571 忘れてた……
俺はガンフォールたちの元を離れた。
再び輪になって、うつむく3人。
だが、先程までと違って陰鬱な空気はなかった。
彼等がどういう状態なのかは追及するまい。
これ以上、俺がフォローする必要はないだろう。
『女の子だったら胸を貸すくらいはしたかもだけど』
生憎と俺は一部の濃い者どもが喜ぶような趣味はしていない。
「あー、世話の焼ける」
思わず呟いていたのは気疲れしたせいか。
「よく言うわね」
そう言いながら俺の背中をバンバン叩いてくる奴がいた。
こんな無遠慮な奴はひとりしか知らん。
振り返ると予想通りマイカであった。
傍らにミズキがいない。
見渡すと3姉妹やABコンビの側にいた。
「何やってんだ、あれ?」
話し込んでいる様子だが。
深刻な雰囲気ではなかったので【遠聴】スキルは使わなかった。
『このスキル、便利だけどあんまり使わないんだよね』
おかげで未だに熟練度がカンストしていない。
カンストまで後もう少しなんだけど。
特級スキルなので上がりにくいというのもある。
ただ、意図的に上げる機会を減らしている部分もあるのだ。
ガツガツと熟練度を上げると皆の印象を悪くしそうだからさ。
『既に手遅れという話もあるけれど……』
熟練度が高いし、見る方は神級スキルを持ってるからね。
まあ、何か必要に迫られたときはスキルポイントを使ってでもカンストするつもりだ。
「皆のフォローよ」
「俺、何か失敗したっけ?」
やはり自分の気付いていない所で大チョンボがあったのだろうか。
「違うわよ」
何故か笑われてしまう。
苦笑半分、おかしさ半分といったところか。
「分かんないの?
急激にレベルが上がると不安になるものよ」
「あー、そこは見落としてたなぁ」
ダメ過ぎだろう、俺。
他にも見渡してみるが、妖精組にはローズたち守護者組が回っているようだ。
「配慮不足もいいところだ」
シャレになっていない。
これはもう大チョンボと言っていいだろう。
密かにボーナスステージとか浮かれたことを考えていた自分が恥ずかしい。
「そこまで落ち込むことないでしょう。
ハルが細心の注意を払っていたのは皆も理解してるし」
「詰めが甘い、甘すぎるっ」
「それは否定しないけどさ。
家に帰るまでが遠足です的な?」
「なんで今、その使い古したフレーズを持ってくるんだ?」
「え? 言ってみたかっただけよ」
アッサリと言い放つマイカ。
それを聞いてガックリ肩を落とす俺。
そして楽しそうに笑われてしまった。
「漫才なら余所でやってくれ」
「そこは「いい加減にしなさい」でしょ?」
何故かドヤ顔で言われてしまった。
こっちは脱力ものだよ。
付き合いきれないのでエヴェさんの方へと向かう。
「あら、逃げるの?」
「漫才なら余所でやれと言ったはずだ」
「ありゃ、これは一本取られちゃったわね」
そんなことを言いながらも後ろを付いて来る。
何か用があるかのような気配を感じるのだが何も言ってこない。
「用件は何だ」
「あ、やっぱ分かる?」
「で?」
「そこは「長い付き合いだからな」とか言ってデレるとこでしょ」
頬を膨らませて不満そうに言ってくる。
『男のツンデレを期待するとか誰得なんだか』
「そういうのを期待するなら地味な精神攻撃をしてくるな。
脱力させてくれたお陰でモチベーションは駄々下がりだよ」
「なんてこったー」
両手で頭を抱えて仰け反るポーズを取るマイカ。
「そろそろ用件を言え」
「いやー、5万の軍勢はどうするのかなあって」
満面の笑みだが、何故か意地の悪さを感じさせる。
きっと内心では「忘れてたでしょー」と言っているに違いない。
確かに失念していた。
色々と下準備をしていたにもかかわらず、頭の中からすっぽり抜け落ちている。
実に間抜けで滑稽なミスだ。
「どうにか自分で気付いてくれないかなぁと思ってたんだけどぉー」
嫌みったらしく聞こえるように語尾を必要以上に伸ばしてくる。
『あーあー、忘れてましたよ』
そう言い返したいところだったが、どうにか我慢した。
口にしてしまったら単なる八つ当たりである。
右に左にと位置を変えながらマイカが下の角度から俺の顔を覗き込んでくる。
『完全にからかってやがるな』
こういうときは変に意地を張らないのが被害を拡大させないコツだ。
「悪かったな。
忘れてたよ」
ズッコケた。
マイカではなくエヴェさんが。
コントかよってくらい、ものの見事な転けっぷりであった。
『この人もノリがいいよな』
下手をするとラソル様よりノリがいいかもしれない。
なんというか芸人寄りの性格をしていそうである。
「ちょっとちょっと、ハルトはん」
