577 レベルアップだけが成長ではない
ヤエナミの姿が消える。
そのことに驚きはなかった。
隠れ里に引き込まれたからだ。
魔力の流れでもヤエナミが隠れ里にいることは把握できているしな。
その気になれば【天眼】スキルで丸見えになるのだが、そこまではしない。
『覗きは相手に知られると信用を失うからなぁ』
皆の様子を確認してみるが、誰も動揺はしていない。
消えた瞬間は些か驚きを見せはしたけれど。
まあ、すぐに復帰した。
うちに馴染んでいる面々ならこんなものだろう。
「消えちゃいましたねー」
ダニエラが何故か楽しそうだ。
「ん」
落ち着いた様子で頷くノエル。
俺の方を見上げてくる。
「隠れ里に?」
結果は想像できるが、念のために確認しているようだ。
「そうだよ。
魔力で気配を探れるぞ」
ちょっとしたコツはいる。
普通に気配を探ろうとしても分からないからな。
故に魔力の波長を探るのだ。
「魔力で?」
「そう、魔力で。
ヤエナミが発している魔力の波長を感じると言えばいいかな」
それも空間を探りながらなので最初は結構難しいと思う。
『俺は倉で作業することが多いから慣れてしまったけど』
「なんにせよ案ずるより産むが易しだ。
やってみれば分かる。
逆にやってみなくちゃ、いつまでも分からんままだぞ」
「分かった。
やってみる」
促してみると集中する様子を見せ始めた。
他の面子も続く。
「さて、どれくらいで見つけるかな」
誰もしくじるとは思っていない。
時間は多少かかるかもだが。
西方の基準で考えると、できる方が奇跡なんだけどね。
『俺たちの基準だと、できて当たり前だけどな』
みんなレベル300を超えている。
ノーヒントの状態ならともかく、コツを教えた状況では失敗しようがない。
「……………いた」
最初に始めたノエルが真っ先にヤエナミの気配を掴んだようだ。
守護者組の誰かが最初に探り当てると思っていたのだが。
『ほう』
予想が外れてしまった。
思ったより早いというのもある。
おそらく魔神を浄化したときのレベルアップで何か魔力操作のコツを掴んだのだろう。
そんな風に思ってノエルを【鑑定】で見てみたら──
『ああ、なるほど』
上級スキルの【魔力操作】と【気力操作】を取得していた。
しかも熟練度が高い。
『まさにコツを掴んだ訳だな』
これなら真っ先に探り当てるのも納得である。
とはいえ守護者組も負けてはいない。
「くーくぅ」
見つけた、とローズ。
「うむ、間違いなくヤエナミの気配じゃな」
「いたよー」
ほぼ同時にシヅカとマリカが続いた。
ノエルが先だったとはいえ、大きな差はなかった。
ノエルよりも更にレベルが上なだけはある。
マリカとの差は他の2人ほどではないが、マリカは探し物が得意だからな。
ほかの面々もそんなに長い時間は待たずにヤエナミの気配を掴んでいった。
何も言わないが満足そうに頷いているハリー。
対してダニエラは声は小さいながらも呟きが多い。
「んー、いませんねー。
何か一杯いる気配は感じるんですがー。
もっと精度を高めないとダメなんでしょうかー。
なかなかむずかしいですねー」
ずっとこの調子でブツブツ言っている。
静かな場所で呟かれると気になって仕方がない。
お陰で【遠聴】スキルの熟練度が上がってしまった。
上級者ではあったがカンスト目前まで行くとは予想外である。
『特級スキルなんだがなぁ』
相変わらずスキルの種が仕事をしているようで。
暇なせいで少し集中しすぎたかもしれないというのもあるがね。
「あっ、もしかしてコレかなー?
