックなんだよな。
ドルフィーネたちが隠れ里から出てきた時に威圧感のあるサイズはちょっとね。
即席で何か作って必要最小限の大きさにすることも考えたさ。
そこそこ待ったこともあって気分が乗らないので却下したけど。
結局、面倒だから地魔法で小島を作った。
海底から極太の柱がドーンと突き上げるように出ているのはシュールな光景である。
「相変わらずやることが無茶苦茶じゃ」
呆れた様子でガンフォールが小島の上に降り立った。
「主はいつもこんなものじゃろう。
むしろ大人しい方だと思うがの」
シヅカは楽しげに笑っている。
「ハル兄にとっては普通」
「ですねー」
ノエルとダニエラが同意すると、ガンフォールがゆっくりと頭を振った。
「はー、凄いです」
リオンが目を丸くしている。
驚くだけで畏縮する様子は見られない。
それだけ、うちに慣れてきている証拠だろう。
ヤエナミもこれくらいになって欲しいものだけど。
『友好的な種族として付き合うことになるだろうしなぁ』
慣れるまで、どれくらいの時間が必要なのか見当がつかないのが悩みどころである。
ミズホ国に訪れるのが頻繁になるのであれば、多少は早まるのだろうが。
彼女らが住んでいた場所がどれだけ遠方かで変わってくる話だ。
『まあ、当面は滞在してもらって免疫をつけてもらおうか』
俺がそんなことを考えている間もリオンは驚きの色を濃くしていた。
「高いよね、お姉ちゃん」
島の端から海面を覗き込みながら姉に話し掛けている。
「確かに高いわね」
『いかんな、やり過ぎたか』
波の飛沫とか鬱陶しいから海抜は十数メートルほどになるようにしたのだ。
安全マージンの見積もりが面倒だったので大雑把に余裕を見た結果である。
「でも、これぐらいあれば高波も大丈夫でしょ」
「そうだけどぉ」
リオンは引き気味である。
西方寄りの常識を残しているせいだろう。
まだまだミズホ国に染まりきっていない証拠である。
だからこそ次のような疑問が出てくる。
「陛下はこれで普通なの?」
聞かれたレオーネは困惑混じりの苦笑を浮かべていた。
『やっちまったー』
このくらいでいいかと適当にやり過ぎた訳だ。
よくよく考えたら海水を遮断する結界を張っておけば良かったのだ。
後悔先に立たずである。
「普通、と言っていいのかしらね」
「え?」
「リオンもハルト様の転送魔法の凄さは知っているでしょ」
「あ……、うん」
「それに魔神に封印をかけて何もさせなかったことも忘れてはいけないわよ」
「あ……」
レオーネの言葉が続くごとに諦観を感じさせるような表情になっていくリオン。
『やーめーてーくーれー』
ガリガリと俺のメンタルが削られていく。
自業自得なんだけれど。
『俺のライフはもう0よ』
いや、嘘だけど。
そういう気分なんだよ。
今更だが海抜数メートルに修正することにした。
もちろん結界付きでね。
一気にやると何とも言えない浮遊感を味わうことになるので、ゆっくり下げる。
『何やってるんだろうな、俺』
最初に面倒くさがったせいで二度手間になってしまった。
我ながらアホである。
『マジ凹むわ』
だからといって落ち込む姿を皆に見せる訳にもいかない。
理由がバカバカしいからな。
そんなの説明することになったら、更に凹むことになりかねん。
という訳で密かに落ち込んでいた俺なのだが。
そこに、ノエルが話し掛けてきた。
「ハル兄」
「どうした?」
「広すぎると思う」
ノエルまで俺のメンタルを削ってきた。
「そ、そうか?」
今日の俺って妹難の相でも出ているのだろうか。
「半分でもまだ広い」
普通に考えれば確かにそうだ。
島としては狭いが、俺たちの滞在スペースとしては余裕がありすぎる。
野球のグラウンド並みの広さは確実にあるからな。
ただ待つだけの場所としては無駄が多すぎるとノエルは言いたいのだろう。
それは認める。
だが、あえてこの広さにしたのには理由があるのだ。
『高さは適当だったがな』
「それはな、こうするためだ」
倉庫から屋敷を引っ張り出した。
少し浮かした状態で出してゆっくりと下に置く。
日本で住んでいた御屋敷、そのレプリカだ。
『こいつを使うのはエリーゼ様の依頼を終わらせたとき以来だな』
中途半端に大きいから、使う機会が限定されてしまうのが悲しいところだ。
野宿が必要なときでも西方じゃ目立ちすぎて使えないし。
ダンジョンでセーフハウス的に使おうにも場所の確保に苦労するし。
まあ、空間魔法を使って無理矢理という手もあるけど、そこまでする気はない。
そんな訳だから今回の人数では持て余す。
『俺、よく1人で住んでいたよな』
日本人だった頃のことを思い出して感慨深く見てしまう。
「ハル兄、この間も出していた」