崩した体勢を元に戻しながらエヴェさんが抗議してきた。
「堪忍しておくんなはれ。
ホンマにかないまへんがな」
どう敵わないというのか。
追及したいところだが自重する。
オッサン相手じゃ誰にとっても実りがない話だもんな。
『あー、BL好きな連中は喜ぶのか』
俺はお断りである。
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翌朝、俺たちは洋上にいた。
正確に言うなら上空を飛んでいる状態なのだが。
あと、朝と言っても昼に近い時間である。
特に急ぐ必要はなかったからね。
昨日はあれから皆を休ませた。
大事を取って魔神の軍勢への対応は続けざまに行わないようにしたのだ。
肉体的な疲労はともかく精神的にはどんな影響があるか読めなかったのでね。
ただし、オオトリの施設は使っていない。
敷地内で野営というのも変だけど、初めて使うのは遊ぶときの方がいいもんな。
これに関しては誰からも不満は出なかった。
むしろ野営の方が面白いとノリノリだったさ。
テントを張って交代で見張りを立てつつ休むなんてことまでした。
オオトリは警戒システムがあるから必要ないんだけど、そこはまあノリだ。
訓練にもなるし。
もちろん就寝中に何かあるなんてことはなかった。
夜が明けて朝食を取って出撃準備。
やることは皆にメタルサーバントの希望を聞いて用意するだけの簡単なお仕事だ。
今回は転送魔法で現場に向かうので大型輸送機も使わない。
代わりに空戦支援機フミダイやフライングローダーを用意した。
これで転送直後に敵と遭遇しても即応できる。
もちろん、そんな事態にはならないようにしているけれど。
ちなみに肝心の影響の方だが、幸いにして一晩寝た後はみんなケロッとした様子だった。
『まあ、外見が変わるとかいう話ではないからな』
外見と言えば、皆はメタルサーバントをデザインで選択していたようだ。
グランダムを具体的に知らないんじゃ必然的にそうなる。
結果、敵サイドの方が人気があった。
『地球サイドの量産機であるディムとかビーズは貧弱に見えるもんなぁ』
グランダムに人気がなかったのは意外に思えたけど。
聞いてみたら「スマートすぎて強そうに見えない」ってさ。
じゃあ、グランカノンとグランタンクはどうなのか。
他の地球サイドの機体よりは選ばれていた。
単純に好みの問題だったようだ。
好みと言えばトモさんはズワクダイバーに乗り換えていた。
『ズワクに拘っていたもんな』
でもズワクダイバーに赤い色は似合わないと思う。
それと、トモさんが使っていた赤いスゴークにはローズが乗り込んだ。
クローをワキワキさせて「くーくっくっく!」と哄笑していた。
『爪、好きだよな』
その割に実戦ではあまり使わないのだけれど。
乗り換えと言えば、マイカも熊谷さんに乗り換えていた。
『本当に乗るとは思わんかった』
ミズキは乗り換えないってさ。
今回はグランダムを堪能したいんだとか。
対応は人それぞれである。
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待つこと1時間程度。
5万の軍勢が現れる。
先行する部隊なんてものは居なかった。
「こいつら怖いもの知らずだな」
思わず溜め息をついてしまった。
が、俺の抱いた感想は的外れなものなのだろう。
『数は力ですよ』
スマホを通してエリスが言ってきた。
その通りだ。
『それに亜竜クラスの戦力もそれなりにいますよね』
『これが陸上戦力だったら西方では滅亡の危機ですよ』
ABコンビの言うことも、しごく尤もである。
『うちの戦力が異常なのよ』
溜め息交じりにレイナが言った。
『せやせや、1人当たり7百弱を相手にせなアカンのに余裕あるし』
アニスは苦笑している。
数だけで考えれば勝てるはずがない戦力差だから無理もない。
『旦那よ、仕方あるまい。
彼奴らも魔神の眷属としての自負があるのだろうからな』
ツバキに言われてみれば、それもあったと気付かされた。
魔神が滅びても強化された連中が弱体化することはなかったので尚更だろう。
「まあ、野放しにする訳にはいかんしな」
あんなのが放置されたら海洋環境がどうなることやら。
「俺が結界で囲うから逃す心配はない。
サクッと片付けてヤエナミの仲間をオオトリに招待しようじゃないか」
『『『『『了解』』』』』
「よし、攻撃開始!」
俺の号令の元で総攻撃が始まった。
敵の数が数なので近接戦闘はなしだ。
乱戦になったら味方に流れ弾が当たりかねないし。
読んでくれてありがとう。