フンフン、この気配みたいですねー。
私も見つけましたよー」
ブンブンと手を振ってくるダニエラ。
サムズアップで応じておいた。
次に成功したのはレオーネである。
こちらはハリー並みに静かであった。
静かに妹の様子を見守る方へとシフトしたからね。
「あっ、いたよ!」
ちょっと焦った感じだったリオンが続く。
皆が成功していく中で取り残された気がしていたのだろう。
嬉しそうに姉の方を見ている。
レオーネも応じるように目を細めて頷きを返していた。
ラストはガンフォールである。
こちらはさして焦った様子もなく落ち着いて気配を探っていた。
『伊達に年は食ってない、か』
「ふむ、確かにおるようじゃな」
俺の方を見て頷きながら言ってきた。
「こんなことまで容易くできるようになるとは長生きはするもんじゃな」
ガンフォールが面白いことを言う。
容易くというのは事実だとは思う。
西方の冒険者たちでは逆立ちしてもできない芸当だろうからな。
『ただ、その後はなぁ』
なに言ってんだコイツの心境である。
「おいおい、長生きするだけじゃ無理だと思うぞ。
相応の経験を積まなきゃ、これは無理だからな」
俺がそう言うと、ガンフォールが苦笑した。
「フッ、そうじゃったな。
ハルトの側におると感覚が麻痺していかんわい」
酷い言われようである。
まあ、褒め言葉だと思っておこう。
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ヤエナミが姿を消してから待つこと3時間。
「主よ、遅いとは思わぬか」
シヅカから痺れを切らしたような発言があった。
隠れ里内での状況を想像できないのだろう。
『こういうところは長いことぼっちだった影響があるのかね』
「そうか?」
「何があったかを報告するだけにしては長すぎるのじゃ」
頬を膨らませてプリプリと怒っている。
『あー、やっぱり』
本気で苛立っている感じでないのが不幸中の幸いだ。
「くぅくーくぅくー」
シヅカは甘いのだ、などとツッコミを入れるローズさん。
「にゃんじゃとぉ」
反応したシヅカの台詞が些か痛めな感じだ。
『可愛い系の少女ならセーフなんだがな』
黙っていれば妖艶な雰囲気を漂わせるお姉さんなシヅカには似合わない。
変にこじれるのも嫌なのでスルーしておくけどね。
「くーくぅくくっくーくうくーくぅ」
こんなのは待ったうちに入らない、だとさ。
その意見には同意する。
「それは、おかしいじゃろ」
「くー」
全然と澄まし顔で答えるローズ。
「なんでじゃー」
地団駄を踏むシヅカ。
『だから綺麗なお姉さん系のシヅカがやっても似合わないんだって』
まあ、中身が子供っぽいところがあるから、しょうがないんだけど。
「なんでって、揉めてるからだろ」
俺がそう言うと──
「え?」
心底、意外だと言わんばかりの視線を向けられた。
「あのなシヅカ」
言い聞かせるように語りかける。
「ヤエナミの仲間は何人もいるんだぞ」
「うむ、そうじゃな」
「各々の性格や考え方に違いがあるよな」
「うむ」
「ヤエナミはどうだった?
かなり臆病だっただろ」
「確かにの。
じゃが、仕方あるまい。
それがヤエナミの個性じゃ」
「それに近い性格をした仲間が多いとしたらどうだ?」
「む? 種族的な特徴やもしれぬな」
『結論を急ぎすぎたか』
シヅカは俺が求めていたのとは違う答えをしてきた。
「それが種族的な特徴だと仮定した場合の今を考えてみな」
「ふむ」
俺に促されたシヅカが腕組みをして考え込み始めた。
特に口出しはしない。
シヅカなりの結論を出すまでは。
そんな風に考えていたが、そこまで長く待つこともなかった。
「む?」
不意にシヅカが顔を上げた。
「消極的な者たちが多数を占めておるのか。
それをヤエナミが説得するのに時間がかかっておると?」
自信なさげな様子で聞いてくるシヅカ。
普段では見られない姿である。
ちょっと可愛いかもしれない。
『こういうのもギャップ萌えって言うのだろうか』
「おそらくはな。
全員ではないにしても外に出ることを躊躇う者は少なくないだろう」
俺の返事にシヅカが渋い顔をした。
「どうした?」
「主よ、彼奴らはまだまだ出てこぬのではないか?」
『なるほど、それを懸念したか』
待たされることを嫌うシヅカらしい考えだ。
「だろうな」
「ここで待ち続けるのか。
誰かを使者として送った方が良いと思うのじゃが」
「怖がっている相手にそれをしたらどうなる?」
「うむむ」
指摘されるとすぐに下策であると気付いたのだろう。
シヅカが唸った。
だが、すぐに力んでいた体からフッと力が抜けた。
表情も何かを悟ったような感じになっている。
「仕方ないのじゃろうな」
何気ない一言。
だが、シヅカが言ったのであれば意味合いが変わってくる。
俺はそこに大きな進歩を感じていた。
待つという行為にトラウマに近いものがあったシヅカであるが故に。
連れて来た甲斐があるというものである。
読んでくれてありがとう。