ノエルが俺の方を見て不思議そうに聞いてくる。
懐かしんでいるのかと聞きたいようだな。
「あんまり使ってないから色々と思うところがあるんだよ」
俺がそう言うと微妙にノエルの瞼が動いた。
他人からすれば無表情と区別がつけられない表情の変化だ。
身内からすると驚いているのが丸わかりなんだが。
『目を丸くするほどか』
「思い入れ?」
「そうだな。
倉庫の肥やしにするには勿体ないくらいには思ってる。
使い道が限られるから、そう感じるだけかもしれんがな」
「確かに使わぬのは勿体ないのう」
やけに上機嫌なガンフォールが話に加わってきた。
隅々まで見て回りたいと全身で語っている。
「時間を潰すために引っ張り出したから好きに見てくるといいさ」
特にリクエストがない限り俺たちは居間でくつろぐけど。
そのために出してきたからな。
「おおっ、良いのか?」
ガンフォールが、あれこれを見て勉強したいと言うなら反対する理由はない。
「もちろん。
ああ、スマホに図面とか諸々を送信しておく」
木組みとかは解体しないと分からないだろうし。
「おおっ、すまんのう」
俺の言葉を受けてガンフォールはホクホク顔で別行動に移っていった。
『前に出したときに見ときゃ良かったのに』
苦笑を禁じ得ない。
まあ、あの時は一騒動あった後だし、そこまで考える余裕がなかったのかもな。
『今度こそ見逃すまいってことか』
ドワーフってのは根っからの職人なんだろう。
「職人魂に火がついたという訳じゃな」
シヅカが苦笑していた。
『スキップしそうな勢いだったからな』
些か呆れ気味なのも無理はない。
「ドワーフは生まれついての職人ですからねー」
ダニエラも生暖かい視線を送っている。
「……………」
そして絶句しているリオン。
普段とのギャップを強く感じたせいだろう。
『滅多にはしゃいだ姿を見せないからな』
そうでなくても、いい年した爺さんが子供のようにはしゃぐのだから。
リオンの反応も大袈裟とは言えない。
なんにせよ、アレに付き合おうという面子はいない。
「俺たちは茶でも飲みながら待つとしようぜ」
そのために引っ張り出したんだし。
俺を先頭に皆で屋敷の中へ入っていく。
靴を脱いで廊下に上がる。
この場にいる全員が廊下に上がってから居間へと向かった。
歩くこと数歩で到着、なんてことはない。
それなりに歩いて何度か角を曲がった所で目的の居間に辿り着く。
障子を開け中に入ると、そこは二十畳ほどの畳部屋であった。
何もない畳の部屋というのはやたらと広く感じるものだ。
今回の人数に合う座卓を即席で仕上げて倉から引っ張り出す。
で、座布団を並べて──
「みんな適当にくつろいでくれ」
着座を促した。
そう言われても西方人だと躊躇するだろう。
うちの国民は和室に慣れているお陰で躊躇いなく座っていく。
家に入る前からキョロキョロと視線を彷徨わせていたリオンだけは戸惑っていたが。
まあ、手本とすべき相手には事欠かない。
すぐに姉の隣へ座った。
「この人数だとトランプで遊ぶにしても2組に分かれる必要があるか」
「ハル兄、時間があるなら囲碁がしたい」
『ノエルはまた渋いものをチョイスするじゃないか』
そうは思うが、反対する理由はない
「わかった」
返事をして囲碁セットを倉庫から引っ張り出した。
ちなみに盤面は座卓に合わせた薄いやつだ。
対戦相手にはシヅカが名乗り出た。
ハイエルフと聖天龍の対戦。
文字に起こすとなかなかシュールなものがある。
まあ、見た目は美少女と妖艶な美女の対決で絵になるものがあるのだが。
ローズは脇から観戦するつもりのようだ。
ラミーナモードで幼女なマリカさんは俺にベッタリへばり付いている。
特に何かしたいということはなさそうだ。
ハリーは無言で自前の将棋セットを出している。
特に対戦相手を求めるでもなく詰め将棋の問題を作るようだ。
『おいおい、ぼっちにならなくてもいいだろうに』
ガンフォールが中に入ってきたら対戦する可能性はあるけれど。
「それじゃあ、俺たちはトランプで遊ぶか」
最初はババ抜きや神経衰弱から始める。
これだけで結構な時間が潰せるものだ。
後はポーカーや7並べ。
7並べに慣れると殺しの7並べもやるようになる。
「あっ、また囲まれた」
普通の7並べよりも高度な駆け引きが要求されるので展開が読みづらい。
そこが面白いと思うか取っ付きにくいと思うかで楽しめるかどうかが変わってくる。
ふと見れば、途中で入室してきたガンフォールがハリーと対戦していた。
ノエルとシヅカは長期戦になっているようだ。
一息ついて茶でも飲もうかと言いかけたその時。
「お」
海中にいる自動人形が異変を感知した。
読んでくれてありがとう。




